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第122話 女神

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500年前のルミナス城、訓練施設でセシルと対峙している。
そしてその最中、未来でユーリがラグナに操られてしまったと知った。


「俺の大切な人を傷つけるなら、
 誰であろうが容赦しない!」


転生してから既に二人がいない未来が考えられなくなってしまった。
例えどんな場所でも、二人のためなら駆けつけてみせる。



「セシル、この一撃で終わらせる!」



光り輝く聖剣を握りしめ聖剣技を繰り出すと、虹色に輝く光の塊は真っ直ぐセシルに向かっていく。


衝突する寸前で、セシルは回避に全力を注いで攻撃を免れた。
その表情は初めて体感する死に驚いている。


「貴方は危険ね…
 ここで排除したいけど、まだ私には無理」


セシルは、攻撃を掠め肩を痛めたのか、
傷を抑えながら言葉を発した。


「未来に渡り、必ず手に入れてやるわ…
 回復魔法使いの心臓を…」


セシルの周囲に暗黒のオーラが溢れていく。
以前セシルと戦った中で、これほどの魔力を見た事がない。
その波動を感知した賢者が呟いた。


「お前、まさか魔女か!」


魔力が恐ろしいほどの密度になり、
セシルの周りに溢れていく。


「時の腕輪を使って未来に行くと、
 幼児になり一時的に魔力も失う
 でも、今は全力が出せる」


セシルは怪しく笑みを浮かべながら、
強力な暗黒魔法を放つ。


「デモンズランス」


上空に次元の歪みを発生させて、その中から魔界の槍が現れる。


「いかん、覇王を持つ者よ!
 全力で迎え撃て!」


強力な暗黒魔法の槍が上空に現れた。
魔力量から、そのまま降り注いでしまうと、被害は計り知れない。


「言ったでしょう、
 貴方と相手はしてあげないわ…」


セシルの視線の先には、ユリスがいる。
上空に呼び出した魔界の槍でユリスを狙おうとしていた。

今、ユリスを殺されてしまっては、
この世界に来た意味がない。
俺は全力で身体強化を施し駆け抜ける。


「私の手で死になさい…」


「……先生」


ユリスはここに来て、師であるイシスが本気で自分を殺そうと魔法を放ったのを受け入れられないでいた。


「ユリス、お前は…
 絶対に死なせない!」


俺は聖剣の一撃を全力を込めて槍に放った。
すると槍の軌道が逸れて、ユリスへ向かわずに訓練場の壁に激突した。
爆風が向かい風となり邪魔するが、
全速力でユリスに駆け寄り腕に抱えた。


「ふふふ、見事に守り切ったわね…
 お見事だわ…でも…」


セシルは邪悪な笑みを浮かべて一言告げる。
その笑みは勝ち誇ったような笑みだった。


「時間切れよ…
 またいつか会いましょう」


そう言い放った瞬間に、時の腕輪から次元の歪みが発生して瞬く間に消えてしまった。


まさかセシルが、あれだけ高度な暗黒魔法を使いこなせるとは思いもしない。
そして魔女だと未だに信じられないでいた。


「賢者…」


「まあ、辛気臭い顔はするな…
 お前のおかげで私達は助かったんだ…」


賢者は笑顔で俺を褒め称えてくれる。
その笑顔は見惚れてしまうほどに美しい。


「恩を返さなくちゃね、
 帰るんだろ?元の世界に…」


その言葉に俺は、無言で頷いた。
ユーリを救う為、今すぐに未来に帰らなければならない。
そんな俺のために、みんなは研究室まで見送りをしてくれた。



「アニキ…」


そうだ、ついに来てしまったのだ…
短い期間だったが、この世界との別れが…


目の前には元の世界に戻るための聖剣が、
壁に立てかけられている。


「ガルム、ユリス…
 俺は500年後のルミナスで生まれたんだ」


その言葉に全員が目を見開き驚いている。
未来から来たとは告げたが500年後とは言っていなかった。


「俺は、二人に出逢えて本当に良かった…」


「ア、アニキ」


ガルムの瞳には涙が溜まり今にも洪水になりそうだ。
最後までガルムらしいなと笑った。


「絶対、忘れないよ!
 2人と龍退治したことも、
 屋敷に泊まったのも良い思い出になった」


気付いたら俺の瞳にも涙が溢れていた。
ガルム達との日々は短くても楽しかったのだ。
まさかそれが伝説の初代剣聖と、いつもスキルでお世話になっている獣王かもしれない。
本当に夢のような話だった。


「ユリス、俺はユリスの子孫なんだ…
 クリス・レガード…
 貴方に憧れて剣聖を目指しているんだ」


ユリスもこれが、最後の瞬間だと思うと、
堪えきれなかったのか泣き出してしまった。


「ふふふ、私の子孫に助けられたなら、
 それはむしろ誇らしい事なのよね…」


レガードの魂は何代も引き継がれていた。
それは初代剣聖、ユリスが遺した意志だ。


「アニキ…」


俺はまさか記憶の世界で友人が出来るとは思わなかった。
これからもガルムとの楽しかった日々は忘れない。


「アニキ…リルムのことも…
 本当に、ありがとうございました!」


涙が入り混じる不安定な声は、
人の心に響いてしまう……
ガルムの瞳から涙は止まる事なく流れ続けている。


「ガルム…
 俺も、ガルムに出逢えて良かったよ」


そう言いながら俺たちは抱き合いながら、
お互いを認め合った……


そして、賢者へと身体を向ける。
俺はこれからユーリを救うために、
元の世界に戻らなければならない。


「準備は良いね?」


その言葉に俺が無言で頷くと、
賢者が剣の鞘を俺に手渡した。


「それは、聖剣を入れるための鞘だ…
 本当は陛下に渡すつもりだったが、
 また作り直すさ」


そしてその聖剣の鞘の説明を受けて、
俺はかけがえのない皆に最後の別れを告げて未来へと時空を超えた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



水の神殿、儀式の間では教皇ラグナ達を前にクレアの光の剣が儀式の間を埋め尽くした。
そして、それを見た賢者が笑みを浮かべながら言葉を発する。


「ラグナ、形勢逆転だな…
 ここからは私達がお前を倒す!」


クレアが腕を振り下ろすと同時に、
光の剣はラグナへ降り注ぐ。
余りに多い本数だったため光が強まり、
ラグナ達の様子が見えなくなる。


しかし、少しずつ見え始めると、賢者は驚きに目を見開いてしまう。


「ふははは、馬鹿め!
 祭壇にいれば魔法は吸収されるんだよ」


クレアが光の剣を呼び出した瞬間、
即座にラグナは祭壇の上に移動していた。
そしてユーリとサラもラグナの傍まで移動する。


「最後に足りなかった魔力が補充され、
 儀式が完成した!」


ラグナはそう声を発すると、祭壇を中心に光の柱が発生する。
その光は、祭壇に立つユーリを照らすように光り輝いていく。


「さぁ、今ここに女神を降ろす!」


賢者とクレアは、ラグナの陰謀に驚愕した。
賢者が接近しようと動くが、サラの防御壁が邪魔をしてしまう。


そして、ユーリの姿が徐々に変化する。
白を基調としたローブを身につけて、
髪の色が金色に変化し、神々しいオーラを身に纏う。




「海の女神、テティス…
 その力を手にして、私が世界の王となる」




女神教の教皇ラグナの真の目的は、
女神の力で世界を支配することだった。
そしてその女神の光に気付いたルミナスの戦士達が第二の儀式の間に集結する。
ここから、ユーリを救う戦いへと突き進む。
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