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第二十六話 紛糾する軍議
突如、左方の谷道を塞ぐように守っていた張石軍の左軍四万が、勝手に軍を発して敵陣へ向かい始めた。
左軍の大将張武雍は、敵に奇襲をかけたつもりであった。まさか、敵もこの期に及んで左軍が攻撃を仕掛けてくるとは踏んでいないであろう。張武雍はそう考えていたのである。
張武雍の軍が、左右を崖に挟まれた細い谷道に差し掛かった。この辺りは起伏の多い地形で、細長い谷道が入り組んでいる。その上、更なる悪条件として、張石軍はこの辺の地理には明るくない。張舜が消極策を一貫して主張したのには、そういった理由もある。道案内をさせるために、捕虜となった公孫業も連れてきているが、彼は今、張石の本隊にいる。
その谷道を、張武雍麾下の三万は突き進んでいく。段々と雲が分厚くなり、やがて雨が降り始めた。天より降り注ぐ陰気な雨が、兵士たちの鎧を濡らしてゆく。
歩けども歩けども、敵の姿は見えない。行軍中の兵士は、左右に広がる景色が、全て同じようなものに見えた。
——もしかして、道に迷ったのでは……
張武雍がそう感じた時には、既に遅かった。張武雍率いる軍は、自軍の現在地を完全に見失ってしまっていた。張武雍軍は数日間、山間の谷道を彷徨い続けたが、敵の姿は見えない。兵たちの疲労は、溜まり続けるばかりである。
そうして、ある昼のことである。疲労が最高潮に達した兵の頭上に、何か、黒く細長いものが降ってきた。それは、下にいた兵たちの体に突き刺さり、絶命させていった。
——矢の攻撃だ。
「て、敵軍だ!」
左右の崖から、敵の弩兵が姿を現した。それらは張武雍の軍に狙いを定め、一斉に射撃を加えた。矢だけではなく、岩石や丸太なども、崖を転げて迫ってくる。
「よし、かかったな」
李沈軍の右軍を率いる副将、許裕は、敵軍との戦闘が開始されたことを知り、静かに笑みを浮かべた。李沈軍は、焦れた敵が攻め寄せてくるこの時を待っていたのである。張石軍と李沈軍、我慢比べは後者に軍配が上がった。
前進か、それとも退却か、その判断すらままならぬまま、張武雍軍は一方的に削られていく。
「全軍、突撃!」
さらに悪いことに、正面から、許裕率いる歩騎合わせて二万の軍が突進してきた。今が好機とみた許裕が、一気に目の前の敵を覆滅せんと勝負を仕掛けてきたのである。浮足立った張武雍軍に戟兵が殺到し、次々とその矛先に刺し貫かれていく。それに対して張武雍軍の戟兵も応戦し矛先をぶつけ合うが、その前に横合いから放たれる矢の犠牲になる者も少なくなかった。
「だ、駄目だ! 退却!」
もう、まともに戦闘を行うのは不可能だ。そう悟った張武雍は、馬上で退却を叫んだ。後方の部隊から、来た道を戻ろうと駆け出し始める。前線の兵は敵の戟兵と矛先をぶつけ合っており、背を向けようものなら討たれてしまう。故に、助かるのは後方の兵のみであり、前線の兵は死兵も同然であった。だが、
「後方に騎兵確認!」
張武雍の後ろの兵が叫んだ。その言葉の通り、黄塵を蹴立てながら、張武雍軍の後方より騎兵が接近してくるのが見えた。その旗には大きく「普」と書かれており、味方でないことはすぐに分かった。そもそも、無断の出撃に、援軍など望めるはずもない。
こうして、張武雍の軍は前後左右、完全に包囲されてしまったのである。
時間を少し巻き戻そう。中翟山に置かれた本陣では、勝手に左軍が出撃したという報を受けて、議論が紛糾していた。
「今すぐ我々も打って出るべきだ」
こう主張したのは董籍である。
「いや、今出てはそれこそ敵の思うつぼだ。左軍を呼び戻そう」
それに対して、張舜が反論した。張舜は一貫して、打って出ることに否定的であり、それ故にこの戦いにおいては董籍とはぶつかってばかりである。
張石は、今度も息子の意見を採った。左軍に向かって使いを走らせ、呼び戻そうとしたのである。
だが、全ては遅きに失した。左軍はこの時、すでに奧深くまで進軍しており、しかも道に迷っていたのである。使いは使命を果たせぬまま戻ってきた。
「今すぐに全軍撤退だ」
中翟山の本陣で、張舜は一言、言い放った。
