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第二章 疑雲猜霧のファルザルク王国
第五話 囁きの森の香澄 ②
しおりを挟む「私は『迷い人』だったのよ。真幌は、同じ高校の後輩だった。私は『死者の王』の力で、魔霧の森の魔素を使えるから、魔素を物質化して、この肉体を維持しているわ。キプトの町も、観光名所の町をイメージして、魔素を使ってヒマ潰しに作ったら、竜族が気に入って住んじゃったのよ」
あはははは。と、大きく口を開けて笑う亜希子は、幽霊や死者なんて言葉は全く似合わなかった。まるで、悪戯が成功した子供みたいな瞳で、笑いかけてくる美女には、魔女のイメージの欠片もないと香澄は思う。
「香澄は、魔霧の森の事を、どれだけ知っているの?」
「魔霧の森は、魔素の霧が漂う森だということしか知りません」
香澄は、晴れ渡る空の下に浮かんでいた。いや、空中の見えない床の上に立っていた。
「きゃっ! な、なに?!」
「安心して、香澄さん。これは、私が見せてる幻影よ」
「幻影?! すごく、リアルですね。でも、亜希子さん、いきなりはやめて下さい!」
「あははは。ごめんなさい」
香澄は、穏やかな風と暖かな日の光を感じている。幻影は、感覚まで再現するのだろうか?亜希子は、香澄と向かい合う様に立っていた。香澄が眼下を見渡すと、不思議な光景が広がっていた。
柱状の台地がひとつ、そびえ立っている。周りが、ほぼ垂直の崖でかなりの高地だった。
香澄の世界の南米に、こんな感じの世界遺産があったが、高さが倍近くあり、ほぼ六角柱に近い形をしている。同じような柱状の台地が、辺りにいくつもあるが、他の柱状の台地は、天辺が崩れていたり、浸食されて低い山々になっていた。
まるで、大地が地底深くまでひび割れて、そのまま風化したような形状だった。
「あの、一番高い柱が魔霧の森よ。中央の小高い山が私の管理する神社のある場所よ。霧が晴れていて、ぽっかり空いた円形の空間が、あなたがいた、ファルザルクの『管理小屋』や『キプトの町』に、他の国の『聖地』や『他の一族の里』ね。聖域は、魔霧の森を安定させる為の『魔術の杭』が埋っている場所なの」
黒々とした深い森の、木々の隙間を、白い霧は埋めつくすように流れていく。しかし、柱状の台地の崖下に、霧が流れ落ちたりはしなかった。見えない壁があるように、ありえない規模の異様な光景に、香澄は言葉が出なかった。
杜若の背に乗せられて、魔霧の森を離れる時、急上昇して雲の上を飛んだので、香澄は魔霧の森の全体像を、見ることが出来なかった。
町や、村のある、円形の聖地が、神社のあるという山を中心に、ぐるりと等間隔にきれいに配置されているようだ。つまり聖域は、人工的に作られた場所ということだろう。
「標高が約1500メートルで、広さは、次元が歪んでて、正確には分からない。森には、常に魔素の霧が漂っているから、魔霧の森と呼ばれているのよ。しかも、空からしか出入り出来ないから、竜族と竜騎士しか住めないわ。もちろん、他にも空を飛ぶ一族もいるけどね」
いつの間にか、香澄は膝に黒猫皓輝を乗せて、女子寮の部屋のソファに座っていた。
気がつくと珊瑚も戻って来ていて、香澄にサンドイッチと、熱いお茶を入れてくれていた。珊瑚は、香澄の前に湯気の立つカップを置きながら、亜希子を睨んだ。
「いくら亜希子さんでも、この『囁きの森』で力を使うのは遠慮していただきたいです!」
「ごめんなさい。百聞は一見に如かずというでしょう? 映像を混じえて話した方が、イメージし易いじゃないの」
香澄は、情報を整理するので、頭が一杯だった。
「香澄、大丈夫ですか? 昼食を食べましょう」
