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プロローグ

ボブとシェリーの旅立ち 転

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 城を出て、町中を一気に南へと下っていき、海岸のほうへと向かっていくと、そこに白い石をくみ上げて築かれた三層構造の砦があり、三層目は明かりがともせるように四つの柱で支えられています。砦に入ると、早速、帝国の兵士たちが現れ、剣を抜いて威嚇いかくしてきます。ボブも刀を抜くと、間もなく打ち合いが始まりました。しかし、帝国の兵士はまともな剣の扱いを知らず、ボブは相手の剣をはじき落とすと、帝国の兵士は恐れをなし逃げ出しました。シェリーも普通の少女と油断した相手を念力で遠ざけたり、弓矢で威嚇したりします。

 砦の灯火室に来ると、帝国の兵士たちが赤い服を着た灯台守の男性を人質に取っていました。
「おい!灯台守を放せ!そして、ここから出ていきやがれ!」ボブが刀を抜いて叫ぶと、帝国兵は涼しい顔で言い放ちます。

「それは、ここにある『水の石』を出さないとできない相談だな、それに、威勢はいいようだが、お前たち、どういう立場かわかっているのか?こっちには人質がいるんだぞ?」帝国兵は灯台守の首に刃物を突き付け、盾にしてきます。

「くっ・・・卑怯な・・・!」ボブもシェリーも思うように動けず、動揺していると、後ろから見慣れない戦士が現れました。黒いマントに身を包んだくせっ毛の男です。その姿にボブはハッとします。
「お、お前は・・・!」戦士はボブにこう言い放ちます。

腰抜こしぬけは引っ込んでろ!おれがやる!」それにボブはムッとします。
「な、なんだと!?」戦士はボブの事など意にも介さず、帝国兵に向かって火薬玉を投げつけます。火薬玉が破裂すると、帝国兵がひるんだすきに戦士は曲がった刀で次々と下していきました。ボブとシェリーはただ、見入っています。

「つ・・・強い・・・!」戦士はボブに向き合い、こう言い放ちます。
「お前が弱いだけだ、人質を取られたぐらいでオロオロしやがって・・・!」
「てめぇっ!」戦士は意にも介さずに灯台守のロープを切って言います。
「・・・水の石はどこだ!?よこせ!」灯台守は言われるがままに青色の立方体を差し出すと、戦士はそのまま去っていきました。

「なんですの?あの方は・・・?」シェリーはボブに尋ねます。
「あいつはしんや、現実界のエリート一家『大堂だいどう家』の坊ちゃんだ。運動も勉強もでき、武芸にも精通しているってうわさだったが、なんて言うか、ストイックって言うか、冷徹れいてつって言うか、腹の立つやつだったな。あいつもエレメントストーンを狙っているみたいだな、風の石に気づかれなくてよかったな・・・」ボブとシェリーは灯台砦が解放されたことを国王に報告しに城へ行きました。

「そうか、見知らぬ戦士が水の石を・・・ではお主たちの腕を見込んで、一つ頼みがある」国王がこう言うと、ボブが尋ねました。
「頼み?なんすか?」

「実は、食料などの物資をこれから西にある町レッドルビーに届けなくてはいけないのだが、道中に盗賊ゴブリンが出没して物資を強奪されることが相次いでいるのだ・・・!さらには、あの人間至上主義の過激派かげきは組織ホワイト団も暗躍しておる。お主たちには、明日に物資を運ぶ馬車の護衛を頼みたいのじゃ!」これにボブとシェリーはうなず)きました。

「任せてください、王様!」ボブとシェリーは明日に備えて、町の宿屋に泊まることにしました。

 翌朝、晴れ渡る空のもと、ボブとシェリーはお城の前で待ち合わせをしていた商人のヘクトと会いました。貴族的な服を着た小太りの男で、ボブとシェリーに向かってあいさつをします。

「あなた方が物資の護衛をしてくださる戦士の方たちですね。よろしくお願いいたします」ボブとシェリーは馬車に乗ると、ヘクトはむちを鳴らし、馬車馬はいななきながら進んでいきます。町を出て、西の農園地帯を馬車はすいすい進んでいきます。畑仕事に精を出す農夫や、羊の群れを誘導する牧羊犬が走り回る姿を垣間見ます。そんな緑豊かな田園地帯を進むこと30分、馬車の目の前で火薬玉が爆発し、馬車馬が驚いていななき、馬車が止まりました。そして、間もなく刀で武装した三人組のゴブリンが行く手をさえぎったのです。

