スキル名【すんごい、おっぱい】なんだけど、これってどうなの!?

かわさきはっく

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すんごい、おっぱいは世界を救う(?)編

第63話 憤怒の戦士とすんごい抱擁

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 西の塔から、私とシルヴィアさんは城の中庭を見下ろしていた。
 そこには、もはや、美しい庭園の面影はなかった。
 地面にはクレーターが穿(うが)たれ、芸術品であったはずの大理石の彫像は無残に砕け散り、城壁の一部は、まるで巨人に殴られたかのように、大きく崩落している。

 そして、その破壊の中心に、ダインさんは、いた。

「グオオオオオオッ!」

 彼は、もはや、言葉を発しない。ただ、獣のような雄叫びを上げながら、その巨大な拳で、目につくもの全てを破壊し続けていた。
 その全身は、全てを焼き尽くさんとする、憤怒の赤いオーラに包まれている。
 駆けつけた騎士たちも、そのあまりの破壊力に、近づくことさえできずにいた。

「……ダインは、元々の物理的な強さに、《憤怒の神の枷》の破壊衝動が、そのまま上乗せされています」
 シルヴィアさんが息を整えながら、冷静に分析する。
「今の彼は歩く攻城兵器です。まともに近づけば、騎士団長クラスでも、一撃で骨まで砕かれるでしょう」

 絶望的な状況。しかし、私の心は、もう折れてはいなかった。
 私はダインさんの、あの不器用で、温かい手を思い出していた。
『何かありゃ、この俺が守ってやるから、安心しな』
 あの言葉を信じていた。

「止めなきゃ……」
「ええ」
 シルヴィアさんも頷く。しかし、その顔色は優れない。
「ですが、今のダインに近づくのは自殺行為です。何か彼の動きを一瞬でも止められるものがなければ……」

 シルヴィアさんは自分の杖を握りしめた。
「……私が結界魔法で、彼の足止めを試みます。ですが……」
 彼女は悔しそうに唇を噛んだ。
「先程の憑依で、私の魔力は、ほとんど残っていません。作れる結界は気休め程度でしょう。本当に、一瞬しか稼げませんよ」

 その決死の覚悟。
 私はシルヴィアさんの震える手を見つめた。そして決意を固めた。

「……それでも、その一瞬に賭けるしかありません」
 私はシルヴィアさんを、まっすぐに見つめた。
「シルヴィアさんの魔法を信じます。だから、お願いします」

 私の言葉にシルヴィアさんは、力強く頷いた。
「……わかりました。ルルナ、あなたを信じます」

 私たちは中庭へと続く、バルコニーへと向かった。
 シルヴィアさんが意を決して叫んだ。
「ダイン! あなたの敵は、こちらですよ!」

 その声に、ダインさんが、ギギギ、と、錆びついた機械のように、こちらを振り向く。
 その憤怒の炎に燃える瞳が、私たちを捉えた。
「グアアアアッ!」

 ダインさんが地面を蹴る。
 凄まじい速度だった。彼が走った後の地面が、衝撃で、ひび割れていく。
 私たちを完全に破壊するために。

「――三重防護結界!」
 シルヴィアさんが、残された最後の魔力を振り絞って、魔法の壁を三枚、展開する。
 その壁は先程までとは比較にならないほど、薄く、頼りない。

 ガシャン!
 一枚目の結界が、ダインさんの拳の一撃で、あまりにも、あっけなく砕け散る。
 二枚目も、三枚目も、時間稼ぎにさえ、ならなかった。

 しかし、それで、十分だった。
 ほんの一瞬。コンマ数秒。
 彼が最後の結界を突き破る、その一瞬の隙。

「今です、ルルナ!」

 シルヴィアさんの叫び声に、私はバルコニーの欄干《らんかん》から飛び降りていた。
 眼下に、破壊の化身と化した、友の、広い、広い背中が見える。
 怖い。
 でも、それ以上に、彼を助けたいという想いが、私を突き動かしていた。

(今度は私が、あなたを助ける番です!)

 私は涙ながらに叫んでいた。
 落下する勢い、その全てを乗せて、私はダインさんの岩のように硬い、その背中に抱きついた。

 ぽすん。
 私の胸が、灼熱のオーラを放つ、彼の背中に、強く、押し付けられる。

 ――奇跡は、荒れ狂う炎を癒やす、涼やかな泉のように溢れ出した。

 私の胸から放たれた黄金の光が、ダインさんを包んでいた憤怒の赤いオーラを鎮めるように打ち消していく。
 赤いオーラは一瞬にして、その勢いを失い、霧散していった。

 ダインさんの腕に浮かび上がっていた、《憤怒の神の枷》の赤い紋様に、ピシッ、と、亀裂が走る。
 そして、岩が砕けるような硬い音と共に、それは、赤い砂となって、風に消えた。

「……ぐ……」
 全ての力が抜け、ダインさんの巨体が膝から崩れ落ちる。
 私は、その背中に、必死にしがみついていた。

「……俺は……何を……」
 正気を取り戻したダインさんが、自分の手が引き起こした破壊の跡を、呆然と見つめている。
 私は、ただ、彼の無事が嬉しくて、涙が止まらなかった。
「……ダインさん……よかった……」

「……悪ぃ」
 ダインさんが、ぽつり、と、言った。
「……守るって、言ったのによ」
 その声は、いつもの彼からは想像もできないほど、弱々しかった。

 その時だった。
 シュン。
 王城の一番高い塔の先端が、音もなく切り取られ、空中で消滅した。
 ユウキ様の仕業だ。

 シルヴィアさんが、その光景を厳しい目で見つめている。
「……残るは、勇者、ですね」

 仲間を、二人、取り戻した。
 私たちは、疲れ切った体で立ち上がった。
 そして、最後の仲間を、最後の元凶を止めるために。
 最も厄介な、沈黙の化身が待つ、王座の間を見据えた。
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