【完結】死に戻ったお飾り王妃は、愛を知らない成り上がり国王の最愛になる

針沢ハリー

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あなたと一緒に夢をみる

50.陰謀の首謀者とその行く末

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 宴の後、少し時間をおいて、マウリがマリアーナとアルベルトを呼びに来た。

 ベランク王国の王弟に会う準備が整ったのだ。

 ベランクの王弟とは、現在この王宮の牢にいるユリウス王子の叔父にあたる人物である。

 この間の事情はあるにしろ、マリアーナは彼らには礼節にのっとって接するべきだと、アルベルトと話し合っていた。

 ところが、マリアーナたちが応接間に足を踏み入れた途端に、ベランク王国の王弟は「あれはユリウスが勝手に計画したことだ」と、挨拶もせずに言った。

 それに対応するアルベルトは冷静だった。自分の親世代の王弟を前にしても堂々とした態度だ。

「私が革命を起こすのを早めなければ、ここにいる私の妃は、ユリウス王子の妃になっていた。そして、妃は王位継承権を放棄するはずだった。だが、我らが得た情報では、その放棄の書類にわざと不備を残しておく手筈だったとか」

 アルベルトの言葉を聞いた王弟は、目を見開いたあとに、視線を泳がせる。
 それに気づいているはずのアルベルトは、それを表情には一切出さずに続けた。

「そして、いずれそれを持ち出して、第二王女と婚姻を結び王位についていた私を排除し、エイノール王国をベランク王国のものにする計画だったと言う者がいる。その全てを王子が、たった一人で実行できますかな?」

 咳払いをした王弟は、こちらから視線を少しだけずらしながら言った。

「どこからの情報か知らんが、そんな事実はない。貴殿が我が甥の婚約者を強奪したから、愛する者を取り返そうと動いてしまったのかもしれん。若気の至りだ。ユリウスは連れて帰らせてもらう」

 アルベルトは当然それを認めず、ベランクの王弟は「一度国に帰って国王陛下にご相談申し上げる」と言って、あっさりと帰って行った。


「もう帰ってしまわれるのね。もう少し交渉をなさるかと思いましたのに」

「俺が奴らが予想していたよりも内情に詳しかったから、警戒したんだろう」

 それらの情報は、ユリウスと連絡をとっていたブラントや、その仲介者だったアルベルトの部下である、ベランク人の元傭兵の間者たちが得たものだと彼は言う。その間者たちはベランクの軍隊に紛れ込んでいるらしい。

 マリアーナは、おそらくユリウスはこの国に長くは留め置かれないだろうと思った。ベランク王国を刺激するのは避けるに越したことはない。
 おそらく、領土の割譲でも条件に、そう遠くないうちにユリウスの引き渡しで決着がつくのだろう。

 実際のところ、マリアーナはもうユリウス王子の行く末に関心はなかった。

 それよりも、一つ気になることがある。

「革命の決行を、カンナス伯爵の指示から早めていらしたの……?」

「ああ、その話か。それは、そうしないと奴らを出し抜けなかったからな」

「……そうでなければ、私とあなたは敵同士になっていたのね……」

「そうだな。あんたがベランク王国のものになっていたら、真実のエイノールの王位継承権者として、祭り上げられていただろう」

「よかった……」

 マリアーナは心から言った。

 危うくエイノール王国自体がベランク王国に取り込まれてしまうところだった。確実に戦争が起きたはずだ。そして、多くの人々を苦しめることになっただろう。

 アルベルトは隣に腰掛けているマリアーナの手を取って、それを握りしめながら、ぽつりとつぶやいた。

「……ベランクに行った方が、俺みたいな傭兵上がりの男の妻にならずに済んだぞ」

 マリアーナは、彼の生まれも、生き方も、何も否定したくなかった。そうでなければ、今の彼はいなかっただろうから。
 そして、今の彼がいなければ、今の自分もいない。

 マリアーナは微笑んだ。アルベルトが今の彼でいてくれて、本当によかったとしか思えなかったから。

「あなたの妻でいるのに、何か問題があるのかしら?」

「……そうだな。何も問題はない」
 
 アルベルトも微笑み返してくれた。そうして、マリアーナは愛する夫と心から笑い合った。

 
 これは、誰にも言えないことだったけれど、マリアーナがそんなふうに、何の憂いもなく笑えるようになったのには理由があった。

 あの恐ろしい記憶の中で、マリアーナ殺しを命じた張本人だったカンナス伯爵と、彼の命令を実行した人たちが、あの事件の後どうなったのかをアルベルトに聞いたからだ。

 それは、アルベルトの計画通りに事が運んで、伯爵やユリウス王子を捕らえるのに成功した日から、数日後のことだった。
 マリアーナは彼の執務室の近くにある居間で彼に聞いた。アルベルトは、聞かなければ教えてくれない気がしたのだ。

「どうしても教えていただきたいの。今、カンナス伯爵はどうされているのかしら」

 アルベルトは真っ直ぐに窓の外を見ていた。彼そのままの立ち姿で、こちらを向かずに言った。

「墓の中だ。酒を飲みすぎていたからな。夢に酔って、自分の力も他人の力も見誤ってしまうくらいには」

「他の、伯爵の部下は……?」

「主人について行ったよ」

 そう言った彼は、とても穏やかな顔をしていた。

 マリアーナは、アルベルトがエイノール王国の本当の国王になったのだと、その顔を見て思った。


 そして、ずっと疑問だったことをアルベルトに聞くことにした。前の生でマリアーナはカンナス伯爵の部下に殺された。その理由が知りたかった。

「おかしいと思われるかもしれないけれど、もう一つお聞きしてもいいかしら」

「なんだ?」

「カンナス伯爵は、仮に、私が結婚当初あなたに従順でなかったら、私を殺したかしら」

 アルベルトは不思議そうに眉を寄せて考えている。なぜそんなことを聞くのかと思っているのだろう。

「……あの男は、女をいたぶるのに快感を覚えるような男だった。寝所にはべった女が口答えをしようものなら、殺すこともあった。生意気だと思われれば、ただでは済まない。特に女は」

 その言葉にマリアーナは、あの時の恐怖を思い出す。

 「マリアーナ? 顔が青いぞ」

 そう言って、アルベルトはマリアーナを抱きしめてくれる。「なぜそんな、起こらなかったことを気にする?」と聞かれるけれど、答えられない。

 でも、マリアーナが黙って彼に抱きつくと、その力強い腕が抱きしめ返してくれた。

 そして、その日から、マリアーナはあの記憶に怯えずに済むようになったのだった。

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