わたしはいない

白川 朔

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このままずっと

28.

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 一昨日、白井さんに個室のある料理屋で一緒に食事をしようと誘われた。めぐりちゃんの話なら家でしてもいいだろうと提案したんだが、合わせたい人がいるからと言われてしまった。今日は仕事が入っていなかったので白井さんを迎えに行くことなく、店での待ち合わせだったが、なかなか来ない。早めに着いてしまったので長く待っているが、待ち合わせ時間を少し過ぎたくらいだ。
「菅野さん、遅くなって申し訳ない。」
入ってきたのはめぐりちゃんの捜索願の件でお世話になっている刑事の人だった。山口と名乗ったその人が今めぐりちゃんの捜査をしてくれている。続いて白井さんが入ってくるのかと入ってきたのは方を見ていると、その男はさっさと座ってしまった。
「あの、白井さんはまだでしょうか。」
「白井は来ないよ。俺が2人で会いたいって頼んだんだ。」
そう言ってから顔の前で手を組んでいた。僕は嫌な汗が滲んだ手でメニューを取って渡した。
「何か食べたいものはありますか。」
山口は受け取ったメニューをパラパラとめくり、すぐに閉じてしまった。
「俺こういうところの料理の名前あんまり分からないから、俺の分も頼んで貰えませんか。」
腰が低い男はここに入ってきてから、ずっとこちらの様子をうかがっていて気分のいいものではない。
 二回ノックの音が響いた。店員さんが山口さんの分のグラスを持ってきてくれた。
「ご注文は何にいたしましょうか。」
山口さんの好きなものなんて分からないのでコースメニューを2人分頼んでしまう。
「かしこまりました。」
軽く礼をして、個室から出て行ってしまった。
「すみませんね、注文を丸投げしてしまって。」
「いえ。」
話している内容はそうでもないにも関わらず、言い方に棘を感じてしまう。
「菅野さん、単刀直入にお聞きしますが、白井の娘さんは今どこにいると思いますか。」
引っかかる言い方は僕を疑っているからなのだろうか。鞄の中の手帳を取り出して今まで実際に自分で調べた内容を見返す。
「事件に巻き込まれているかもしれませんね。」
「どうしてそう思われるんですか。」
「それは、今まで誰からの連絡が入らない所をみると、金銭目的の誘拐の線はないでしょうし、今まで連絡ひとつないところからなんらかの事件を目撃したしまったとかだと考えています。」
書いてあることを過不足なく自分の意見のように伝える。
「なるほどね。」
またノックの音が響いた。料理が運ばれてきたのだ。喉が渇いていることに気づき机に置かれていた水を一気に飲み干した。
「ありがとうがざいます。」
ウェイトレスがいなくなると山口さんはすぐにこちらに目を向けた。
「この料理の名前はですね、」
「菅野さん、白井のこと恨んでますよね。少し調べてみました。」
てっきり料理に関して説明を求めているのかと思えば遮るように僕と白井さんの話を始めた。きっと、白井さんに直接聞いたのだろう。
「仕方のないことですよ。うちではよくある話ですよ。」
「そうですか。でも、あなたは和恵さんをとても慕っていたとお聞きしました。慕っていた叔母さんを白井に嫁がせた家も、死んでもなお平然と生きている白井もあなたは憎んでいるのではないですか。」
知ったような口をきいて、こちらの様子を伺っているようだ。
「憎んでなんかいません。今はそんな話よりもめぐりちゃんの安否を心配すべきではありませんか。」
「そうですね。」
恨んでいないといえば嘘になるが、僕はただめぐりちゃんに自分の生きたいようにさせてあげたいんだ。
「ですが、めぐりちゃんなんて面識はあるんですか。」
「はい。」
余計なことを言ってしまっただろうか。最低限のことだけ答えることに徹するとしよう。嘘をついても白井さんに聞かれて仕舞えばすぐばれるのだから。
「いつぐらいから。」
「私が中学生の頃に初めて会いました。」
「それなのに菅野さんは随分落ち着いていらっしゃる。知っている子供が行方不明になっていればもっと皆さん感情的になるもんですがね。」
この人は僕を疑っている。これは明らかな挑発だ。何も言えないままでいるとまたノックの音がする。
「デザートをお持ちしました。」
張り詰めていた気持ちが緩み、自分の手が汗ばんで、心拍数が上がっていることに気づいた。
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