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魚に心あれば、水に心あり
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水族館は海岸をはさんだ沖の人工島にある複合型遊園地の施設で仙一郎らがいた場所からは歩いて十分程で到着した。花火大会もあるせいか浴衣姿の男女などでそれなりに人も多い館内、水槽を泳ぐ色とりどりの魚を見て回る中、朱夏がうんちくを披露する。
「このエラブウミヘビは毒蛇でね、ハブの八十倍強い毒を持ってるんだよ。で、こっちがフグと同じ毒のテトロドトキシンを持ってるヒョウモンダコ。」
「なぜ物騒な生き物ばかり!」
仙一郎がツッコミを入れると彼女は笑い声を上げた。
「はは!確かに!仕事の関係で危険な生物は特に詳しくなっちゃって。」
「なるほど…」
「あ!あとあっちの水槽にはアカエイとカツオノエボシもいるんだよ!」
「それも危険生物ですよね?」
仙一郎の言葉に彼女はにかっと笑って彼の背中を勢いよく叩いた。
水族館は朱夏の勝手知ったる場所らしく解説を交え次々と水槽を回る。仙一郎は彼女の解説が分かりやすく面白いものだったのと彼自身水族館は小学生時代以来久しぶりだったのもあって聞くこと見ることすべてが新鮮だった。
そんな中、朱夏が突然駆け出しガラスに顔を押し付け目を輝かせて見入ったのはペンギンの水槽だった。水中を飛ぶようにすいっと泳ぎ回る何匹ものペンギンを食い入るように愛でる彼女の様子に仙一郎が声をかける。
「ペンギン好きなんですか?」
「そう!そう!カワイイよね!このずんぐりした感じも普段はボーっと突っ立っててトコトコ歩きしか出来ないのに水中がスイスイっと!」
身振り手振りを交え興奮気味に力説する朱夏。
「ああ。それでペンギンの着ぐるみを…」
そう言うと朱夏が自分を見つめてうずうずしているのに気づいて仙一郎は促す。
「どうぞ、ペンギンの解説続けて下さい。」
「鳥綱ペンギン目ペンギン科のペンギンはね…」
声を弾ませ堰を切ったように喋り始める朱夏の熱のこもったペンギン語りは今まで以上に延々と続いた。
「…で、中には石を渡してプロポーズするペンギンもいるんだよ!婚約指輪みたいで素敵だよねー!」
そう言ったところで朱夏は仙一郎が考え込んでいるように見えたので声をかけた。
「ごめん!話長かったかな?」
「あ!違うんです!すみません。」
気づいた仙一郎は慌てて謝ると続けた。
「恥ずかしい話なんですけど、よく考えたらちゃんと女性とデートするなんて初めてだった気がして。小さいころから暇さえあればひとりで絵描いてばかりいるような奴だったから、こういう事に慣れてなくて…。ちゃんと朱夏さんの期待に応えられているのか不安で…」
「そんなコト気にしなくてイイよ!私が強引に誘ったんだし。」
「はい…」
朱夏は慰めるが彼が浮かない顔のままなので彼女はペンギンの水槽を指さした。
「私は水族館すごく楽しんでるけど仙一郎君はどうかな?」
「もちろん楽しんでますよ。その水槽のペンギンなんかもスケッチしたくてウズウズしてますし。」
仙一郎は画材の入ったショルダーバックをポンポンと叩いて大真面目に言うと彼女は茶化す事なく応えた。
「芸術家の卵らしいね。ところで何で私が君のこと気に入ったか聞きたくない?」
「是非。どうして僕を?」
「君が浜辺でボーっと突っ立てる姿がペンギンみたいで可愛かったから!」
朱夏がニヤニヤしながらそんなことを言い出すので彼はおかしくて笑ってしまった。
「ええっ。そんな理由ですかぁ!」
「まあ要するに、デートなんて二人で同じものを見て楽しんで、二人お互い見詰めあって嬉しければそれでイイんだよ!さ!次行こ!次!」
朱夏は彼の手を掴むと次の水槽へと引っ張った。白い巨体で水中をゆらゆらと泳ぐホッキョクグマの水槽。高さ十メートルはあろうかという大水槽では真っ青な水中を様々な魚たちが身体をキラキラ輝かせて泳ぎ回る。まるで海の中にいるような水中トンネルの幻想的な雰囲気に仙一郎は日頃の憂さを忘れ楽しんだ。
朱夏が言ってくれた言葉は、すっかり彼を安らかな気持ちにさせた。思えば彼はここ半年、慌ただしい毎日に心休まる暇もなく追い込まれて心の余裕が無くなっていたことに気づかされる。
