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新たな気付き
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「……君は、ここに住んでいるのかい?」
「ああ、そうだよ」
全体に古びた長屋は、いったいいつ頃から補修されていないのだろう。
「……この荘での生活は、厳しいのかい」
ついそのような質問をしてしまった。少女はふん、と鼻から大きく息を吐き出す。
「正直楽じゃねえな。でもアタシらみたいなモンが生きていける場所は、ここしかないんだ」
怪訝そうな顔をした俺に、少女は白い目を向ける。
「ここらに住んでる犬人は、ほとんどがイストリアからの流れモンだよ。お前、何にも知らないんだな」
「イストリアと交流があるの?」
そういえば、イストリアでは犬人が多いのだっけか。
センタリアとイストリアは友好国なので交易も行っているが、主要な街道は辺境伯領など大貴族の領地が押さえている。パワーズ領では最低限のやり取りしか行っていないと父母からは聞いていた。
「上の方じゃそうかもしれねえけど、アタシらには関係ないことだかんな。別に街道がないと行き来できねえわけじゃないし」
「それもそうか」
この世界、まだ国境線がはっきり引かれているわけでもないものな。そこで生きている者たちには、国同士の境界なんて何の意味もないことだろう。もちろん領主家としては喜ばしい事態ではないのであるが……。
「そうか。イストリアと、行き来があるのか……」
「当たり前だろ。お前、いったいどこのお坊ちゃんだよ」
ううむ。なんだか少女に怪しまれはじめている気がする。服装からいいとこのお坊ちゃんだとは感づかれているだろうが、商家の子息だとすればあまりにもの知らずにもほどがあるよなぁ。
それにしても、色々あって予想以上に長く滞在してしまった。そろそろ屋敷に戻らないとヤバい気がするんだけど、どうしようか……。
ここはサラッと流して、別れるとしよう。うん。
呼吸が整った俺は、機先を制して立ち上がる。
「そろそろ行かないと。お詫びというわけじゃないけど、その上着はあげる。売れば、それなりの金額にはなるはずだから」
「えっ? お、おい、お前!」
少女が何か言いかけるのを無視して、俺は走ってその場を立ち去った。これ以上トラブルに巻き込まれては、𠮟責程度じゃすまなくなるかもしれない。
中央道まで戻ったが、少女が追いかけてくる気配はなく、ホッとする。
さて、ここからバレないように屋敷まで戻れば……。
そう思ったとき、俺の前に影が差した。
見覚えのある侍女服。顔を上げると、これまた見慣れた銀の瞳に青い髪。マルサがきれいな立ち姿で俺の進路に立ち塞がっている。
「見つけましたよ、坊ちゃま」
俺の痕跡をたどって、ここにたどり着いたのだろう。マルサの顔は笑みを浮かべているが、声色には明らかな怒気が含まれている。
やばい、と感じて逃げようとしたが、もう遅い。マルサは素早く俺の首根っこを引っつかまえると、逃げられぬよう持ち上げた。何という膂力か。探索能力といいこの腕力といい、やっぱり普通の侍女じゃなくない?
「まずは屋敷へお戻りになられませ、坊ちゃま。お話は……それからじっくりと、聞かせていただきますので」
……ああ、これは長い説教になりそうだなあ。諦めた俺は両手を上げて、降参の意思を示した。
「ああ、そうだよ」
全体に古びた長屋は、いったいいつ頃から補修されていないのだろう。
「……この荘での生活は、厳しいのかい」
ついそのような質問をしてしまった。少女はふん、と鼻から大きく息を吐き出す。
「正直楽じゃねえな。でもアタシらみたいなモンが生きていける場所は、ここしかないんだ」
怪訝そうな顔をした俺に、少女は白い目を向ける。
「ここらに住んでる犬人は、ほとんどがイストリアからの流れモンだよ。お前、何にも知らないんだな」
「イストリアと交流があるの?」
そういえば、イストリアでは犬人が多いのだっけか。
センタリアとイストリアは友好国なので交易も行っているが、主要な街道は辺境伯領など大貴族の領地が押さえている。パワーズ領では最低限のやり取りしか行っていないと父母からは聞いていた。
「上の方じゃそうかもしれねえけど、アタシらには関係ないことだかんな。別に街道がないと行き来できねえわけじゃないし」
「それもそうか」
この世界、まだ国境線がはっきり引かれているわけでもないものな。そこで生きている者たちには、国同士の境界なんて何の意味もないことだろう。もちろん領主家としては喜ばしい事態ではないのであるが……。
「そうか。イストリアと、行き来があるのか……」
「当たり前だろ。お前、いったいどこのお坊ちゃんだよ」
ううむ。なんだか少女に怪しまれはじめている気がする。服装からいいとこのお坊ちゃんだとは感づかれているだろうが、商家の子息だとすればあまりにもの知らずにもほどがあるよなぁ。
それにしても、色々あって予想以上に長く滞在してしまった。そろそろ屋敷に戻らないとヤバい気がするんだけど、どうしようか……。
ここはサラッと流して、別れるとしよう。うん。
呼吸が整った俺は、機先を制して立ち上がる。
「そろそろ行かないと。お詫びというわけじゃないけど、その上着はあげる。売れば、それなりの金額にはなるはずだから」
「えっ? お、おい、お前!」
少女が何か言いかけるのを無視して、俺は走ってその場を立ち去った。これ以上トラブルに巻き込まれては、𠮟責程度じゃすまなくなるかもしれない。
中央道まで戻ったが、少女が追いかけてくる気配はなく、ホッとする。
さて、ここからバレないように屋敷まで戻れば……。
そう思ったとき、俺の前に影が差した。
見覚えのある侍女服。顔を上げると、これまた見慣れた銀の瞳に青い髪。マルサがきれいな立ち姿で俺の進路に立ち塞がっている。
「見つけましたよ、坊ちゃま」
俺の痕跡をたどって、ここにたどり着いたのだろう。マルサの顔は笑みを浮かべているが、声色には明らかな怒気が含まれている。
やばい、と感じて逃げようとしたが、もう遅い。マルサは素早く俺の首根っこを引っつかまえると、逃げられぬよう持ち上げた。何という膂力か。探索能力といいこの腕力といい、やっぱり普通の侍女じゃなくない?
「まずは屋敷へお戻りになられませ、坊ちゃま。お話は……それからじっくりと、聞かせていただきますので」
……ああ、これは長い説教になりそうだなあ。諦めた俺は両手を上げて、降参の意思を示した。
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