上 下
4 / 14

ジョブ

しおりを挟む
俺、メロア、ララの3人はマリアベルさんに連れられて神殿にやってきた。
もう1人の子供レイラは14歳ですでに魔術師というジョブを得ている。
ちなみに彼女の姉のリーラは剣士で両親はナナヤ村の自警団の団長であることからこのジョブであったのだろう。
クローディアは裁縫師
ミーシャとムースは農民
ロロアは薬師



ナナヤ村は養蜂を売って暮らしているにもかかわらず養蜂家がいない。
理由は蜂蜜を狙ってやってくる魔物を退治することも多く、普通の戦闘職の人と肩を並べて戦いに行く血気盛んな脳筋が多いので盗賊にも勇敢に立ち向かった結果だろう。

さぁ俺たち3人から養蜂家が出るのだろうか?


馬車に揺られ神殿に着くとその大きな神殿を見上げる。前世の記憶の中から近しいものはちっさいサグラダファミリアだろうか?空に向かって聳えたつ塔が印象的だ。

神殿に入るとマスクをした神官が出迎えてくれた。
なんでマスク?とも思ったがマリアベルさんたちも今はマスクをしているからわかる。
俺たちのニオイ対策。
神官なんだったらその程度の煩悩断ち切れよ!!
マスクなんてせずに対応しろや!!
と心の中で暴言を吐き捨てる。

目だけしか見えない神官は若干嫌そうにしながら祭壇へ足早に案内してくれる。
「ようこそいらっしゃいました。こちらえどうぞ。」
と言ったきり無言だ。
ツカツカと早足で進み祭壇の前へとくると数人の神官が整列し水の入った盃を持っている。
祭壇の正面には羊皮紙を持った漆黒の神父のような格好のおじいさん。


「ではお一人づつどうぞ。」


案内してくれた神官がそういうと祭壇までの道を開けてくれる。
一瞬間があり互いに視線を交わす。
メロアとララがモジモジと先に聞いきたそうに俺と神父風爺さんを交互に見やる。


「先に行く?」


俺の言葉に2人は嬉しそうに返事をする。
どうやらメロアはララに先を譲るようでララの背中を軽く押した。
ララは嬉しそうに小走りで駆け出すと爺さんの正面で片膝をつく。
ジョブの受け方は子供用の絵本で予習済み。


「主よ敬虔なる信者を御心の導き、生受け歩みし修練が今芽吹く。さあ汝の輝きを今!」


爺さんが意味のありそうでない詠唱を唱えると水の入った盃を持った神官がララの前に盃を置く。
ララは盃に入った水をでっかい葉っぱで掬い羊皮紙にかける。
水を吸った羊皮紙はうっすらと赤く発光するとその光がララの胸に飛び込む。
どうやらこれがジョブを授かった時の現象のようだ。


「汝の天職は鍛治師である。」


羊皮紙をこちらに見えるように持ったじいさんがララのジョブを読み上げる。
羊皮紙にはそのジョブと現在使えるスキルが書かれてあり、自分の資質によって使えるスキルの数や種類が異なるらしい。また、今後も成長次第でスキルは増えるそうだ。ただし今度はお布施をして同様の儀式だか洗礼だかを受ける必要がある。
ララは嬉しそうに羊皮紙を受け取ると満々の笑みで戻ってくる。
次はメロアだ。ララと同様の工程を進める。
今度は赤ではなく黄色の発光する光がメロアの中に飛び込む。人によって色が違うのだろうか?
疑問に思いつつも様子を伺う。


「汝の天職は養蜂家である。」


「おぉ」っという小さなどよめきが広がる。
どうしたのだろうか?ナナヤ村は養蜂の村だ。諸説あるとはいえそんな村の人間なんだから養蜂家になっても不思議げはないはずだが?
あぁそうか生き残りの中に養蜂家がなかったんだっけ?そういえば俺はあの村は蜂蜜しかないような村と思ってたがこの世界の蜂蜜は甘味料としても薬としても使われてることをこの街に来て初めて知った。このパープルリッチ領の特産品であるそうで、特にうちの村の蜂蜜は上質とか言ってた。作り方を聞かれたが普通に作ればいいだけだ。わざわざジョブに頼る必要もなく生産できるとも思うのだがどうも品質が変わるようで養蜂家の作る蜂蜜がいいそうだ。
俺の作ったものも結構いい値段で売れた記憶があるがまぁどうでもいいか。
メロアは父親と同じ養蜂家になれたのがよほど嬉しいのか鼻歌交じりに戻って来た。さぁ次は俺だ。まぁ養蜂家だろうな。

羊皮紙に宿る光は青・赤・黄・白・黒と五色に彩られ俺の胸の中に飛び込んでくる。
神殿内が大きくざわつく。
「五色!!」「何だあれは!」「今までにない現象!」「いや、過去に複数の色を持ったものも」
何の話をしているのかわからないがどうも様子がおかしい。


「汝の天職は…し、しん…しんきゅうし………鍼灸師である。」


え?鍼灸師?それって俺の前世の仕事じゃないか!!

