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複数の視点(多視点)、文章のリズム
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○複数の視点(多視点)
視点が二つ以上ある小説などザラにありますが、皆さんは複数視点についてどうお考えでしょうか。
私は、理解が追いつくのはせいぜい二視点までで、それも三人称に限るかなと思います。
私の大好きな作家、大沢在昌さんの『シャドウゲーム』という小説は、優美と伊神というキャラクターの三人称二視点により構成されているのですが、「優美」と「伊神」という章が交互に設けられ、それぞれの視点が交互に現れて物語は進行します。
伊神は、優美を追う者として描かれているのですが、それが次第に逆転し、優美が伊神を追っていく展開になるという、ハラハラドキドキのサスペンスです。
一人称小説で、章ごとに視点が変わるのはどうでしょうか。一章で「私は~」、二章で「僕は~」、三章で「あたしは~」という感じ。ちょっと読みにくいかなとも思うのですが、叙述トリック込みであったり、作品によっては成功するかもしれません。それでも、難易度は高いと思われます。複数の視点を管理するのは骨が折れますし、一視点の方が読者も混乱せずに済む。もっとも、サイドエピソードとして書く分には、その限りではないでしょうが。
私が多視点小説の作家さんとして思いつくのは、宮部みゆきさんと成田良悟さんです。前者は『火車』や『模倣犯』、後者は『バッカーノ!』や『デュラララ!!』を書かれた人。私は成田さんの作風が好みで、よく真似をしようとしてよく失敗しました。
多視点は、五つも六つも、それ以上も視点が出てきて目まぐるしく変わったりする、つまり、キャラクターが必然的に多数登場しますので、やはり管理が難しくなります。キャラクターが多いと話が大きくなるし楽しいのはわかるのですが、書き手の独りよがりになってしまい、読者が置いてけぼりになる可能性もある。
多視点小説を書けるのは、それを自然にこなせる才能を持った人か、もしくは緻密なプロットを作れる人だけではないでしょうか。
○文章のリズム
私は、小説を書く者ならば、文章には気を配らなければならないと考えています。いかに読みやすいように書くか…これは、常に考え考え書き続ける必要があります。そこで大事になってくるのは、リズムです。
アリスのアームハンマーを華麗な宙返りで後ろに飛んで避けたアカネは、その場で一回転して優雅に一礼。余裕の表情で微笑んで見せる。
「わたしはここよ、アリス。象さんに蝶が踏めるかしら?」
「アリス、蝶、バラバラにする」
再びアリスの突撃――右ストレート――左ストレート――アカネは左に右に身を反らし、長く美しい脚を掲げて避け、二回宙返りの後にアリスを細く白い指で挑発した。――『バトルガール・コロシアム』(没作)
戦闘シーンです。できるだけアクションの流れを止めないよう、読点を必要最小限にしか打っていません。また同じ理由から「優雅に一礼」と”体言止め”を使ったりしています。そしてダッシュ記号です。これもアリスの右手、左手の動きの流れを殺さないために使用しています。
「あんたに勝ち目はない」
レジの男が足元からショットガンを拾い上げ、カウンターから出てくる。悠々とした口ぶりと足どりで。
ライカンの目には、トイレに繋がる通路の手前に置かれた、真っ赤な目印が命綱だった。
『パンッ、パンッ、パンッ!』
無言で三発撃った。助かるにはそれしかないと思った。幸い、三発とも消火器に命中し、
『ボンッ!!』
破裂した。肥えた男の体が真横に吹っ飛び、ガラスのドアを粉々に砕き割った。――『Route 365 男と少女と車』
同じく戦闘シーンで、『バトルガール・コロシアム』より後に書き、エタった(=続きが書けなくなった)ものですが、リズムを取るために変則的な文章になっています。「レジの男が~足どりで」では倒置法を用い、主人公のライカンが消火器を撃って敵を倒すところまで、スピーディに描写するため主語を省き、アクションや状況を読者にダイレクトに伝えるよう工夫しています。
文章のリズムを崩さず、かつ読者にわかりやすく伝えるよう書くことが大事なのです。
深田川衛門が真昼の江戸市中から川べりをのんびり逍遥していた時である。自分を呼び止める声に深田が振り返ると、一目で商人とわかるにやついた顔の男が手を揉みながら話しかけてきた。――『不殺の刃』(没作)
居酒屋の宴酣に、独りカウンターで酒を飲んでいる八津は、いかにもうだつが上がらない男で、同僚の誰もかれも傍には近寄らずに、座敷でどんちゃん騒ぎを繰り広げている。――『LIMITED 8』
戦闘シーンばかり取り上げましたが、これらのように日常シーンでもリズムは大事です。
リズムは文章の息継ぎで、読む時の息遣い、「読み継ぎ」と呼んでもいいかなと思います。「読みにくい文章」というのは、この息継ぎに失敗している文章ではないでしょうか。