「何故だ」
張石は、落ち着いた様子でその理由を問う。余りにも急な息子の発言に、その意図が掴めないようだ。
「もう左軍は救えない。それに、あれが出てしまったということは、本陣の左方ががら空きだ。敵に回り込まれる。その前に撤退すれば、兵の損耗は抑えられる」
「馬鹿な、左軍を見捨てろと仰るか」
理由を説明する張舜に食って掛かったのは、またしても董籍であった。
「左軍を指揮しているのは将軍の従弟君ですぞ。一族の者を置き去りにするとは、後々まで薄情者と謗られましょうに」
「こんな所で兵を失えば、それこそ天下の笑いものというものだよ。かつて呉子明は夷門関を越えて武陽に迫りながら、結局は公孫業将軍に敗北して今は魯の旧領に籠っている。僕らだって、そうならないとは限らない。慎重に事を運ぶに越したことはない」
張舜も、大の大人を相手に一歩も引かない。小柄で中性的な容貌の張舜であるが、その表情は柔弱さとは無縁であるように見える。その様を、横合いから田管が眺めていた。
田管が思い出したのは、張舜の怯えた顔である。
——本当は、戦場に立つことなど恐ろしいに違いあるまい。けれども張舜殿は、自分の弱さを隠して、自分の為すべきことを為そうとしている。
「ならば、私の部隊が左方を守りますので、その間に中央軍、右軍が撤退するというのはどうでしょうか」
ここで、田管が議論に加わった。
「田管殿、それは張舜殿の案を前提とした発言ではありませんか。まだ結論は出ていないのですぞ」
董籍が、目を細めながらさっと田管を睨みつける。
「いや、私も田管殿の案には賛成です。この先の地形を考えればそれがよろしいでしょう」
口を開いたのは、公孫業であった。彼は普の領内の地形に詳しく、その知識を買われて連れられていた。
「ちぃ、普将共が雁首揃えおって」
董籍の顔に現れた不満の色が、より一層強まっていく。
「張将軍、何卒ご決断を」
田管の顔が、張石に向けられた。全ての判断は、最終的には総大将である張石が決める。総大将は、全ての意思決定の最高責任者なのである。
張石は暫く黙した後に、口を開いた。
「これより全軍、陶城まで退却する」
思案の末、張石は、息子の意見を採ることに決めたのであった。
左軍の大将張武雍は、敵に奇襲をかけたつもりであった。まさか、敵もこの期に及んで左軍が攻撃を仕掛けてくるとは踏んでいないであろう。張武雍はそう考えていたのである。
張武雍の軍が、左右を崖に挟まれた細い谷道に差し掛かった。この辺りは起伏の多い地形で、細長い谷道が入り組んでいる。その上、更なる悪条件として、張石軍はこの辺の地理には明るくない。張舜が消極策を一貫して主張したのには、そういった理由もある。道案内をさせるために、捕虜となった公孫業も連れてきているが、彼は今、張石の本隊にいる。
その谷道を、張武雍麾下の三万は突き進んでいく。段々と雲が分厚くなり、やがて雨が降り始めた。天より降り注ぐ陰気な雨が、兵士たちの鎧を濡らしてゆく。
歩けども歩けども、敵の姿は見えない。行軍中の兵士は、左右に広がる景色が、全て同じようなものに見えた。
——もしかして、道に迷ったのでは……
張武雍がそう感じた時には、既に遅かった。張武雍率いる軍は、自軍の現在地を完全に見失ってしまっていた。張武雍軍は数日間、山間の谷道を彷徨い続けたが、敵の姿は見えない。兵たちの疲労は、溜まり続けるばかりである。
そうして、ある昼のことである。疲労が最高潮に達した兵の頭上に、何か、黒く細長いものが降ってきた。それは、下にいた兵たちの体に突き刺さり、絶命させていった。
——矢の攻撃だ。
「て、敵軍だ!」
左右の崖から、敵の弩兵が姿を現した。それらは張武雍の軍に狙いを定め、一斉に射撃を加えた。矢だけではなく、岩石や丸太なども、崖を転げて迫ってくる。
「よし、かかったな」
李沈軍の右軍を率いる副将、許裕は、敵軍との戦闘が開始されたことを知り、静かに笑みを浮かべた。李沈軍は、焦れた敵が攻め寄せてくるこの時を待っていたのである。張石軍と李沈軍、我慢比べは後者に軍配が上がった。
前進か、それとも退却か、その判断すらままならぬまま、張武雍軍は一方的に削られていく。