ざわざわざわ
神殿内がどよめきに彩られる。先ほどよりもかなり動揺しているようで声がダダ漏れだ。


「なんて言った?」
「し、しんきゅし。とは何だ?」
「いや、しーきゅーしーと言ってたんじゃないか?」
「そんなものは聞いたことないぞ。」
「どんなジョブだ?」
「何ができる」


神官たちが思い思いに喋り始める。


「落ち着きなさい。」


ざわめきく神殿の中凛とした声が響く。
神父風の爺さんだ。


「神殿長。しかしこれは…」
「落ち着きなさい。今までにもこう言った初見のジョブというのは報告があるんじゃ。」
「「「おぉ、誠ですか」」」「「何と!」」「「流石は神殿長様博識でらっしゃる」」


これまたどよめく神官たち。


「うぉっほん。先ほどの養蜂家。あれも数百年前にはなかったと歴史書にはある。何でもジョブの祝福の前に強い刺激のあるものは稀に今までにない職業に恵まれるという。それは有益なものからそうでないもの。他愛ないものもあったと聞く。養蜂家はこの地に根付いた固有ジョブであるしその有用性は皆も知るとこじゃろう。物の本にはジョブの洗礼の前、川で溺れた女子おなごが『波乗り師』などと何の役に立つのかわからんジョブについたものもいるそうじゃ。他にも子供の頃に崖から落ちた経験のあるものは『奇術師』というジョブで手の中に小石を握るともう片方の手に空間移動をさせることのできる能力を得たとか。」
「おぉ!転移魔法ということですか!!」
「それはそれは!!」
「落ち着け。この『奇術師』の転移は自らの手から手へ、近くにいるものの手から手へと移動させることしかできなかったそうじゃ。しかしながら様々な奇怪な現象を魔法を使わず使用した。魔力を使わぬことから魔力感知も通用せん。その技術は隠密の仕事として使われたと聞く。そうじゃなぁ。あとは『科学者』。雷に打たれて奇跡的に助かったものがいたという。そのものは『科学者』というジョブを得て様々な道具を作り出したそうじゃ。今では手軽に火を起こせる偉大な発明であるマッチ。高温の溶鉱炉。レンガもかの者の発明と聞く。その『科学者』は当時戦争真っ只中の国に生まれたそうでな。24歳という若さでこの世をさった。して独身が故に『科学者』のジョブはそのもの以外に生まれることはなかったそうな。今まで話したジョブで時折『奇術師』を始めいくつかの固有ジョブは生まれるものもある。それは其の者が子をなし、子に自身の技を伝承することが今後そのジョブを賜ることがあるかどうかに関わるとわしは思う。故に遺伝も確かにあるが、其の者の生きて来た過程で得た知識、技術によってどのようなジョブを賜るかに寄与すると愚考する。」


長ったらしい爺さんの講釈を聴き終えると神官たちはその言葉をかみしめるように『赤べこ』のごとく首を縦にふる。
口々に「なるほど」「ありがたい言葉だ」「そのような見解が!」「いやはや」などと聞こえてくる。

どうも爺さんの話からすると俺以外にも転生者(?)がいるようだ。おそらくとしか言えないがこのファンタジーな世界に養蜂家だの波乗り師ってちょっと納得のいかないジョブだ。
この地方にある固有ジョブが養蜂家ね。爺さんの考察からすると養蜂家の転生者がこの辺で家庭を持ったということだろう。
固有ジョブは全てかどうかはわからんが転生者がらみってことなんじゃないか?
波乗り師はサーファーだ。まぁ何お役に立つかと言われたら…海難救助?あ!もしかしてライフセーバーじゃね?いや知らんけど。
奇術師ってただのマジシャンだろ?あとは科学者ね。研究に夢中で独身ってことかな??
思考に夢中になっているとまた爺さんが口を開く。