「なんですか!?」ヘクトは戸惑っています。
「おい、命が惜しければ、馬車の積み荷をおいていきやがれ!」
「ちょっと、無茶を言わないでくださいよ!」
「おっと!混沌の帝国カオスエンパイアの戦士を相手にそんな口を叩けるのか!?」ゴブリンたちが刀を振り上げようとすると、馬車からボブとシェリーが飛び出しました。

「出やがったな!盗賊ゴブリンども!」
「今すぐこの場を去りなさい!」
「なんだ?われらが混沌の帝国カオスエンパイアに逆らうのか?」
「面白れぇ、やってしまえ!」間もなく、ボブとゴブリンによる刀の打ち合いが始まりました。しかし、力はボブのほうが強く、ゴブリンを刀ごと押し返し、一文字になぎ払います。
「ぐぁああっ!」リーダー格の盗賊ゴブリンはそのまま倒れました。

「あ、アニキっ!」
「やりやがったな!」残り二人のゴブリンが向かっていきますが、シェリーが奴らの足元に矢を放つと、ゴブリンたちはひるんで下がります。
「くっ・・・!」
「今度は外しませんわ!」シェリーが弓を向けると、ゴブリンたちは倒れているリーダーを抱えて尻尾を巻いて逃げ出しました。

「くそっ!おぼえてやがれ!」ジャマ者がいなくなると、ボブとシェリーは馬車に乗り込み、馬車は再び動き出しました。
 ほどなくして、赤い屋根の家々が目立つレッドルビーの町にたどり着くと、ボブとシェリーは馬車から降り立ちました。

「いやはや、ありがとうございました。おかげで食料などの物資を町に配ることができます。それじゃ」ヘクトと別れたボブとシェリーは、しばらくこの町を探検してみることにしました。町の建物は白い壁に赤い屋根の家々ばかりで、それが町の名前の由来になっていたのでした。人々もまばらな静かな通りに来ると、人々が集まっているところにやってきました。

「聞いたか?名家のクリスティーン家の家宝の銀杯が北の森のゴブリンたちに盗まれたそうだぞ」
「ああ、あの妖精の隠れ里の・・・!ゴブリンは決して凶暴ではないが、いたずらが過ぎる種族だからな」
ボブとシェリーは人だかりから少し離れたところで話します。
「おい、聞いたか、ゴブリンが盗みを働いたってよ」
「ええ、それでどうしますの?」
「もちろん、銀杯を取り戻すに決まっているだろ。いたずらが過ぎるなんて、まさに現実界リアリティの図鑑通りだな、ちょうどヒマを持て余しているし、行こうぜ!」ボブとシェリーは町を北に出て、北にあるといわれる妖精の隠れ里を目指しました。

 隠れ里に近づくにつれて、森にきりが立ち込めるようになりました。町の人々が言うには、このあたりにはよく霧が出るので、いつでも隠れ里に行けるわけではないとのことです。ボブはあきらめようとしましたが、シェリーは魔力のカンのおかげで霧の中でも迷うことなく、先へ進んでいきます。

 霧が晴れてくると、そこは森が開けた場所で、色とりどりの花が咲き乱れる草地に木製の壁に草の屋根の家々が並ぶ集落があり、その周りをゴブリンや、小人に蝶の羽が生えたような小妖精、とがった耳を持つ人間に近いエルフなどの妖精の種族が行きかっていました。

「ここが・・・妖精の隠れ里・・・!」
「きれいなところですわね・・・」ボブとシェリーが集落内を歩いていると、集落の妖精たちは珍しそうに二人を見つめます。
「わぁ、人間だ・・・!」
「なにしにきたんだろ?」
「悪さしに来たのか・・・!?」ボブは里の長らしきゴブリンを見つけると、問いただしてみました。
「おや?こんなところによそ者が来るなんて久しぶりじゃの・・・なんじゃ?」

