最後はパー

堂場鬼院

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第7話 女の子

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 大学の教授がいった通り、二十四回目が最後だった。ホテルの個室にやってきた案内係が良樹にそう告げたのだ。
「お荷物をすべて持って部屋を出てください。お忘れ物のないように」
 感情のこもらない声で案内係はいった。

 二十四回目の会場はドーム球場で、満員の観客で埋まっていた。良樹が知らないだけだったが、この最終組のじゃんけん大会は観戦チケットが販売され、転売価格はペアチケットで四百万円以上していた。
「さあ、いよいよこのときがやってまいりました! 国民総じゃんけん法に基づくじゃんけん大会最終決戦! 勝てばギリギリ生き残り! 負ければ~~!?」
「「「「「死ーー!!!」」」」」
 不謹慎なコールアンドレスポンスが司会者と観客らとの間で交わされる。控え室の良樹は、さながらライブを控えたミュージシャンのようだった。

「お時間となりました」
 案内係に告げられると、良樹は椅子から立ち上がった。
 スマートフォンには電話が何回もかかってきたが、結局、一回も取らなかった。
 案内係に先導されて薄暗いトンネルを歩いている間、良樹はこれまでの短い人生に思いをはせていた。

「「「「「ワアアアアアアアアッッッ……!!!」」」」

 トンネルを抜けるとそこは別世界だった。球場を埋め尽くす観客たちの声援とやじが入り乱れ、スポットライトに照らし出されて良樹は自然と興奮を覚えていた。
「約一億二千万人の中の不運な彼の最後の相手は~~!?」
 司会者に紹介され現れたのは……女の子だった。
「な、何と! お相手の彼女は小学一年生です!!」
 球場じゅうがどよめき、地鳴りがするほどだった。
「「「負ーけーろ!! 負ーけーろ!!」」」
 急に負けろコールが鳴り響き、声の波が広がっていく。どうも良樹に対して向けられているようで、球場じゅうからの視線が痛い。
「可愛い女の子を生かせ!!」
「相手はまだ小一だぞ!!」
「男なんかいらないっ!!」
 勝手な声、乱暴な声が渦を巻き、一斉に良樹を攻め立てる。

 良樹は、自分の手を見つめた。
 ここで勝っても、果たして意味はあるのだろうか?
 だいたい、すでに二十三連敗しているのだ。悪運以外の何ものでもない。しかも、どうやら会場じゅうが自分の敵のようらしい。味方といえるのは……母さんと、あとは涼介くらいか。
 たった二人か。良樹は前を向いた。目の前の女の子はじっと良樹を見つめている。

 良樹は、天高くパーを突き上げた。

「俺、パーを出します!!」

 そう宣言すると、またしても会場じゅうがどよめいた。
「本当だろうな!?」
「嘘ついたら殺されるぞ!?」
「いいぞ! 女の子は平和のピースで勝利だ!」
 良樹は大歓声に応えて観客席を見回し、手のひらを振って見せていた。
「嘘じゃない! 本当だ! 必ずパーを出す! パーを出さなかったら死んでもいい! 俺は命をかけた! 命懸けのパーだ!」
「「良樹! 良樹!」」
 声が広がっていく。
「「「良樹!! 良樹!! 良樹!!」」」
「「「「「良樹!!! 良樹!!! 良樹!!! 良樹!!!」」」」」

「「じゃんけーんっ――」」
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