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32.楽しくないお茶会は、最高の舞台です!②
アデライン嬢も、ノルベル侯爵家の方々も、招待客も、こんな急展開は当然予想していなかっただろう。
周囲は大混乱におちいっている。
そして、私の演出はここまでで、後はクライドに任せることになっている。
そうしているうちに、案の定、ノルベル侯爵が駆けつけてきた。執事が呼びに行ったのだろう。
王太子夫妻がいるとは聞いていたようで、到着するなり彼らに礼をすると、蒼白な顔でクライドを見る。
「公爵閣下……これは一体……。い、いくらなんでも、なんの連絡もなく王太子殿下をお連れするとは……」
「そなたも先日、突然我が家を訪問したな? 私は社交に慣れない妻が心配でやってきただけだ。たまたま殿下と妃殿下にお会いしたので、お話しすると、妃殿下も皆様と交流を持ちたいと仰せでな」
「そ、それは光栄な……。しかし、せめて前触れを出すべきではありませんか!」
語気を強めるノルベル侯爵に、「それよりも、そなたは私に申し開きすべきことがあるのでは?」と、クライドの冷静な声が響いた。
そう。これは「断罪イベント」である!
クライドに任せていたら、王宮かどこかの一室でとっても地味に行われていたであろうそれを、私が演出と演技指導をして、少々派手にさせていただいた。
「断罪」なんて派手なら派手な方がいい。
クライドは侯爵がドラスゴー公爵やその派閥の貴族たちの中の何人かと接触していただろうと彼に言った。
「そ、それは先日申し上げた通り、こちらの派閥を強化するためで……」
侯爵が姿勢を正して答えた。しかし、まさにその時、他の貴族が三人、兵士に連れられて来た。
それを見た侯爵の顔色が変わる。
「随分と好きに動いていたらしいな。父上に知られずに済んだからと、私の代になってから手を広げた」
「な、何をおっしゃっているのやら、このノルベル……」
「そなたの言い分を聞く段階にはない。父上はご存じだった。だから、そなたらの動向はずっと見張っていた。父上がご存命の頃からずっとな」
「……そ、それは……。何かの誤解が……」
「他国からの禁制品の密輸入か。これは国家的な犯罪だぞ?」
そこでクライドは、ドラスゴー公爵から夫人と私を経由して渡された書類を取り出して、証拠を示した。
それはドラスゴー公爵側の派閥の中で彼らと一緒に不正に手を染めていた人々の情報だ。今頃あちら側でも断罪が行われているはずだ。
両家は、ほとんど誰も知らぬ間に、きっちり手を組んでいたらしい。
クライドとノルベル侯爵のやり取りを聞いていた、お茶会の出席者の夫人や令嬢方が騒ぎ始めた。
先ほど連れて来られた貴族もそれに加担していたのだと聞かされると、彼らの夫人や令嬢たちがへなへなと座り込む。
夫がそんな大きな罪を犯していたとなれば、家は取り潰されるかもしれない。彼女たちが身を寄せられる場所は精霊神殿くらいのものだろうか。
クライドの横に、出番がほとんどなかった王太子が並び立ち、彼の命令を受けた兵士たちがノルベル侯爵とその仲間たち、夫人と令嬢方を連れて行く。
不正に加担していなかったらしい、夫の姿が見えない女性たちはテーブルから遠ざけられ、部屋の隅に集められている。皆様、顔面が蒼白である。
こちらの方たちはどうするのだろうと、私はきょろきょろと周りを見た。
私に嫌味を言ってくださった方も中にはいるけれど、着飾った状態でずっと立ったままなのはつらいだろう。
少し可哀想なので、座らせるくらいはしてもいいのではないだろうか。
男性陣は忙しそうで、こちらを見ていない。でもメレディス様が気づいてくれた。
「どうなさったの? ミレニア」
「あの方たちはどうなるのでしょうか。馬車はまだ出せないでしょうけれど、せめて座るくらいは……」
