1 / 6
第一話 キラー・ブラックフット
しおりを挟む
「この間の相手が陰キャでさぁ、会計が割り勘だったのサイアクって感じ~」
「うはは、ウケる」
「そんな男忘れてさぁ~オレらと楽しもうじゃん」
「そうだよそうだよ」
河原の砂利の地面。その上で、若い男女二人ずつのグループがバーベキューを楽しんでいた。彼らの周りには誰もいない。貸し切り状態ともいえるこの状況の中で、彼らはアルコールが入ったこともあって顔を赤くしながら騒いでいた。
埼玉県黒足市は、都心から時間をかけずに来られるということもあって、夏になるとレジャースポット目当ての人々が訪れる。だが今年は新型ウイルス流行の影響からか、川の畔のキャンプ場は閑古鳥が鳴いていた。
そんな中、この四人グループは秋の連休を利用してこの地を訪れ、バーベキューにしゃれ込んだということである。
「ねぇ見て見て! あれ!」
そのグループの中の一人の女性が、林の方を指差した。その方向には、何か黒いものがもぞもぞと動いている。
それは、クマの子どもであった。この子グマは四人に気づいてはいないようで、鼻を鳴らしながら地面に顔を向けている。きっと木の実などの食べられるものを探しているのだ。
子グマを見つけた女性は、クマの方にそっと近寄った。
「あれクマでしょ……平気なの……?」
「おい麻里、やめた方がいいんじゃねそれ」
「クマはやべぇって」
「大丈夫よ。こんなに可愛いのに……皆怖がりすぎなんじゃない?」
麻里と呼ばれたその女性は、子グマに近寄るとその前でしゃがみ、懐からソーセージを取り出した。その時、ようやく子グマは麻里の方を向いた。黒い毛に覆われた子グマは、その円らな瞳も相まってまるでぬいぐるみのようだ。
「ほら、これあげるから、こっちおいで」
ソーセージを差し出して子グマに向ける麻里。しかし、警戒しているのか、子グマは近寄る気配を見せない。何度か注意を引こうとソーセージをぶらぶらさせてみたが、効果なしだ。却って子グマは後ずさり、距離を取り始めた。
その時、彼女を恐怖のどん底に突き落とすものが、すでに忍び寄ってきていた。
いい加減、子グマに構うのも飽きてきた麻里が立ち上がった、その時である。
がさ……がさ……
草木のこすれる音が、すぐ近くから聞こえてきた。
「え? 誰かいるの……?」
気になった麻里は、音のする方に視線を遣った。その時、彼女は言葉を失った。
名も知らぬ草木の間から、一匹の大きなツキノワグマが、二つの目を彼女の方へ向けていたのだ。殺気だったその目を――
「っ――」
麻里は頭が真っ白になった。クマは四つ足でのしのし歩きながら、一直線に向かってくる。この状況が大変危険であるのは、誰だって理解できることだ。
「きゃあああああ!」
麻里は叫びながら、脱兎の如くに逃げ出した。だが逃げる麻里は、がさがさという音とともに、あの黒い巨体が迫ってきているのを感じ取った。クマが追ってきているのだ。
麻里の叫び声は、クマを刺激してしまうものであった。加えて彼女が走って逃げだしたのもよくなかった。こういった動作はクマの狩猟本能を呼び起こさせてしまう。特に、冬眠に備えて栄養をため込む秋の季節であればなおさらのことだ。だがそのようなことは、彼女の知る所ではなかった。
――逃げられない。
あのずんぐりとしたクマがこんなに俊足だとは、露ほども思っていなかった。もう、クマの吐息が聞こえる所にまで追いすがられていた。
クマの鋭い爪が、麻里の背中を切り裂いた。あまりの激痛に、彼女はそのまま湿った土の上に倒れ臥してしまった。
起き上がろうとした麻里。しかし、体をひねって仰向けになった彼女のすぐ目の前に、クマの顔があった。
「いや……もうやめて……お願いだから……許して……」
このままでは、死ぬ。麻里の恐怖の感情は、涙となって流れ出した。この全く無意味な命乞いが、彼女の最期の言葉となった。
