その溺愛、勘違いじゃないですか?

由友ひろ

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2話 姉妹

「ローズさんはおいくつ?」

 屋敷に戻る馬車の中で、目の前に座るローズに話しかけた。

「私のことはローズと。つい二日前に十八歳になりました」
「まあ、ローズは私と同じ年なのね。私は四月生まれだから、あなたより二カ月お姉さんだわ」

 ローズが同じ年だということは漫画の知識で知っていたけれど、まさかそこまで年が近いなんて。お父様の節操のなさには呆れてしまう。

 ローズは居心地が悪いのか、もじもじしながら、たまに胸元に手をやっていた。衣服の盛り上がりから、そこにペンダントがあるのは確かなようだ。

「さっきから胸元を触っているけれど、気になることでもあるのかしら?」
「いえ……癖なんです。このペンダント、母が……私を捨てた時に唯一持たせてくれたもので、宝石に似せた色ガラスが入っているものなんですけど、これを触っていると落ち着くので」

 色ガラス……せめて、宝石の一つでも渡しなさいよ。公爵家の支出は全てお母様の管理下にあるから、高い買い物はできなかったのかもしれないけれど、自分の子供を身篭った女性に、まがい物の贈り物って……。お父様のせこさに呆れながらも、もしこれが本物の宝石だったら、真っ先にローズの母親は売りに出していただろうし、万が一お父様に気持ちがあって売れなかったとしても、孤児院の院長はローズから取り上げていたに違いない。そう考えると、色ガラスのペンダントで良かったのかもしれないと、お父様のせこさに感謝が生まれた。

「まあ、本当にガラスなの?見せてくださる?」

 ローズはペンダントを外すと私に手渡した。ペンダントを陽の光にかざすと、その色ガラスの内側に模様が見えた。 
 この模様は……やっぱりうちの家紋だわ。漫画の通り、間違いなくローズは私の妹なのね。

「ローズ、きちんと元に戻すから、このガラスを外しても良いかしら?」
「ええ、もちろん」

 ローズは大切なペンダントでしょうに、なんの躊躇もなくうなずいてくれた。ペンダントトップの色ガラスを外すと、その台座には確かにブレンデル家の家紋があった。

「なんの模様でしょうか?」

 ペンダントトップを覗き込んだローズが、首を傾げながら言う。

「これは家紋ね。ブレンデル家の家紋だわ」
「ブレンデル……って、シャーロット様の!?」
「ええ、うちの家紋だわ。でもなんでこれを……」

 私はわざと悩むふりをして、ローズを盗み見た。ローズは両手を胸の前で組み、私の言葉をじっと待っているようだった。

「とりあえず、お父様に聞いてみるわ。これ、私が預かっても良いかしら?」
「もちろんです」
「お母様のお名前とかわかるかしら?」

 ローズは小さい時に、母親に捨てられた筈で、もしかしたら母親の名前を覚えていない可能性もあると思い聞いてみた。

「はい。それはわかります。お母さんの名前はロマネです。三歳まではお母さんと暮らしていたので。私、実はお母さんのお腹の中くらいからの記憶があるんです」
「え?本当に?赤ん坊の記憶も?」

 自分の出生を証すためのヒロインのチート能力かしら?

「はい。ただ、記憶があるだけで、まだ理解はできていなかったから、映像として覚えているだけだけど。大きなお屋敷の小さな部屋で生まれて、目が開いた時に赤毛の女性と目が合ったのは覚えてます。そう言えば、赤毛の女性は同じような赤毛の赤ん坊を抱いていましたね」

 それってお母様で、赤ん坊は私?確か、赤ん坊の瞳の色を見て、お父様の不貞に気付いたって、ヒロインの出生を説明する回に書いてあった気もする。

 ローズは「王国騎士は黄金の華を甘やかしたい」のヒロインで、私の異母妹であることは、疑いようのない事実だと、このペンダントからも、ローズの記憶からも証明されてしまった。
 ローズも私も幸せになる為にはどうしたらいいか……、私はペンダントを握り締めて考え込み、そうしている間に馬車はブレンデル公爵邸につき、私はローズを伴って屋敷に戻った。

 ★★★

「お父様、こちらをごらんください」
「なんだい、それは?」

 ローズのペンダントを手に、お父様の執務室に押しかけたのだけれど、お父様はそのペンダントを見ても、ただキョトンとしているだけだった。

「よーくごらんください!よーく」
「ロッティ、近過ぎて逆に見えないよ」
「あら、失礼いたしました」

 つい勢い付いて、お父様の目の前に差し出してしまいましたわ。私は一歩後ろに下がると、お父様によく見えるようにペンダントをかかげ、トップについている色ガラスを外してみせた。

「うん?うちの家紋だね。なんだい、そんな偽物の宝石を入れるんじゃなくて、本物を使えば良いのに」

 自分の父親ながら最低だわ。これを見てもピンとこないなんて。

「これは、私と同じ年の娘が持っていた物です」
「同じ年の娘?」
「はい。今日、孤児院の慰問で知り合いました。彼女の名前はローズ、母親の名前はロマネらしいです」
「ロマネ?ロマネ、ロマネ……、あっ!ロマネか!」

