あの日あの教室でアカネサス

ムラサキ

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第3話 黄昏

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気付くと僕は既に席に座っていた。授業はもう始まっている。静まり返った教室で数式を板書するチョークのカッカッという乾燥した音と先生の声が響いている。どうやら数学の授業らしい。熱が出た日の昼下がりのような、プールの後の授業のような、まるで周囲と隔絶された空間にいるかのように感覚だ。ボーっとしている僕の中の空間にエアコンの機械音とチョークの音だけが響いている。僕という一人の人間が消えてしまっているにもかかわらずただ当たり前の生活が今まだここにある。歯車がひとつ外れたぐらいで止まることはないらしい。

数学の授業が終わり休み時間になって、また賑やかになってきた。それでも僕は立ち上がらず、まだ席に座っている。
チャイムがなって、2時間目が始まった。次は現代国語の時間だ。教科書を机に並べる。
………
2時間目が終わった。僕はまだ座っている。

3時間目が始まった。次は世界史の時間だ。
、、、、終わってしまった。
4時間目、また終わってしまった。

昼休み。まだ僕は立ち上がることが出来ない。

5時間目、、、6時間目、、。

放課後。みんなは教室を出ていってしまった。誰も僕のことには気づかずに。

僕は座ってまま、ただ呆然と茜射す教室を眺めている。















随分と時間が経ったようだ。











教室は徐々に薄暗くなり、黄昏始めた空模様がぼんやりと教室を照らしている。グラウンドの方からは部活に励む人達の声が聞こえてくる。それでも僕はやはり、立ち上がろうとすることなく、静かに黒板の上の時計の針を見つめている。


「どうして泣いてるの?」


急に声がした。
泣いてる?誰が?教室の入口の方に目をやると一人の少女が立っている。他にまだこの教室に誰かいるのだろうか。僕は辺りを見渡してみる。いや、この教室に他に誰もいない。

「違う、きーみ。どうして一人で泣いてるの?」

彼女は僕の目の前に来て、はっきりと僕の目を見ながら、言っている。有り得ない。僕は透明人間なんだ。見えるはずも無い。物は試し、恐る恐る彼女に尋ねてみる。

「僕が、見えるの?」

彼女は少し驚いたかと思うと、急に笑いだした。

「そりゃあ、見えるに決まってるじゃん。幽霊にでもなったつもり?」

冗談めいた口調で彼女は僕に話しかける。

「どうして…」

「どうしてって、冗談のつもり?それより大丈夫なの?ほら、ハンカチ貸すから拭きなよ。」

彼女はキャラクターのロゴが刺繍されてある白と黒のハンカチを僕に差し出した。そして、僕はようやく涙が頬を伝っていることに気づいた。

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