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第一章 五里霧中の異世界転移
第三十八話 ファルザルク王国へ ②
しおりを挟む大使館の前庭で、杜若は青竜の姿で待っていた。風がざわついていると言っていたのに、外はほぼ無風状態だった。杜若の横に並ぶ、鉛色の竜がバーミラスなのだろう。香澄は、髪の色が、竜の姿の色なのだから間違いないと思った。
『風の精霊達が、ざわついている。魔霧の森では、いつ何が起きるか予測がつかない。アレクシリス、出発するなら早い方がいい』
「了解だ。リックス、バーミラス、メイラビア、準備が出来次第、出発する!」
『「「はっ!」」』
香澄は、メイラビアの返事が竜騎士団の団員でもないのに、さまになっていると思い苦笑した。メイラビアは、遊帆の美しき助手であって、騎士ではないのだから …… 。
香澄は、見送りに前庭へ出て来ている大使館の職員達の中に、藍白の姿を探したが見つからない。
そういえば、蘇芳と飯田亜希子に黄檗もいない。何かあったのだろうか?
「アレクシリスさん、蘇芳さん達はどうしているのですか? 飯田さんは、私達と一緒に出発しないのでしょうか?」
「ファルザルク王国と竜族は、同盟関係ではありますが、行動を共にしているわけではないのです。竜騎士の『契約竜』は、例外です。蘇芳達は、竜族独自の方法でファルザルク王国に入れますから、竜騎士団の寮で会えるでしょう」
「そうなのですか …… 」
「香澄は、私と一緒に杜若に騎乗してください」
香澄はアレクシリスに手を貸してもらい、杜若の背中の鞍に乗り込んだ。杜若の翼と背中の突起に足を掛けて、背中の鞍に座ると目線がとても高くなった。香澄は感覚で、だいたい二階の人と目が合いそうな高さだと思った。子猫の皓輝は香澄の左肩に乗っかり、しっかりとくっついている。
竜の騎乗用の鞍は、杜若の竜体の首の付け根の突起を利用してはめ込まれていた。馬の鞍とは形状がかなり違うが、二人で相乗りするのにはぎりぎりの大きさだった。乗り込んだ順番だからなのか、香澄が前に、後ろにアレクシリスが座る事になった。
アレクシリスは、ベルトのバックルに、固定ベルトを取り付けた。そして、香澄にも取り付けるようにと、固定ベルトを渡してきた。香澄は、国民的アニメ映画のワンシーンを思い出して、『落ち人』の影響なのかもと思い笑いそうになってしまった。あまり緊張感が無いのは『認識阻害の魔法』のせいだと、香澄は思う事にした。
アレクシリスは香澄の背後から腕を回して手綱を持っている。手綱の先も、鞍の先端部に固定されているのは、操縦が必要ないからだろう。
子猫の皓輝は、香澄の肩に張り付いたまま、長いしっぽでピシリ、ピシリと、アレクシリスの腕を叩いている。
香澄は、肩に乗った皓輝の鼻先を突いてたしなめた。皓輝は、アレクシリスと香澄がくっつき過ぎだと怒っているようだ。
鞍の構造上、どうしても密着してしまうのは仕方がない。手綱を握るアレクシリスの両腕に挟まれて安定感もあり、問題ないのだ。
「香澄、大丈夫ですか?」
「は、はい! よ、よろしくお願いします」
「出発!」
香澄は、アレクシリスに耳元でささやかれて、心臓が止まるかと思った。
皓輝の言うとおり、この距離感は問題がある。香澄は、アレクシリスの体温を背中に感じて、急に緊張してきた。さっきまで、平気だったのが嘘みたいに意識してしまう。香澄は、自分の感情がコントロール出来なくて動揺した。いったい、どうしてしまったのだろうか?!
これでは風景を愉しむどころではなくなってしまった。
杜若は、コウモリのような皮膜のある翼をゆったりと上下した。一回の羽ばたきだけで、信じられないほど上昇していったのだ。
香澄が藍白に拐われた時は、結界の球体の中だったので、何も感じなかったが、杜若が高度を上げていくのに、風の抵抗も浮遊感もないのが不思議だった。
大使館の職員達の手を振る姿が、どんどん小さくなっていく …… 。
大使館は、キプトの町の外れで、大きな円形の聖域のふちに建っているのがよく分かった。キプトの街並みがミニチュアの様に見えるあたりで上昇が止まった。遅れて、鉛色の竜のバーミラスも同じ高度に上がってきた。
杜若は方向を定めると、ゆっくりと滑る様に加速していく。かなりの速度で飛んでいるのだが、やはり、香澄は加速に伴う、様々な抵抗を感じなかった。
「香澄、びっくりしましたか? 初めて竜に乗った人は、あまりの快適さに大抵おどろきます。竜は、魔法で飛ぶので、激しく羽ばたく事もありません」
「すごいです! 揺れも不快感も全くありません! 」
『俺の結界魔法のおかげだ。他の竜体に乗るよりも快適なはずだ』
「とても快適です。杜若さんの結界は素晴らしいですね。ありがとうございます」
杜若は、少しだけ振り向いて目を細めた。香澄に褒められて、うれしかったようだ。
それにしても、魔霧の森は異様だと香澄は思った。
香澄は、魔霧の森にジャングルの様なイメージを持っていたのだが、針葉樹が多く、川縁や岩場などの空き地すら存在しない。ただ、森と霧があるだけだった。
もっとも、白い霧がほとんど覆い尽くしているので、隙間から垣間見る程度だった。
空はよく晴れているのに、日中も森の霧が消えないのなら、森の中には陽射しは届かないだろう。だったら、何故森が枯れないのか疑問に思った。魔素が霧として漂っているのも不思議だったし、広大な森林なのに、鳥や動物の鳴き声一つ聞こえてこない。香澄は、この世界は秘密や謎が多いと思った。
魔霧の森は、果てが何処なのかわからないくらい地平に広がっていた。
「アレクシリスさん。この魔霧の森は、どのくらいの広さがあるのですか?」
「この森は、聖域以外の場所は実態が明らかになっていないません。どれだけの広さがあるのか見当もつかないのです」
「そもそも、魔霧の森って、何なのですか?」
こうして、杜若とバーミラスが飛んでいる間も、風景はほとんど変わらなかった。アレクシリスは、答えに困っているようだ。
「人族は、魔霧の森の事を何一つしりません。いつからこの森があるのか、聖域とは何なのか、真実は何一つ解明されていないのです …… 竜族は、何か知ってるのでしょう。しかし、禁忌に触れるので、人族には話すことが出来ないそうです」
「竜族は、何か知っているのですね …… 」
香澄は、蘇芳と亜希子が『鍵』とは何か、人族の前では話せないと言っていたのを思い出した。禁忌に触れるので話せないという事なのだろうか? だったら、香澄に話せるのは何故だろう ……? まさか、香澄が『種族不明』だからなのか?!
ーーーー 突然、香澄の肩の皓輝が毛を逆立てた!
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