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第57話 合流

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エレノアの自爆で途轍もない爆発が起きた。
誰もがクリスは、爆発に巻き込まれ死んでしまったと思い込んだ。
だが上空でクリスを抱えるクレアが見える。


「おーい!クリス!
 あねご~~」


それを見たユーリは、飛び上がり喜んだ。
そしてカートや賢者も集まる…
地面に着地するまでの間、
お姫様抱っこされているクリスを見て、
ユーリとカートは、ニヤニヤ笑っている。


「み、見ないでくれ…
 恥ずかしい…」


「クリス、可愛い…」


全員が笑いながら迎える。
クレア、ユーリ、カート、賢者。
過去に遡り仲間達と出逢い、
共に試練を乗り越えてみせた…
クリスは嬉しくも誇りに思っていた。

そして、かなり遅れて増援が到着する。
本来であればもっと早くに到着していなければならない。
王国騎士団のゲイル達である。
カートが事前に王都に連絡をしており、
この日のために増援を申請していたのだ。


「お、遅いぞ…
 ゲイル…」


クレアはジト目でゲイルを見る。
慌てて言い訳をしているゲイル。
こんなゲイルは、クリスにとって新鮮に写ってしまう。


「おい、お前もこっちに来い」


すると、クレアがクリスの手を引っ張り、
ゲイルの前へ連れ出す。
時を遡って、初めて父と出逢う。


「あ、あの…」


「ゲイル、聞いて驚け!
 こいつはな…
 未来からやってきたクリスだ」


「は?」


ゲイルは、頭でもおかしいのか?と言いたげな様子でクレアを見ている。
全く信じていないため、賢者が助け舟を出した。


「久しぶりだな、ゲイル…」


「まさか、貴方は賢者様では…」


「あぁ…
 ちなみにクレアの言ってることは本当だ。
 未来の私が送り込んだからな…」


ゲイルは賢者の言葉を一瞬で信用した。
だが、そんな事をしてしまえばクレアの機嫌は悪くなる。
ゲイルは気付かぬうちにクレアを怒らせてしまうのだ。


「お前、私の言うことは全く信用せずに、
 師匠は信用するんだな…」


また焦り出すゲイル…
必死に言い訳をしている。
完全に尻に敷かれているのである…
そんなクレアとゲイルを見ていると、
クリスは何故か吹き出してしまう…


「ふふふ、あはははは」


俺はこの風景を見たかったのかもしれない…
少し目尻に涙が溜まってしまう。
それくらいに嬉しいし楽しくて仕方ない。

俺が笑っている姿を見て、二人とも我にかえり俺に話しかけてくる。


「本当に未来から来たクリスなんだよな?」


「はい、父上と母上の息子ですよ」


そしてクレアはゲイルに経緯を話した。
エレノアが現れユーリを連れ去ったこと。
奴隷になったエルフが襲ってきたこと。
そしてクリスがエレノアを倒し、
全てを救ってみせたこと。
一通り説明が終わった後に、
ゲイルは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてクリスを見ている。