「ミレニア。部屋の外にもかすかに聞こえてきていましたけど、あなたはずいぶんとひどいことを言われていたのではなくて? そんな方たちを気遣うの?」
「まあ、ほとんど真実でしたので。結婚前に嫌味は言われ慣れておりますし」
「……あなたと言う人は……」
なぜか怒り顔になったメレディス様に手を引かれて、私は彼女たちのもとに連れて行かれた。
彼女たちは、王太子妃殿下に深々と淑女の礼をしようとする。充分な場所がないので、肘やスカートがぶつかり合って、やや滑稽な状況になってしまっているけれど。
「あなた方。ミレニアは、ファルケン公爵夫人は私にとって大切な方なの。公爵と不仲だという噂を聞いて彼女をないがしろにしてもいいと思ったのでしょうけれど、それは私が許さないわ。今回は見逃します。でも次はないと思ってちょうだい。あなた方のお顔は忘れませんから」
私は驚いてしまった。前世ではいた友人も、今ではいない。
今の人生では友人なんて出来ないと思っていた。でも、ここに私のために怒ってくれる人がいる。
「参りましょう。ミレニア」
「は、はい。メレディス様」
クライドにはメレディス様と行くと言って、兵士たちに守られながら屋敷の中を外に向かって歩いていると、簡素な馬車に乗せられて行くアデライン嬢たちが遠目に見える。
私たちが立ち止まった時、私は彼女と目が合った気がした。でも、すぐに視線がそれた。
「ミレニア?」
「あ、いえ。彼女たちは精霊神殿から一生出られないのでしょうか」
私はまたしても失敗したかもしれないと思った。
楽しんで舞台を整えて派手にしてみたけれど、当主が断罪されれば、本人に罪はなくても、その家族の人生は変わる。
「彼女たちの今後を考えずに楽しみ過ぎたかと……」
気持ちが沈みかけていた私にメレディス様は首をかしげる。
「あら。あなたが関わらなくても、当主たちが集められて罪状を言い渡される状況は変わらなかったのではなくて? その場所が違ったとしても彼女たちの運命は同じだったと思うわ」
確かに、このお茶会を断罪の舞台にするために少し時期は早まったらしいけれど、もともと決まっていたことではある。
それも、まだクライドのお父様である前宰相が存命の頃からだ。
私は心を落ち着けて、「そうですね」と彼女に笑いかけた。思うことがないわけではないけれど、考えても仕方がない。
そんな私の手をとったメレディス様が可愛らしく微笑んだ。
「ミレニア。殿下や公爵は王宮に戻っても忙しくされるようですから、私たちはお茶会をいたしません?」
「喜んでご一緒させていただきます。メレディス様」
私は真剣な表情の殿方を尻目に王族仕様の豪華な馬車に乗り込んだのだった。
こうして、まさか自分が立ち会う日が来るとは思ってもいなかった「断罪イベント」は終了した。
途中から現実を感じてしまい、異世界小説っぽいと、はしゃぐことは出来なくなってしまったけれども。
王宮に向かう馬車の中でメレディス様が「ふふっ」と笑いだした。
「それにしても、あのファルケン公爵が取り乱されるなんて。お芝居とはいえ見ていて楽しかったわ」
「特訓いたしましたので!」
私は渋るクライドに演技の特訓をした。
いつもの彼でも悪くはないけれど、取り乱すほどの愛妻家なのだと、今回断罪されなかった方々に証人になっていただくためである。
私は今はもうクライドの妻の座を誰にも渡すつもりはないから。
(決して彼のいろいろな顔が見てみたいだとか、やましい気持ちがあったわけではないですから。本当です。本当ですよ? いや、だから、本当ですってば)
まあ、それがちょっと行き過ぎてしまって、不満をため込んだ彼にその後大変な目に合わされたけど、それはまた別のお話。
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