スライム倒し人生変わりました〜役立たずスキル無双しています〜

たけのこ

文字の大きさ
8 / 39
第一章 追放と告白

第8話 マチルダさんに報告

しおりを挟む
 翌日、僕の心は躍っていた。

「あなたがダンジョンのボスキャラを倒すような剣士になったら、お付き合いを考えるわ」
 マチルダさんのこの言葉が頭から離れなかった。
 なにしろ僕は、ボスキャラを倒してしまったんだから。
 ということは。
 マチルダさんと、正式に付き合えるわけだ。
 また、キスできるのかも。

 アイテムボックスにゴブリンキングの魔石が入っていることを何度も確かめながら、僕は冒険者ギルドへと急いだ。
 この魔石を見せると、マチルダさんはどんな顔をするのだろう。
 すごい、と言って僕をほめてくれるのかな。
 そして、「こんな強い人となら私は喜んでお付き合いさせてもらうわ」と言ってくれるのかな。
 ずっとそんな妄想が頭から離れない。
 太陽があたたかく僕を包み、心地の良い風が吹き抜けていく。
 そんな中を歩いていると、あっという間に冒険者ギルドへ到着した。

「おはようございます」
 今日の僕の声は自信に満ちている。

「あら、マルコス、おはよう。早いのね」
 受付のマチルダさんが声をかけてくれる。
 まだオープンしたてのギルドだが、すでに多くの冒険者が集まっていた。みんな今日のクエストを決めているのだ。

 さあ、見てもらおう。
 マチルダさん驚くだろうな。

 僕は黙って、魔石をカウンターに置いた。
 コロンと音だけが響く。

「何、これ?」
 マチルダさんは不思議な顔をした。
「見慣れない色の魔石ね」

「うん」
 僕はこの魔石が何なのか説明したくてしかたがないところを、じっと踏みとどまって黙っていた。

「まさか、スライム以外のモンスターを倒したの?」

「うん」

「ちょっと待って、こんな魔石、見たことないわ」
 マチルダさんはその細い指でそっと魔石を触った。
「マルコス、どんなモンスターを倒してきたの?」

「ゴブリンキング」
 僕は高ぶる気持ちを必死に抑え、冷静な調子で言った。

「えっ?」
 マチルダさんが目をまるくする。
「今、なんて言ったの?」

「ゴブリンキングを倒してきたんだ」

「ゴブリンキングって、あのボスキャラの?」

「そう、ゴブリン山ダンジョンのボスキャラ」

「えー!」
 ギルド内にマチルダさんの声が響き渡った。
 その声を聞き、冒険者たちが集まってくる。

「どうしたんだ?」
 一人の年配冒険者が興味深そうに近寄ってきた。

「これを見て! ゴブリンキングの魔石よ!」
 興奮したマチルダさんの声。

「なんだって!」
 年配冒険者はオレンジ模様の魔石をつかむ。
「こ、これは!」

「ねえ、どうなの? 本物よね?」

「ああ、間違いねえ。長い間冒険者をやっているが、お目にかかったのは久しぶりだぜ。これは間違いなくゴブリンキングの魔石だ」

「ゴブリンキングの魔石だって?」
 集まってきていた冒険者たちが騒ぎ出した。
「おい、マルコス、まさかお前一人でそれを獲ってきたんじゃないだろうな?」

「いや、僕一人だよ」

「な、なんだって! お前、あのゴブリンキングを一人で倒したというのか?」

「うん、時間はかかったけど、簡単だった」

「か、簡単だった? どういうことだ? マルコスはスライムも倒せないやつだったよな?」

「ああ、そうだ。そのマルコスがどうしてボスキャラのゴブリンキングに勝てるんだ?」

 そんな言葉が飛び交っている中、一人の冒険者が僕の前に現れた。
 僕をクビにしたクローだった。

「みんな、だまされるんじゃねえぞ。こいつがボスキャラを一人で倒しただと? そんなこと、ありえるはずないだろ。こいつは犯罪人だ。この魔石はどこからか盗んできたに違いない!」
 クローは血相を変えてそう叫んだ。

