となりの音鳴さん

翠山都

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となりの音鳴さん(完)

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 経緯はわかった。そして、そんなことがあるのか、とも思った。
 一階の住人と、猫の糞と、民泊施設。どれも、ここに引っ越してきてから私が頭を悩ませていた問題だ。それらがこんな形で関連して、こんな形の結果を引き起こすなんて。
 世の中、こんなこともあるのだなあ、とふわふわとした不思議な気持で、私は部屋に戻った。
 その後のことを話そう。
 一階左端のおじいさんは引っ越していった。ほかの三部屋の老人たちは居座ったままだけれども、それまでと比べると誰も、以前の元気を失っていた。トラブルや怒鳴りあいをしている回数も減って、私としても許容できるかな、まあそういう住人もいるだろう、という水準にまでは落ち着いた。
 ほどなくそのうちの一人が亡くなったと聞いた。おそらく普通の老衰だと思う。
 時を同じくして、例の民泊施設が撤退を決めたと聞いた。話し合いには勝った施設側だが、猫の糞を置かれるレベルで周辺住民の恨みを買っていると、ようやく思い当たることができたらしい。案内サイトでの評価もかなり悪い感じになっていたから、それも原因の一つかもしれない。
 そんな感じで、あの日を境に、私が思い悩んでいた問題が、すべて解決してしまった。
 ラッキーな事態だといえる。これほどまでの幸運は、正直私の人生には今までなかった。
 私は考える。これは本当にすべて、幸運の産物なのだろうかと。
 私は考える。どうしてあのおじいさんは、猫の糞を民泊施設の前に捨てようと思ったのか。
 おじいさんが自分で思いついたのだろうか。私には、そうは思えない。それまであの人たちは、落ちている糞には無頓着だった。自分たちには関係ないとばかりの態度だった。それを急に、そんな形で利用してやろうだなんて、考えついたとは思わない。
 私は想像する。だれか、そういう報復方法を、吹き込んだ人がいるんじゃないだろうか。例えば、おじいさんと宿泊客を仲裁したとき。音鳴さんはいったい何を言って、怒り狂うおじいさんを納得させたんだろうか。そして音鳴さんは、どうしてあんなにも背景事情に詳しかったのだろう。
 確かなことは何もない。けれどもその想像は、私を腑に落ちさせるものだった。
 数日後。民泊施設は正式にこの地域から撤退し、目障りだったのぼりはようやくにして撤去された。
 その日の夜。私の隣、四〇四号室からは、初めて人のいる生活音を聞いた。
 まさかそんなはずはないと思うのだけれど。その音は何というか……私には、女性の高笑いであるように聞こえた。

(完)
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