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第1章

目覚めたそこは地獄?

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痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイ......!!!

突如として体をおそう激痛に、青年は立っていることもできずその場をのたうちまわる。
頭を殴られたような痛み、腹を貫かれたような痛み、内臓を掻き回されたような不快感、、、
この世のありとあらゆる痛みを凝縮したかのような、形容し難い痛みが継続的に青年に与えられる。

「がぁぁぁぁぁ、ひっ、ひっ、、、ぁぁぁ、ひっ、、、」
声はとうに枯れ、呼吸もままならない。
意識を失うことすら許されない激痛が、青年を襲い続ける。

そんな時間が何時間続いたのだろう、いや、もしかしたらたった数秒かもしれない。
永遠にも感じられる苦痛が突如として終わりを迎える。

「はぁっ、はぁっ、、、」
いつしか呼吸は安定し、先ほどまであったような苦痛が嘘のように引いていく。

「なんだよ、なんだったんだよ一体、、、」
痛みはない。体に不調も見当たらない。ただ、さっきまでの痛みが夢や幻とも思えない。
自分はなんかわけのわからない病気にでもなったのだろうか、こんな突然?
もしそうだとしたら、あの痛みを今後も経験するかもしれないのだろうか?
恐怖に囚われそうになっていた青年は、ふと周りを見回して愕然とする。

光の届かないほど鬱蒼と茂った木々、聞いたことのない鳥や虫の声、、、
「え、えっ、、、どこだここ?森?ジャングル?」

もちろんこんなところで寝た覚えはない。
なぜ自分はこんなところにいる?
(なんなんだよ、どうなってんだよ!意味わかんない痛みが治ったかと思えば、今度はわけのわかんないところにいるし!俺にどうしろって言うんだ、、、)

混乱、恐怖、恨み、諦観。
そんな感情が青年の中に渦巻き出しても、彼の受難は止まらない。

ズシン、ズシン、、、
突如として、近くから大きな足音が聞こえる。
青年はとっさに木の影に隠れて、足音のする方をうかがった。
そこには、体長が4mにもなろうかと言う赤い体色をした2足歩行の化物がこちらに向かって歩いてきていることが見て取れた。

(なんだあの化け物は!ファンタジーもののオーガみたいじゃないか。なんであんな生き物がいるんだよ。
本気でここはどこなんだ、、、)
見たことがない化け物を前に再度混乱と恐怖が青年を包む。
直感的にわかることは、あの化け物に目をつけられたら命はないと言うことだった。
(とにかく、こっちが先に気付けたのはでかい。このまま、奴の死角になるように木々に隠れていれば、、、)
ズシン、ズシン、、、
少しづつ化け物はこっちに近づいてくる。
(気づくなよ、気づくなよ、、、!
大丈夫、奴の進行方向から俺は少しずれている。このまま隠れていれば見つからないはず、、、!?)

ある程度まで近づいてきた化け物は、突如として動きを止め、そしてすぐにこちらに向かって進行方向を変えて近づいてくる。
(なんでなぜどうして?!俺は何の物音も立てていないぞ!何で急にこっちにくるんだ!)
とにかく今わかることは、奴がこっちの存在に気付いたと言うこと。そして、殺意ではなくのようなものを持って近づいていることだけである。

(とにかく逃げなきゃ、幸い今あいつはそんなに早く追ってきていない、、、!)
青年はその場を駆け出した。木の枝が刺さろうが、硬い葉で皮膚が裂けようが、そんなことはお構いなく全力で逃げる。
今まで生きてきた中で、これほどまでに早く走れたことはない。
だと言うのに、
(さっきよりも距離が近い!逃げきれない!しかも何でこっちよりちょっとだけ速い速度で追ってくるんだよ!)

逃げきれない。距離は少しづつ詰まっていく。息が切れ、足が重くなってもなお走り続けてもその差が広がることはない。
時間が立てばたつほど奴との距離は近くなる。距離が縮んでいく。

「誰か、誰か助けてくれ、、、!いやだ、死にたくない!俺が何をしたって言うんだ!」
命乞いをしようが、恨み節を吐こうが状況は変わらない。
そして、、、

「ぐぇっ、、、」
背中に衝撃が走り、肺から空気が全て吐き出される。潰れたカエルのような声を上げながら、青年は宙を舞った。
少し先の木へと叩きつけられる。視界には虫らしき物が踊り、走りつづけた足はもう立ち上がるだけの力を有していない。
「いやだ、いやだ、、、死にたく、ないよぉ。グスッ、グズッ、誰か助けてよぉ、、、」
精神が幼児のそれへと退化し、逃げることもできずにただその場で泣き続ける。
しかし、不思議とその後、あの化け物からの追撃はなかった。

恐る恐る後ろを振り返ると、あの化け物は血を吹き出して倒れ伏している。
そして、あの恐怖の化身たる化け物は、ライオンのような顔をした、尾にも口らしき物がついている別の化け物に捕食されている所だった。
「ははっ、ははは、あははははは!」
(ざまあみろ、ざまあみろ!散々嬲ってくれやがって!テメェも道連れだ、あははははは!)
もうすでに恐怖なんて感情は残っていない。擦り切れたか、壊れたか。
ライオン顔の化け物は、オーガの化け物を食い殺したのち、こちらに視線を向ける。
そして、、、
「ぐぎゃ?」
間抜けな声を上げながら、首が落とされた。

「おい、そこの男!無事か?」
女の声らしき物が聞こえる。人間の女らしき姿も見えた。

(どうなってるんだここは、、、地獄か何かか?)
あんな化け物を殺せる奴が人間な訳はない。そんなことを考えながら、青年の意識は闇に落ちていった。
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