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第61話 融合

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気づけば雨が降り出し波が大きく揺れ出す。
目の前にはクラーケンが迫っていた。
深傷を負い怒り狂っている。


「アンタ達、畳み掛けるよ!」


賢者の掛け声と共に全員が構える…
クラーケンは、明らかに弱ってきている。
攻めるなら今がチャンスだ。


「使い魔召喚!」


クリスは、ユーリを隣に呼び出していく。
一人になったクレアは、これで身動きが取りやすくなっただろう。


「おかえり、ユーリ」


「召喚、べんり!」


Vサインを指で作り喜ぶユーリ。
召喚は、射程範囲でワープも出来るスキル。
使い方によっては、途轍もない可能性を秘めている。


そしてクリスは休憩スキルを使用する。
白い光が体を包み込んでいく。


新しいスキルを獲得しました。
融合魔法Lv.5



クリスは、新たに融合魔法を獲得した。
しかし、残念ながら水魔法に融合できる魔法を持っていない。
そんな中、またしても隣にいる魔族の少女が的確なアドバイスをしてしまう。



「うーん、せっかく…
 融合魔法を手に入れたのに…」


「はい?」


「今、俺のスキルを通して、
 融合魔法を手に入れたんだけど…」



サリーは、その言葉を聞き心の底から驚愕している。
融合魔法は、魔界でもエリートのみしか使えない究極魔法。
それこそ四天王を目指せる程だ。


「本当に使えるの?」


「水魔法しかないから、
 全く意味ないんだよね…」


「!!!!!」


サリーは、何かを思いついた顔をしている。
この状況でクリスが融合魔法を使う手段を閃いてしまったのだ。


「君の使い魔の魔法となら相性が良い…
 一緒に融合魔法を使える」


「何だって!!!」


クリスはあまりに驚き、
サリーの肩を掴んでしまう…


「い、痛い…」


「ご、ごめん…」


ジト目でクリスを見るサリー。
しかし、サリー自身も使い魔と一緒に繰り出す融合魔法に興味が出てしまった。


そして、クラーケンの方を見ると、
クレアとゲイル、カートで必死に応戦している…


「ユーリ、一緒に融合魔法を使おう…」


「ゆうごう?」


「俺の水魔法、ユーリの氷魔法、
 二人の魔法を重ね合わせるんだ」


恐らくユーリは、全ての意味を理解していないだろうが、何だか凄そうだと頭を縦に振った。


「私はクリスの使い魔…
 何でもする!」


ユーリは、頬を染めながら言い放つ。
面と向かって言われると照れてしまう…
甘い空気が流れ始めるとサリーが咳払いをする。


「よし、それでは、
 手を繋いで心を一つにする」


サリーの指示通り、
俺とユーリは手を繋ぐ。


「貴方は水の魔力、
 使い魔君は氷の魔力を、
 繋いでいる手に集めて!」


二人とも目を瞑り集中する。
そして魔力を手に送り込んでいくと、
少しずつ繋いでいる手に熱が篭っていく。


「クリスの手、温かい…」


すると二人の波長が重なり合い、
融合魔法の波動が現れる…
そしていち早く賢者は、二人の波動を察知した。


「こ、これは融合魔法だと?」


賢者は信じられない…
クリスがスキルを獲得しただけでなく、
ユーリと共に融合魔法を発動できることに
驚愕している。


「その魔法、どれくらいで完成する?」


「後三分…」


すると、その答えを聞いた賢者は、
攻撃を凌ぐ手段と時間を計算し判断した。


「クリスとユーリが大技をかます!
 それまで持ち堪えるよ!」


賢者の言葉を聞いた全員が気合を入れて行動に移る。
力不足を感じていたカートも二人の前に立ち、防御を担っている。


そしてクレアとゲイルは、夫婦の抜群のコンビネーションを見せる。
双方で気を引き合う事で絶妙な距離を保ち、余計な攻撃を受けないようにコントロールしている。
更に賢者はその二人に攻撃が入りそうになると部分的に結界魔法を発動して、
ダメージを軽減していた。


「これなら、いける…」


賢者は、このまま完成まで時間を稼ぐ自信があった…
しかしクラーケンも融合魔法の波動を感じ取ってしまう。
同じ使い手である分、この魔法の危険性を理解しているのだろう。
標的をクリス達に切り替えた。


「まずい!
 クリス、ユーリ!
 今すぐ逃げろ!!」


二人に迫るクラーケンの巨大な足。
このままでは、魔法の詠唱中断どころか二人とも踏み潰されてしまう。


その瞬間、赤い魔力がサリーに溢れる。
クラーケンに向けてスキルを発動した途端、その大きな身体を動かすことが出来なくなり
船の外に足が振り下ろされる。


「はぁ……はぁ」


サリーは、四天王を凌駕する魔力量だったが、それでも巨大な魔物を操るのは数秒が限界だった。
サリーの魔力は残りわずかだ。


「ユーリ、準備はいいね?」


「いつでもいける…」


二人の魔力が重なり合い、融合魔法の波動が溢れていく。
脳裏に、魔法の名前が自然と浮かび上がる。
水と氷の融合魔法、ダイヤモンドダスト。


「ユーリ、いくぞ!」


そして二人の心が一つになる。
クリスの融合魔法が発動して、今まで個人で放っていた魔法よりも更に威力が上がる。
ダイヤモンドのように輝く氷の結晶が、
水のように流れ敵を襲う。
その破壊力は一瞬でクラーケンの半身を凍り付かせてしまった。


「ここだ!」


クレアはまさにこの瞬間こそ、
筒の回収へ向かうべき時だと判断した。
上空から神速スキルを使い急降下する。
そして魔法の筒を手に持ち、光の剣へと移動した。


「良くやった!」


賢者は、クレアが回収に成功したため、
戦うか逃げるかの選択肢を考えていた、
クラーケンを瀕死の直前まで追い込んでいるが、このまま逃げ通せるかも分からない。
それであれば倒し切ってしまう事を選択した。


「クリス、覇王の一撃いけるか?」


「いけます!」


そして賢者から託されると、
再度ユーリと共に魔力を重ね合わせる。
二人の魔力が覇王の光へと変換され、
クリスは輝き溢れる覇王の一撃を放つ。
その光の塊がクラーケンの胴体を貫き、
海の支配者に致命的なダメージを与えた。



「やったのか?」


ついにクラーケンは、息絶えた。
それを確認し終えると、船に乗っている全ての者から歓声が聞こえてくる。
クリスもその声を聞き、徐々に海の支配者を倒したという実感が湧いてきた。

そしてクリスは、今回の戦いの一番の功労者に一言告げる。


「サリー、ありがとう…」


「え?」


今まで奴隷の身分だったため魔界でも感謝されたことは一度もない。
サリーは、まさか人間から感謝されるとは思いもしなかった。


「サリーがいなければ、
 生き残れなかった…」


「…………」


「だから、ありがとう」



クリスは、満面の笑顔で感謝を告げた。
その言葉から、嘘は微塵も感じ取れない。
サリーは、人間が嫌いだ。
だがクリスは他の人間とは違うかもしれない
少しだけ信じてみて良いのかもしれない。
サリーはこの日初めて人と歩む一歩を踏み出そうとしていた。


そして、気づけば大降りだった雨も嘘だったかのように止んでいる。
空は青く澄んだ色をしており、
太陽の光が二人を明るく照らしている。
それは、この先に続く未来を照らしているようだった。
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