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エピローグ
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数日後、クラウスは食堂に来ていた。彼が厨房のドアをノックすると、中から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「どうぞ。開いてますよ」
クラウスが入ると、ルシアナが嬉しそうに笑ってくれた。
「いらっしゃい。今日はどうしました? お一人ですか?」
「いえ、後でユリカも来ますよ」
「そう。それじゃあそれまでお話ししましょうか」
ルシアナはそう言って、すぐにお茶の用意をしてくれた。
「リタの『見送り』に行ったそうですね」
ルシアナが唐突に呟く。思わずクラウスが動揺する。参謀本部ではリタのことは秘密にされているが、どうしても人は想像するものだ。彼女が今回の事件に関わっているのではないかと。。ルシアナのような人が気付かないはずがなかった。
事情は察しているのだろうが、わざと『見送り』と濁してくれた。だからクラウスもそれに合わせた。
「はい。今頃はお母様と一緒に暮らしていると思いますよ」
「そっか……」
小さく呟くルシアナ。きっとリタとは色々あったに違いない。寂しそうに笑う彼女。すると彼女はクラウスに向き直った。
「ありがとうね。リタを見送ってくれて」
寂しそうな笑顔だった。だけどその笑みの奥では、リタの幸せを願う気持ちが見え隠れしていた。そんなルシアナにクラウスも答えた。
「きっと、リタさんも幸せだと思います。安心してください」
クラウスの言葉にルシアナは微笑んだ。優しそうな微笑みだった。
そこでお互い紅茶を一口飲む。するとルシアナがクラウスに問いかけた。
「そういえば、お嬢様とは仲直りしたみたいですね?」
「え? ああ、まあそうですね」
その問いかけに口ごもるクラウス。その反応が面白いのか、ルシアナがさらに笑みを浮かべた。
「みんな噂してますよ。あのカップルが仲直りしたみたいだって。みんな羨ましいって言ってますよ」
あの事件の後、クラウスとユリカは前みたいに普通に会話するようになった。それを周りからは仲直りしたと思われているようで、噂になっているようだった。
噂されるのは恥ずかしいが、これも以前と元通りになった証拠だ。そのことにクラウスはホッとしているのも事実だった。
「ね? 私の言った通りでしょう?」
「えっと、何がでしょう?」
クラウスの反応にルシアナはくすくす笑った。
「貴方たちは絶対に離れることはないって」
ああ、確かにそんなことを言っていた気がする。なるほど、ルシアナの言うとおりだった。やはり女の勘とは侮れないと、クラウスは思った。
「でも、やっぱりお嬢様ってすごいですね。あの火事の時はすごかったんですよ」
「え? 何かあったんですか?」
聞き返すクラウス。するとルシアナはあの夜のことを語り始めた。
「あの時、お兄さんと別れた後、あの憲兵さんと一緒に外に避難したんですよ。そうしたらそこにお嬢様がいて、私たちを見つけたら走り寄ってきて、『クラウスはどこ!?』て聞いてきたんですよ」
先に避難していたユリカはクラウスがいないことに気付き、周りにクラウスのことを聞きまわっていたという。
「私がお嬢様を探しに行ったことを伝えたら、そのまま建物に戻ろうとしたんですよ。周りも危ないって止めようとしたんですけど、行かせてくれってすごい剣幕で睨み返すものだから、周りも怖がっていたくらいでしたよ」
初めて聞く話にクラウスは驚いていた。外でそんなことが起きていたとは、全く知らなかった。
「すごい剣幕に周りも最後には諦めて、私を連れてきた憲兵さんと一緒に建物に入っていったんですよ。本当、すごかったですよ」
「そんなことが……」
クラウスは驚きを隠せなかった。あの時、自分にすごく怒っていたが、本気で心配したからこそ怒ってくれたのだ。
その事実に思わず沈黙するクラウス。そんな彼にルシアナが問いかける。
「そういえば、仲直りの言葉はどっちからですか?」
どんな答えが来るがわくわくしているルシアナ。クラウスは少し考えこんでから答えた。
「さあ? いつのまにか元通りになりましたから、よくわかりませんね」
知らない間に仲直りしていたのだ。クラウスはそう答えるしかなかった。
その答えを聞いたルシアナは、やはり面白そうに笑った。
「やっぱり貴方たちって、面白いなあ」
その時、ドアからユリカが入ってきた。
「すいません。遅くなりました」
ユリカが中に入ってきた。そんな彼女を見て、クラウスもルシアナも面白そうに笑うのだった。
皇帝戦争以来、戦争が起きることのなかった大陸に、再び戦火の香りが漂い始めていた。
ある者は不安に駆られ、ある者は胸を躍らせ、ある者は利益を得ようと動き始めていた。