「おい、盗んだ銀杯を返してもらうぞ」これに里長ゴブリンはキョトンとします。
「はて、何のことじゃ?」
「とぼけるなよ!レッドルビーの町から盗んだんだろ!?」これに里長ゴブリンは言い返します。
「おい!?わしらはレッドルビーの町になど行ってはおらんぞ!わしらが盗んだという証拠しょうこはあるのか!?」これにボブは一瞬だまり込みます。

「・・・そ、それは・・・!」その直後、集落中に警報を知らせる鐘の音が鳴り響いたのです。
「何事だ!?」そこに見張りをしていたゴブリンがやってきて言いました。
「大変です!白装束しろしょうぞくの人間の集団が攻めてきました!」
「なんだと!?今すぐに迎え撃つ準備じゃ!」ボブとシェリーもすぐさま集落の入口へと向かいました。
 そこでは、剣や槍と言った武器を持った白装束の集団が現れました。

「お前たち、何者だ!?」
「我々はホワイト団!この世界を浄化するものなり!」
「ホワイト団だと?!あの人間至上主義の・・・!何しに来た!?」これにホワイト団員たちはあざ笑うかのように言い放ちます。

「何言っているんですか、ここにいるゴブリンたちを抹殺するためですよ。大きな事件を起こす前にね・・・!銀杯を盗んだそうですね・・・!やっぱりゴブリンたちは危険ですね・・・!この場を浄化しましょう!」
「く・・・来るなー!」ボブは刀を抜いてホワイト団員たちを威嚇(いかく)します。

「おやおや、いきなり剣を抜くなど野蛮ですね、人類の未来のために働いている我々に楯突くとは・・・!」ホワイト団も剣を手に向かってくると、間もなく打ち合いになりました。しかし、力はボブのほうが強く、ホワイト団員が押し負け、剣をはじき落とされました。

「思ったよりやりますね、しかし、我々全員を相手にできますかな・・・?」
「くっ・・・!」そこに、刀を持ったゴブリンや弓を持ったエルフなどがやってきて、ホワイト団を迎え撃ちます。剣と剣がぶつかり合う音、矢が放たれた音などが響き渡り、ホワイト団を見事追い払うことができたのです。その時、団員が袋からキラキラ光る大きなものが落ちたので、拾ってみると、それは大きな銀杯だったのです。幅の広い銀色の優勝カップのような本体にツルが絡みついているデザインでした。

「これは・・・!」
「もしかして、盗まれた銀杯では・・・!?」
「ってことは、あいつら、自分たちの罪をゴブリンたちになすり付けていたのか!?虐殺の理由をこじつけるために・・・!くっ・・・!」ボブはぎゅっと目をつむり、歯を食いしばっています。
「なんてこと・・・それよりも傷ついた人たちを助けないと・・・!」シェリーは癒しの魔力を使って、ゴブリンやエルフたちのケガを治していきます。

 里長のもとに戻ってきたボブとシェリーはことのてん末を話しました。
「そうか・・・あの白装束の連中がそんなことを・・・!」
「こっちも、証拠がないのに言いがかりつけてごめんな・・・!」ボブは頭を下げて言います。

「我々ゴブリンは昔から人間に嫌われてきた・・・そんな人間たちとかかわらないようにこの場所に移り住んだのじゃ、悪さをする気はない・・・ただ、静かに暮らしたいだけじゃ・・・あんたたちが来ていなかったら、我らは皆殺しにされていたじゃろう、さぁ、お礼と言っては何だが、この石をやろう」手渡されたのは、小さな黄色の立方体でした。

「それはエレメントストーンの一つじゃ、悪者どもからそれを守り、清き心を持つものに渡せとつたわっておる。それには、大いなる魔法の力があるそうじゃ・・・ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございましたわ、それじゃ」ボブとシェリーは隠れ里を去り、森の中を進んでいくと、シェリーは言いました。

「ゴブリンって、長く人間たちから差別されてきたのね・・・じゃあ、あの盗賊ゴブリンたちは人間から悪い者と決めつけられてまともな仕事ができずにあんな・・・!」ボブも考え込んでいます。そして二人は、レッドルビーからトロッコ列車に乗ってスピネル王都へと戻っていったのです。
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