「 …… 珊瑚さん、ありがとうございます」
「いえ、どういたしまして。亜希子さん! 急に知識を与えられる身にも少しはなれば? 香澄ちゃんがかわいそうでしょう? あなたは、人間辞めてから、基本的に飲まず、食わず、休まず、眠らずで、いいでしょうが、普通はそんな風に一度にたくさん知識を詰め込まれたら、頭が爆発するわよ! 見ため若くても、いい歳なんだから、少しは我慢と遠慮を覚えなさい!」
「珊瑚! あんたもね ……!」
珊瑚に言いたい放題言われて、亜希子はちょっと涙目だった。
「亜希子さん、魔霧の森の霧が、嵐の様になったのはどうしてでしょうか? わたしは、あの魔霧の中にたくさんの人々の幽鬼のような姿を見ました。あれは、何ですか?」
香澄は、思い出して身震いした。黒猫皓輝が頭をグリグリと香澄に身体をすり寄せた。
「香澄さんは、あれが見えたの?」
「まるで、魔霧そのものが、苦しむ人々の塊の様で、地獄絵図のようでした。それより以前、わたしはこちらの世界に召喚された時に、確かに見た記憶があります。霧の中に飛び込んで、森を見た記憶が …… !そもそも、魔霧の森って、なんなのですか?」
亜希子は、にんまりと笑顔を浮かべた。
「まず、香澄さんはお昼ご飯を食べてね。話はその後でゆっくりしましょう」
「あら、亜希子さん。よく出来ました」
「珊瑚! あんた、名付け親に対してひどくない?」
「ほほほほ~!」
亜希子と珊瑚は、まるで姉妹のように仲が良さそうだった。
「もしかして、藍白や杜若の名前も亜希子さんが付けたのですか?」
「そうよ。ただ、日本の伝統色の色見本を見ながら、鱗の色で適当につけちゃったの。子竜は性別がまだわからなくてね。だから、珊瑚は当たりだけど、杜若は男なのにちょっと変だったかなとか …… 」
「そんなことないですよ。素敵です」
「藍白なんか、白竜に『白殺し』なんて別名がある名前をつけちゃったしねぇ~。後から知って、縁起が悪いから、改名させようかって悩んだわよ」
「『白殺し』、他には『瓶覗』とか? あと、霧にかすむ早朝の風景の色合いを、藍白と呼んだりするそうですね」
「ぷぷっ。かめのぞき、デバガメノゾキ …… 」
「そういえば、わたし、藍白にお風呂を覗かれました …… 」
「まあ、最低~! 藍白、最低! 香澄ちゃん、ごめんなさい! 今度、藍白シメときます!」
「珊瑚さん、大丈夫です。その場で藍白には桶を投げつけておきましたから!」
「お、桶を? あははは! 香澄さん、面白いね。あははは」
「香澄ちゃん。藍白は、やっぱりシメときますからね!」
珊瑚は、バキボキと指を鳴らした。竜族の女性は、どうやら武闘派の力持ちらしい。
「藍白は昔から精霊のお姉様方にモテたからね。女の子に振られたりした事、なかったかもしれないよ」
「えっ? 精霊さんも恋愛するのですか? 」
「精霊は、竜族と交わると魔力が増すからね」
「交わる?! その、精神的な意味じゃなく、肉体的な …… とか?」
「精霊の種族にもよるわよ。強い精霊は血肉を持っていて、生殖行為を好む者もいるの。強い魔力を混ぜて、新たな精霊の力を得たりするのよ」
香澄は、亜希子の話を意外だと思った。『隠れ家』で出会った精霊たちは、不思議な姿の者が多く、肉食系男子や女子のイメージなど無かったからだ。
「藍白は、節操無しです。来るもの拒まず、去る者追わず、本気になった相手なんかいないくせに、甘え上手で寂しがりやですから、天然のタラシです! 乙女の敵です!」
「 ………… 」
三人で、藍白の悪口で盛り上がってしまった。香澄は、残りのサンドイッチを口に入れて食事を終えた。
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