大陸に新たな時代が訪れようとしていた。
この不穏な空気の中、クラウスとユリカは束の間の安らぎを楽しむのだった。
「どうぞ。開いてますよ」
クラウスが入ると、ルシアナが嬉しそうに笑ってくれた。
「いらっしゃい。今日はどうしました? お一人ですか?」
「いえ、後でユリカも来ますよ」
「そう。それじゃあそれまでお話ししましょうか」
ルシアナはそう言って、すぐにお茶の用意をしてくれた。
「リタの『見送り』に行ったそうですね」
ルシアナが唐突に呟く。思わずクラウスが動揺する。参謀本部ではリタのことは秘密にされているが、どうしても人は想像するものだ。彼女が今回の事件に関わっているのではないかと。。ルシアナのような人が気付かないはずがなかった。
事情は察しているのだろうが、わざと『見送り』と濁してくれた。だからクラウスもそれに合わせた。
「はい。今頃はお母様と一緒に暮らしていると思いますよ」
「そっか……」
小さく呟くルシアナ。きっとリタとは色々あったに違いない。寂しそうに笑う彼女。すると彼女はクラウスに向き直った。
「ありがとうね。リタを見送ってくれて」
寂しそうな笑顔だった。だけどその笑みの奥では、リタの幸せを願う気持ちが見え隠れしていた。そんなルシアナにクラウスも答えた。
「きっと、リタさんも幸せだと思います。安心してください」
クラウスの言葉にルシアナは微笑んだ。優しそうな微笑みだった。
そこでお互い紅茶を一口飲む。するとルシアナがクラウスに問いかけた。
「そういえば、お嬢様とは仲直りしたみたいですね?」
「え? ああ、まあそうですね」
その問いかけに口ごもるクラウス。その反応が面白いのか、ルシアナがさらに笑みを浮かべた。
「みんな噂してますよ。あのカップルが仲直りしたみたいだって。みんな羨ましいって言ってますよ」
あの事件の後、クラウスとユリカは前みたいに普通に会話するようになった。それを周りからは仲直りしたと思われているようで、噂になっているようだった。
噂されるのは恥ずかしいが、これも以前と元通りになった証拠だ。そのことにクラウスはホッとしているのも事実だった。
「ね? 私の言った通りでしょう?」
「えっと、何がでしょう?」
クラウスの反応にルシアナはくすくす笑った。
「貴方たちは絶対に離れることはないって」
ああ、確かにそんなことを言っていた気がする。なるほど、ルシアナの言うとおりだった。やはり女の勘とは侮れないと、クラウスは思った。
「でも、やっぱりお嬢様ってすごいですね。あの火事の時はすごかったんですよ」
「え? 何かあったんですか?」
聞き返すクラウス。するとルシアナはあの夜のことを語り始めた。
「あの時、お兄さんと別れた後、あの憲兵さんと一緒に外に避難したんですよ。そうしたらそこにお嬢様がいて、私たちを見つけたら走り寄ってきて、『クラウスはどこ!?』て聞いてきたんですよ」
先に避難していたユリカはクラウスがいないことに気付き、周りにクラウスのことを聞きまわっていたという。
「私がお嬢様を探しに行ったことを伝えたら、そのまま建物に戻ろうとしたんですよ。周りも危ないって止めようとしたんですけど、行かせてくれってすごい剣幕で睨み返すものだから、周りも怖がっていたくらいでしたよ」
初めて聞く話にクラウスは驚いていた。外でそんなことが起きていたとは、全く知らなかった。
「すごい剣幕に周りも最後には諦めて、私を連れてきた憲兵さんと一緒に建物に入っていったんですよ。本当、すごかったですよ」
「そんなことが……」
クラウスは驚きを隠せなかった。あの時、自分にすごく怒っていたが、本気で心配したからこそ怒ってくれたのだ。
その事実に思わず沈黙するクラウス。そんな彼にルシアナが問いかける。
「そういえば、仲直りの言葉はどっちからですか?」
どんな答えが来るがわくわくしているルシアナ。クラウスは少し考えこんでから答えた。
「さあ? いつのまにか元通りになりましたから、よくわかりませんね」
知らない間に仲直りしていたのだ。クラウスはそう答えるしかなかった。
その答えを聞いたルシアナは、やはり面白そうに笑った。
「やっぱり貴方たちって、面白いなあ」
その時、ドアからユリカが入ってきた。
「すいません。遅くなりました」
ユリカが中に入ってきた。そんな彼女を見て、クラウスもルシアナも面白そうに笑うのだった。
皇帝戦争以来、戦争が起きることのなかった大陸に、再び戦火の香りが漂い始めていた。
ある者は不安に駆られ、ある者は胸を躍らせ、ある者は利益を得ようと動き始めていた。
大陸に新たな時代が訪れようとしていた。
この不穏な空気の中、クラウスとユリカは束の間の安らぎを楽しむのだった。
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