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第二十話 再戦! 田管対魏遼
司馬偃率いる軍は、紅河の対岸に見える船団を睨むように布陣していた。対岸の船団には、「張」の旗印がはためいている。
紅河というのは、中原を東西に横断する大河川である。東西に横断と言っても、実際には途中で几の字に湾曲する部分があり、東の河口から昇っていくと途中で南北を縦断し始める。この地に流れる紅河は北から南に向かって流れており、司馬偃軍と船団は、南北を縦断するこの河を挟んで東西に分かれ対峙している。
司馬偃軍は、放った斥候が軍船を発見するや否や、急いで軍を発し、この地を押さえた。軍は山を背にして陣取り、全軍は河の方を向いて警戒している。兵数では劣っているが、敵が軍船で渡航してくるのであれば勝ち目はある。河を渡り、上陸するまでの兵というのは無防備だ。であるから、投石機を並べ、弓弩を配置し、水際で迎え撃って叩く。すでに敵は疲弊しているはずであろうから、出鼻を挫いてやればいいのだ。
そうして、司馬偃軍は軍船がこちらへやってくるのをじっと待った。だが、敵は彼らの予想外の場所から姿を現したのである。
「ん? 何か音が聞こえたような……」
後方の帷幄の中にいた司馬偃と幕僚たちは、後方から奇妙な音を拾った。一瞬、まさか、とは思ったが、背後は山であり、急な斜面となっている。そこから敵が来ようなどとは考え難かった。が、その音は、段々とこちらに近づいてくる。そして同時に、音の正体についても、徐々に察しがついてきた。明らかに大地を馬蹄が蹴る音である。司馬偃と幕僚たちは、恐る恐る背後を守る山を振り返った。
砂煙が、太陽の光に照らされている。やがてその向こう側から、騎馬の軍勢が姿を現した。
「そんな馬鹿な……!?」
背後の山は、自陣を守ってくれる防壁のようなものだと思っていた。まさか、そのような所から騎兵の奇襲を受けようなどとは、露ほども予期していなかったのである。
「大将は早く離脱を!」
「ううむ……」
司馬偃は指揮用の馬車に乗り込み発車させた。もう、敵はすぐそこまで迫ってきている。馬車は直接騎乗する騎馬よりも足が遅い。離脱するには味方の兵を盾にでもしなければ不可能である。
「あれが大将だな。覚悟せよ!」
騎兵隊を率いる田管は、馬上で吠えながら馬車に狙いをつけた。澄み渡る碧眼が鷹のように鋭い眼光を発し、敵大将を睨みつけた。護衛の兵たちが殆ど半狂乱になりながら戟を向けてくるが、田管隊は落ち着いて彼らを射殺しながら馬車を目指す。
公孫業の協力で梁の旧領の詳細な地図を得ることができた張石軍は、船団を見せれば敵はこの地に陣取るであろうことが予測できていた。そして、彼らの背後の急斜面も、田管隊にかかれば決して駆け下りられぬものでもないと、田管自身が判断したのである。その上、今の司馬偃軍は寄せ集めで練度が低いため、一度奇襲を加えればその動揺は甚だしいものになるとも予想していた。故に、軍船を見せて敵の注意を引きつけつつ、こっそり田管隊が後方に回り込んでその背後を襲ったのである。
完全に、不意を突かれた。そうとしか言いようがない司馬偃軍であったが、この中にあっても、冷静さを失うことなく奇襲の兵を迎え撃った者がいた。
「敵騎兵を迎え撃つ! 続け!」
仮面の騎兵、魏遼が馬上で声を張り上げる。それに続いて、後方から続々と騎兵が姿を現した。魏遼の部下だ。彼らは自ら、総大将たる司馬偃を逃がすための盾役を買って出たのである。
盾役であっても、ただ大人しく盾と同じように射られる者たちではない。彼らは亡き王敖が鍛えた中でも最精鋭の騎兵隊なのだ。彼らに阻まれている内に、司馬偃の馬車はどんどん遠ざかってゆく。
「また貴様か!」
田管は敵の中に例の仮面の少年を見つけると、それに狙いを定めた。魏遼もそれに即応し、狙いをつけさせないように走り回りながら反撃の矢を放つ。田管は以前の戦いで自分を大いに苦しめたこの騎兵を覚えていた。黒い仮面、三つ編みにした銀髪、そして類稀なる騎射の名人。このような者をどうして忘れることができようか。
「今日こそ討ち取る!」
魏遼もまた、田管に対して吠える。魏遼の方も、銀髪と碧眼という、自分とよく似た特徴を持ちながら卓越した技術を持つこの相手をよく記憶していた。仮面の孔から覗くその双眸には、憤激の色が存分に見て取れる。
騎射に優れた者同士の戦いは、決め手に欠けるものであった。お互い無駄矢を射ることなく、動き回りながら隙を見て射かけるのだが、二人とも相手の攻撃を完璧に見切っている。
「行くぞ! 魏遼殿をお助けするのだ!」
司馬偃軍の兵には、そのまま逃走してしまった者も多かったが、王敖に付き従っていた手練れたちは、魏遼の後に続いて田管の奇襲に対応することができた。弓兵が矢を降らせ、その後から戟兵が襲いくる。田管は矢を避け、戟兵から遠ざかろうとするが、それを防ぐ形で魏遼隊が回り込んできた。田管は舌打ちしながら矢を放ち、魏遼の傍にいた騎兵一人を射殺した。
