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反乱軍
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シン国の都、カンヨウは、反乱軍に襲われていた。
雲霞の如き大軍勢が、城内に迫ってくる。首都を守る城壁は衝車によって破壊され、最早何の用を成さない。首都防衛隊はすでに討ち果たされ、兵の一人すら残っていない。
「奴らめ……」
その渦巻く民衆の憤怒を露台から見下ろす、一人の男がいた。長い金髪を風に靡かせるその男こそ、シン国の皇帝、セイである。セイが木製の杖を振るうと、空から特大火球がいくつも降り注ぎ、それが群がる敵の兵士たちを燃やし尽くしてゆく。だが、火球によって密集隊列に空けられた穴は、すぐさま後方から来る兵たちによって埋められた。どれ程の火力をぶつけようとも、彼らの歩みは止まらない。
どん、と、宮殿内に衝撃が走った。
「きゃあ!」
女の甲高い声が、皇帝の背後の部屋の中に響く。その声の主は、皇帝の正妻、リンであった。
宮殿の外壁に、岩石がぶつけられたのだ。外壁には傷一つつかなかったが、その衝撃は内部に響いてくる。もう、敵は投石機の射程に皇帝を収める所にまで近づいてきているのだ。
シン国の皇帝、セイは、前世で感染症にかかってその若い命を散らせた。獰悪な雇い主に馬車馬の如くにこき使われるだけの、つまらぬ人生であった。
そうして命を落とした後、この世界に、セイとして生まれ落ちた。世に言う、「異世界転生」という奴だ。
転生した彼は、最初からほぼ無尽蔵とも言える魔力を持っていた。これも所謂「チート主人公」というものだ。おまけに金髪美形という容姿アドバンテージまで得ている。
その力を使ってこのシン国の魔王を討伐し、新たな皇帝として即位した。即位の後には北伐を指揮し、北辺の地で略奪を働く蛮族を攻め、これを駆逐してしまった。
そこまでは、よかった。
あろうことか、皇帝セイは、酒食に耽り始め、政治を全く顧みなくなってしまった。前世では貧乏暮らしで、一人の女も彼に振り向かなかった反動か、毎日毎晩山海の珍味を並べ、海内の美姫たちを侍らせて糟丘肉林の狂宴に耽った。それらを支えるのは、当然民にかけられた税である。セイは自らの享楽のために重税を課し、民から限界まで富を絞り尽くした。そのため、土地を捨てて流民化する者が増え、地方の経済は崩壊を来し、犯罪も増加し、民たちは常に空きっ腹を抱えて飢え苦しんでいる有様であった。セイは不思議と醜く肥え太らずに麗しい容姿を保ったが、これもチートの範疇であろうか。
きっかけは、とある農村での出来事であった。税が払えなくなった農夫の男が徴税吏を殺害したのをきっかけに、反乱が起こった。小さな農村での出来事に過ぎなかったそれは、瞬く間に各地へ燃え広がった。領内の到るところで民衆が武器を取り、官吏を殺害し始めたのだ。そうして、全ての元凶たる皇帝セイを弑するために、国都のカンヨウに反乱軍が大挙して押し寄せてきたのである。
「秘密の抜け道がある。お前たちは逃げよ」
セイは正妻であるリンに向けて、低い声で言った。リンは魔王との戦いの最中に出会い行動を共にしてきた、まさに糟糠の妻とも言うべき女である。愛妾たちを傍らに侍らせるようになっても、セイは決してこの正妻を無下に扱うことはしなかった。
宮殿には、尚も投石機によって岩石がぶつけられている。岩石に交じって、時折火球や雷撃などでも攻撃された。恐らく魔術の心得がある者が、反乱軍に増えてきたのであろう。外壁は魔術結界によって守られているため、庶民の魔術師による火球や雷撃などは、大した問題ではない。寧ろ投石機による攻撃の方が、威力の上では脅威である。こういった攻撃によって即座に宮殿が崩落することはないが、それもはっきり言えば時間の問題である。
反乱軍は、セイに休む暇を与えてはくれなかった。前線の兵を魔術によって排除しても、すぐにその後方から新たな兵がやってくる。夜になれば彼らも一旦は引き返すとも思ったが、そんなことはなかった。
もう、すでにセイは一か月、寝ずに戦い続けていた。睡魔に負ければ最後、敵兵がなだれ込んできて、即座に首を取られるであろう。如何に魔力が無尽蔵でも、それを操る人間の集中力、精神力は無限ではない。備蓄の食糧がなくなる前に、過労で死んでしまうのかも知れないと思わされる。セイの前世の人間であれば、とっくにもう音を上げていたであろう。
露台に立つセイは火球を放ち、前列に出てきた投石機や衝車を、それに随伴する兵ごと燃やし尽くした。これらの兵器にはご丁寧にも火攻め対策の濡れた布が被せられていたが、セイの大火力魔術の前には無力である。
前線から大型兵器を一掃し終えたセイの耳が、大型の飛翔動物の羽ばたきを拾った。上空に目を向けると、ワイバーンの群れが、綺麗な横隊を作って宮殿に接近してきていた。その背には、帯甲し、弓を握った者たちが騎乗している。
荒々しい個体の多いワイバーンを調教し騎乗するのは高等技術であり、一部の士族しか心得てはいない。これは、反乱軍の中には士族も交じっていることを意味していた。本来、国を守るべき立場の者さえ、セイの敵に回っているのである。
