マーダー・オブ・ハロウィン 恐怖の殺戮カボチャ

武州人也

文字の大きさ
8 / 10

第8話 ラスト・マーダー

しおりを挟む
 足早に階段を上がると、そこはビルの一階だった。八島と出会った、あのビルだ。入口付近にはスタンプカードの景品交換所が設置されており、吸血鬼の仮装をした男性スタッフの姿が見える。

「た、助けて! 殺される!」
 
 鴨井は叫びながら、出口に向かって一心不乱に走った。スタッフは驚いた表情で鴨井のことを見つめている。驚きはすれども、彼に対して何をすればよいのか分かりかねているようであった。
 そうして、鴨井はようやくビルの出入り口から外に出た。外の空気はからっとしていて、希望の味がした。
 これで助かる……そう思った鴨井の頭上に、突然、何か大きなものが降ってきた。

「うわっ!」

 どさり。鴨井は降ってきた何らかのせいで、うつ伏せに倒れてしまった。降ってきたものは、その腕や脚を絡めて押さえ込んできて、立ち上がろうとする鴨井を妨害している。

「逃がすか! ここがお前の墓場だ!」
「おっ、お前!」

 上から降ってきたのは、あの八島であった。恐らくビルの上階に先回りしていて、出入り口から外に出る鴨井を待ち伏せしていたのだ。飛び降りというリスクを冒してまで追い詰めようとする八島の執念に、鴨井は慄然りつぜんとした。蓮江はともかく、少なくともこの男には何もしていない。なのにこの八島という男は、自らの命さえ捨てる覚悟で襲ってきたのだ。そうした異様な執念を、どうして恐れずにいられよう。

「離れろよ!」

 鴨井は背中から絡みついてくる八島の左腕を掴んで、そのまま背負い投げの要領で投げ落とした。背を強く打った八島は、歯を食いしばって苦悶の表情を浮かべるばかりで、立ち上がって再び襲いかかろうとはしなかった。

「ねぇねぇ、あれ見て」
「何これ、喧嘩?」
「ってかあっちの男、あのビルの窓から飛び降りてきたぞ」

 鴨井と八島、二人の男の周辺は、いつの間にか雑多な仮装者によって人だかりができていた。野次馬根性で集まった観衆は、珍奇なものを見る眼差しを二人に向けている。
 急いでその場から逃げ出そうとした鴨井。その背後から、かつかつという急ぎ足の靴の音が聞こえた。真っすぐ向かってくる靴音など、正体は一つしかない。

「ひっ……」

 振り向いた鴨井の目の前には、機械の顔を持つ、全身黒タイツの男――蓮江未来が立っていた。恐らく目の代わりなのであろう赤いランプを光らせ、手に持った長柄の大鎌を振り上げるその様は、まさしく死神であった。
 他のイベント参加者の目には、何かの化け物の仮装をした仮装者の一人としか映っていなかった。よもや本物の殺人鬼だとは、この場の誰も想像だにしていない。人の背丈ほどもある大鎌さえ、仮装のためのグッズの一つだと思われていたことだろう。

「まっ……待ってくれ! 俺には家族がいるんだ! もうすぐ子どもも産まれる! だから命だけは助け」
「ふざけるな! 未来はお前のせいで子どもを作ることさえできなくなったんだ!」

 命乞いを始めた鴨井を、横から八島が罵った。頭からどくどく血を流しているにもかかわらず、よくぞと思えるほどの怒声であった。
 八島に罵られても、鴨井はそんな蓮江を憐れだとは思わなかった。蓮江がどんな境遇にあろうと、そんなことは鴨井の関心事になり得ない。鴨井の頭の中にあるのは、自分がいかに助かるか、ということだけである。

「今だ! やれ! 殺せ!」

 八島は、これが最後の一声いっせいだとばかりに喉を震わせて叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三匹の○○○

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢
大衆娯楽
【注意】特殊な小説を書いています。下品注意なので、タグをご確認のうえ、閲覧をよろしくお願いいたします。・・・ とある家を襲おうとしている狼の、下品な話。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

兄の悪戯

廣瀬純七
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

処理中です...