異世界勇者VS人海戦術

武州人也

文字の大きさ
1 / 5

反乱軍

しおりを挟む
 シン国の都、カンヨウは、反乱軍に襲われていた。
 雲霞うんかの如き大軍勢が、城内に迫ってくる。首都を守る城壁は衝車しょうしゃによって破壊され、最早何の用を成さない。首都防衛隊はすでに討ち果たされ、兵の一人すら残っていない。
「奴らめ……」
 その渦巻く民衆の憤怒を露台から見下ろす、一人の男がいた。長い金髪を風に靡かせるその男こそ、シン国の皇帝、セイである。セイが木製の杖を振るうと、空から特大火球がいくつも降り注ぎ、それが群がる敵の兵士たちを燃やし尽くしてゆく。だが、火球によって密集隊列に空けられた穴は、すぐさま後方から来る兵たちによって埋められた。どれ程の火力をぶつけようとも、彼らの歩みは止まらない。
 どん、と、宮殿内に衝撃が走った。
「きゃあ!」
 女の甲高い声が、皇帝の背後の部屋の中に響く。その声の主は、皇帝の正妻、リンであった。
 宮殿の外壁に、岩石がぶつけられたのだ。外壁には傷一つつかなかったが、その衝撃は内部に響いてくる。もう、敵は投石機の射程に皇帝を収める所にまで近づいてきているのだ。


 シン国の皇帝、セイは、前世で感染症にかかってその若い命を散らせた。獰悪な雇い主に馬車馬の如くにこき使われるだけの、つまらぬ人生であった。
 そうして命を落とした後、この世界に、セイとして生まれ落ちた。世に言う、「異世界転生」という奴だ。
 転生した彼は、最初からほぼ無尽蔵とも言える魔力を持っていた。これも所謂「チート主人公」というものだ。おまけに金髪美形という容姿アドバンテージまで得ている。
 その力を使ってこのシン国の魔王を討伐し、新たな皇帝として即位した。即位の後には北伐を指揮し、北辺の地で略奪を働く蛮族を攻め、これを駆逐してしまった。
 そこまでは、よかった。
 あろうことか、皇帝セイは、酒食に耽り始め、政治を全く顧みなくなってしまった。前世では貧乏暮らしで、一人の女も彼に振り向かなかった反動か、毎日毎晩山海の珍味を並べ、海内かいだいの美姫たちを侍らせて糟丘肉林そうきゅうにくりんの狂宴に耽った。それらを支えるのは、当然民にかけられた税である。セイは自らの享楽のために重税を課し、民から限界まで富を絞り尽くした。そのため、土地を捨てて流民化する者が増え、地方の経済は崩壊を来し、犯罪も増加し、民たちは常に空きっ腹を抱えて飢え苦しんでいる有様であった。セイは不思議と醜く肥え太らずに麗しい容姿を保ったが、これもチートの範疇であろうか。
 きっかけは、とある農村での出来事であった。税が払えなくなった農夫の男が徴税吏を殺害したのをきっかけに、反乱が起こった。小さな農村での出来事に過ぎなかったそれは、瞬く間に各地へ燃え広がった。領内の到るところで民衆が武器を取り、官吏を殺害し始めたのだ。そうして、全ての元凶たる皇帝セイをしいするために、国都のカンヨウに反乱軍が大挙して押し寄せてきたのである。

 
「秘密の抜け道がある。お前たちは逃げよ」
 セイは正妻であるリンに向けて、低い声で言った。リンは魔王との戦いの最中に出会い行動を共にしてきた、まさに糟糠そうこうの妻とも言うべき女である。愛妾たちを傍らに侍らせるようになっても、セイは決してこの正妻を無下に扱うことはしなかった。
 宮殿には、尚も投石機によって岩石がぶつけられている。岩石に交じって、時折火球や雷撃などでも攻撃された。恐らく魔術の心得がある者が、反乱軍に増えてきたのであろう。外壁は魔術結界によって守られているため、庶民の魔術師による火球や雷撃などは、大した問題ではない。寧ろ投石機による攻撃の方が、威力の上では脅威である。こういった攻撃によって即座に宮殿が崩落することはないが、それもはっきり言えば時間の問題である。
 反乱軍は、セイに休む暇を与えてはくれなかった。前線の兵を魔術によって排除しても、すぐにその後方から新たな兵がやってくる。夜になれば彼らも一旦は引き返すとも思ったが、そんなことはなかった。
 もう、すでにセイは一か月、寝ずに戦い続けていた。睡魔に負ければ最後、敵兵がなだれ込んできて、即座に首を取られるであろう。如何に魔力が無尽蔵でも、それを操る人間の集中力、精神力は無限ではない。備蓄の食糧がなくなる前に、過労で死んでしまうのかも知れないと思わされる。セイの前世の人間であれば、とっくにもう音を上げていたであろう。
 露台に立つセイは火球を放ち、前列に出てきた投石機や衝車を、それに随伴する兵ごと燃やし尽くした。これらの兵器にはご丁寧にも火攻め対策の濡れた布が被せられていたが、セイの大火力魔術の前には無力である。
 前線から大型兵器を一掃し終えたセイの耳が、大型の飛翔動物の羽ばたきを拾った。上空に目を向けると、ワイバーンの群れが、綺麗な横隊を作って宮殿に接近してきていた。その背には、帯甲し、弓を握った者たちが騎乗している。
 荒々しい個体の多いワイバーンを調教し騎乗するのは高等技術であり、一部の士族しか心得てはいない。これは、反乱軍の中には士族も交じっていることを意味していた。本来、国を守るべき立場の者さえ、セイの敵に回っているのである。
 
 無万数の反乱軍に対して、シン国軍と呼べるのは、ただこの皇帝セイのみであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

処理中です...