気功だけで世界を変える:クラスも勇者もいらない

佐藤祐騰久兵衛

文字の大きさ
26 / 55
ミュンツフルト編

ピッギース

しおりを挟む
「ちょっとばかしお口がすぎるんじゃねぇの?」

 その言葉を合図に、ならず者たちはニヤつきながらウイルヘルムを囲み、間合いを詰め始めた。
 ――だが、ウイルヘルムの表情は微動だにしない。
「……そちらの手札はそれで全部か?」
 鋭く冷ややかな声が、薄暗い裏路地に響いた。

「……で、かかってこないのか?」
 ウイルヘルムが静かに問いかけると、ならず者たちは顔を見合わせる。
「……ククッ、何を言ってやがる?」リーダー格のならず者が薄ら笑いを浮かべ、肩をすくめた。「おいおい、よく考えろよ坊ちゃん。4対1だぜ?どう足掻いても勝ち目なんかねぇよ。大人しく金と得物を置いて、お家に帰ってママに泣きつくんだな?」
 ウイルヘルムは小さく息を吐いた。
(闇討ち向きのナイフやらショートソードしか持っていないのに、わざわざ正面から姿を見せて、くだらない脅しをかけてくる時点で……こいつら、素人だな。)ソの国の盗賊なら、無言で殺しにかかる。
 しかも、フードで顔を隠しているが、その体つきを見れば十代前半のガキ共だ。
(なるほど、カモを狙って成り上がろうって魂胆か……)
 ウイルヘルムは霊衡の柄を握り直すと、地面に突き立てた。その瞬間、足に力を込め、ポールジャンプの要領で勢いよく跳躍する。
「うおっ──!?」
 リーダー格のならず者の顔が驚愕に歪む。ウイルヘルムは空中で体をひねり、跳び蹴り──というより、軽く押しのけるような一撃を浴びせた。
 バシュッ!
 リーダーはあっさり吹き飛ばされ、路地裏の建物の壁に後頭部をぶつける。ガクンと膝をつき、意識が一瞬飛びかける。
「な、なんだこいつ……!?」
 リーダーの隣にいた鞭使いのならず者が慌てて距離を取る。そして、焦りながらスキルを発動した。
「スキル【ウイップクラック】!」
 ピシィィン!
 鋭い破裂音と共に、鞭の先端がウイルヘルムの顔面を狙って一直線に襲いかかる。
 しかし──
「雑すぎるな。」
 ウイルヘルムは微動だにせず、霊衡の柄を軽く振った。
 カンッ!
 瞬間、鞭の先端が弾き返され、軌道が狂う。結果、鞭は持ち主であるならず者の首に絡みつき、そのまま締め付けるような形になった。
「ぐ、あっ……!?」
 ならず者は両手をバタバタと振り回し、慌てて鞭をほどこうとするが、絡まった鞭は容易には外れない。
「何やってんだよ! こいつ……ただのガキじゃねぇ!」
 焦った別のならず者が、素早くナイフを抜き、ウイルヘルムの背後から投げつける。
 ヒュンッ!
(風切り音からして、割と出来の良いナイフだが……。)
 ウイルヘルムは振り向きもせず、霊衡を横に薙ぐ。
 シュバッ!
 2本の投げナイフが空中で弾かれた──しかし、それだけでは終わらない。
 シュバッ! シュバッ! シュバッ!
 ウイルヘルムの霊衡が、刃の煌めきを描きながら、一瞬のうちに連続で振るわれる。
 カンッ! カンッ! カンッ!
 2本の投げナイフは、空中で何度も切り裂かれ、その都度細かい破片が舞い散る。
 最後の一閃が加えられた瞬間、かつてナイフだったものは原型を留めぬほど細かく砕かれ、キラキラと光を反射しながら宙を舞った。

(極速のマナの奔流が武器全体を貫き、我が気の動きと見事に呼応し、得物の軌道すらも意のまま……やはりこの霊衡は良い働きをしてくれる)

「なっ……」
 ならず者は絶句し、手にしていた最後のナイフを握りしめたまま動けなくなる。
 ウイルヘルムは静かに霊衡を振り、刃に付着した微細な金属片を振り落とす。そして、肩越しにぼそりと呟いた。
「手加減してやってるうちに、止めるんだな。」
 その言葉に、ならず者たちは青ざめた顔で立ち尽くすしかなかった。