 その声に押され、他の冒険者たちも同調をはじめる。
「そうだな、マルコスがボスキャラを倒すなんて、冷静に考えてありえねえことだ。なあ、マルコス、この魔石、どうやって手に入れたんだ? もしクローの言う通り盗んできたものなら、ただごとじゃあ済まされないぞ」

 そ、そんな。
 僕は愕然とした。
「これは本当に僕が獲ってきたものです。昨日一人でゴブリンキングを倒したんです」

「馬鹿言うな!」
 クローが続けた。
「もしお前が本当にこれを自分で獲ってきたというのなら、ここでそれを証明してみせろ!」

「証明?」

「ああ、この俺様、つまりAランク冒険者のクロー様とここで勝負しろ」

 何ということだ。
 せっかくゴブリンキングを倒してきたというのに、犯罪人扱いされている。

「ボックスで勝負してやる。今すぐグローブをつけろ」とクロー。

 ボックスというのは手にグローブをはめて殴り合うものだ。
 冒険者同士、勝負をつける際によく行われるものだった。

「やめて!」
 マチルダさんが声をあげた。
「ボックスだなんて野蛮なことやめてちょうだい!」

 ボックスはいくらグローブをはめていると言っても、どちらかが負傷して立てなくなるまで殴り合う危険なものだ。後遺症が出てしまうこともある。

「女は黙ってろ」
 クローは早くもグローブを付け始めている。
「マルコスはやっとスライムを倒せるようになったザコ冒険者だ。こんなやつがボスキャラを一人で倒せるわけがないことを俺様がちゃんと証明してやる」

 ああ、なんということだ。
 こんな意味のない勝負を挑まれるなんて。
 僕はもともと最弱の冒険者だったので、バカにされ一方的にやられることはあっても、一対一で人間とやり合うことなんて初めての経験だ。
 相手のクローは、おそらく百戦錬磨、ボックスもお手の物なのだろう。

 勝てるわけない。
 このままでは無様に負けて、盗人扱いされるだけだ。
 なんとかこんな勝負、止めることはできないのだろうか?

「ねえクロー、僕はボックスなんてしたことないんです。君にボコボコにやられるのは目に見えているよ。なんとかゆるしてくれませんか?」

「黙れ犯罪人! さっさとグローブをつけろ!」
 クローは僕の話などまったく聞く耳を持たない。

 やはり戦いは回避できないのか……。
 ……回避?
 そうだ、その手があるじゃないか。

「ねえクロー、ボックスのルールを確認させてもらっていいですか?」

「ああ、ルールと言っても殴り合うだけのことだがな」

「防御系や回復系のスキルは使っていいんですよね」

「当たり前だ。攻撃系以外のスキルなら全て使ってOKだ。そんなことも知らないのか!」

 そうなのだ。
 攻撃系以外のスキルなら使えるのだ。
 だったら……。

「もちろんマルコスの得意な体を光らせるだけのスキルも使えるぞ」
 クローはバカにしたように言う。

『回避』はゴブリンキングにも通用した。おそらくクローにも通用するはずだ。
 しかし。
 一抹の不安が残る。
 もし、クローには通用しなかったらどうなる?
 レベル2の僕は簡単にやられてしまうだけだ。
 けれど、もうやるしかなかった。
 相手は僕をクビにしただけではなく、マチルダさんを捨てるような男だ。
 いつかは見返しておかないと、これからもずっとやられっぱなしになってしまう。

 僕は手渡された革張りのグローブを両手にはめ込んだ。
 クローは待ち切れない様子で僕をにらみつけている。
 やがて彼はこんなことを言い出した。

「左手一本だ」

「えっ?」

「マルコスなど左手一本で充分だ。左手だけで相手をしてやるからありがたく思えよ」

 完全に僕を舐めきっている。
 まあ、僕のレベルを見れば当然のことかもしれないが。

 僕とクローはギルドの酒場フロアで向かい合っていた。

 ふと見ると、マチルダさんが心配そうな顔をしていた。
 僕のことを心配してくれているのだろうか?
 だったらうれしいな。
 そんなことを僕は考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...