ではどうすればリズム感覚を養えるのか、これはもう、「たくさん書いて、たくさん読む」しかないでしょうね。
視点が二つ以上ある小説などザラにありますが、皆さんは複数視点についてどうお考えでしょうか。
私は、理解が追いつくのはせいぜい二視点までで、それも三人称に限るかなと思います。
私の大好きな作家、大沢在昌さんの『シャドウゲーム』という小説は、優美と伊神というキャラクターの三人称二視点により構成されているのですが、「優美」と「伊神」という章が交互に設けられ、それぞれの視点が交互に現れて物語は進行します。
伊神は、優美を追う者として描かれているのですが、それが次第に逆転し、優美が伊神を追っていく展開になるという、ハラハラドキドキのサスペンスです。
一人称小説で、章ごとに視点が変わるのはどうでしょうか。一章で「私は~」、二章で「僕は~」、三章で「あたしは~」という感じ。ちょっと読みにくいかなとも思うのですが、叙述トリック込みであったり、作品によっては成功するかもしれません。それでも、難易度は高いと思われます。複数の視点を管理するのは骨が折れますし、一視点の方が読者も混乱せずに済む。もっとも、サイドエピソードとして書く分には、その限りではないでしょうが。
私が多視点小説の作家さんとして思いつくのは、宮部みゆきさんと成田良悟さんです。前者は『火車』や『模倣犯』、後者は『バッカーノ!』や『デュラララ!!』を書かれた人。私は成田さんの作風が好みで、よく真似をしようとしてよく失敗しました。
多視点は、五つも六つも、それ以上も視点が出てきて目まぐるしく変わったりする、つまり、キャラクターが必然的に多数登場しますので、やはり管理が難しくなります。キャラクターが多いと話が大きくなるし楽しいのはわかるのですが、書き手の独りよがりになってしまい、読者が置いてけぼりになる可能性もある。
多視点小説を書けるのは、それを自然にこなせる才能を持った人か、もしくは緻密なプロットを作れる人だけではないでしょうか。
○文章のリズム
私は、小説を書く者ならば、文章には気を配らなければならないと考えています。いかに読みやすいように書くか…これは、常に考え考え書き続ける必要があります。そこで大事になってくるのは、リズムです。
アリスのアームハンマーを華麗な宙返りで後ろに飛んで避けたアカネは、その場で一回転して優雅に一礼。余裕の表情で微笑んで見せる。
「わたしはここよ、アリス。象さんに蝶が踏めるかしら?」
「アリス、蝶、バラバラにする」
再びアリスの突撃――右ストレート――左ストレート――アカネは左に右に身を反らし、長く美しい脚を掲げて避け、二回宙返りの後にアリスを細く白い指で挑発した。――『バトルガール・コロシアム』(没作)
戦闘シーンです。できるだけアクションの流れを止めないよう、読点を必要最小限にしか打っていません。また同じ理由から「優雅に一礼」と”体言止め”を使ったりしています。そしてダッシュ記号です。これもアリスの右手、左手の動きの流れを殺さないために使用しています。
「あんたに勝ち目はない」
レジの男が足元からショットガンを拾い上げ、カウンターから出てくる。悠々とした口ぶりと足どりで。
ライカンの目には、トイレに繋がる通路の手前に置かれた、真っ赤な目印が命綱だった。
『パンッ、パンッ、パンッ!』
無言で三発撃った。助かるにはそれしかないと思った。幸い、三発とも消火器に命中し、
『ボンッ!!』
破裂した。肥えた男の体が真横に吹っ飛び、ガラスのドアを粉々に砕き割った。――『Route 365 男と少女と車』
同じく戦闘シーンで、『バトルガール・コロシアム』より後に書き、エタった(=続きが書けなくなった)ものですが、リズムを取るために変則的な文章になっています。「レジの男が~足どりで」では倒置法を用い、主人公のライカンが消火器を撃って敵を倒すところまで、スピーディに描写するため主語を省き、アクションや状況を読者にダイレクトに伝えるよう工夫しています。
文章のリズムを崩さず、かつ読者にわかりやすく伝えるよう書くことが大事なのです。
深田川衛門が真昼の江戸市中から川べりをのんびり逍遥していた時である。自分を呼び止める声に深田が振り返ると、一目で商人とわかるにやついた顔の男が手を揉みながら話しかけてきた。――『不殺の刃』(没作)
居酒屋の宴酣に、独りカウンターで酒を飲んでいる八津は、いかにもうだつが上がらない男で、同僚の誰もかれも傍には近寄らずに、座敷でどんちゃん騒ぎを繰り広げている。――『LIMITED 8』
戦闘シーンばかり取り上げましたが、これらのように日常シーンでもリズムは大事です。
リズムは文章の息継ぎで、読む時の息遣い、「読み継ぎ」と呼んでもいいかなと思います。「読みにくい文章」というのは、この息継ぎに失敗している文章ではないでしょうか。
ではどうすればリズム感覚を養えるのか、これはもう、「たくさん書いて、たくさん読む」しかないでしょうね。
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