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23.情けない男たち
この日も私は王太子に呼ばれ、鍛錬に付き合わされていた。
私はしばらく妻と口を利けていない。姉上への感情を彼女に気づかれたのに驚いて、ろくに話もできずに喧嘩別れのようになってしまったのだ。
彼女はもうずっと夫婦の寝室に来ていない。
屋敷の皆にも姉上への気持ちを知られていたのだろうか。いや、ただ弟として慕っているだけだと思われていたはずだ。
なぜ彼女には分かったのだろうか。
私は彼女があの日寝室を出て行った時の怒った顔を見て、剣で突き刺されたかのような痛みを感じたのを思い出した。
だが、すぐに目の前に突き出される模擬刀に意識を戻して、それをはじき返す。
そうしながらも、彼女と交わした会話を思い出して、また気をそらしてしまう。
ミレニアが言っていたように、もしかしたら今日も妃殿下に見られているかも知れない。
少し気になったが、下手に周囲を確認して王太子に見咎められてもいけないので、そのことも頭の外に追いやった。
王太子が手を挙げて、終わりの合図をすると、近衛が水を持ってくる。王太子はどかりと床に座り込んでそれを飲むと、また手を振って彼らを下がらせる。
それはごく稀にしか見られない行動だ。秘密の話があるのだろう。
「改めて奥方に礼を言わねば。最近はメレディスと毎日一緒に話をするのだ。それに、子供にも会うようになった。日々の成長が面白い」
「それは、ようございました。妻には私から伝えましょう」
王太子は言いにくそうに何かもごもごとつぶやいたかと思うと、意外なことを言い出した。「妃から、もっとたくさん子供が欲しいと言われてしまった」と両手で口元を押さえて赤くなっている。
だが、それからすぐに「また苦痛を与えてしまうかも知れない」とその表情を曇らせる。
私はてっきり、すでに閨での夫婦関係も復活させたのかと思っていたが、誤解が解けて、楽しく会話ができるようになっただけだったらしい。
もう、ミレニアと妃殿下のお茶会から、数週間が経っている。
とはいえ、私もミレニアがあそこまでうるさくなければ、数か月や半年は彼女を放置したかもしれない。私はあの頃、それだけ忙しくはあった。
王太子は、その頃の私よりもはるかに多くの仕事や課題を抱えている。
少しでも力になれればと思い、私はある提案をした。
「よろしければ、本をお贈りいたしましようか?」
「本?」
あの本について、ミレニアが実家から持たされてきたと言う部分だけを「私も人にいただいたのですが」と言い換えて、閨事について非常に具体的に書かれているのだと説明する。
王太子はまた顔を赤くして、「頼む……」とつぶやいた。
彼は立ち上がると、表情をがらりと変えた。政について話す時の顔だ。
「そんなことをよりな。お前、気をつけろよ」
「何事でしょうか」
「父上がな……」
王太子は私の肩に肘をかけると、国王陛下が近いうちに退位するつもりだと宰相らに伝えたのだと声を低めて言った。
「定期的におっしゃいますね。私が結婚をせかされたのも、前回陛下がその話題をお出しになったからです」
「今回は本気なのではないかと、あちらこちらで騒いでいる人間がいるのさ。だが私もまだ若輩者だ。今回も本気ではいらっしゃらないと思うのだが」
私は考えを巡らせた。
王太子は陛下の六人いる子供の末っ子だ。待ち望まれた男児だったので、私と同年の二十歳だが、父親である国王陛下は五十代半ばである。
歴代の国王を見れば、息子に王位を譲っていてもおかしくはない年齢だ。
それに、私の父の死も大きかっただろう。父は四十代の半ばで死んだ。
国王からしてみれば、妃の弟であり幼い頃から知った仲であった、信頼し合っていた宰相がある日突然いなくなったのだ。
今宰相の席にいるのは、毒にも薬にもならない人物だ。
その分、王太子の仕事が増えているわけだが。
「なんにせよ、また騒がしくなるだろう」
「なるほど」
「私が王位に着いたらお前を国務大臣くらいには引き上げる。出来ることなら副宰相にしたいくらいだが、それはまだ難しいか」
私は現在、国務副大臣を務めている。年齢からしたら破格の地位だが、これは王太子の希望が反映された結果だ。
これ以上、位を引き上げられても苦労ばかりが増えそうだ。
「用心はしましょう」
私がそう言うと、彼は近衛たちに守られながら執務室へ戻って行った。
私は水を飲み干すと、近くに控えていた侍従にそれを渡す。護衛をしようと言う近衛に「必要ない」と片手を振り、私は自分の執務室へと歩き出した。
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