 思い出さなかったら、襟首を掴んで揺さぶってしまうところでした。

「思い出しましたか?」
「あぁ……。昔、うちに勤めていた侍女だな」

 なんとなくお父様と視線が合わないのは、やましいことを隠したいからだろう。娘に過去の浮気がバレるのは、気分の良いものではないだろうから。

「そうですね。お父様が手を出して、子供まで産ませた上に屋敷から追い出した侍女ですわね」

 すでにバレているとは思っていなかったのか、お父様はへにょりと眉を下げた。このペンダントを私が持っている時点で、バレていないと思う方がおかしいのに。

「言い方……。しかし、彼女を追い出したのは僕ではないよ。エレオノーラがそう命じたんだもの」

 情けない……。お母様の尻に敷かれて、それを従順に受け入れているお父様が情けなさ過ぎて、涙が出そうだわ。しかも、責任転嫁まで。お父様がロマネさんを孕ませなければ、彼女は追い出されることはなかっただろうに。
 私はキュッと唇を引き締めると、色ガラスをペンダントトップの台座に戻した。

「お父様、このペンダントの持ち主が、お父様の血を引く娘だとお認めになりますね」
「それを持っているのなら……そうなんだろうね」

 感動とかないのかしら?一時期は愛し合った方との子供が見つかったというのに。

「認知、してくださいますね!?」
「認知!?いや、それは無理だろう。ノーラが許してくれないよ。それに、その子の存在がバレたら、ノーラはきっとその子を屋敷には絶対に入れないさ」
「お父様はそれでいいのですか!ローズも私と同じお父様の娘ですよ」

 お父様は視線を彷徨わせ、プイと横を向いてしまう。

「作ろうと思ってできた訳じゃないし……」

 最低だね!血が繋がっているとも思いたくもない。怒りで涙がこみ上がってきたが、淑女たる者感情を露わにしてはならないというお母様の教育を思い出して、なんとか平静を保つ。

「そんなことを本人の前で言わないでくださいね」
「本人って?」
「ローズは孤児院育ちで、十八歳で孤児院を出なければなりません。ですから、私の付き添い侍女に雇い入れることにしました」
「え?それはまずいんじゃないの?第一、付き添い侍女ならば、おまえの外出時や夜会とかの時の付き添い役だよね。それは、子爵位かせめて男爵位くらいの令嬢でなくちゃ」
「爵位で言いましたら、お父様の娘ならば公爵令嬢でしょうに」

 私はお父様にギロリと目を向ける。

「いや……そうじゃなくて。なんでそんなにエレオノーラにそっくりなんだ。あのね、その子のことがノーラにバレたら、嫌な思いをするのはその子なんだよ。ロッティもノーラの苛烈さは知っているだろ」

 それは確かに。

「ええ。お父様が手を出した侍女を追い出すお母様を見てきましたから」
「はぁ……。僕だって、自分から言い寄っている訳じゃないんだよ。毎回せまられてつい……」
「つい!?」

 カッと目を見開いて、お父様を睨みつけてしまった。

 お父様の話によると、お母様が私を身籠もった時、あまりにつわりが酷くて実家に帰っていたらしい。その時に、お父様の寂しさを紛らわせてくれたのがロマネだったという。避妊薬を飲んだというロマネの言葉を鵜呑みにし、数回関係を持ったら、知らない間に妊娠しており、気が付いた時には堕胎ができないくらい子供が大きくなっていたとか。
 出産後帰ってきたお母様が目にしたのは、臨月くらいにお腹が大きくなったロマネだった。最初はお腹の赤ん坊の父親のことを言わなかったロマネだったが、赤ん坊が生まれ、その子供の目が開いた時、お母様は父親が誰かを察したらしい。
 激怒したお母様は、推薦状も出さずにロマネを解雇、ロマネと赤ん坊を追い出してすぐに、お父様も寝室から叩き出したそうだ。いまだに寝室は別で、お父様はお母様の私室に足を踏み入れることも許されていないとか。そのせいで、子供は私一人。後継も決定してしまったとか。正直、そんな事情で私に兄弟ができなかったなんて、聞きたくもなかった。
 お父様は、それからも一人寝の寂しさにちょいちょいやらかしていたようだけれど、本当にお母様に許して欲しかったら、おとなしくしているべきだったんじゃないかしら。

「お父様、お母様に本当に許して欲しいのなら、清廉潔白に過ごすべきです」
「はい、それは全くもってその通りだ。できる限り頑張りたいと思っているんだよ」

 優柔不断で流されやすいお父様だが、心底悪い人間ではないと信じたい。自分の父親がただの女好きとか、思いたくもないですもの。

「とにかく、ローズを私の付き添い侍女にして、彼女のことをできる限り支援したいと思っております。認知するかは追々。よろしいですね」
「ノーラにバレないかなぁ……、大丈夫かなぁ?」
「よろしいですね!」
「はい……」

 萎縮と項垂れるお父様にため息をつきつつ、私は執務室を出て、ローズの持っている私の部屋に足を向けた。

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