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第4章 王立ルミナス学院 3年目
第40話 忍び寄る影
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王立ルミナス学院の朝は、いつもより少しだけ緊張感に包まれていた。
中庭には、2年生たちが整列し、訓練用の軽装に身を包んでいる。
その中には、銀髪を揺らす少女――セレナ・ヴェルディアの姿もあった。
彼女は、緊張した面持ちで深く息を吸った。
(姉様も、演習で活躍した。私も、頑張らなきゃ)
その隣には、第二王子ユリウス・グランフェルドが立っていた。
彼は、いつも通り柔らかな表情を浮かべながら、周囲の空気を静かに見渡している。
「緊張してる?」
ユリウスが、セレナに声をかける。
「……少しだけ。でも、姉様が言ってたの。『剣は、誰かを守るためにある』って。だから、私も……」
ユリウスは微笑みながら頷いた。
「君なら、きっと大丈夫だよ。僕も、君を守るから」
学院の教官たちは、去年の演習で起きた“獣の襲撃事件”の反省を踏まえ、今年は引率者を倍に増やしていた。
剣術教官、騎兵隊員、サバイバル術の専門家――それぞれが、厳しい目で生徒たちを見守っている。
「今年は、万が一にも事故を起こさせるな」
副学院長マティルダ・クローネは、引率者たちに厳命を下していた。
*
学院の門が開かれると、馬車と騎乗の列がゆっくりと敷地を出ていく。
セレナは、ノクターンに似た黒毛の馬に乗りながら、遠く学院の塔を振り返った。
そこには、姉クラリスがいる――制度の象徴として、そして、誰よりも強く、自分の道を進む彼女がいる。
(私も、姉様のように……)
ユリウスは、セレナの隣で馬を操りながら、静かに言った。
「行こう。演習が始まる」
*
学院の中庭では、クラリスが教室へ向かう途中、遠くに出発する馬車の列を見つめていた。
銀髪が風に揺れ、瞳にはわずかな不安が宿っている。
(セレナ……気をつけて。何も起きませんように)
クラリスは、そうして教室の扉を開いた。
*
王立ルミナス学院の講義室には、午前の柔らかな光が差し込んでいた。
クラリスは、窓際の席に座り、筆記用具を整えながら講義に集中していた。
今日の授業は「制度と倫理」。制度の導入によって生まれた社会的階層と、その倫理的課題について議論する内容だった。
教師は、黒板に「選ばれた者の責務」と書きながら、生徒たちに問いかける。
「運命力によって選ばれた者は、社会に対してどのような責任を負うべきか。クラリス・ヴェルディア、あなたの意見を聞かせてください」
クラリスは、静かに立ち上がり、言葉を選びながら答えた。
「選ばれた者は、選ばれなかった者のために、秩序を守るだけでなく、寄り添う姿勢が必要だと思います。数字だけでは見えないものを、見ようとすることが、責務の一つです」
教室が静まり返る。教師は頷きながら言った。
「見事な答えです。制度の象徴としてだけでなく、一人の生徒としての視点が感じられます」
クラリスは席に戻り、ノートに静かに言葉を記した。
(セレナも、今頃演習地に着いた頃かしら。無事に終わりますように……)
そのときだった。
教室の扉が、突然勢いよく開く。
教師が振り返ると、学院の伝令係が立っていた。制服の袖には、緊急連絡を示す赤い紋章が縫い込まれている。
「クラリス・ヴェルディア様。大至急、生徒会室へお越しください。」
教室がざわめく。
クラリスは一瞬だけ動きを止めたが、すぐに立ち上がり、静かに一礼して教室を後にした。
学院の回廊を歩くクラリスの足音は、いつもより少しだけ速かった。
胸の奥がざわつく。
生徒会室の扉が開かれると、そこには副学院長マティルダと剣術教官レイナが立っていた。
マティルダは、資料を手にしたまま、クラリスに向き直る。
「クラリス・ヴェルディアさん。冷静に聞いてください。演習中に、事故が発生しました」
クラリスの瞳が揺れる。
「……セレナは?」
マティルダは頷いた。
「セレナさんが、何者かに襲撃されました。そして――第二王子ユリウス・グランフェルド殿下が、それを庇い、瀕死の重傷を負ったそうです」
クラリスは、言葉を失った。
