その溺愛、勘違いじゃないですか?

由友ひろ

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22話 カティアス様とのデート…後半ローズ視点

 ザワザワとざわめきが広がる中、カティアス様と二人、ショコラティエ・サマンサのテラス席に座った。

 すっごい注目を浴びている気がするわ。お店のお客様にも、街を歩いている人達にも。

「カティアス様、確かに天気も良いですし、テラス席は見晴らしも良いですが、……個室の方がゆっくり食べられるのではないかしら」

 カティアス様が先にお店に予約を入れておいてくれたらしく、待たずに入ることができたのは良かったのだが、お店の方が気を利かせて用意してくれていた個室を断り、カティアス様が指定したのはテラス席だった。

「個室だと、我慢がきかない気がしてさ」
「え?」

 何の我慢でしょうか……と聞こうとしたところで、正面からカティアス様に手を握られた。周りから「キャーッ!」という悲鳴が上がる。

「カティアス様、見られていますよ!」
「うん、見せつけているんだよ。フフフ、あわよくば君を手に入れよう目論んでいる奴等に、もう君は私の物だってね」

 いや、正確にはまだですよね?

 処女性を尊ぶ貴族は、婚姻確定じゃなければ身体を重ねることはない。貴族子女が付き添い侍女を雇うのは、男性と二人っきりになるつもりはないというアピールだ。付き添い侍女を付けずに男性といるということは、周りにこの人と結婚間近です、夫婦同然の関係ですよと言っているようなものだ。
 私がカティアス様と二人っきりでここにいる時点で、そういうこと(肉体関係あり)だって思われているんだろうに、さらにベタべタと見せつける意味がわからない。

 女子の視線が辛い……。

 カティアス様が見せつけたいと思っている人達と、実際に見せつけられて「キーッ!」となっている人達は、全く別な気がする。嫉妬、嫉み僻み、あらゆる負の感情が私に降り注いでいるように感じるのは、気のせいではないんじゃないかしら。
 カティアス様の隣にいるのが、ローズみたいな愛らしい娘だったら、きっとまた違うのかもしれないけれどね。

 そんなことを考えているうちに、目の前のテーブルに溢れるばかりのチョコレート菓子が並べられた。

「ロッティ、あーん」

 カティアス様がチョコレートを一つ手に取り、私の口元に持ってきた。

「……!」
「ほら、あーん」

 さっきまで騒がしかったお店が静まり返り、道を歩いていた人(主に全世代の女性)も立ち止まってカティアス様に注目した。中には自分が口を開けて、エアあーんを妄想している女子までいる。
 昔は、あーんをしてもらったこともある。でもそれは、周りに誰もいない状況であったし、二人っきりになっても、誰も何も言わない本当に子供の時のことだ。こんな衆目の前で、淑女としてあるまじき行為なんか……。

 期待に満ちたカティアス様の視線にはあらがえませんでした。
 私はふるふると震えながら小さく口を開き、カティアス様のお手からチョコレートをいただいてしまいましたよ!

「もう一つどうぞ」

 結局、私は自分の手を動かすことなくお菓子をいただき、チョコレートよりも甘い雰囲気に、チョコレートボンボンを食べたわけでもないのに、フラフラになってしまった。

 そういえば思い出しましたけど、オマケ漫画にヒロインとヒーローのデートの様子……みたいなのもありましたね。ひたすらにヒロインを甘やかしていたような……。あんなふうに、イケメンに尽くされてみたい!なんて、あの時の私は思っていましたけれど、実際に甘々な態度でこられると、私の心臓がバクバク言い過ぎて、もちそうにないかもしれない。ついでに羞恥心で精神面がゴリゴリ削られて、疲労感も半端ない。私の性格的に、人の目を気にせずにイチャイチャするのは難易度が高過ぎたようだ。

「ご馳走様でございました……」
「うん、美味しかったね」

 ま……眩しいです、その笑顔。

 カティアス様の笑顔に、今まで時間が止まっていたんじゃないかというくらい静まり返っていた周囲に音が戻ってくる。それと同時に、テラスに二人の騎士が駆け込んできた。

「サマディ副団長、ご報告があります!」

 カティアス様の笑顔がスッと消え、一瞬にして騎士団副団長の厳しい顔つきになる。それはそれでかっこよく、見惚れてしまうのはしょうがないだろう。

「なんだ」
「実は……」

 騎士の一人がカティアス様に耳打ちし、カティアス様の顔が険しく曇った。

「ロッティ、申し訳ないけれど、騎士団に行かないといけなくなった」
「ええ、お仕事を優先するべきよ。私は一人でも大丈夫ですから、どうぞいらっしゃって」
「すまない。この埋め合わせは必ず」

 カティアス様は立ち上がると、身を屈めて私の頬にキスを落とした。

「「「きゃー!」」」

 女性達の奇声が響き渡る中、カティアス様は颯爽と店を出て行った。
 何か事件でも起こったんだろう、大変そうだなと、この時の私は他人事のように思っていた。

 カティアス様が騎士団詰め所に行ってしまい、私は誰の注目を浴びることもなくなり、ホッと一息ついて紅茶を一口飲んだ。
 いや、一人だけ私の側に残った騎士が私を見ていた。彼はカティアスに私を公爵邸まで送るようにと言われ、私の横に控えていたのだけれど、……なんでかしら?私を見る目が冷ややかな感じがするわ。茶色の巻き毛に、ソバカスが特徴的な若い騎士で、今まで会ったことも話したこともなかったと思うのだけれど。

