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3章 自由の章

トレーニング

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  窓から朝日が差し込んでくると、すぐるは両目を開けてゆっくりとベッドから起き上がります。
「ああ・・・もう朝だ・・・!」寝ぼけまなこで寝室をゆっくりと見回すと、
木製のドアが勢いよく開き、リリスが入ってきました。
「すぐる、起きておるな?そろそろ朝食の時間じゃぞ!」リリスが短いスカートをひるがえして部屋を出ると、
すぐるは服に着替えて、洗顔などを済ませて食卓に着きました。

「すぐるさん、起きましたね」キャンベルが朝食の準備をしている場面を見ると、
すぐるも少し手伝い、間もなく、すぐるとリリス、エルニスとキャンベル、ボブとシェリーの六人は着席します。
「いただきまーす!」すぐるはバターロールパンやウィンナー入りの目玉焼き、サラダと言った食事ですが、
よく見ると、みんなそれぞれ食べているメニューが違っています。ボブはすぐるのとほぼ同じメニューですが、
シェリーやキャンベルのメニューは肉類が少なく、サラダが多めに見えます。

「シェリーとキャンベルちゃんは野菜や果物が多いなぁ、エルニスに至っては、肉類はゼロだ・・・!」
すぐるはフルーツとサラダ、ハチミツのパンばかりを食べているエルニスを見て言いました。
「ぼくたちエンゼルドラゴンは基本的に肉類は口にしないんだ。ハチミツとフルーツが好物なんだよ」
「わたくしは、あまりお肉は食べませんわ」シェリーはレタスの葉っぱをつつしまやかに口に運びます。

「わたしも、野菜や果物のほうが得意なんです」キャンベルもパンをかじって言います。
一方、リリスはサラダよりも、大きな鶏肉とりにくのてり焼きなどの肉類が目立ち、
フォークに刺した大きめの肉のかたまり豪快ごうかいに口に持ってきて食いちぎります。
「リリスは肉をがっつり行くね・・・!」すぐるは少しおどろいています。

「うむ!我ら魔族をはじめ、バンパイアやグールと言った種族しゅぞくおにの仲間)は
人間よりも肉食の傾向けいこうが強いのじゃ」リリスは口元のソースをなめとって言います。
「ふ~ん、魔族って肉食なんだね。だから犬歯けんしきばみたいに大きくて鋭いんだ、
なんかかっこいいかも?」これを聞いたリリスは少し顔を赤くしてほこらしげに言います。

「うむ!我々鬼種族にとって牙はプライドそのものなのじゃ!められると悪い気はせぬ!」
すぐるはへぇ~と口を少し開け、うなづきます。

 間もなく食事が終わると、みんなは使った食器をキッチンのシンクに持っていき、
すぐるやシェリーがせっけんを付けたスポンジで洗っていきます。テーブルをふいてしばらくして落ち着いていると、
エルニスは黒い帯をめた白い道着をまとい、
ツンツンした水色の髪に黄色いひとみを持つ少年の姿になりました。
そこに茶色の帯を締めた同じ道着を着ているリリスもやってきました。

「では、行こうかの!」
「そうだね!」これにすぐるが首をかしげてたずねます。
「あれ?今日は学校休みだけど?それに二人ともその恰好かっこうは?」
「ああ、これかい?今日は道場の稽古けいこなんだ」
「え!?道場!?稽古日!?」すぐるは少しおどろいていると、リリスが言います。

「うむ!実践じっせん空拳くうけんの道場、
つまり、実践的じっせんてきな素手による武術の道場じゃ!」
これにすぐるはなるほどと言う顔でうなずきます。

「そうか、二人でその恰好で時々出かけると思ったら、道場に通っていたんだ」
「うむ!わらわはどうも魔力に関しては、はっきり言ってのぞみがうすいと言われたのじゃ。
じゃが、鬼種族としての腕っぷしや体力には自信があったから、そこをきたえようと思ったのじゃ!
すぐるも頑張がんばっておるようじゃから、妾も負けておれぬと思って、
道場の門をくぐったのじゃ!これから先の事もあるしの」
「そういうことさ、行ってくる!留守番お願いね」リリスとエルニスを見送ると、すぐるは思いました。

「じゃあ、ぼくたちも自分たちにできることをしようか」
「そうだな!」
「ええ、やりましょう」
「わたしもがんばりますよ」

 すぐるはまず店の外に出て、棒で立てる円い的をいくつもセットしていきます。
そして、杖を持って的から距離きょりを取り、魔法の弾丸を当てようとしました。
しかし、五発って、当たったのは二発だけです。

「・・・だめだ、もっとよく狙わないと・・・」そばにシェリーがやってきて、弓矢をかまえると、
おもむろに矢を放ち、一発目は左の的に、二発目は右の的に矢がさり、
そして、中央にあった的に三本の矢が刺さりました。

「へぇ・・・すごいなシェリー!全発命中だ!」シェリーは流れるような金髪のロングヘアーを軽く払います。
「ええ、まぁ、毎日やるようにしていましたから・・・!」
すぐるは再び的をセットし、同じように魔法の弾丸を当てるトレーニングをしました。
今度は五発中、四発当たりました。
「ふ~ん、前よりは当たるようになりましたわね」シェリーは感心します。
「ああ、これくらいはね」

 それからすぐるは、念力で重い箱を持ち上げて所定の場所にそっと下す訓練や、
魔力を高めるための瞑想めいそうなどをやり終えると、
剣を担いだボブが牧場から帰ってきました。
「あれ?ボブくん、今日は早いね・・・?」
「ああ、今日も牧場にいるレミオンに剣のトレーニングをしてもらおうと思ったが、
いなかったんだ。なんでも、急に故郷の国から呼ばれて急いで帰ったらしいぞ」
これにすぐるは首をかしげます。

「・・・レミオンの故郷・・・ナイトロード国でなにかあったのかな・・・?
なんか悪い予感がする・・・」そこに、店からキャンベルがやってきて言いました。
「すぐるさん、シェリーさん、すみませんが、わたしも自主トレーニングをするので、
店番のほうをお願いします」
「ああ、わかったよ」すぐるとシェリーは店の中に戻ると、キャンベルもすぐると同じ内容のトレーニングを、
ボブは木刀の素振りから、剣の基本動作などの訓練を始めました。

 店に入ると、すぐるとシェリーは依頼いらい表の確認や、
資料の整理と言った事務じむ作業さぎょうを始めました。
「へぇ~、便利屋の仕事って、ただ依頼をこなすだけじゃないんだ・・・!」
「結構大変ですわね」

 お昼が近くなると、エルニスとリリスも道場から帰ってきて、
エルニスは自室で道着を脱いで元のドラゴンの姿になりました。
「やっぱり元の姿のほうが楽だね・・・!」リリスも浴室に向かって道着を脱いで、シャワーで汗を流すと、
さっぱりした様子で体をふき、いつもの茶色のミニスカワンピースを着て脱衣所だついじょを出ました。
そして、みんなで食卓を囲んで昼食をとったのです。
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