「……襲われた……?誰に…?」
レイナが静かに言葉を継ぐ。
「詳細はまだ不明。獣ではなく、人間による襲撃の可能性が高いそうだ。セレナは無事だが、精神的に強いショックを受けていて、現在は学院へ搬送中」
クラリスは、拳を握りしめた。
(どうして……どうして、また……)
*
王立ルミナス学院の医療棟前には、重苦しい沈黙が漂っていた。
クラリスは、建物の前に立ち尽くしていた。
制服の袖を握りしめ、懐中時計の蓋を開いたまま、秒針の音に耳を澄ませている。
(セレナ……早く、帰ってきて)
空は曇り、風が冷たく頬を撫でる。
学院の喧騒は遠く、ここだけが別の世界のように静かだった。
やがて、馬車の車輪の音が遠くから聞こえてきた。
クラリスは顔を上げる。
医療班の旗を掲げた黒塗りの馬車が、ゆっくりと門をくぐってくる。
扉が開き、最初に降りてきたのは、医療班の隊長だった。
その顔には疲労と緊張が滲んでいる。
「クラリス・ヴェルディア様。セレナ様をお連れしました」
クラリスは駆け寄った。
だが、馬車の中から現れたセレナの姿を見た瞬間、息を呑んだ。
セレナは、まるで魂が抜けたような顔をしていた。
銀髪は乱れ、制服は泥にまみれ、目は虚空を見つめている。
その瞳には、光がなかった。
「セレナ……!」
クラリスは妹の肩に手を添えた。
だが、セレナは反応しない。
まるで、クラリスの存在すら認識していないかのように。
「セレナ、私よ。クラリスよ。…もう大丈夫」
クラリスは、震える声で呼びかけた。
だが、セレナはただ、ぼんやりと前を見つめたまま、何も言わなかった。
医療班の者が静かに言った。
「殿下のおかげで身体に外傷はほとんどありません。ただ……精神的なショックが非常に大きく、受け答えすることも今は難しいかと」
クラリスは、セレナの手を握った。
その手は冷たく、力が入っていなかった。
(なんでこんなことに……)
そのとき、クラリスの脳裏に、マティルダの言葉がよみがえる。
「何者かによる襲撃の可能性が高い」
(誰かが……セレナを襲った?なぜ?どうして?)
クラリスは、セレナの肩をそっと抱き寄せた。
「大丈夫よ、セレナ。私が、絶対に守るから」
だが、セレナの瞳は、まだどこか遠くを見つめていた。
中庭には、2年生たちが整列し、訓練用の軽装に身を包んでいる。
その中には、銀髪を揺らす少女――セレナ・ヴェルディアの姿もあった。
彼女は、緊張した面持ちで深く息を吸った。
(姉様も、演習で活躍した。私も、頑張らなきゃ)
その隣には、第二王子ユリウス・グランフェルドが立っていた。
彼は、いつも通り柔らかな表情を浮かべながら、周囲の空気を静かに見渡している。
「緊張してる?」
ユリウスが、セレナに声をかける。
「……少しだけ。でも、姉様が言ってたの。『剣は、誰かを守るためにある』って。だから、私も……」
ユリウスは微笑みながら頷いた。
「君なら、きっと大丈夫だよ。僕も、君を守るから」
学院の教官たちは、去年の演習で起きた“獣の襲撃事件”の反省を踏まえ、今年は引率者を倍に増やしていた。
剣術教官、騎兵隊員、サバイバル術の専門家――それぞれが、厳しい目で生徒たちを見守っている。
「今年は、万が一にも事故を起こさせるな」
副学院長マティルダ・クローネは、引率者たちに厳命を下していた。
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学院の門が開かれると、馬車と騎乗の列がゆっくりと敷地を出ていく。
セレナは、ノクターンに似た黒毛の馬に乗りながら、遠く学院の塔を振り返った。
そこには、姉クラリスがいる――制度の象徴として、そして、誰よりも強く、自分の道を進む彼女がいる。
(私も、姉様のように……)
ユリウスは、セレナの隣で馬を操りながら、静かに言った。
「行こう。演習が始まる」
*
学院の中庭では、クラリスが教室へ向かう途中、遠くに出発する馬車の列を見つめていた。
銀髪が風に揺れ、瞳にはわずかな不安が宿っている。
(セレナ……気をつけて。何も起きませんように)
クラリスは、そうして教室の扉を開いた。
*
王立ルミナス学院の講義室には、午前の柔らかな光が差し込んでいた。
