異世界勇者VS人海戦術

武州人也

文字の大きさ
4 / 5

女装美少年刺客

しおりを挟む
 カンヨウの城外にある小さな農村に、静かに流れる小川がある。そのほとりに、一件の小屋が建っていた。
 その小屋から、せわしく外を眺め、左右に視線を振っている、一人の少女がいる。いや、少女というのはあくまでも見せかけであり、その正体は男子おのこである。
 少年は、名をケイカといった。彼の兄であるタンという男は、セイの戦友であり、共に魔王と戦っていた。魔王との戦いが終わり、皇帝に即位したセイが酒食に耽って堕落していくのを見て彼は何度もそれを諫めた。だが、そのことでセイに疎んじられるようになり、君側の奸による「かの者は皇帝をしいして帝位を奪おうとしている」という讒言ざんげんを信じたセイによってとうとう死を賜ってしまった。処刑ではなく賜死であったのは、今までの功を慮り、それに報いたのであろう。
「俺の眠る土にあずさの木を植えてくれ。あいつは遠くない未来に死ぬだろう。その木で奴の棺桶を作ってやれ」
 私邸に剣が贈られると、タンは弟と妹の前で剣を抜き、そう言い残して、自らの首に白刃を押し当て自裁したのであった。
 幼いケイカとその姉、チョウにとって、兄の死はこれ以上ない衝撃であった。この姉弟は、必ずや兄の仇を討たんと、固く誓ったのである。
 まず、チョウは敵の懐に入らんと、自ら後宮に入った。彼女の美貌はすぐにセイの目に留まり、その寵愛を受けるようになった。その寵愛の程は甚だしく、セイは片時も彼女を離さなかった。チョウはある時、この暴君を酒に酔わせると、頃合いを見計らって、皇帝の使う専用の抜け道について聞き出した。暴君はあっさりと、雄弁に抜け道について語って聞かせた。
 チョウは、密かに使いを遣り、故郷で暮らしていたケイカに書簡を送った。そこには、皇帝専用の抜け道について、詳細に記されていた。この抜け道を遡るようにして宮中に忍び込み、暴君を暗殺せよ、ということであった。
 チョウは当初、自らセイの首を取ろうとした。だが、運の悪いことに、彼女は病を得て腕が麻痺してしまった。セイに近づける立場でありながら、これを殺せる体ではなくなってしまったのである。
 これを受け取ったケイカは、手が震えるあまり、書簡を床に落としてしまった。仇を討つ機会を得たというのに、ケイカの心は少しも奮起しなかった。寧ろ、恐怖が彼の心を覆ったのである。皇帝は、絶大な力を持つ。たとえ数十万の軍隊が相手でも、一人で撃滅してしまうであろう。そんな男の懐に忍び込んで首を取るなど、自分にできるはずもない。そう思ってしまったのだ。
 その後、程なくしてチョウは亡くなってしまった。後は、全てケイカの双肩に託された。計画のためとは言え、兄の仇である皇帝に抱かれた彼女の心労は一体如何程であったろうか。思えばそれが彼女の心身を蝕み、死へと追いやったのかも知れない。
 そうして、ケイカが復讐と臆病の間で揺れ動き懊悩おうのうしている間に、天下の情勢は大きく変わった。地方の反乱が膨れ上がり、官軍は崩壊し、帝室に仇なす無万数の兵が、国都カンヨウに集結した。暴君を弑す、ただそれだけのために。
 ケイカは都を目指す反乱軍の大軍勢を見て、計画の変更を決意した。自ら懐に飛び込むのではなく、向こうから来るのを待つのだ。あれだけの反乱軍なら、確実に皇帝は追い詰められる。皇帝が宮殿を捨てて抜け道を通った所を待ち伏せし、そこで仕留めるのだ。もし、抜け道を使う前に反乱軍によって討たれたのならそれでもよい。自分が手を下すまでもなかった、ただそれだけのこと。
 ケイカは、実家に姉が残した女物の服を身に纏い、放棄された小屋を改修してそこを拠点とした。その小屋は丁度、皇帝の抜け穴が通じている場所を眺めることができる位置に建っている。元よりケイカは、姉そっくりの美貌を持っていた。温麗な顔貌に、ほっそりとした手足。女物の服を着ると、とても男子には見えない。
 この年若き刺客は、懐に匕首ひしゅをしのばせて、じっと待ち構えていた。さながら岩陰に潜む蛇が目の前に獲物の通るのを待つように、運び込んだ食糧を食みながら、ひたすら待った。
 だが、待てど暮らせど、皇帝は姿を現さない。もしや、反乱軍が敗れたのでは……と疑ったが、さりとてここを動いて様子を見に行く訳にもゆくまい。自分の計画通りに事が運ぶと信じて、じっと待ち続けた。彼は少食ではあったが、それでも備蓄の食糧は、どんどん目減りしてゆく。ケイカは焦り始めた。
 二月が過ぎた頃の、ある朝であった。
 とうとう、彼の仇は現れた。長い金髪を揺らめかせ、煌びやかな衣装に身を包んだ色白の男が、小屋の前に姿を現したのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...