紅河というのは、中原を東西に横断する大河川である。東西に横断と言っても、実際には途中で几の字に湾曲する部分があり、東の河口から昇っていくと途中で南北を縦断し始める。この地に流れる紅河は北から南に向かって流れており、司馬偃軍と船団は、南北を縦断するこの河を挟んで東西に分かれ対峙している。
司馬偃軍は、放った斥候が軍船を発見するや否や、急いで軍を発し、この地を押さえた。軍は山を背にして陣取り、全軍は河の方を向いて警戒している。兵数では劣っているが、敵が軍船で渡航してくるのであれば勝ち目はある。河を渡り、上陸するまでの兵というのは無防備だ。であるから、投石機を並べ、弓弩を配置し、水際で迎え撃って叩く。すでに敵は疲弊しているはずであろうから、出鼻を挫いてやればいいのだ。
そうして、司馬偃軍は軍船がこちらへやってくるのをじっと待った。だが、敵は彼らの予想外の場所から姿を現したのである。
「ん? 何か音が聞こえたような……」
後方の帷幄の中にいた司馬偃と幕僚たちは、後方から奇妙な音を拾った。一瞬、まさか、とは思ったが、背後は山であり、急な斜面となっている。そこから敵が来ようなどとは考え難かった。が、その音は、段々とこちらに近づいてくる。そして同時に、音の正体についても、徐々に察しがついてきた。明らかに大地を馬蹄が蹴る音である。司馬偃と幕僚たちは、恐る恐る背後を守る山を振り返った。
砂煙が、太陽の光に照らされている。やがてその向こう側から、騎馬の軍勢が姿を現した。
「そんな馬鹿な……!?」
背後の山は、自陣を守ってくれる防壁のようなものだと思っていた。まさか、そのような所から騎兵の奇襲を受けようなどとは、露ほども予期していなかったのである。
「大将は早く離脱を!」
「ううむ……」
司馬偃は指揮用の馬車に乗り込み発車させた。もう、敵はすぐそこまで迫ってきている。馬車は直接騎乗する騎馬よりも足が遅い。離脱するには味方の兵を盾にでもしなければ不可能である。
「あれが大将だな。覚悟せよ!」
騎兵隊を率いる田管は、馬上で吠えながら馬車に狙いをつけた。澄み渡る碧眼が鷹のように鋭い眼光を発し、敵大将を睨みつけた。護衛の兵たちが殆ど半狂乱になりながら戟を向けてくるが、田管隊は落ち着いて彼らを射殺しながら馬車を目指す。
公孫業の協力で梁の旧領の詳細な地図を得ることができた張石軍は、船団を見せれば敵はこの地に陣取るであろうことが予測できていた。そして、彼らの背後の急斜面も、田管隊にかかれば決して駆け下りられぬものでもないと、田管自身が判断したのである。その上、今の司馬偃軍は寄せ集めで練度が低いため、一度奇襲を加えればその動揺は甚だしいものになるとも予想していた。故に、軍船を見せて敵の注意を引きつけつつ、こっそり田管隊が後方に回り込んでその背後を襲ったのである。
完全に、不意を突かれた。そうとしか言いようがない司馬偃軍であったが、この中にあっても、冷静さを失うことなく奇襲の兵を迎え撃った者がいた。
「敵騎兵を迎え撃つ! 続け!」
仮面の騎兵、魏遼が馬上で声を張り上げる。それに続いて、後方から続々と騎兵が姿を現した。魏遼の部下だ。彼らは自ら、総大将たる司馬偃を逃がすための盾役を買って出たのである。
盾役であっても、ただ大人しく盾と同じように射られる者たちではない。彼らは亡き王敖が鍛えた中でも最精鋭の騎兵隊なのだ。彼らに阻まれている内に、司馬偃の馬車はどんどん遠ざかってゆく。
「また貴様か!」
田管は敵の中に例の仮面の少年を見つけると、それに狙いを定めた。魏遼もそれに即応し、狙いをつけさせないように走り回りながら反撃の矢を放つ。田管は以前の戦いで自分を大いに苦しめたこの騎兵を覚えていた。黒い仮面、三つ編みにした銀髪、そして類稀なる騎射の名人。このような者をどうして忘れることができようか。
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騎射に優れた者同士の戦いは、決め手に欠けるものであった。お互い無駄矢を射ることなく、動き回りながら隙を見て射かけるのだが、二人とも相手の攻撃を完璧に見切っている。
「行くぞ! 魏遼殿をお助けするのだ!」
司馬偃軍の兵には、そのまま逃走してしまった者も多かったが、王敖に付き従っていた手練れたちは、魏遼の後に続いて田管の奇襲に対応することができた。弓兵が矢を降らせ、その後から戟兵が襲いくる。田管は矢を避け、戟兵から遠ざかろうとするが、それを防ぐ形で魏遼隊が回り込んできた。田管は舌打ちしながら矢を放ち、魏遼の傍にいた騎兵一人を射殺した。
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