20 / 25
第四章 もう一度、流行りますか?
第四話 優しい世界は流行りますか?
しおりを挟むこ、今度は止めなければ!
私の侍女の失態だ。私の謝罪で父上様が許してくれるかわからない。だけど、目の前で誰かが処刑されるのは二度と見たくない! どう対処すれば正解なのか分からないが、行動あるのみだ!
「父上様……!」
「あら、まあ! 誰も怪我をしなかったかしら?」
私の決死の覚悟の一言は、母上様の言葉に遮られた。箱を落とした侍女は、土下座して謝っていた。母上様は、侍女をそっと立ち上がらせてささやいた。
「貴女が、先の皇帝陛下と奴隷侍女の間に生まれた娘ですね。母親の身分が低く後ろ盾を持たないとはいえ、皇室の身内に数えることが出来なくて申し訳なく思っています。せめて、我が娘付きの侍女として保護いたします。どうか、姪である娘に良く仕えてあげて下さい」
「…………はい!」
父上様の異母妹の侍女が、母上様に涙目で答えていた。
えっ! 母上様が優しい!
「窓を開けよ。香水とはいえ、匂いがキツすぎる……!」
父上様が、侍女を責めない……。
父上様の侍従が、パタパタと窓を開けていく。私は、呆然とそれを見ていた。
えっと、確か前々世では魔術で侍女の奴隷紋に触れて、魔法で処刑されたよね。
『第二皇女カナン五歳』の記憶が、魔法? 何それ? と、言っている。
あ、何だ。魔法の無い世界なの? だから、魔術で奴隷を縛ったり出来ないの?
私の決死の行動は、起こす前に空振りに終わった。前々世では、二人は薄っすらと微笑みさえ浮かべながら処刑を眺めていたのだ……。今世の両親が鬼畜じゃなくて本当に良かった。
私の誕生日祝いの挨拶は、この後も続けられた。そして、まだ子供の姿の懐かしい兄上様達と再会した。
第一皇子のフィオル兄上様は、前々世と今世もカナンと交流があるので、心から嬉しく思った。
第二皇子のタナトル兄上様とは、ほぼ初対面だったが、前々世では同母の兄妹だったこともあり。比較的よく遊んでもらった記憶がある。再会は、純粋に嬉しかった。私の笑顔を見るタナトル兄上様の表情が、困惑気味だったが、まあいいや。
第一皇女のイリス姉上様は、普通の姉の態度だった。父上様と良く似た容姿で、普通の美少女だ。いえ、私が普通じゃないくらいの美少女だからね。
ただ、一緒に挨拶に来たケバケバしい化粧と服装の側妃様の視線が怖かった。
それにしても、前々世でトラウマだった奴隷の処刑を、見ることなく五歳の誕生日が過ぎた。
まだ、私は前々世の悲惨な記憶を覚えている。結界の中で叔母だった奴隷侍女が、燃え尽きる様を、微笑みすら浮かべて見ていた人々の表情を……! 父上様と母親様が恐ろしかった。
ーーーーその後の事は、あまり思い出したくない。
『奴隷解放』を目標に、孤軍奮闘した前々世の生涯は、唐突に終わりを告げた。うん。虚しくなるから思い出すのはよそう。
ルビスに後で、さりげなく奴隷について聞いてみた。
昔から、奴隷は焼印を押して区別して使っていたらしい。しかし、徐々に奴隷制度は無くなりつつあるそうだ。
隣国の奴隷解放がきっかけとなり、世界中で奴隷解放運動が行われている。他国は平民が増えて、開拓地に元奴隷の村を作らせた結果、税収が増えて国力を強めていた。
しかし、元からかなりの奴隷を農業に従事させていた帝国は、逆に衰退していっているようだ。
私はまだ知らない。前々世よりも優しくなった両親や帝国の社会が、全く違った未来を呼び込もうとしている事を…………。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる