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プロローグ

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 屋上への扉を押し開くと、強風に煽られて髪が躍った。
 風が収まると、落下防止ネットに磔にされた女子生徒たちの姿が目に入った。
 制服は破られていたり、脱がされていたりとまちまちだ。
 下着を剥ぎ取られて、露わになった乳房や秘部が風に嬲られている。
 目の保養と言うには凄惨な、彼女らの股を汚す強姦の痕跡。
 俺の背後から、滴砂州(てきさす)と見此岸(みしがん)が飛び出した。
「待て、危険だ!」
 俺の制止を無視し、それぞれ自分の彼女の名前を叫び、フェンスに駆け寄ろうとする。
「無粋だね。男はお呼びじゃないんだよ」
 空を切る衝撃波が滴砂州と見此岸を吹き飛ばし、反対側のフェンスへと叩きつけた。
 上空から、背に負った白い翼を悠然と羽ばたかせながら降下してくる者があった。
 そいつは女子を抱きかかえていた。
 生まれたままの姿で上体を反らし、ぐったりとした女子を犯しながら屋上に着地する。
「外道野郎が」
「また新しいあだ名かい、峰祖田(みねそた)君。無力な悪魔風情に、何と呼ばれようがどうでもいいがね」
 射精し終えると、女子の腹を蹴飛ばして外道野郎は俺に向かい合った。
 ペニスは未だいきり立っており、顔に貼り付けたヘラヘラとした笑みもあいまって腹が立つ。
「すまなかったね、峰祖田君。てっきり、君が僕を貶めたのだと思っていた」
 口だけなのが見え見えの謝罪を嘯くと、外道野郎は天に手を掲げる。
 今にも振り出しそうな曇天。
 その隙間から一筋の光が、屋上へと降り注ぐ。
 突如として光の中に人影が生じる。
「お詫びの意味も込めて、ご覧に入れよう。僕が、真犯人に審判を下す様を!」
「何がお詫びだ! イオを返せ!」
 天の階(きざはし)を落ちて来て外道野郎の腕に収まった女が誰かわかったときには、俺は変身の構えを取っていた。
 首の前にかざした左手首にリングが出現する。
「おや? NTRでは脳が破壊されると思っているのかな?」
「クリファと契約しておいてナンだが、俺は天国だの地獄だのは信じちゃいない」
「それは、滑稽だ。現実逃避のクセは抜けないようだね」
 野郎、気絶しているのをいいことに、イオの顔を汚らわしい舌で舐めやがった!
「だが、特別だ。俺が悪魔となって、直々に、貴様だけのために地獄を造ろうと思う」
「へぇ。僕を喜ばせるためだけに、自分から最低の墓場に入る申し出か。恐れ入るね」
「くたばれ」
 足元に向けた親指の爪を、自分の首にあてがう。
 それを合図に首輪が浮き上がった。
「サインアップ、【キムラヌート】!」
 死ね、という相手への爆発的な害意が心を覆い尽くすままに、親指を右から左へスライドさせる。
〈コール10i! ナヘマー!!〉
 左手のリングと首輪が擦れたことで認証を完了、首輪から噴出する闇が俺の全身を覆い尽くす。
「仕方ない。飽くまで悪魔として僕の前に立つのなら……【ネツァク】!!」
 光が虚空より外道野郎の右手に結集し、三眼のフクロウとでも言うべき仮面を形成する。
「第七の奇跡、アドナイ・ツァバオト!!」
〈コール7! ハニエル!!〉
 外道野郎が仮面を装着した瞬間、彼奴の全身から爆発的な光が迸り、屋上をエメラルドグリーンに染め上げた。
 今からここが、ハルマゲドンだ──────
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