無万数の反乱軍に対して、シン国軍と呼べるのは、ただこの皇帝セイのみであった。
雲霞の如き大軍勢が、城内に迫ってくる。首都を守る城壁は衝車によって破壊され、最早何の用を成さない。首都防衛隊はすでに討ち果たされ、兵の一人すら残っていない。
「奴らめ……」
その渦巻く民衆の憤怒を露台から見下ろす、一人の男がいた。長い金髪を風に靡かせるその男こそ、シン国の皇帝、セイである。セイが木製の杖を振るうと、空から特大火球がいくつも降り注ぎ、それが群がる敵の兵士たちを燃やし尽くしてゆく。だが、火球によって密集隊列に空けられた穴は、すぐさま後方から来る兵たちによって埋められた。どれ程の火力をぶつけようとも、彼らの歩みは止まらない。
どん、と、宮殿内に衝撃が走った。
「きゃあ!」
女の甲高い声が、皇帝の背後の部屋の中に響く。その声の主は、皇帝の正妻、リンであった。
宮殿の外壁に、岩石がぶつけられたのだ。外壁には傷一つつかなかったが、その衝撃は内部に響いてくる。もう、敵は投石機の射程に皇帝を収める所にまで近づいてきているのだ。
シン国の皇帝、セイは、前世で感染症にかかってその若い命を散らせた。獰悪な雇い主に馬車馬の如くにこき使われるだけの、つまらぬ人生であった。
そうして命を落とした後、この世界に、セイとして生まれ落ちた。世に言う、「異世界転生」という奴だ。
転生した彼は、最初からほぼ無尽蔵とも言える魔力を持っていた。これも所謂「チート主人公」というものだ。おまけに金髪美形という容姿アドバンテージまで得ている。
その力を使ってこのシン国の魔王を討伐し、新たな皇帝として即位した。即位の後には北伐を指揮し、北辺の地で略奪を働く蛮族を攻め、これを駆逐してしまった。
そこまでは、よかった。
あろうことか、皇帝セイは、酒食に耽り始め、政治を全く顧みなくなってしまった。前世では貧乏暮らしで、一人の女も彼に振り向かなかった反動か、毎日毎晩山海の珍味を並べ、海内の美姫たちを侍らせて糟丘肉林の狂宴に耽った。それらを支えるのは、当然民にかけられた税である。セイは自らの享楽のために重税を課し、民から限界まで富を絞り尽くした。そのため、土地を捨てて流民化する者が増え、地方の経済は崩壊を来し、犯罪も増加し、民たちは常に空きっ腹を抱えて飢え苦しんでいる有様であった。セイは不思議と醜く肥え太らずに麗しい容姿を保ったが、これもチートの範疇であろうか。
きっかけは、とある農村での出来事であった。税が払えなくなった農夫の男が徴税吏を殺害したのをきっかけに、反乱が起こった。小さな農村での出来事に過ぎなかったそれは、瞬く間に各地へ燃え広がった。領内の到るところで民衆が武器を取り、官吏を殺害し始めたのだ。そうして、全ての元凶たる皇帝セイを弑するために、国都のカンヨウに反乱軍が大挙して押し寄せてきたのである。
「秘密の抜け道がある。お前たちは逃げよ」
セイは正妻であるリンに向けて、低い声で言った。リンは魔王との戦いの最中に出会い行動を共にしてきた、まさに糟糠の妻とも言うべき女である。愛妾たちを傍らに侍らせるようになっても、セイは決してこの正妻を無下に扱うことはしなかった。
宮殿には、尚も投石機によって岩石がぶつけられている。岩石に交じって、時折火球や雷撃などでも攻撃された。恐らく魔術の心得がある者が、反乱軍に増えてきたのであろう。外壁は魔術結界によって守られているため、庶民の魔術師による火球や雷撃などは、大した問題ではない。寧ろ投石機による攻撃の方が、威力の上では脅威である。こういった攻撃によって即座に宮殿が崩落することはないが、それもはっきり言えば時間の問題である。
反乱軍は、セイに休む暇を与えてはくれなかった。前線の兵を魔術によって排除しても、すぐにその後方から新たな兵がやってくる。夜になれば彼らも一旦は引き返すとも思ったが、そんなことはなかった。
もう、すでにセイは一か月、寝ずに戦い続けていた。睡魔に負ければ最後、敵兵がなだれ込んできて、即座に首を取られるであろう。如何に魔力が無尽蔵でも、それを操る人間の集中力、精神力は無限ではない。備蓄の食糧がなくなる前に、過労で死んでしまうのかも知れないと思わされる。セイの前世の人間であれば、とっくにもう音を上げていたであろう。
露台に立つセイは火球を放ち、前列に出てきた投石機や衝車を、それに随伴する兵ごと燃やし尽くした。これらの兵器にはご丁寧にも火攻め対策の濡れた布が被せられていたが、セイの大火力魔術の前には無力である。
前線から大型兵器を一掃し終えたセイの耳が、大型の飛翔動物の羽ばたきを拾った。上空に目を向けると、ワイバーンの群れが、綺麗な横隊を作って宮殿に接近してきていた。その背には、帯甲し、弓を握った者たちが騎乗している。
荒々しい個体の多いワイバーンを調教し騎乗するのは高等技術であり、一部の士族しか心得てはいない。これは、反乱軍の中には士族も交じっていることを意味していた。本来、国を守るべき立場の者さえ、セイの敵に回っているのである。
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