「アリゲーターガーッ!」
朱夏が突然大声を上げたのは淡水魚の展示だった。腰の高さほどの低い水槽は上部が開け広げられ見下ろして観察も出来、様々な淡水魚が水面を波立たせて泳ぎ回っていた。彼女が見入るアリゲーターガーは主に北アメリカに生息する肉食の大型魚で二メートル近い巨体にその名のとおりワニのような大きな口をしたお世辞にもカワイイとは言えない魚だが彼女は身じろぎもせず見つめる。
「この子カッコイイよね!日本じゃ特定外来種指定されて嫌われてるけどカッコイイよね!」
「確かに迫力あって強そうではある。」
「分類的にはガー目ガー科になるんだよ。ガーモクガーカ…ガーモクガーカ…」
その言い方がツボだったらしく朱夏はくすくすと忍び笑いをもらした。その時、水槽の魚がその巨体をくねらせ尾びれで水面を打ち大きな水しぶきが上がり水槽の近くにいた朱夏に水が降り注ぐ。
「きひゃっ!」
頭から水を被り、ずぶ濡れになった朱夏は調子っぱずれな叫び声を上げて飛び跳ねる。
「大丈ぶっ…」
仙一郎は彼女の姿を見て固まった。Tシャツがぐっしょりと濡れ、ぴたりと張り付いた生地が透けてブラジャーが透けて見えていたからだ。
「へーき!へーき!どうせ着物に着替えるつもりだったし問題ないよ。」
朱夏は全く気にする様子もなくあっけらかんとしているので彼は目のやり場に困りうろたえてしまう。仙一郎のその様子はあまりにもわかりやすかったので彼女は、
「あ?ああ!」
と納得したように声を上げたが、胸を隠す様子もなく彼の狼狽ぶりを楽しむように話を続けた。
「ちょっと長居しすぎたね!もう花火の時間だから移動しよっか?」
「は…はい。」
仙一郎は明後日の方向を見ながら返事する。
「ん?人と話しをする時は、ちゃんとこっち見て!」
朱夏は腕を組み、透けて見える胸をわざと強調するように説教する。
「朱夏さん。勘弁して下さいよ。」
「ん?ん?何の事かな?」
「わざとでしょ!水も滴るいい女なのは分かりましたから隠してくれませんか。」
仙一郎は横目で見ながら胸を指さした。
「別に仙一郎君になら見放題でも構わないんだけどなぁ。」
「ホント勘弁して下さいよぉ…」
朱夏がしなをつくって微笑むので彼は情けない声で哀願した。
「ははっ!ごめんごめん!じゃあ行こう!」
「勘弁して下さいよ朱夏さん!」
朱夏が手招きしとっとと先に歩いて行ってしまうので仙一郎は困り顔で後を追うしかなかった。
「このエラブウミヘビは毒蛇でね、ハブの八十倍強い毒を持ってるんだよ。で、こっちがフグと同じ毒のテトロドトキシンを持ってるヒョウモンダコ。」
「なぜ物騒な生き物ばかり!」
仙一郎がツッコミを入れると彼女は笑い声を上げた。
「はは!確かに!仕事の関係で危険な生物は特に詳しくなっちゃって。」
「なるほど…」
「あ!あとあっちの水槽にはアカエイとカツオノエボシもいるんだよ!」
「それも危険生物ですよね?」
仙一郎の言葉に彼女はにかっと笑って彼の背中を勢いよく叩いた。
水族館は朱夏の勝手知ったる場所らしく解説を交え次々と水槽を回る。仙一郎は彼女の解説が分かりやすく面白いものだったのと彼自身水族館は小学生時代以来久しぶりだったのもあって聞くこと見ることすべてが新鮮だった。
そんな中、朱夏が突然駆け出しガラスに顔を押し付け目を輝かせて見入ったのはペンギンの水槽だった。水中を飛ぶようにすいっと泳ぎ回る何匹ものペンギンを食い入るように愛でる彼女の様子に仙一郎が声をかける。
「ペンギン好きなんですか?」
「そう!そう!カワイイよね!このずんぐりした感じも普段はボーっと突っ立っててトコトコ歩きしか出来ないのに水中がスイスイっと!」
身振り手振りを交え興奮気味に力説する朱夏。
「ああ。それでペンギンの着ぐるみを…」
そう言うと朱夏が自分を見つめてうずうずしているのに気づいて仙一郎は促す。
「どうぞ、ペンギンの解説続けて下さい。」
「鳥綱ペンギン目ペンギン科のペンギンはね…」
声を弾ませ堰を切ったように喋り始める朱夏の熱のこもったペンギン語りは今まで以上に延々と続いた。
「…で、中には石を渡してプロポーズするペンギンもいるんだよ!婚約指輪みたいで素敵だよねー!」
そう言ったところで朱夏は仙一郎が考え込んでいるように見えたので声をかけた。