「とりあえず、
 陛下に報告すべき案件のような気が…」


「まあ、ひとまず待ちな…
 クリスは未来に戻る必要がある。
 その前に足枷になるのはマズイ。
 王に報告すると確実に囲われるぞ」


クリスが未来に戻る…
このフレーズを聞いて、ユーリは一瞬暗い顔を見せた。


「まあ、王都に報告は必要だ。
 今回はクレアの手柄にしよう…
 それとサリーとエルフの件もある」


エレノアを倒し一件落着とは言え、
全てのエルフに襲われたのだ。
このままにしておく訳にはいかない。



「ひとまず王都でエルフを匿うしかない。
 このまま魔族に攫われるリスクもある。
 だが、一つ問題がある」


里のエルフ全員を連れて王都に行くためには、恐らく陸路では無理だろう。
船を使って海から運ぶしかない。
そのためには、クラーケン討伐が必須となる。


「まさか、クラーケン退治ですか」


「あぁ、そのまさかだよ…」


賢者は頭が痛いような素振りを見せる。
それほどにクラーケンは凶悪なのだ。


「あの…
 そのクラーケンの討伐は一体誰が…」


「そんなのクリスに決まっているだろう…」


「え?」


賢者がそのように伝えると、
クリスは青い顔をしている…


「何でも頑張ると言っただろう…
 クラーケンの魔力が欲しいのさ」


ユーリとデスワームを次元結界で封じるために魔法の筒から50年分の魔力を利用した。
その分を取り戻す必要がある。
賢者はその補填としてクラーケン討伐を考えた。


「まあ私も手伝ってやろう…
 光の剣で一瞬で塵にしてやるさ」


「私も!私も!」


クレアが手伝ってくれるなら百人力だろう。
更にユーリも手を挙げた。
二人がいれは戦力としては申し分ない。


「俺はちょっと用事が…」


カートは遠慮しようとするが、
クレアが逃がさない…


「カート、お前まさか…
 自分だけ逃げようだなんて、
 考えてないよな?」
 

「そ、そんな訳ないだろう…
 ゲ、ゲイルも一緒だ…」


「は?」


いきなり火の粉が降りかかってきて唖然とするゲイル。
ジト目でカートを睨むが、してやったりと言った顔をしている。



そして賢者は、気絶しているサリーを、
見つめながら声を発する。


「魔族の娘、サリーの件だが、
 エレノアが死んだ今、
 サリーにかかる奴隷術は消え去った」


さらに賢者から提案があった。
サリーはエルフ達を操っていたが、
すぐに解除してしまうのもリスクが高い。
王都に移送して王の判断のもと解除させる。
そして明後日には討伐部隊を編成して、
クラーケンに挑むことになったのだ。
 

「まあ、せっかくの魔宝祭なんだ…
 今日と明日は楽しもうじゃないか」


ユーリは、祭という言葉で思い出した。
ユーリにとっては、とても大事なのだ。


「カートさん、
 そういえば作戦成功したら、
 奢ってくれるって…」


「カート!
 お前は、何ていい奴なんだ!」


クレアは、ユーリに同調して自分もカートに奢らせる作戦に出た。
囮捜査の件はこれでチャラにしてやろうと考えたのだ。


「な、な、な」


なななおじさんと化したカート。
一体いくら金が消えるか見当もつかない。
断れない状況にカートは青い顔をしている。
そっとゲイルはカートの肩に手を置いた。
諦めろと言っているような仕草だ。


「わ、分かった!
 男に二言はない。
 奢ってやるよ」


「やった~~~
 もうお腹、ぺこぺこだったんだ~」


ユーリは、腹が減りすぎて幻覚を見ていた。
そろそろ隣のクリスが食べ物に見えそうな気がしていたのだ。


そして魔宝祭を見るためにたくさんの人が訪れている。
祭りは何事もなかったように再開した。


ユーリは目を輝かせながら屋台を楽しんだ。
隣にいるクレアも楽しそうにしている。
そして、カートにお金を払わせて次の屋台へ向かう。



「クリス…」


「何ですか?父上」


ゲイルは賢者から、クレアが里で命を落とすはずだったと聞いた。
それを聞いたゲイルは、改めてクリスと話をしたかったのだ。


「クレアは未来で亡くなっていたのか?」


「はい、俺が二歳の時です…」


ゲイルは一瞬、驚く表情を見せるが、
その後は普段は見せない優しい表情に変わる。


「クリス、ありがとう…
 クレアを救ってくれて…」


クリスは、父親に感謝をされる事は殆どなかったので驚いている。
ゲイルは、一番に駆けつけたかったが、
騎士団の中で怪我人が出てしまい到着が遅れてしまった。
守ってくれたクリスに心から感謝していた。


「父上、行きましょう!
 早くしないとユーリのやつが、
 屋台の食べ物を食べ尽くしますよ」

クリスは笑いながらゲイルを引き連れていく。


その後は食事処で、どんちゃん騒ぎだった。
特にユーリが遠慮なく注文を頼む。
カートは冷や汗をかきながら注文を変えようとすると、クレアに注意される。
それは楽しい祝勝会だった。




そして夜が明けて朝を迎えると、
赤い髪の少女が目を覚ました。
少女は、自分の意志で歩いたことがない。
困惑しながら部屋のドアを開けると、
正面に見える人物が声をかけた。


「サリー、起きたのか…」


それは賢者である。
サリーは生まれてから奴隷だったが、
エレノアが死んで奴隷紋は無くなった。
彼女の物語は、ここから始まるのだ…

そして今日から自分の意志で歩き出す。
だが、これから待ち受ける運命が壮絶なものだとは誰も知らない…
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