 頭を打ちつけてふらついていたリーダーだったが、荒い息を整えながら立ち上がった。
「クソガキが……調子に乗るなよ……!」
 怒りに燃える目でウイルヘルムを睨みつけると、装備したナックルダスターをギュッと握り込み、拳を固める。
「殺られる前に殺れってなァ……!」
 叫ぶや否や、リーダーは全身のバネを使って拳を叩き込む。
 しかし——
「遅い。」
 まるで咲いたばかりの花を摘むように、優雅にその手首をつまみ取った。リーダーの拳はウイルヘルムに届くことなく、宙を彷徨う。
「なっ……!?」
 リーダーの顔が強張った。渾身の一撃を放ったはずなのに、まるで風に弄ばれる木の葉のように、拳は軌道を逸らされ、微動だにしない。
「なん……で……」
「——お返しだ。」
 ウイルヘルムは、掴んだ手首を捻り上げる。
「ぐああっ……!」
 激痛に悲鳴を上げるリーダー。しかし、これで終わりではない。
 ウイルヘルムの手の周りの空間が一瞬歪んだように見えた。
 ——栄枯盛衰——
 リーダーの体内を巡るマナが、一瞬にしてウイルヘルムの掌へと吸い取られていく。
(……200マナだけ頂戴するとしよう。)
 2年以上の気功の修行と、スキルシーフとの戦いで鍛えた精度の高い制御。ウイルヘルムは、1桁単位でマナ吸収量を調整し、リーダーから適切な分だけ奪い取った。
「うっ……」
 リーダーの顔が急に青ざめ、膝から崩れ落ちる。
「な、なんだ……急に、力が……!」
 自分の身に何が起こったのか理解できないリーダーは、震える腕を見下ろしながら狼狽する。
(ここまで抑えると、精神ダメージもほぼないと見ていい。)
 ウイルヘルムは、そんな彼を冷ややかに見つめた。
 吸い取った気に染みついたのは、虐げられ続けて蓄積した憤懣と、他者を虐げる痛快感。
「では聞こう。うぬらはどうする?ここで死ぬか?」とウイルヘルムは世間話をするような口調で聞く。

「降参します」
 少年の返答は早かった。
 そう告げたのは、4人の中でただ一人、最初から隙なくショートソードを構え続けていた少年だった。ウイルヘルムが問いを発した瞬間、まるで待ち構えていたかのように即答する。

(なるほど——やはりこいつか)
 リーダーのほうが年長であり、威圧的な態度をとってはいたが、最初からウイルヘルムにはわかっていた。この中で一番頭が回り、実力も比較的優れているのはリーダーではなく、このショートソードの少年だと。

「ならばうぬらに仕事を与えよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

ギャルといちゃこらしていたらダンジョン探索がはかどった件。うちのお菊がもふもふで可愛すぎる♡

マネキネコ
ファンタジー
日本国内に3つのダンジョンが出現して早10年。日本国政府は各方面と協議を重ねた結果、ダンジョンを国民に開放すると宣言した。つまり現在では探索者ライセンスさえあれば誰でも気軽にダンジョン探索ができる時代になっているのだ。高校生になった僕は夏休みに入るとすぐに探索者講習を受けライセンスを取得した。そして残りの夏休みすべてをダンジョン探索へと費やし、通常は半年以上は掛かると言われていた最初のレベルアップを、僕はわずか3週間あまりで達成した。これはとんでもない快挙といってもいいだろう。しかも他の人に比べると、身体能力がはるかに劣っているチビデブの僕がである。こんな結果をもたらした背景には、なんといっても僕のパートナーであるお菊の存在が大きいだろう。そしてもうひとつ、なぜだかわからないが、ステータスの中に『聖獣の加護』が表示されているのだ。おそらく、この効果が表れているのではないだろうか。そうして2学期が始まり僕が教室に顔を出すと、最近やたらと絡んでくるギャル友から「あんたなんか変わった!? なんていうか雰囲気とか? 背もだいぶ伸びてるみたいだし」と、なんでどうしての質問攻め。今まで異性には見向きもされなかった僕だけど、これってもしかして、『モテ期』というやつが来てるの?

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

処理中です...