気功だけで世界を変える:クラスも勇者もいらない

佐藤祐騰久兵衛

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ミュンツフルト編

灰に祈る者

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「……なんでしょう?」
 ポマニが用心深く聞き返した。

「四人の中で唯一上級職であるうぬが、なぜ実力を隠す?」

 レオン、タリンゴス、スリハンとティージの間に動揺が走る。

「おいおい、マジかよ?上級職だって!?」
「仲間にまで隠すなんて、何だよてめえ!?」
「実力を隠していたことは分かっていたが、上級職とはな。なるほど。」
 驚き、不満、不信感を口にした三人。そして自分の影に目を落とし、唇を噛んで俯くティージ。

「……俺が上級職だとバレたら、お前らが『置いてかれた』って思うだろ。俺はそんな距離作りたくなかった。」 ポマニが目を逸らし、低く呟いた。

「で、あるか。ならば1000万はなしだ。」 
 ウイルヘルムが口角を上げて呟いた。 

 レオンが「おいっ!」と声を上げ、タリンゴスが肩を落とす。スリハンは小さく息を吐いて、ティージは顔を上げられず、両手を握り潰す——全員が仕事が吹っ飛んだと覚悟した瞬間だ。

 「一人当たり……2000万が妥当であろう。合わせて1億だ。そして仕事内容も追加する。如何か?」 ウイルヘルムが言葉を続け、劇場に静寂が落ちる。 

「お、おおおお!?」レオンが目を剥き、タリンゴスが道具を落として「二千万!?一億!?」と叫ぶ。スリハンが「何!?」と初めて声を荒げ、ポマニさえも「冗談だろ…」と呟く。ティージが顔を上げ、「え、私も…?」と震え声で尋ねると、レオンが大笑い。「お前も入れて五人だろ!一億だぜ、一億!」 興奮が劇場を満たし、一行は目を輝かせてウイルヘルムを見つめた。

「ただし公平を期するならば、上級職の内ポマニは2500万、ティージは3000万、スリハンの超感覚は必要不可欠である故2500万、残り二人は各1000万が妥当であろう。尤もうぬらが報酬をどう分けようと余の関知することではないがな。」 
 ウイルヘルムがさらりと付け加えた。

「は?リーダーのオレがタリンゴスとダブル最下位で1000万だと!?いや、待ってよ……」
 レオンが混乱し、手を頭にやって目を泳がせる。
 ポマニが「ティージが上級職?」とティージに目を向け、タリンゴスが「ティージが上級職!?何!?」と声を裏返らせた。ティージは「え、ボクが上級職!?」と目を白黒させ、よろめきながら一歩下がる。

 一行が混乱と驚愕に包まれる中、ウイルヘルムは霊衡を肩に担ぎ直し、劇場の中央を見据えた。「さて、行く前に一つ済ませねばならないことがある。」彼の声は低く、厳かに響く。  

 黒い騎士——ドレンカンプ准将の亡骸と、立ち往生したままのワイトたちが整列する舞台。その姿は壮絶で、哀れでもあった。ウイルヘルムは目を閉じ、深く息を吸う。  

 彼は手を合わせ、ソの国の異語——古雅で流麗な音調で祈りを唱えた。

 若し三途の極苦の地に在りて若在三途極苦之處この光明を見れば見此光明
 みな休息を得皆得休息苦悩を離れん無復苦惱
 命尽きた後壽終之後みな解脱を蒙らん皆蒙解脫

 それは死者を導く一節、信仰より戦場の記憶として彼に残ったものだ。敬虔さはなく、ただ過去の哀しみが滲む。仏教の信者ですらないウイルヘルムだが、死者を弔う祈りなどこれ以外一つも知らない。酒があれば献杯もしただろうが、生憎7歳の身で持ち歩けるはずもない。

「皆、外へ出ろ。隠れ家への道を進め。」ウイルヘルムが静かに命じ、一行が劇場の出口へと踵を返す。彼は一人残り、霊衡を床に刺し、両手を広げた。

『炎天功——清浄妙火』

 一瞬だけ炎天功の制限を解けて気を放つと、超高温の気の波が広がり、干からびたアンデッドの亡骸を点火させ、異様な速さで燃え尽くした。ワイトが塵と化し、ドレンカンプの鎧が白熱して輝く中、その胸元で歪んだ魔石が炎に煌めいた。ウイルヘルムは目を細め、炎の中へ手を伸ばす。金剛不壊のフォースフィールドで守られている指先でその醜く歪んだ石を拾い上げた。鈍い灰色の魔石を握り、「これが……貴殿の最期の証か」と呟く。

 舞台が白熱し、木造の劇場が轟音と共に炎に呑まれた。ドレンカンプとワイトの亡骸は炎に包まれ、灰と化す。初めて心から死者の解脱を願ったウイルヘルムは、劇場の崩れる音を背に、一行を追って歩み出した。

 その時振り返ったティージが、ウイルヘルムの笑顔とも泣き顔ともつかぬ表情に目を奪われ、慌てて顔を背けた。劇場の残響が遠ざかり、一行は黙って道を進んだ。灰の匂いがまだ鼻に残る中、ウイルヘルムが追いついてきた。

「日常的に不死の魔物を狩っているうぬらのレベルはそれなりに高いはず。上級職へ転職しないのは何故?」
 一行に追いついたウイルヘルムは、歩きながら五人に聞いた。
 レオンとスリハンは顔を見合わせる。タリンゴスは肩をすくめ、ポマニは少し躊躇った後、ため息をついた。
「一応、僕は親父に基礎を叩き込まれたけど、みんなはちゃんとした教育を受けていないんです。転職条件も高い料金を支払ってギルドに入らなければ教えてくれませんし、何をどう練習すればいいのかもわかりません。だから手探りの我流で鍛えるしかないんです。」
「そういうことだ。俺たちみたいな貧乏人が戦い方を学ぼうにも、金もコネもねえからな。」レオンが苦笑する。
「それより、ボクが上級職!?どういうことかさっぱりなんだけど……」
 とティージが腕を組んで首を傾げた。
「仮説なら立てたが、その話は隠れ家についてからだ。」
 とウイルヘルムが話を一旦中断した。

「――着いたぜ、ここが隠れ家だ。」
 レオンは地下廃墟となっている家の一室で足を止め、一行を見回した。アジトは崩れた建造物の一部を活かし、かつて裕福な家族の家だった面影が微かに残る。今は苔が壁を覆い、瓦礫が無造作に積まれているが、隠れるには絶好の場所だ。

「一つ聞かせてください。なぜ僕たちに仕事を頼もうと思いましたか?」今度はポマニが聞く番のようだ。
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