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第150話 未来(3)

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聖剣の神殿で黒騎士、シンと対峙している。
まさに死闘とも呼べる戦いの最中、
黒騎士の魔剣技を賢者達の防御壁によって防ぎ切った。


「ロゼ……お前の仕業か」


「セト、お前……魔剣を手にしたのか」


賢者は黒騎士が手にする魔剣を見て、
事態は深刻な状況を迎えていると理解した。


「だが、シンの転移魔法を封じた……
 セト一人を倒せば私達の勝ちなんだよ」


「確かにそうだが、
 やれるものならやってみろ」


そしてこの瞬間【何者か分からない誰か】から交信があった。
その人物の指示通りに行動した方が良いと、
本能が俺を突き動かす。


「お前、一体何をしているんだ?」


魔力を送ろうと勇者の背中に手を置くと、
俺の意外な行動に勇者は動揺した。


「分からない……
 だが、こうする事が正解な気がするんだ」


子供になってしまった俺は、魔力を搾り出す為に、生命力を燃やして勇者に魔力を送る。
そこまでする理由も分からず勇者は途方に暮れていた。


「お前、私はお前を殺すかもしれないんだぞ!」


「そんなことは知っている!
 でも、今やらないと絶対に後悔する!
 そう教えてくれているんだ!」


一方で黒騎士の魔剣技が放たれたが、
何とかその一撃は皆の防御壁で防ぎ切れた。
しかし、威力を増した黒騎士の魔剣技を繰り返し防ぐのは難しい。


そして呼びかけがあった声の指示に従い、
俺は、休憩スキルを使用する……


スキルがレベルアップしました。

休憩スキルLv.4 → Lv.5
※同一スキルを獲得した場合、
統合してレベルを上昇させる。


同一スキルを獲得して、
スキルがレベルアップしました。
聖剣技Lv.3→ Lv.7


休憩スキルによって、カノンの聖剣技を獲得した。
以前よりも更にマリア、ユーリとの魔力の繋がりを強く感じている。


「お前、その魔力は一体……」


俺から発せられる異常な魔力量に、
カノンは驚愕して目を見開いた。
それは自分を遥かに凌ぐ魔力量を感知しているからだろう。


「クリス、お前……」


賢者も俺の変化に気づいたようだ。
そして更に俺は声の主から受けていた最後の指示を賢者に伝える。
その指示を聞いた賢者は声をあげて驚いた。


「クリス!その声の正体は、まさか!」


恐らくその人物が誰なのか、
最初から分かっていたのかもしれない。
確かに顔も見たことはないが、
温かな視線を向けてくれる人物は、
俺達にとって大切な人であると確信していた。


「きっとその人は……」


だから信じているんだ。
いつも危機が訪れる度に救ってくれた、
初代国王を……


「アイツが……クリスに呼びかけていただと」


賢者は、まだ俺から目を離せないでいる。
それ程に亡くなった人物からの呼びかけは異常なのかもしれない。


「それならばクリス……
 私もお前に全てを託したい!」


そう言葉を発した賢者の瞳には、
強い意志が込められている。
今でも心に残る想い人を、
俺を通して見ているのかもしれない。


そして賢者は、その指示に従い、
カノンの背中に手を置いた。


「ロゼ?お前一体何を?」


「これなら、私にまだ残る契約者の力を、
 十分に使える!」


その瞬間、賢者の契約者の力がカノンに流れる。
更に力が送れると同時に賢者は言葉を発した。


「カノン!クリスに契約者の力を送れ!
 今のクリスはお前の聖剣技を獲得した!
 お前の契約者の力が届く筈だ」


「何故だ!なぜそんなことが分かる!」


カノンは、賢者の優しい瞳を見た瞬間に、
その理由に気付き始めた。


「まさか……そんなことがあるとでも言うのか」


「嘘かもしれないが、アイツの意志が、
 クリスの覇王に宿っているんだよ」


賢者の優しさに満ちた眼差しは、
かつて初代国王へ向けられたものだ。
カノンはその瞳を見た瞬間に悟ってしまう。
何故なら自分も同じ相手に、
同じ想いを抱き続けてきたからだ。


「私にその資格があるのか?
 私はお前達を殺そうとしたんだぞ!」


「カノン、私は見てみたいんだ……
 私達が出来なかった道を歩もうとする、
 あの子達の未来を……」


賢者の言葉を聞くと共に、
カノンはクリス達三人を見つめる。
その姿は過去、自分達が永遠の絆を誓い、
共に歩んできた姿と重ねて見えた。


「…………」



そして俺はマリアとユーリから流れてくる魔力を聖剣に込めていく。


「俺はお前達を認めない!」


生きている人、その一人一人に、
家族が、大切な人がいる筈だ……
それを道具のように切り捨て、
取り替える魔族を俺は許せない。


「素晴らしい魔力だ!
 次の一撃で勝負を決めよう」


黒騎士も右手に暗黒属性の魔力を集めて、
魔剣技に全てを懸ける。


そして俺と黒騎士は、全力の一撃をお互いに放つと激しく衝突した。
激しい魔力のぶつかり合いから起こる反動にお互い弾き飛ばされそうになる。


「お前は甘い!
 命を狙われた者を救うなど笑わせる!」


「だが、そうしなければ後悔する!
 俺は後悔なんて絶対にしない!
 救える力があるのなら全部救ってやる!」


俺がそう声を発すると、まるで背中を押される程、強い魔力が俺に届くのを感じた。
賢者とカノンの契約者の力が俺に届いているのだ。


「この力は……」


その瞬間、俺の聖剣技を更に強くして、
黒騎士の魔剣技を押し返していく。
そして、ついに俺達の聖剣技が黒騎士を飲み込んだ。


途轍もない爆発音が神殿に響き渡り、
確かに黒騎士を倒した手応えがある。


「やったのか……」


辺りを見渡すと黒騎士が倒れていた。
ようやく俺達は、勝つことが出来たのだ。
だが、その勝利の直後に何故かシンは、
隣で黒騎士を見下ろしている。


「シンよ……俺を転移できるか?」


「出来るけど、それはしないかな……」


そう言葉を発したシンは、
強引に魔剣を奪い黒騎士の胸に突き刺した。


「何をする……」


「最初からこうするつもりだったんだよ」


生命エネルギーを吸収して、
シンの姿は大人へ変わっていく。


「これでようやく念願の魔剣が手に入った」


黒髪の容姿をした日本人だが、
魔族の生命エネルギーを吸収した影響で、
その瞳は赤く輝いている。


「さようなら、セトさん」


そう言い放つシンを、驚きの目で見つめながら、黒騎士は光の粒子となり消えていった……


シンは黒騎士の魔剣だけでなく、
その生命エネルギーまでも奪い取った。
そして姿を変えて笑みを浮かべ続ける。
シンの目的が何なのか俺達には見当もつかないのであった……
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