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波乱の魔王軍、介入編
第20話 前線とすんごい暗雲
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休暇が明けた翌日。
ギルドからの緊急の呼び出しを受け、私たちは息を切らしてギルドへと駆け込んだ。
そこにあったのは、いつものような活気ではない。誰もが険しい顔つきで、自分の武具を点検している。張り詰めた、戦場の匂い。
「来たか、勇者殿」
私たちを招き入れたのは、ギルドマスターその人だった。
彼の執務室に広げられた地図の上には、一つの駒が置かれている。
「緊急事態だ。王国の東の守りの要、グライフェン砦が、大規模な攻撃を受けている」
ゴクリ、とユウキ様が息をのむ。
「相手は、ただの魔物の群れではない。魔王軍の紋章を掲げた、統率の取れた軍勢だ。砦はなんとか持ちこたえているが、それも時間の問題だろう」
ギルドマスターの、歴戦の古傷が刻まれた顔が、苦渋に歪む。
「王家の軍もすぐに向かうが、間に合わんかもしれん。そこで、ギルドのAランク以上の冒険者全員に、先遣隊としての出撃命令が下った」
彼は、地図から顔を上げ、ユウキ様を、私たちを、まっすぐに見た。
「勇者殿、あんたたちの力が必要だ。これはもはや、ただの依頼じゃない。戦争だ」
「……わかった。行くぞ」
ユウキ様の返事は、短く、そして重かった。いつもの軽薄さは、そこにはない。
「腕が鳴るぜ!」
ダインさんが、静かに闘志を燃やす。
「グライフェン砦は、我が国の生命線。あそこが落ちれば、王都まで一直線です。我々に、選択の余地はありません」
シルヴィアさんの分析も、それを裏付けていた。
三人の視線が、私に集まる。
怖い。足が震える。今すぐにでも、逃げ出したい。
でも、私は昨日の夜、決めたのだ。もう、ただ怖がってばかりなのはやめよう、と。
私は、震える両の拳を、強く、強く握りしめた。
「……私も、行きます」
声は、まだ少し震えていたかもしれない。
「足手まといになるかもしれません。でも、私も、みんなの仲間ですから」
私の言葉に、三人は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに、力強く頷いてくれた。
「ああ。頼りにしてるぜ、ルルナ」
ユウキ様のその笑顔は、これまでで一番、優しく見えた。
砦へと向かう道中、私たちは、この国が本当に戦争状態にあることを思い知らされた。
焼き払われた村、荷物をまとめて逃げ惑う人々。その誰もが、絶望に満ちた顔をしていた。
私の胸が、きゅうっと痛む。助けたい。この人たちを、守りたい。
数時間後、私たちはついに前線に到着した。
遠くに見えるグライフェン砦の上空は、まるで巨大なインクをぶちまけたかのように、不自然な黒い雲に覆われていた。あれは、魔王軍の将が使う、味方の士気を上げ、敵の力を奪う戦略級の呪術だ。
あの雲の下で戦う兵士たちの、絶望的な気持ちが、ここまで伝わってくるようだった。
(やめて……)
私は、無意識に、両手を胸元で組み、天を覆う黒い渦を睨みつけていた。
(あんなもので、頑張っている人たちの心を、折らないで……!)
それは、初めての、明確な「祈り」だったのかもしれない。
私のスキルに対する、初めての「願い」。
その、瞬間だった。
私の胸が、心臓の鼓動と呼応するように、温かい、太陽のような光を放ち始めたのだ。
光は、私の体から溢れ出し、一本の光線となって、天を衝いた。
光の矢は、空を覆う邪悪な黒い渦の中心を、正確に貫く。
すると、黒雲は爆発霧散するのではない。まるで、夜が明けるかのように、静かに、穏やかに、晴れていく。
数刻後、グライフェン砦の上空には、雲一つない、美しい青空が広がっていた。
暖かな陽光が、疲弊しきった兵士たちの顔を、等しく照らし出す。
「おおっ! 空が……!」「太陽だ!」
「女神様のご加護だ! 俺たちには、まだ希望があるぞ!」
城壁から、歓喜の声が上がる。兵士たちの士気が、見る見るうちに回復していくのが分かった。
私たちは、その光景を、ただ呆然と見上げていた。
「……すげえ。天候まで変えちまうのかよ……」
ユウキ様が、震える声で呟いた。
「スキル名『聖なる夜明け(ホーリー・ドーン)』……いや、それ以上だ……!」
シルヴィアさんは、眼鏡の奥の瞳を大きく見開き、言葉を失っている。
「大規模な概念魔法……? 戦況そのものを根底から覆す、戦略級の奇跡……?」
私は、自分の胸から放たれた光の余韻を感じていた。
怖かった。でも、それ以上に、確かな手応えがあった。
この力は、守るために使える。
「行きましょう!」
私は、仲間たちに、これまでで一番、はっきりとした声で言った。
