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第二章 ロルディアの影
第61話 ヴァルディス・ノクターン
仮面の男を倒した俺たちは墓標の最奥へと向かった。
そこに待つのはすべての元凶——ヴァルディス・ノクターン。
奥へ進むにつれ、空気が変わっていく。冷たく、重く、息が詰まるほどの圧力。
そして視界の先に現れたのは黒い魔力が渦を巻く異様な空間だった。
巨大な祭壇の中央に浮かぶ漆黒の魔法陣。そこに据えられた台座には淡く紫に光るクリスタルが脈動している。
その周囲には魔力を吸い尽くされたかのように干からびたエルフたちの残骸があった。
そして——その中心に影から溶け出すように現れた存在。
形を持たぬ黒の靄が人の姿に近い輪郭を成して揺れている。
それは肉体ではない。人間という存在を模したような霊的な何か。
目も口も、本来あるべき位置に浮かんでいるだけ。実体を持たぬ影——それが、ヴァルディスだった。
「来たか。お前たちの能力には目を見張るものがあった。仮面の男を退け、この墓標の奥へ至るとは……驚きだ。だが、それもここまで」
声は低く、地の底を這うようだった。だがはっきりと、こちらの心に響いてくる。
「ヴァルディス……なぜ、こんなことをしている?」
俺は一歩前に出て、問うた。影に満ちた空間の中、俺の声だけが妙に澄んで響く。
「私は争いを終わらせたいだけだ。お前たち命ある者が自ら撒き散らす、混沌と喧騒を永遠に沈めたい」
「……それはエルフの命を奪ってまで成すことか?」
「当然だ」
ヴァルディスの答えはあまりにも冷たく、そして迷いがなかった。
「私は魔族として生まれた。影の民は静けさと秩序を本能として求める存在。だが人間領はあまりにも騒がしい。常に争い、裏切り、憎しみ……愚かで、しかし有能な者たちばかりだ」
彼が指を鳴らすと、クリスタルはさらに明るく脈打つ。
「だからこそ私は考えた。寿命という不安定な軛を外し、永遠に人間領を統治できる存在がいれば争いは無くなると」
その眼差しはまるで善意の支配者のようだった。
「だが不死は代償なくして得られない。影の魔法が完成するには命が必要だった。そして……最も効率よく力を与えてくれたのがエルフだ」
怒りで声が出そうになるのをエルンがそっと制した。彼女の指先は震えていたが顔は静かだった。
「……冷たいのね。でも、あなたは本気なのね」
「本気だとも。だからこそ——提案しよう」
ヴァルディスはゆっくりとこちらへ歩み寄る。
「お前たちはエルフだ。長命ゆえに終わりを恐れたことなどないだろう。だが人間は違う。だから私は選ぶ。有能な人間を選び、不死に変える。彼らに統治させる。そうすれば混沌の地にも静寂が訪れる」
そして、彼は俺をまっすぐに見つめた。
「カイン。お前にはその選ぶ力がある。人の中で信頼に値する者を見つけ、その者に不死を授けよ。お前が導くのだ。新たなる平穏の時代を」
一瞬、場の空気が凍りついた。それは誘惑とも取れるし、勧誘とも言えた。けれど——。
「……冗談じゃない」
俺は剣の柄を握りしめた。
「たとえ混乱があったとしても命は命だ。寿命が短いからって、不死になれば平穏になる? そんなのはただ命の重さを知らない奴の妄言だ」
「……そうです。人の命には終わりがある。だからこそ美しいんです!」
エルンの声は震えていたが、その目には確かな光があった。
「静寂だけが平和じゃない。生きて、泣いて、笑って——それもまた、命です」
「……ならば」
ヴァルディスの声が低くなり、空間全体の温度が下がった気がした。
「お前たちは私の静けさの敵というわけだな」
背後で影が蠢く。
広間の魔法陣が回転を始め、戦いの兆しが空間に満ちていく。
「最後の問いだった。残念だよ、カイン」
「……後悔はないよ」
俺は仲間たちを見た。エルン、セリス、ルナ。誰も迷っていない。
——命を粗末にはしない。けれど、奴は体を張ってでも倒すべき相手だ!
