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19話 初めてのお泊まり…後半カティアス視点
朝日が顔を照らし、いつも以上にスッキリとした目覚めに私はパチッと目を覚ました。
身体は怠いような感じはあるけれど、妙な爽快感があるのは、しっかりと眠れた証拠ね。でも私、いつの間に部屋に……。
身体を起こして周りを確認したところで、私は真横を二度見してしまった。だって、私の真横に黒髪の頭が見えたんですもの。
何故!?どうして!?
自分の姿を確認すると、緩められたコルセットだけ着用していて、しかもノーパンなのは何で!?もしかして、最後の一線を越えてしまったの?
髪は解かれているし、化粧も拭き取られているようだ。顔を触って確認していると、横で動く気配がした。
「おはよう」
私は壊れた玩具のように、ギシギシと真横を向く。そこには、朝から麗しい顔のカティアス様がいて、私に向かって微笑んでいた。
「な……な……」
口もきけないくらい驚いている私に、カティアス様は起き上がってキスをしてきた。
「昨日は侍女長のお許しが出てね、泊まらせてもらったよ。化粧は侍女長が落としてくれて、ドレスは私が脱がせたよ。寝にくいかなと思って」
「それはありがとうござい……ではなくて、何故同じベッドで寝ているんですの!?」
「うーん、多分、侍女長は昨日の君の様子を見て、私達が一線を越えたと思ったんだろうね」
「えっ!?」
「あはは、さすがに馬車の中でそこまではしないよ。かなり際どいことはしたけど。で、色々あった後で眠ってしまった君を屋敷まで運んだら、事後だと勘違いをした侍女長に泊まって行けと言われたから、好意に甘えさせて貰ったというわけだ」
婚約者ですし、お互いに成人しているから、問題はないといえばないのですけれど、カティアス様が泊まったということは、屋敷の者達に私達はそういう関係になりましたよって宣言しているようで、恥ずかしくてしょうがない。
「勘違い……ということは、私達は最後までは致していないのですよね?」
「ぐっすり眠っているロッティに手は出せないよね」
カティアス様の言うことに嘘はないでしょうが……。
「それでは、なんで私は……パンティーを履いていないのでしょうか?」
「うーん、ぐっしょり濡れてしまったから?ああ、そうだ。脱がせた物を私のズボンのポケットに入れておいたのだが、昨日湯船を借りた時に、ズボンと一緒に回収されてしまったな」
な……なんてこと!?
カティアス様のズボンを洗濯する侍女は、カティアス様のズボンのポケットに私のパンティーが入っていることを目撃したということね。そんなの、カティアス様が私のパンティーを脱がせるようなことをしたと、屋敷中に宣言しているようなもなじゃない。カティアス様がお泊りした時点で、そう思われているんだろうけれど、さすがに直接的過ぎて恥ずかし過ぎる!
私がベッドに突っ伏して恥ずかしさに悶えていると、カティアス様はそんな私の頭を撫でた。
「とりあえず、お風呂に入っておいで。昨日は、一応拭き清めはしたけれど、そのまま寝てしまったからね」
拭き清めたって、どこを?
昨日の馬車の中での出来事が一気に頭に思い浮かび、気絶したくなった。あんなことやこんなこと……初めての快感に、最後は意識を飛ばしてしまったけれど、ばっちり記憶に残っています。あんなことをした後で拭き清めたと言えば、そりゃあそこやあそこですよね。
口に出すのも憚られる場所をカティアス様にさらし、挙句の果てに後始末まで……。
恥ずかしさに逃げ出したくなるが、コルセットにノーパン姿では、ベッドから下りることもできずに、布団に潜り込むしかない。
「ロッティ、お風呂は?」
「この姿では、ベッドからでられません」
「それもそうか。クローゼットを開けてもいいかい?君の部屋着を取ってこよう」
「お願いします」
ベッドから下りたカティアス様は、部屋のクローゼットの前に立った。
このクローゼットは部屋着や下着などの簡易な衣類が入っており、外出用のドレスなどは別に衣装部屋があった。
「下着も出すね」
うううっ、下着を見られるのは恥ずかしいけれど、履かないという選択肢はないので持って来てもらう。
カティアス様は、簡易なワンピースドレスと小さな私のパンティー、そして薄汚れた小さな木箱を出してきた。
「これでいいかな?」
「ありがとうございます」
私はワンピースを羽織ると、前ボタンを急いで留めた。そして、布団の中でパンティーを履く。
やっと落ち着いた。
「じゃあ、失礼してお風呂をいただいてきますね」