「みんなを、助けに!」
こうして、私たちの本当の戦いが、今、始まった。
ギルドからの緊急の呼び出しを受け、私たちは息を切らしてギルドへと駆け込んだ。
そこにあったのは、いつものような活気ではない。誰もが険しい顔つきで、自分の武具を点検している。張り詰めた、戦場の匂い。
「来たか、勇者殿」
私たちを招き入れたのは、ギルドマスターその人だった。
彼の執務室に広げられた地図の上には、一つの駒が置かれている。
「緊急事態だ。王国の東の守りの要、グライフェン砦が、大規模な攻撃を受けている」
ゴクリ、とユウキ様が息をのむ。
「相手は、ただの魔物の群れではない。魔王軍の紋章を掲げた、統率の取れた軍勢だ。砦はなんとか持ちこたえているが、それも時間の問題だろう」
ギルドマスターの、歴戦の古傷が刻まれた顔が、苦渋に歪む。
「王家の軍もすぐに向かうが、間に合わんかもしれん。そこで、ギルドのAランク以上の冒険者全員に、先遣隊としての出撃命令が下った」
彼は、地図から顔を上げ、ユウキ様を、私たちを、まっすぐに見た。
「勇者殿、あんたたちの力が必要だ。これはもはや、ただの依頼じゃない。戦争だ」
「……わかった。行くぞ」
ユウキ様の返事は、短く、そして重かった。いつもの軽薄さは、そこにはない。
「腕が鳴るぜ!」
ダインさんが、静かに闘志を燃やす。
「グライフェン砦は、我が国の生命線。あそこが落ちれば、王都まで一直線です。我々に、選択の余地はありません」
シルヴィアさんの分析も、それを裏付けていた。
三人の視線が、私に集まる。
怖い。足が震える。今すぐにでも、逃げ出したい。
でも、私は昨日の夜、決めたのだ。もう、ただ怖がってばかりなのはやめよう、と。
私は、震える両の拳を、強く、強く握りしめた。
「……私も、行きます」
声は、まだ少し震えていたかもしれない。
「足手まといになるかもしれません。でも、私も、みんなの仲間ですから」
私の言葉に、三人は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに、力強く頷いてくれた。
「ああ。頼りにしてるぜ、ルルナ」
ユウキ様のその笑顔は、これまでで一番、優しく見えた。
砦へと向かう道中、私たちは、この国が本当に戦争状態にあることを思い知らされた。
焼き払われた村、荷物をまとめて逃げ惑う人々。その誰もが、絶望に満ちた顔をしていた。
私の胸が、きゅうっと痛む。助けたい。この人たちを、守りたい。
数時間後、私たちはついに前線に到着した。
遠くに見えるグライフェン砦の上空は、まるで巨大なインクをぶちまけたかのように、不自然な黒い雲に覆われていた。あれは、魔王軍の将が使う、味方の士気を上げ、敵の力を奪う戦略級の呪術だ。
あの雲の下で戦う兵士たちの、絶望的な気持ちが、ここまで伝わってくるようだった。
(やめて……)
私は、無意識に、両手を胸元で組み、天を覆う黒い渦を睨みつけていた。
(あんなもので、頑張っている人たちの心を、折らないで……!)
それは、初めての、明確な「祈り」だったのかもしれない。
私のスキルに対する、初めての「願い」。
その、瞬間だった。
私の胸が、心臓の鼓動と呼応するように、温かい、太陽のような光を放ち始めたのだ。
光は、私の体から溢れ出し、一本の光線となって、天を衝いた。
光の矢は、空を覆う邪悪な黒い渦の中心を、正確に貫く。
すると、黒雲は爆発霧散するのではない。まるで、夜が明けるかのように、静かに、穏やかに、晴れていく。
数刻後、グライフェン砦の上空には、雲一つない、美しい青空が広がっていた。
暖かな陽光が、疲弊しきった兵士たちの顔を、等しく照らし出す。
「おおっ! 空が……!」「太陽だ!」
「女神様のご加護だ! 俺たちには、まだ希望があるぞ!」
城壁から、歓喜の声が上がる。兵士たちの士気が、見る見るうちに回復していくのが分かった。
私たちは、その光景を、ただ呆然と見上げていた。
「……すげえ。天候まで変えちまうのかよ……」
ユウキ様が、震える声で呟いた。
「スキル名『聖なる夜明け(ホーリー・ドーン)』……いや、それ以上だ……!」
シルヴィアさんは、眼鏡の奥の瞳を大きく見開き、言葉を失っている。
「大規模な概念魔法……? 戦況そのものを根底から覆す、戦略級の奇跡……?」
私は、自分の胸から放たれた光の余韻を感じていた。
怖かった。でも、それ以上に、確かな手応えがあった。
この力は、守るために使える。
「行きましょう!」
私は、仲間たちに、これまでで一番、はっきりとした声で言った。
「みんなを、助けに!」
こうして、私たちの本当の戦いが、今、始まった。
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