日々

睦月マコト

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2020年、夏の始まりに

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 夏が来る。
 世界が急に色を得たみたいに鮮やかになった。寝坊をした夏が慌てて起きたみたいに、急に夏が私の前に現れた。
 解像度が高くなったなあなんてことを思ったけれど、昔の人はこんな色の変化をどう表現したのだろう。
 昔の夏はこんなふうにぎらついていたのだろうか。目に痛いほど照りつける太陽が、焼けるような緑や青を写していたのだろうか。
 移ろう季節は春の表現方法を忘れたみたいに冬に戻ったり春を思い出そうとしていたのに、慌ててやってきた夏が全てを塗り潰してしまう。そんな季節の変化が、昔のこの土地にもあったのだろうか。
 じとりと肌に纏わりついたり、喉を詰まらせるような空気はあったのだろうか。息苦しさを抱えながら我慢をするしかなかったのだとしたら、夏がどれほど苦しかったのだろうか。風の音を鈴で感じて、ただそれだけで本当に夏を乗り越えることができたのだろうか。
 そんなことを考える余裕すらなかったのかもしれない。私の家は地位も権力もない、昔風に言えば平民の家だから、働いて、食べて、生きていくことしか考えられなくて、暑いから嫌だとか、苦しいとか、気持ち悪いとか、そんなことを考える余裕すらなかったのかもしれない。
 今の私は地位も権力もないけれど、温かみのある色に包まれた快適な部屋で、働くことも食べることも生きることも特に考えずに、暑いなあと思って過ごしている。
 自分よりもつらい人がいるから私はまだ恵まれている、なんて考え方は好きではないけれど、一度不便だった時代に想いを馳せてしまうと、今の私は幸せなんだなあ、なんてことを思ってしまう。
 ほんの少し汗の滲んだ肌にエアコンの風が触れた。
 ああ、幸せだなあ。
 思い耽るだけで幸福を感じられる私は、不便だった昔の人と比べたりしなくてもきっと幸せなんだろうなあ。
 そう考えたら舌がとろりと甘い何かを感じ取った。心が安らいで胸の奥がほんのり温かくなるような、幸せで、蕩けるような感覚。
 溶けるような暑さも何もない快適な部屋の中で横になっていた私は、そのままエアコンと幸せの温度に包まれたまま目を閉じた。
 遠く、蝉の声がした。
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