「ああ、ゆっくりしておいで。侍女には、君が起きたことを伝えておくから。きっと、私に気を使って部屋には入ってこないだろうからね。あ、お風呂に行く前に、この箱だけれど見覚えは?クローゼットに入っていたんだけど、君の物にしたらあまりに不自然で」
「そんな汚い箱、私の物ではないですわ」
「中を見ても?」
「ええ。何が入っているんです?」
カティアス様が箱を開けると、そこには手紙の束が入っていた。
「中身も君のではないね?」
「全く覚えがありません」
「誰のものかはわかるかい」
私は肩をすくめる。
「さあ?私が自分でクローゼットを開けることはまずないので、侍女の誰がそこに自分の私物を隠したのかもしれないですね。誰が隠したかわかれば、こっそり返してあげられるのだけれど」
侍女長にバレたら、隠した侍女がお咎めを受けてしまうだろう。
「じゃあ、この手紙を読んで、誰の物か確認しておこう」
「はい、お願いします」
浴室へ行こうとベッドから出たら、腕を引かれてキスをされた。
「ゆっくりしておいで」
カティアス様の甘い囁きに全身真っ赤になりがら、私は淑女らしくなく小走りで浴室へ向かった。
★★★カティアス視点
箱の中には、フランツォ院長からの手紙が入っていた。宛て名はシャーロットだが、シャーロットがこの手紙を目にしたのはさっきが初めてだとカティアスは確信していた。
騎士団副団長として、人を見る目はあるつもりだし、ほんの僅かな気持ちの揺れや嘘も見抜ける自信もあった。そのカティアスが、冷静にシャーロットを観察した結果、この手紙を自分の物ではないと言ったシャーロットに嘘はないと判断したのだ。
この手紙の存在を自分に知らせたローズが、シャーロットを嵌めようとして仕組んだんだろうが、そんな人物がシャーロットの身近にいるということに、カティアスは危機感を覚えていた。一番の問題は、シャーロットがローズを信頼しているということだ。
手紙を全て確認できた時、扉がノックされたので、カティアスは手紙を箱に戻して布団の中に隠して返事をした。
「どうぞ」
扉が開くと、朝食が乗ったトレーを押したローズが部屋に入ってきた。彼女はシャーロットの付き添い侍女だから、普通の侍女のような仕事はしないはずだが?
カティアスは、注意深くローズを観察した。
「朝食をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。そこに置いておいてくれ」
ローズはテーブルに朝食をセットすると、部屋から出て行くことなくチラチラとクローゼットを見た。
「もう出て行っていいよ。食事のサーブはいらない。二人でゆっくりしたいから」
「あの!カティアス様。……昨日お渡しした手紙の一部、お持ちですよね?」
「ああ、それが?」
「その手紙、そこのクローゼットの中の箱の中に入っていたんです。他にも沢山ありました。お嬢様が戻って来る前にご確認ください」
「それは……これのことかな?」
カティアスは布団の中から箱を取り出した。
「そうです!それです!まぁ、カティアス様もお嬢様を怪しくお思いになったんですね」
カティアスはローズの目の前で手紙に目を通してみせた。ローズも、不躾に手紙を覗き込み、わざとらしく驚いた素振りをしたり、音読してみたりする。
手紙には、カティアスにとりなして欲しいことから始まり、今回の件を見過ごしてもらえたらいくら支払うとか、特別に孤児を斡旋するとか、何かの要求についての返答みたいな内容が続いた。実際に金銭のやりとりがあったような内容の手紙もあった。
「最初は、人には言えない方と文通をしているのかと思ったんです。ほら、この婚約は家同士が決めたものですし、カティアス様のことは兄のような感じだと以前おっしゃっていましたから」
「兄……ね」
「でも、そんな不実なこと許されないと思って、カティアス様にお知らせしたんですけど、あの字、院長先生の字に似ていると、昨日気が付いたじゃないですか。手紙にあった裏林の大木のうろにも心当たりがありましたし」
いかにも、あの時に初めて気が付いたんだというローズは、明らかに嘘をついていた。カティアスは、ローズの視線の動きや、息の仕方、会話の速度などでそれを嗅ぎ取っていた。
「大木のうろなど、どこにでもあると思うが」
「そうなんですけど!でも、気になったので、昨日孤児院に帰って夜中にこっそり裏林に行ってみたんです」
「夜中に?」
「はい。そうしたら、これが」
ローズは、大きな封筒をトレーの下の段から取り出して見せた。
見ると、孤児を取り引きした契約書と、金銭を受け取った帳簿などが出てきた。しかし、院長と偽シャーロットがやり取りした手紙はなかった。
「手紙は……ないんだな」