「全軍、突撃!」
さらに悪いことに、正面から、許裕率いる歩騎合わせて二万の軍が突進してきた。今が好機とみた許裕が、一気に目の前の敵を覆滅せんと勝負を仕掛けてきたのである。浮足立った張武雍軍に戟兵が殺到し、次々とその矛先に刺し貫かれていく。それに対して張武雍軍の戟兵も応戦し矛先をぶつけ合うが、その前に横合いから放たれる矢の犠牲になる者も少なくなかった。
「だ、駄目だ! 退却!」
もう、まともに戦闘を行うのは不可能だ。そう悟った張武雍は、馬上で退却を叫んだ。後方の部隊から、来た道を戻ろうと駆け出し始める。前線の兵は敵の戟兵と矛先をぶつけ合っており、背を向けようものなら討たれてしまう。故に、助かるのは後方の兵のみであり、前線の兵は死兵も同然であった。だが、
「後方に騎兵確認!」
張武雍の後ろの兵が叫んだ。その言葉の通り、黄塵を蹴立てながら、張武雍軍の後方より騎兵が接近してくるのが見えた。その旗には大きく「普」と書かれており、味方でないことはすぐに分かった。そもそも、無断の出撃に、援軍など望めるはずもない。
こうして、張武雍の軍は前後左右、完全に包囲されてしまったのである。
時間を少し巻き戻そう。中翟山に置かれた本陣では、勝手に左軍が出撃したという報を受けて、議論が紛糾していた。
「今すぐ我々も打って出るべきだ」
こう主張したのは董籍である。
「いや、今出てはそれこそ敵の思うつぼだ。左軍を呼び戻そう」
それに対して、張舜が反論した。張舜は一貫して、打って出ることに否定的であり、それ故にこの戦いにおいては董籍とはぶつかってばかりである。
張石は、今度も息子の意見を採った。左軍に向かって使いを走らせ、呼び戻そうとしたのである。
だが、全ては遅きに失した。左軍はこの時、すでに奧深くまで進軍しており、しかも道に迷っていたのである。使いは使命を果たせぬまま戻ってきた。
「今すぐに全軍撤退だ」
中翟山の本陣で、張舜は一言、言い放った。
「何故だ」
張石は、落ち着いた様子でその理由を問う。余りにも急な息子の発言に、その意図が掴めないようだ。
「もう左軍は救えない。それに、あれが出てしまったということは、本陣の左方ががら空きだ。敵に回り込まれる。その前に撤退すれば、兵の損耗は抑えられる」
「馬鹿な、左軍を見捨てろと仰るか」
理由を説明する張舜に食って掛かったのは、またしても董籍であった。
「左軍を指揮しているのは将軍の従弟君ですぞ。一族の者を置き去りにするとは、後々まで薄情者と謗られましょうに」
「こんな所で兵を失えば、それこそ天下の笑いものというものだよ。かつて呉子明は夷門関を越えて武陽に迫りながら、結局は公孫業将軍に敗北して今は魯の旧領に籠っている。僕らだって、そうならないとは限らない。慎重に事を運ぶに越したことはない」
張舜も、大の大人を相手に一歩も引かない。小柄で中性的な容貌の張舜であるが、その表情は柔弱さとは無縁であるように見える。その様を、横合いから田管が眺めていた。
田管が思い出したのは、張舜の怯えた顔である。
——本当は、戦場に立つことなど恐ろしいに違いあるまい。けれども張舜殿は、自分の弱さを隠して、自分の為すべきことを為そうとしている。
「ならば、私の部隊が左方を守りますので、その間に中央軍、右軍が撤退するというのはどうでしょうか」
ここで、田管が議論に加わった。
「田管殿、それは張舜殿の案を前提とした発言ではありませんか。まだ結論は出ていないのですぞ」
董籍が、目を細めながらさっと田管を睨みつける。
「いや、私も田管殿の案には賛成です。この先の地形を考えればそれがよろしいでしょう」
口を開いたのは、公孫業であった。彼は普の領内の地形に詳しく、その知識を買われて連れられていた。
「ちぃ、普将共が雁首揃えおって」
董籍の顔に現れた不満の色が、より一層強まっていく。
「張将軍、何卒ご決断を」
田管の顔が、張石に向けられた。全ての判断は、最終的には総大将である張石が決める。総大将は、全ての意思決定の最高責任者なのである。
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