そこに待つのはすべての元凶——ヴァルディス・ノクターン。
奥へ進むにつれ、空気が変わっていく。冷たく、重く、息が詰まるほどの圧力。
そして視界の先に現れたのは黒い魔力が渦を巻く異様な空間だった。
巨大な祭壇の中央に浮かぶ漆黒の魔法陣。そこに据えられた台座には淡く紫に光るクリスタルが脈動している。
その周囲には魔力を吸い尽くされたかのように干からびたエルフたちの残骸があった。
そして——その中心に影から溶け出すように現れた存在。
形を持たぬ黒の靄が人の姿に近い輪郭を成して揺れている。
それは肉体ではない。人間という存在を模したような霊的な何か。
目も口も、本来あるべき位置に浮かんでいるだけ。実体を持たぬ影——それが、ヴァルディスだった。
「来たか。お前たちの能力には目を見張るものがあった。仮面の男を退け、この墓標の奥へ至るとは……驚きだ。だが、それもここまで」
声は低く、地の底を這うようだった。だがはっきりと、こちらの心に響いてくる。
「ヴァルディス……なぜ、こんなことをしている?」
俺は一歩前に出て、問うた。影に満ちた空間の中、俺の声だけが妙に澄んで響く。
「私は争いを終わらせたいだけだ。お前たち命ある者が自ら撒き散らす、混沌と喧騒を永遠に沈めたい」
「……それはエルフの命を奪ってまで成すことか?」
「当然だ」
ヴァルディスの答えはあまりにも冷たく、そして迷いがなかった。
「私は魔族として生まれた。影の民は静けさと秩序を本能として求める存在。だが人間領はあまりにも騒がしい。常に争い、裏切り、憎しみ……愚かで、しかし有能な者たちばかりだ」
彼が指を鳴らすと、クリスタルはさらに明るく脈打つ。
「だからこそ私は考えた。寿命という不安定な軛を外し、永遠に人間領を統治できる存在がいれば争いは無くなると」
その眼差しはまるで善意の支配者のようだった。
「だが不死は代償なくして得られない。影の魔法が完成するには命が必要だった。そして……最も効率よく力を与えてくれたのがエルフだ」
怒りで声が出そうになるのをエルンがそっと制した。彼女の指先は震えていたが顔は静かだった。
「……冷たいのね。でも、あなたは本気なのね」
「本気だとも。だからこそ——提案しよう」
ヴァルディスはゆっくりとこちらへ歩み寄る。
「お前たちはエルフだ。長命ゆえに終わりを恐れたことなどないだろう。だが人間は違う。だから私は選ぶ。有能な人間を選び、不死に変える。彼らに統治させる。そうすれば混沌の地にも静寂が訪れる」
そして、彼は俺をまっすぐに見つめた。
「カイン。お前にはその選ぶ力がある。人の中で信頼に値する者を見つけ、その者に不死を授けよ。お前が導くのだ。新たなる平穏の時代を」
一瞬、場の空気が凍りついた。それは誘惑とも取れるし、勧誘とも言えた。けれど——。
「……冗談じゃない」
俺は剣の柄を握りしめた。
「たとえ混乱があったとしても命は命だ。寿命が短いからって、不死になれば平穏になる? そんなのはただ命の重さを知らない奴の妄言だ」
「……そうです。人の命には終わりがある。だからこそ美しいんです!」
エルンの声は震えていたが、その目には確かな光があった。
「静寂だけが平和じゃない。生きて、泣いて、笑って——それもまた、命です」
「……ならば」
ヴァルディスの声が低くなり、空間全体の温度が下がった気がした。
「お前たちは私の静けさの敵というわけだな」
背後で影が蠢く。
広間の魔法陣が回転を始め、戦いの兆しが空間に満ちていく。
「最後の問いだった。残念だよ、カイン」
「……後悔はないよ」
俺は仲間たちを見た。エルン、セリス、ルナ。誰も迷っていない。
——命を粗末にはしない。けれど、奴は体を張ってでも倒すべき相手だ!
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