【完結】死に戻ったお飾り王妃は、愛を知らない成り上がり国王の最愛になる

針沢ハリー

文字の大きさ
17 / 64
お飾り王妃の新たな生活

17.新たな日常

しおりを挟む

 この日、マリアーナは図書館にいた。

 司書のルスコが取り掛かっている、表紙などが壊れてしまった本の修繕作業は技術がなくて手伝えない。
 そのため、道具を使いながらそれをするルスコの横で、積み上げられた本に破損がないかを調べている。

 無事だった本はワゴンに置き、後でまとめて元の書架に戻しに行く。
 もし破損が見つかれば、ルスコのそばに置く。彼はそれが増えるたびに天井を見上げてしばらくブツブツと独り言を言うが、おそらく館長の復帰を願っているのだろう。
 
 図書館の手伝いをしにくるのはこの日が二度目だった。以前一緒に来たマウリとブラントは我関せずといった様子で護衛だけをしていたけれど、この日は違った。
 今日はマウリの他に、下級貴族出身だというアークラが護衛として一緒に来ていて、マリアーナと同じ作業をしている。手つきが繊細で、本を大切に扱うのに好感が持てる。
 一方のマウリは先日と同じく馬鹿馬鹿しいと言いたげな表情でこちらを見ていた。

 ときおり司書のルスコと本についておしゃべりをするのも楽しい。そこにアークラが加わって互いにおすすめの本を教え合う。
 アークラの家は没落していたし、蔵書も値の付くものは売り払われてしまってはいたものの、そうではない簡易装丁の本や、誰かご先祖様が癖のある字で写本したものなどは数多く残されていたと言う。

「アークラ殿は本がお好きですか。ぜひ休憩時間には当館をご利用いただきたいですな」

「好きと言うより、金がなさすぎて本を読むしかすることがなかったんだよ。でも、そうだな。長いこと本を読んでいない。久しぶりに読むかな」

「ぜひ、そうなさってください! ついでに国王陛下には、ここの窮状をお伝えくださいよ。王妃様や陛下の側近も駆り出さないといけないくらいだとね!」

 アークラは快活に「それはそうだな」と言って笑った。
 マリアーナはあの頃がほんの少しだけ戻ってきた気がして、彼らの楽しそうな声を聞きながら、黙々と作業をこなしたのだった。


 今日の分の作業を終えて部屋に戻ると、マリアーナは便箋を手に取った。アルベルトへの手紙を書くためだ。

『図書館で手伝いをして、本を借りてきました』

 たったそれだけの文面だ。でも、ベランク語の勉強のためのものだから、これくらいがちょうどいいだろう。
 アルベルトは辞書も用意させていた。主にマリアーナが使っている書き物机の上にそれが置かれている。執務室にも同じ物を用意してあるのだと言う。

 彼がマリアーナが起きている時間に部屋にくれば一緒に発音の確認をする。
 先にマリアーナが休む時には枕元にこの手紙を置いておくと、翌朝には彼からの手紙が同じ場所に置かれている。

 マリアーナはその距離感を心地よく思うようになっていた。
 彼はマリアーナにとっては、けして怒らせてはいけない相手だ。肌を合わせていても、心は互いに明かさない。
 そのような関係の彼と一緒にいると、どうしても緊張して疲れてしまうから。

 マリアーナはペンを元に戻しながら思った。
 本当は妹弟きょうだいとの再会を急かしたかった。『いつ二人に会えますか』と書きかけたのは一度や二度ではない。
 彼が「会わせられるかもしれない」と言ってくれてから数日のうちには二人に会えるものと思っていたけれど、きっと手続きだとか、準備だとか、しなければならないことがあるのだろう。

 でも、彼が忘れている可能性もあるから、いつかは聞いてみないといけない。
 今は我慢の時だ。マリアーナは毎日、自分にそう言い聞かせている。


 マリアーナは、書き物机の引き出しの一つを開けた。壁側の一番下の引き出しだ。特に隠さなければいけない物ではないのに、そこを選んだのは、少し気恥ずかしかったからだ。

 そこには侍女に言って元の自分の部屋から持って来てもらった、お気に入りの宝石箱が入っている。
 当然、中の宝石は全て無くなっていたけれど、遠くの国からやって来たという、外国からの贈り物だったその箱はマリアーナの宝物だ。中の宝石よりもよっぽど大切だった。

 光沢のある分厚い貝殻から作られたという、角度を変えると虹色に光る表面の細工が美しい。中央には花が形作られている。

 母などは、もっと価値のある宝石で飾られた宝石箱を選べばいいのにと言ったけれど、マリアーナはこの細工が一番気に入ったのだ。
 それが手元に戻って来た日は本当に幸せな気分で、ずっとそれを見つめていた。

 マリアーナはその箱を開けた。今そこに入っているのは、アルベルトからの手紙だ。捨てるのもおかしいし、空の箱をそのままにしておくのも嫌で、そこにしまうことにした。
 
 一日に一枚だけ増えるそれを取り出す。マリアーナの部屋に置いている色や模様がある便箋と、おそらく執務室にあるのだろう白くて分厚い用紙が混ざり合っている。
 一枚ずつめくっていくと、初めてもらった『おはよう』といった挨拶から始まり、少しずつ単語が増えていく。

『暗い。晴れるといい』
『今日は出かける。帰らない』
『くしゃみをしていた。温かくした方がいい』

 マリアーナは、ふと笑みを漏らしながら無骨な筆跡をなぞった。
 彼はベランク語の日常会話はできる。やや乱暴な言葉を使うけれど、基本的には問題がない。書き言葉や単語の綴りを知らないだけだ。
 
 彼は手紙の中では優しい。普段は笑顔もほとんど見せない彼は、どんな表情でこれを書いたのだろうか。もちろん、これは勉強のためであって、思いついたことを真顔で書いているのだろうけど。

 マリアーナはそれらをまた箱にしまうと、しっかりと引き出しを閉めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。 でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。 結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。 健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。 父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。 白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里
恋愛
社交界デビューの日。 訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。 後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。 それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?

里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。 そんな時、夫は陰でこう言った。 「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」 立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。 リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。 男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。 *************************** 本編完結済み。番外編を不定期更新中。

処理中です...