「おぉ。そうじゃそうじゃ。この初見のジョブなのじゃがな。皆一様に初代は魔法が使えなくなるそうじゃ。なぜか今まで使えていたのにその事故や事件といった強い刺激の後には魔力が練れなくなるそうじゃ。故に魔法が使えず子孫を残す前に死するものが多いと伝聞にある。」


うぉい!!
何だそれ!!せっかくのファンタジーで魔法使えないのかよ!!
期待させて落とすとかそりゃないよ!!馬車の中で二つの記憶を整理して魔法すげぇとか思ったのに!!なぜか使った記憶はないけど俺も練習しようとか思ってたのに!!
ヌァ~~~!!!
ガックリときた俺は爺さんから羊皮紙を受け取ると肩を落としてみんなの元へと戻る。
落ち込みつつも悶々とする気持ちに耐えつつ神殿を後にすると馬車がすでに神殿の前に用意されていた。
馬車に乗り込む俺たちを神殿長以下神官たちが見送りに来てくれる。


「おぉそうじゃ。魔法は使えんが魔道具なら使えるものもあると聞いたの。」


出発の間際にそんな声が聞こえてくる。
何!魔道具!!ちょっとそれ詳しく!!


パシン!
パッカパッカパッカ、タッタタッタタッタ、パカラパカラ


無慈悲に馬車は速度を上げ神殿が瞬く間に小さくなっていく。
おぅ!俺の魔法無双ががががが!!

ムラムラモンモンとするこの気持ちどうしてくれようか!!
さっきまで必死に耐えていたがちょっとやばいかもしれない。
俺は馬車にある窓の隙間を睨みつけるがそんなことしても時間が戻るわけもなく向かい側に座り足をもぞもぞと擦りながら嬉しそうに羊皮紙を読みふけってる2人を見る。
隣には頬を赤く染めたマリアベルさん。朝から思うがずっと鼻息が荒い。結構無理して付き添ってくれているのだろう。でもいいのだろうか?年頃の女性がちょっと油断するとあわわなことになる状況ですよ?
俺は前世の精神力で耐え抜いてるし、目の前の子供達も時折目がおかしいけど昨日のことを思い出して必死に耐えているのだ。この人はどうなの??
まぁそんなことを考えてもムラムラが拍車をかけるだけなので羊皮紙に書かれた内容に目を向ける。




===============
名前  トウヤ
ジョブ 鍼灸師

スキル
 鍼はり生成 艾もぐさ生成 線香生成
 陰陽五行の理 房中術

===============






ほぅほぅ。なるほどなるほど。
鍼灸師ね、うんうんジョブは鍼灸師!
鍼も艾もぐさも自前で作れるし線香まで作れるのか。お灸の時に線香いるもんね!!
火も欲しいところだけど、まぁ火をつけるのもマッチがあるとかあの爺さん言ってたからなんとかなるよね!!
陰陽五行の理ってどんなスキルだ?スキルの名前しか書いてないから何ができるのかよくわからん。
でもまぁ前世の記憶の治療はできると思っていいのかな?まぁ全部が全部できるとは思わないほうがいいけどそういうことだと思っておこう。
あぁだからか。この特に説明のない羊皮紙だからこそ波乗り師も役立たずなんかもしれんな。もしかしたらなんか利用価値があってもスキルが分からなければ意味はない。口伝がどうこう言ってたのもスキルの使い方を口伝によって教えてるってことに違いない!!

ウンウン。
よし!
準備はいいかな??
ではいくよ!せ~のっ!!!
なんじゃこりゃ~~~~~~!!!

房中術て!!

房中術て!!!

いやさっきの爺さん曰く生活の中での得た知識、技術やらが起因するんだろうけど!!だろうけど!!!!
いやね?確かに鍼灸の治療にはその昔、大昔には房中術ってのがあるってのは医心方というそれはそれは有名な医学書。現代医学にも通ずる医学書に書かれてるよ?
現代にはちょっとこれはどうかな?ってものもやっぱりあるわけでね?その~ちょっと違うんじゃない?
いやいや、もしかして仙人にでもしたいの?霞食うの?霊薬作るの?俺そんなことできないと思います!!

はぁはぁ

いや待て!でもでもだよ?
今の状況からすると房中術って得るべきして得てるよね?
夢魔とか魅了とか?どうにも9人で隔離してよろしくやってくれってのも…ねぇ?

はぁはぁ

いやダメだ!ダメだダメだ!!
頭の中をめぐるいけない思考に陥っているといつの間にか兵舎にたどり着いていた。
しおりを挟む

処理中です...