「余計なお仕事を増やしてごめんなさいね。すぐに帰るから」
「いえ、別に」

 そっけない口調に首をひねる。

「あの……もしかして、どこかでお会いしたことがあるかしら?」
「ありませんが」
「そう……ですか。それは失礼しました」

 なんとなく気まずい雰囲気が流れ、私は慌てて立ち上がった。

「帰ります。馬車を待たせてありますから、付き添いは馬車まででけっこうですよ」
「いえ、お屋敷まで送ります。副団長命令なので」

 命令じゃなければごめんだという態度に思えるのは気のせいだろうか?
 騎士は私の数歩後を歩いて店を出、馬車も御者台に乗って、私とは必要最小限のこと以外一言も喋らなかった。

 屋敷につくと、お礼を言う私に目礼をしただけで、騎士は屋敷に入ることなく踵を返した。

 ★★★ローズ視線

「マルコス?」

 誰にも見つからずに、フランツォ院長をブレンデル公爵邸の地下貯蔵庫に匿ったローズは、貯蔵庫の扉を閉めて振り返ったところで、屋敷の角を曲がってきたマルコスと目が合った。

「ローズ!」

 マルコスは、ソバカスだらけの顔をほころばせて駆け寄ってきた。

「あんた、なんでこんなとこにいるのよ。今日は会う約束してないわよね」

 マルコスは、シャーロットに付き添って騎士詰め所に行った時に知り合った騎士で、彼とは男女の関係になりつつ、騎士団の情報、特にフランツォ院長関係の情報を流してもらっていた。そのついでに、お嬢様が自分にどんなに意地悪で酷い仕打ちをするか(100%妄想)を涙ながらに話し、マルコスの同情をひきつつ、シャーロットの悪い噂が流れることを期待していた。

「ああ。実は副団長に頼まれて、公爵令嬢を屋敷まで送ってきたんだ。ローズに会えるんじゃないかって、ちょっといつもの場所に来てみた」
「もう!誰かに見られたら大変じゃない」

 ローズは、マルコスをいつも逢い引きしている裏の小屋まで引っ張って行く。ここは侍女達が使う逢い引き小屋で、木の札がかかっていない時は未使用、かかっている時は使用中となっていた。
 皆、仕事中の時間帯だから、誰も小屋を使用していなかった為、ローズは木の札をかけて小屋に入った。入った途端、マルコスに抱き寄せられるが、ローズはおざなりにキスに答えてから、マルコスを引き剥がした。

「今はそんなことしている時間はないの」
「だったらすぐにすませるから」
「嫌よ、止めて。それに、今日は女の子の日だから無理よ」

 すぐにでもやりたがるマルコスをいなしながら、ローズは適当な嘘をつく。

「それにしても、カティアス様はお嬢様とお出かけなさったのに、なんであんたがお嬢様を送って来たわけ?」
「ああ、そうだ!実は、第三区孤児院院長が行方不明になったんだ」
「ええっ!?」

 ローズはわざとらしく驚いてみせる。半分は、フランツォ院長がいないことがもうバレたんだという驚きもあったが、優秀なカティアスの先手を打てたという誇らしさを隠すためでもあった。

「心配だよな」

 ローズは眉毛を下げて、困ったような寂しそうな表情を作ってみせる。

「騎士団的には、院長先生がクロだって調べがついているんだよね。だから逃げたのかな」
「そうだな。残念だけど」
「そっか……。でも、誰が院長先生に情報を漏らしたんだろう」
「え?」

 ローズは、唇に手を当てて首を傾げてマルコスを見上げる。この角度が一番自分を可愛く見せてくれることを、ローズは知っていた。

「だって、自分が疑われているって思わなければ逃げないでしょう?騎士団の動きをよく知っていて、それでいて院長先生と親しい人物。そんな人が院長先生に味方してるんじゃないかな」

 ローズは自分もその定義に入ることは素知らぬ顔をして、マルコスをミスリードしようとする。

「え?そんな人物いるか?」
「わかんないけど……、お嬢様じゃないよね?いくら意地の悪いお嬢様でも、犯罪にまで手を染めたりしないか」
「それはないだろう。あの女は知らんけど、副団長が情報漏洩するとは思えないしな」
「そ……そうだよね。でも……」
「鼻がきくやつなんだよ。犯罪者ってのは、悪い奴ほど強運だったりするんだよ」

 笑顔がひきつらないように気をつけながら、ローズは「そうかもね」とつぶやいた。

 ないことないことマルコスに吹き込んで、シャーロットの評判を下げようと目論んだローズだったが、マルコスはそれを吹聴することはなかった。シャーロットに対するマルコスの好感度はだだ下がりしたものの、カティアスに対するリスペクトは依然強く、ローズのミスリードに乗らなかったのも、カティアスへの絶対的な信頼があったからだった。

 もっと使えると思ったのに……。

 ローズの中で、マルコスはすでに過去の男に位置づけられた。







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