「ごめん!話長かったかな?」
「あ!違うんです!すみません。」
気づいた仙一郎は慌てて謝ると続けた。
「恥ずかしい話なんですけど、よく考えたらちゃんと女性とデートするなんて初めてだった気がして。小さいころから暇さえあればひとりで絵描いてばかりいるような奴だったから、こういう事に慣れてなくて…。ちゃんと朱夏さんの期待に応えられているのか不安で…」
「そんなコト気にしなくてイイよ!私が強引に誘ったんだし。」
「はい…」
朱夏は慰めるが彼が浮かない顔のままなので彼女はペンギンの水槽を指さした。
「私は水族館すごく楽しんでるけど仙一郎君はどうかな?」
「もちろん楽しんでますよ。その水槽のペンギンなんかもスケッチしたくてウズウズしてますし。」
仙一郎は画材の入ったショルダーバックをポンポンと叩いて大真面目に言うと彼女は茶化す事なく応えた。
「芸術家の卵らしいね。ところで何で私が君のこと気に入ったか聞きたくない?」
「是非。どうして僕を?」
「君が浜辺でボーっと突っ立てる姿がペンギンみたいで可愛かったから!」
朱夏がニヤニヤしながらそんなことを言い出すので彼はおかしくて笑ってしまった。
「ええっ。そんな理由ですかぁ!」
「まあ要するに、デートなんて二人で同じものを見て楽しんで、二人お互い見詰めあって嬉しければそれでイイんだよ!さ!次行こ!次!」
朱夏は彼の手を掴むと次の水槽へと引っ張った。白い巨体で水中をゆらゆらと泳ぐホッキョクグマの水槽。高さ十メートルはあろうかという大水槽では真っ青な水中を様々な魚たちが身体をキラキラ輝かせて泳ぎ回る。まるで海の中にいるような水中トンネルの幻想的な雰囲気に仙一郎は日頃の憂さを忘れ楽しんだ。
朱夏が言ってくれた言葉は、すっかり彼を安らかな気持ちにさせた。思えば彼はここ半年、慌ただしい毎日に心休まる暇もなく追い込まれて心の余裕が無くなっていたことに気づかされる。
「アリゲーターガーッ!」
朱夏が突然大声を上げたのは淡水魚の展示だった。腰の高さほどの低い水槽は上部が開け広げられ見下ろして観察も出来、様々な淡水魚が水面を波立たせて泳ぎ回っていた。彼女が見入るアリゲーターガーは主に北アメリカに生息する肉食の大型魚で二メートル近い巨体にその名のとおりワニのような大きな口をしたお世辞にもカワイイとは言えない魚だが彼女は身じろぎもせず見つめる。
「この子カッコイイよね!日本じゃ特定外来種指定されて嫌われてるけどカッコイイよね!」
「確かに迫力あって強そうではある。」
「分類的にはガー目ガー科になるんだよ。ガーモクガーカ…ガーモクガーカ…」
その言い方がツボだったらしく朱夏はくすくすと忍び笑いをもらした。その時、水槽の魚がその巨体をくねらせ尾びれで水面を打ち大きな水しぶきが上がり水槽の近くにいた朱夏に水が降り注ぐ。
「きひゃっ!」
頭から水を被り、ずぶ濡れになった朱夏は調子っぱずれな叫び声を上げて飛び跳ねる。
「大丈ぶっ…」
仙一郎は彼女の姿を見て固まった。Tシャツがぐっしょりと濡れ、ぴたりと張り付いた生地が透けてブラジャーが透けて見えていたからだ。
「へーき!へーき!どうせ着物に着替えるつもりだったし問題ないよ。」
朱夏は全く気にする様子もなくあっけらかんとしているので彼は目のやり場に困りうろたえてしまう。仙一郎のその様子はあまりにもわかりやすかったので彼女は、
「あ?ああ!」
と納得したように声を上げたが、胸を隠す様子もなく彼の狼狽ぶりを楽しむように話を続けた。
「ちょっと長居しすぎたね!もう花火の時間だから移動しよっか?」
「は…はい。」
仙一郎は明後日の方向を見ながら返事する。
「ん?人と話しをする時は、ちゃんとこっち見て!」
朱夏は腕を組み、透けて見える胸をわざと強調するように説教する。
「朱夏さん。勘弁して下さいよ。」
「ん?ん?何の事かな?」
「わざとでしょ!水も滴るいい女なのは分かりましたから隠してくれませんか。」
仙一郎は横目で見ながら胸を指さした。
「別に仙一郎君になら見放題でも構わないんだけどなぁ。」
「ホント勘弁して下さいよぉ…」
朱夏がしなをつくって微笑むので彼は情けない声で哀願した。
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