「そうなんです。もしかしたら、処分するように改めてお嬢様が指示を出したのかもしれません」
「これは証拠になるので、こちらで預からせてもらうが」
ローズはニッコリと笑って頷いた。
「カティアス様のお役に立てて良かったです」
「この書類、確かに第三区孤児院の院長を捕まえる重要な手掛かりになりそうだ」
「ああ、良かった。カティアス様、お嬢様には重々お気をつけて。お気を許さないようにしてください」
ローズは内緒話をするようにカティアスに囁くと、満足気に部屋から出て行った。
カティアスは扉がしまったのを確認すると、窓の方へ歩いて行き、広い庭園を確認した。庭園では若い庭師が庭の手入れをしている。
窓を開け、ベランダから庭に出ると庭師が近づいて来て頭を下げた。
「手紙は手に入ったか?」
「はい。一通入手しました。他の手紙は、彼女が夜中に裏林にやって来て燃やしてしまいましたが」
「一通あればいい。それを筆跡鑑定に。それと、この書類をランバートに届けてくれ」
「承知しました」
「それと、今日は有給を申請すると伝えてくれ」
「承知しました」
彼は、公爵邸で庭師をしながら、シャーロットには極秘で彼女につけている護衛の一人で、昨日の第三区孤児院に向かわせた一人だった。ローズが手紙を処分する前に、手紙を回収することに成功し、さらにはローズが他の手紙を処分するまで見張っていたようだ。
カティアスは、封筒と小箱を庭師に手渡して部屋に戻った。部屋の中には、風呂上がりで頬を染めたシャーロットが鏡台の前に座り、軽く化粧をしていた。
「カティアス様、どちらに?」
「いや、ちょっとさっきの手紙の持ち主を知っていそうな庭師がいたから、彼に小箱を託してきたんだ」
「あら、その庭師と私の侍女の誰かが恋人同士ですの?別に、職場恋愛は禁止していないと思うのですけれど、恥ずかしいのかしら?」
「そうかもしれないな。ロッティ、朝食をとったら、今日はデートをしよう」
カティアスがシャーロットの後ろに立って、その頭にキスを落とした。
「お仕事では?」
「休みをとっていたのを忘れていたんだ。最近評判のショコラトリーがあるみたいだよね」
「まあ!ショコラティエ・サマンサですわね。今日は、私も用事は入っていなかったと思いますわ」
一瞬目を輝かせたシャーロットは、すぐにすました表情で頷く。デートは喜んでいるようだと、カティアスは鏡越しに確認してニッコリと微笑んだ。
身体は怠いような感じはあるけれど、妙な爽快感があるのは、しっかりと眠れた証拠ね。でも私、いつの間に部屋に……。
身体を起こして周りを確認したところで、私は真横を二度見してしまった。だって、私の真横に黒髪の頭が見えたんですもの。
何故!?どうして!?
自分の姿を確認すると、緩められたコルセットだけ着用していて、しかもノーパンなのは何で!?もしかして、最後の一線を越えてしまったの?
髪は解かれているし、化粧も拭き取られているようだ。顔を触って確認していると、横で動く気配がした。
「おはよう」
私は壊れた玩具のように、ギシギシと真横を向く。そこには、朝から麗しい顔のカティアス様がいて、私に向かって微笑んでいた。
「な……な……」
口もきけないくらい驚いている私に、カティアス様は起き上がってキスをしてきた。
「昨日は侍女長のお許しが出てね、泊まらせてもらったよ。化粧は侍女長が落としてくれて、ドレスは私が脱がせたよ。寝にくいかなと思って」
「それはありがとうござい……ではなくて、何故同じベッドで寝ているんですの!?」
「うーん、多分、侍女長は昨日の君の様子を見て、私達が一線を越えたと思ったんだろうね」
「えっ!?」
「あはは、さすがに馬車の中でそこまではしないよ。かなり際どいことはしたけど。で、色々あった後で眠ってしまった君を屋敷まで運んだら、事後だと勘違いをした侍女長に泊まって行けと言われたから、好意に甘えさせて貰ったというわけだ」
婚約者ですし、お互いに成人しているから、問題はないといえばないのですけれど、カティアス様が泊まったということは、屋敷の者達に私達はそういう関係になりましたよって宣言しているようで、恥ずかしくてしょうがない。
「勘違い……ということは、私達は最後までは致していないのですよね?」
「ぐっすり眠っているロッティに手は出せないよね」
カティアス様の言うことに嘘はないでしょうが……。
「それでは、なんで私は……パンティーを履いていないのでしょうか?」
「うーん、ぐっしょり濡れてしまったから?ああ、そうだ。脱がせた物を私のズボンのポケットに入れておいたのだが、昨日湯船を借りた時に、ズボンと一緒に回収されてしまったな」
な……なんてこと!?
カティアス様のズボンを洗濯する侍女は、カティアス様のズボンのポケットに私のパンティーが入っていることを目撃したということね。そんなの、カティアス様が私のパンティーを脱がせるようなことをしたと、屋敷中に宣言しているようなもなじゃない。カティアス様がお泊りした時点で、そう思われているんだろうけれど、さすがに直接的過ぎて恥ずかし過ぎる!
私がベッドに突っ伏して恥ずかしさに悶えていると、カティアス様はそんな私の頭を撫でた。
「とりあえず、お風呂に入っておいで。昨日は、一応拭き清めはしたけれど、そのまま寝てしまったからね」
拭き清めたって、どこを?
昨日の馬車の中での出来事が一気に頭に思い浮かび、気絶したくなった。あんなことやこんなこと……初めての快感に、最後は意識を飛ばしてしまったけれど、ばっちり記憶に残っています。あんなことをした後で拭き清めたと言えば、そりゃあそこやあそこですよね。
口に出すのも憚られる場所をカティアス様にさらし、挙句の果てに後始末まで……。
恥ずかしさに逃げ出したくなるが、コルセットにノーパン姿では、ベッドから下りることもできずに、布団に潜り込むしかない。
「ロッティ、お風呂は?」
「この姿では、ベッドからでられません」
「それもそうか。クローゼットを開けてもいいかい?君の部屋着を取ってこよう」
「お願いします」
ベッドから下りたカティアス様は、部屋のクローゼットの前に立った。
このクローゼットは部屋着や下着などの簡易な衣類が入っており、外出用のドレスなどは別に衣装部屋があった。
「下着も出すね」
うううっ、下着を見られるのは恥ずかしいけれど、履かないという選択肢はないので持って来てもらう。
カティアス様は、簡易なワンピースドレスと小さな私のパンティー、そして薄汚れた小さな木箱を出してきた。
「これでいいかな?」
「ありがとうございます」
私はワンピースを羽織ると、前ボタンを急いで留めた。そして、布団の中でパンティーを履く。
やっと落ち着いた。
「じゃあ、失礼してお風呂をいただいてきますね」
「ああ、ゆっくりしておいで。侍女には、君が起きたことを伝えておくから。きっと、私に気を使って部屋には入ってこないだろうからね。あ、お風呂に行く前に、この箱だけれど見覚えは?クローゼットに入っていたんだけど、君の物にしたらあまりに不自然で」
「そんな汚い箱、私の物ではないですわ」
「中を見ても?」
「ええ。何が入っているんです?」
カティアス様が箱を開けると、そこには手紙の束が入っていた。
「中身も君のではないね?」
「全く覚えがありません」
「誰のものかはわかるかい」
私は肩をすくめる。
「さあ?私が自分でクローゼットを開けることはまずないので、侍女の誰がそこに自分の私物を隠したのかもしれないですね。誰が隠したかわかれば、こっそり返してあげられるのだけれど」
侍女長にバレたら、隠した侍女がお咎めを受けてしまうだろう。
「じゃあ、この手紙を読んで、誰の物か確認しておこう」
「はい、お願いします」
浴室へ行こうとベッドから出たら、腕を引かれてキスをされた。
「ゆっくりしておいで」
カティアス様の甘い囁きに全身真っ赤になりがら、私は淑女らしくなく小走りで浴室へ向かった。
★★★カティアス視点
箱の中には、フランツォ院長からの手紙が入っていた。宛て名はシャーロットだが、シャーロットがこの手紙を目にしたのはさっきが初めてだとカティアスは確信していた。
騎士団副団長として、人を見る目はあるつもりだし、ほんの僅かな気持ちの揺れや嘘も見抜ける自信もあった。そのカティアスが、冷静にシャーロットを観察した結果、この手紙を自分の物ではないと言ったシャーロットに嘘はないと判断したのだ。
この手紙の存在を自分に知らせたローズが、シャーロットを嵌めようとして仕組んだんだろうが、そんな人物がシャーロットの身近にいるということに、カティアスは危機感を覚えていた。一番の問題は、シャーロットがローズを信頼しているということだ。
手紙を全て確認できた時、扉がノックされたので、カティアスは手紙を箱に戻して布団の中に隠して返事をした。
「どうぞ」
扉が開くと、朝食が乗ったトレーを押したローズが部屋に入ってきた。彼女はシャーロットの付き添い侍女だから、普通の侍女のような仕事はしないはずだが?
カティアスは、注意深くローズを観察した。
「朝食をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。そこに置いておいてくれ」
ローズはテーブルに朝食をセットすると、部屋から出て行くことなくチラチラとクローゼットを見た。
「もう出て行っていいよ。食事のサーブはいらない。二人でゆっくりしたいから」
「あの!カティアス様。……昨日お渡しした手紙の一部、お持ちですよね?」
「ああ、それが?」
「その手紙、そこのクローゼットの中の箱の中に入っていたんです。他にも沢山ありました。お嬢様が戻って来る前にご確認ください」
「それは……これのことかな?」
カティアスは布団の中から箱を取り出した。
「そうです!それです!まぁ、カティアス様もお嬢様を怪しくお思いになったんですね」
カティアスはローズの目の前で手紙に目を通してみせた。ローズも、不躾に手紙を覗き込み、わざとらしく驚いた素振りをしたり、音読してみたりする。
手紙には、カティアスにとりなして欲しいことから始まり、今回の件を見過ごしてもらえたらいくら支払うとか、特別に孤児を斡旋するとか、何かの要求についての返答みたいな内容が続いた。実際に金銭のやりとりがあったような内容の手紙もあった。
「最初は、人には言えない方と文通をしているのかと思ったんです。ほら、この婚約は家同士が決めたものですし、カティアス様のことは兄のような感じだと以前おっしゃっていましたから」
「兄……ね」
「でも、そんな不実なこと許されないと思って、カティアス様にお知らせしたんですけど、あの字、院長先生の字に似ていると、昨日気が付いたじゃないですか。手紙にあった裏林の大木のうろにも心当たりがありましたし」
いかにも、あの時に初めて気が付いたんだというローズは、明らかに嘘をついていた。カティアスは、ローズの視線の動きや、息の仕方、会話の速度などでそれを嗅ぎ取っていた。
「大木のうろなど、どこにでもあると思うが」
「そうなんですけど!でも、気になったので、昨日孤児院に帰って夜中にこっそり裏林に行ってみたんです」
「夜中に?」
「はい。そうしたら、これが」
ローズは、大きな封筒をトレーの下の段から取り出して見せた。
見ると、孤児を取り引きした契約書と、金銭を受け取った帳簿などが出てきた。しかし、院長と偽シャーロットがやり取りした手紙はなかった。
「手紙は……ないんだな」
「そうなんです。もしかしたら、処分するように改めてお嬢様が指示を出したのかもしれません」
「これは証拠になるので、こちらで預からせてもらうが」
ローズはニッコリと笑って頷いた。
「カティアス様のお役に立てて良かったです」
「この書類、確かに第三区孤児院の院長を捕まえる重要な手掛かりになりそうだ」
「ああ、良かった。カティアス様、お嬢様には重々お気をつけて。お気を許さないようにしてください」
ローズは内緒話をするようにカティアスに囁くと、満足気に部屋から出て行った。
カティアスは扉がしまったのを確認すると、窓の方へ歩いて行き、広い庭園を確認した。庭園では若い庭師が庭の手入れをしている。
窓を開け、ベランダから庭に出ると庭師が近づいて来て頭を下げた。
「手紙は手に入ったか?」
「はい。一通入手しました。他の手紙は、彼女が夜中に裏林にやって来て燃やしてしまいましたが」
「一通あればいい。それを筆跡鑑定に。それと、この書類をランバートに届けてくれ」
「承知しました」
「それと、今日は有給を申請すると伝えてくれ」
「承知しました」
彼は、公爵邸で庭師をしながら、シャーロットには極秘で彼女につけている護衛の一人で、昨日の第三区孤児院に向かわせた一人だった。ローズが手紙を処分する前に、手紙を回収することに成功し、さらにはローズが他の手紙を処分するまで見張っていたようだ。
カティアスは、封筒と小箱を庭師に手渡して部屋に戻った。部屋の中には、風呂上がりで頬を染めたシャーロットが鏡台の前に座り、軽く化粧をしていた。
「カティアス様、どちらに?」
「いや、ちょっとさっきの手紙の持ち主を知っていそうな庭師がいたから、彼に小箱を託してきたんだ」
「あら、その庭師と私の侍女の誰かが恋人同士ですの?別に、職場恋愛は禁止していないと思うのですけれど、恥ずかしいのかしら?」
「そうかもしれないな。ロッティ、朝食をとったら、今日はデートをしよう」
カティアスがシャーロットの後ろに立って、その頭にキスを落とした。
「お仕事では?」
「休みをとっていたのを忘れていたんだ。最近評判のショコラトリーがあるみたいだよね」
「まあ!ショコラティエ・サマンサですわね。今日は、私も用事は入っていなかったと思いますわ」
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