クラリスは、窓際の席に座り、筆記用具を整えながら講義に集中していた。
今日の授業は「制度と倫理」。制度の導入によって生まれた社会的階層と、その倫理的課題について議論する内容だった。
教師は、黒板に「選ばれた者の責務」と書きながら、生徒たちに問いかける。
「運命力によって選ばれた者は、社会に対してどのような責任を負うべきか。クラリス・ヴェルディア、あなたの意見を聞かせてください」
クラリスは、静かに立ち上がり、言葉を選びながら答えた。
「選ばれた者は、選ばれなかった者のために、秩序を守るだけでなく、寄り添う姿勢が必要だと思います。数字だけでは見えないものを、見ようとすることが、責務の一つです」
教室が静まり返る。教師は頷きながら言った。
「見事な答えです。制度の象徴としてだけでなく、一人の生徒としての視点が感じられます」
クラリスは席に戻り、ノートに静かに言葉を記した。
(セレナも、今頃演習地に着いた頃かしら。無事に終わりますように……)
そのときだった。
教室の扉が、突然勢いよく開く。
教師が振り返ると、学院の伝令係が立っていた。制服の袖には、緊急連絡を示す赤い紋章が縫い込まれている。
「クラリス・ヴェルディア様。大至急、生徒会室へお越しください。」
教室がざわめく。
クラリスは一瞬だけ動きを止めたが、すぐに立ち上がり、静かに一礼して教室を後にした。
学院の回廊を歩くクラリスの足音は、いつもより少しだけ速かった。
胸の奥がざわつく。
生徒会室の扉が開かれると、そこには副学院長マティルダと剣術教官レイナが立っていた。
マティルダは、資料を手にしたまま、クラリスに向き直る。
「クラリス・ヴェルディアさん。冷静に聞いてください。演習中に、事故が発生しました」
クラリスの瞳が揺れる。
「……セレナは?」
マティルダは頷いた。
「セレナさんが、何者かに襲撃されました。そして――第二王子ユリウス・グランフェルド殿下が、それを庇い、瀕死の重傷を負ったそうです」
クラリスは、言葉を失った。
「……襲われた……?誰に…?」
レイナが静かに言葉を継ぐ。
「詳細はまだ不明。獣ではなく、人間による襲撃の可能性が高いそうだ。セレナは無事だが、精神的に強いショックを受けていて、現在は学院へ搬送中」
クラリスは、拳を握りしめた。
(どうして……どうして、また……)
*
王立ルミナス学院の医療棟前には、重苦しい沈黙が漂っていた。
クラリスは、建物の前に立ち尽くしていた。
制服の袖を握りしめ、懐中時計の蓋を開いたまま、秒針の音に耳を澄ませている。
(セレナ……早く、帰ってきて)
空は曇り、風が冷たく頬を撫でる。
学院の喧騒は遠く、ここだけが別の世界のように静かだった。
やがて、馬車の車輪の音が遠くから聞こえてきた。
クラリスは顔を上げる。
医療班の旗を掲げた黒塗りの馬車が、ゆっくりと門をくぐってくる。
扉が開き、最初に降りてきたのは、医療班の隊長だった。
その顔には疲労と緊張が滲んでいる。
「クラリス・ヴェルディア様。セレナ様をお連れしました」
クラリスは駆け寄った。
だが、馬車の中から現れたセレナの姿を見た瞬間、息を呑んだ。
セレナは、まるで魂が抜けたような顔をしていた。
銀髪は乱れ、制服は泥にまみれ、目は虚空を見つめている。
その瞳には、光がなかった。
「セレナ……!」
クラリスは妹の肩に手を添えた。
だが、セレナは反応しない。
まるで、クラリスの存在すら認識していないかのように。
「セレナ、私よ。クラリスよ。…もう大丈夫」
クラリスは、震える声で呼びかけた。
だが、セレナはただ、ぼんやりと前を見つめたまま、何も言わなかった。
医療班の者が静かに言った。
「殿下のおかげで身体に外傷はほとんどありません。ただ……精神的なショックが非常に大きく、受け答えすることも今は難しいかと」
クラリスは、セレナの手を握った。
その手は冷たく、力が入っていなかった。
(なんでこんなことに……)
そのとき、クラリスの脳裏に、マティルダの言葉がよみがえる。
「何者かによる襲撃の可能性が高い」
(誰かが……セレナを襲った?なぜ?どうして?)
クラリスは、セレナの肩をそっと抱き寄せた。
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