「うはは、ウケる」
「そんな男忘れてさぁ~オレらと楽しもうじゃん」
「そうだよそうだよ」
河原の砂利の地面。その上で、若い男女二人ずつのグループがバーベキューを楽しんでいた。彼らの周りには誰もいない。貸し切り状態ともいえるこの状況の中で、彼らはアルコールが入ったこともあって顔を赤くしながら騒いでいた。
埼玉県黒足市は、都心から時間をかけずに来られるということもあって、夏になるとレジャースポット目当ての人々が訪れる。だが今年は新型ウイルス流行の影響からか、川の畔のキャンプ場は閑古鳥が鳴いていた。
そんな中、この四人グループは秋の連休を利用してこの地を訪れ、バーベキューにしゃれ込んだということである。
「ねぇ見て見て! あれ!」
そのグループの中の一人の女性が、林の方を指差した。その方向には、何か黒いものがもぞもぞと動いている。
それは、クマの子どもであった。この子グマは四人に気づいてはいないようで、鼻を鳴らしながら地面に顔を向けている。きっと木の実などの食べられるものを探しているのだ。
子グマを見つけた女性は、クマの方にそっと近寄った。
「あれクマでしょ……平気なの……?」
「おい麻里、やめた方がいいんじゃねそれ」
「クマはやべぇって」
「大丈夫よ。こんなに可愛いのに……皆怖がりすぎなんじゃない?」
麻里と呼ばれたその女性は、子グマに近寄るとその前でしゃがみ、懐からソーセージを取り出した。その時、ようやく子グマは麻里の方を向いた。黒い毛に覆われた子グマは、その円らな瞳も相まってまるでぬいぐるみのようだ。
「ほら、これあげるから、こっちおいで」
ソーセージを差し出して子グマに向ける麻里。しかし、警戒しているのか、子グマは近寄る気配を見せない。何度か注意を引こうとソーセージをぶらぶらさせてみたが、効果なしだ。却って子グマは後ずさり、距離を取り始めた。
その時、彼女を恐怖のどん底に突き落とすものが、すでに忍び寄ってきていた。
いい加減、子グマに構うのも飽きてきた麻里が立ち上がった、その時である。
がさ……がさ……
草木のこすれる音が、すぐ近くから聞こえてきた。
「え? 誰かいるの……?」
気になった麻里は、音のする方に視線を遣った。その時、彼女は言葉を失った。
名も知らぬ草木の間から、一匹の大きなツキノワグマが、二つの目を彼女の方へ向けていたのだ。殺気だったその目を――
「っ――」
麻里は頭が真っ白になった。クマは四つ足でのしのし歩きながら、一直線に向かってくる。この状況が大変危険であるのは、誰だって理解できることだ。
「きゃあああああ!」
麻里は叫びながら、脱兎の如くに逃げ出した。だが逃げる麻里は、がさがさという音とともに、あの黒い巨体が迫ってきているのを感じ取った。クマが追ってきているのだ。
麻里の叫び声は、クマを刺激してしまうものであった。加えて彼女が走って逃げだしたのもよくなかった。こういった動作はクマの狩猟本能を呼び起こさせてしまう。特に、冬眠に備えて栄養をため込む秋の季節であればなおさらのことだ。だがそのようなことは、彼女の知る所ではなかった。
――逃げられない。
あのずんぐりとしたクマがこんなに俊足だとは、露ほども思っていなかった。もう、クマの吐息が聞こえる所にまで追いすがられていた。
クマの鋭い爪が、麻里の背中を切り裂いた。あまりの激痛に、彼女はそのまま湿った土の上に倒れ臥してしまった。
起き上がろうとした麻里。しかし、体をひねって仰向けになった彼女のすぐ目の前に、クマの顔があった。
「いや……もうやめて……お願いだから……許して……」
このままでは、死ぬ。麻里の恐怖の感情は、涙となって流れ出した。この全く無意味な命乞いが、彼女の最期の言葉となった。
0
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる