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エルルを衛兵詰め所のそばの適当なスペースに止めると皮鎧をきた黒髪の青年と先ほどの衛兵と同じ鎧を着た衛兵に案内されるがままに部屋へと入る。
なんだか殺風景で机と椅子しかない。
「ではそちらにお座りください。」
皮鎧の青年が椅子に座るとその正面にレインを座るように指示する。
「あぁ、どうも。あれ?みんな別々に聞くんですね。」
「えぇ。いっぺんに聞くと話に収拾つかない時があるんですよ。それはこうだった、あれはこうだったと人によっては表現が違うし特徴も微妙に変わってくるんですよ。他にも人の話に合わせてしまって本当のことがわからないとかね。」
「へぇ~。ってそんなこと言っていいんですか?」
「あぁこれくらいなら大丈夫です。」
「おいモーディア無駄話もほどほどにしろ。パトラ様達を待たせることになるんだぞ。」
「ごめんなさい。」
ドアの側に立ってる衛兵に注意される皮鎧の青年はモーディアというらしい。
「あ、そうそう自己紹介まだでしたね。僕はモーディアです。一応調査官ってことになります。まぁちょっとした聴取しかしたことないんですけどね。」
「そうなんだ。皮鎧きてるぐらいだからもっと犯罪者っぽいのとか担当だと思った。」
「え!イヤイヤ違いますよ!これは街の門が近いので念のためつけてるってだけなんですよ。『世界融合』以来アトーリアの近くに森ができましたからね。あそこのモンスターが時折襲ってくるので入場審査待ちの人たちを避難誘導しないといけない時が「モーディア!」」
「ごめんなさい!いま聴取とります!!」
「あ、ごめんなさい俺が変なこと聞くから。」
「い、いえいえ。僕もおしゃべりが好きなんですよ。」
そこから当たり障りのない質問から盗賊の話、森にいた理由。念のために身分証の提示といっても手の甲の刻印を見せてよくわからない石版に触れるだけだ。
犯罪歴がなく、闇職がないことだけの確認だそうだ。
ゲーム時代にもあったアイテムではあるが入手不可能なアイテムであった。現実となった今なら手に入れることができるんじゃないかと思い駄目元で聞いて見るとオリジナルはその人物の取得職業・スキルを含め、ほぼ全ての情報を表示するアイテムで、迷宮の宝箱から出た代物らしくここにあるのはその複製品だそうだ。オリジナル品は世界に1つ大国『レイメルト聖王国』が保有し、類似品がダンジョンから1つ。こちらは他大陸の何処かの国に保有者がいるそうだ。類似品といったのは同様の効果があったアイテムは水晶の形をしているんだそうだ。形違いの同じ効果ということになる。
だがレインにとってはどちらも集めたい。とはいえ世界に1つしかない上にどこぞの国が囲ってしまっているものを買い取ることはできなさそう。盗むのは論外だ。レインのルールは『コレクションするものは正規の手段で!』これが原則で多少例外もある。
コレクターの中には盗んでコレクションするものもいるがレインは何かコレクションとは言えないように思えて盗みはしていない。レインは自分1人で楽しむより時折みんなと一緒に鑑賞するのが好きなのだ。
ちなみに水晶型の方は複製できなかったそうだ。
そしてモーディア曰く『世界融合』以降『レイメルト聖王国』である程度功績をあげれば購入可能となるそうだ。
よって一部の商人はこの石版を持っているらしい。なぜそのようなことになったかというと『世界融合』によって新たに現れた世界に存在する未知のジョブを闇職かどうか判断することができるかららしい。
正式名称は『審判の石碑・レプリカ』
欲しい!!けど見ただけでわかるその素材と魔法陣からすると自作できそうである。隠遁の付与魔法で正確な魔法陣を見えないように工夫されているが見る人が見れば簡単に複製できるのだ。だが自作するのも面白くないので頑張って手に入れようと心に誓う。まぁ勝手に作ればレイメルとあたりに怒られるというのも理由の一つだ。
こういった変化はコレクターとしていろんなアイテムが増えそうなのでドンとこいだ。
聴取を終えるとパトラとナターシャは領主の城へと向かったことを聞かされた。貴族は貴族で忙しいようだ。
一度外の空気が吸いたくなったので兵舎の外に出る。外に出ると聴取の終わったプルシアーナとロアナがぼーっとしていた。
話を聞いて見ると二人はバウチャック商会の奉公人ではあるのだが、商会の人間がほぼ全員殺され引き取り手がいないそうだ。
奉公先のバウチャック商会の人が全員死んでいるとは思っていなかった二人は聴取の後どうしていいのかわからなくなっていたそうだ。盗賊に襲われてすぐにプルシアーナとロアナは気を失っていたから商隊のみんながどうなっているのか知らなかったということだ。
このバウチャック商会と言うのはこのアトーリアから1日半ほどの距離にあるアーチという名前の町にある商会で、この町には水田があり米が取れる。その米が大層美味しいサラダになるようで貴族からもよく知られる一品だそうだ。米をサラダにするという発想はレインにはなかったがどこかの国でそういう料理があることを知っていたので特に驚きはなかった。
『世界融合』で困窮したエルトゥールルの食糧事情を改善するのにも役だったようでバウチャック商会は小さいながらも有名な理由がこの米ということだ。
ただ今回の誕生祭のために商会総出で新たな米を使った料理を露店で売ろうということになり移動中に全滅となったのだ。
身寄りもないプルシアーナとロアナはどうしたものかと途方に暮れているようだが、先ほどパトラが一緒に来るよう声をかけてきたが自身の汚れた服装を気にしてついていかなかったのだという。
「で、これからどうするつもりだったの?」
レインの質問にプルシアーナは少しの沈黙の後何か決意を決めたように口を開く。
「アトーリアで働き場所を探すつもりです。ただ…今は手持ちのお金もないので……少しの間ロアナを預かってもらえませんか?今夜だけでいいんです。そしたら必ず少しお金を作ります。そしたらお仕事も探せると思うんです。」
「え?まぁ預かるのはいいけど…」
レインはそんな急にお金なんてできないだろうと思いつつ「何かあるのかなぁ」と楽観的に考えロアナを預かるのを了承したがすぐさまプルシアーナが何をしようと考えてるのか理解する。
「レインさんとちょっとの間一緒にいてくれる?おねぇちゃんお仕事「待って!」」
プルシアーナの言葉を遮るとプルシアーナの手を握る。
「まずは宿を取ろう。誕生祭ってぐらいだし宿も取りにくいだろ?」
「え?ですからお金が」
「大丈夫!盗賊が残してった盗品を見てもらってるから。持ち主がわかるようならお礼金が出るんだよ。まぁ今回はほとんどパトラのだとわかってるんだけどね。」
「それはレインさんのお金です。」
「でも元はパトラやバウチャック商会のだから」
「そう、ですが…」
「はい決まり!ちょっと待っててすぐにお金もらって…やっぱ一緒に行こうか。ねぇロアナ。」
「うん!」
なんとなく手を離すと何処かに行ってしまう気がしてそのまま兵舎へと戻る。こういう時にどうしていいのかよくわからないレインはとりあえず一緒に宿に入ってから話をしようと考える。
盗品を受け渡す際に教えられた窓口に向かう。
「すいませーん。レインと申しますが先ほどの盗品はどうなりましたか?」
「はーい」
野太い声と共にモーディア同様皮鎧を着たメガネのおじさんが小走りでやってくる。
「はい。査定も終わっていますよ。ほとんどはパトラ様の私物のようです。すでにナターシャ様が受け取られていますよ。報奨金はこちらとなっています。」
担当の男性からスッと紙切れを渡される。
「この紙を持って為替ギルドへと向かってください。あ、為替ギルドってわかりますか?国によっては銀行って呼ばれてるんですが。」
「えっと看板とかありますか?」
「ええ、金塊の絵が書いてあるのでわかりやすいかと思います。」
「わかりました。ありがとうございます。」
お礼を言い紙切れを受け取る。
「残りは木材とヴァルガード帝国の印が入った槍と片手剣がありましたがどういたしますか?一応証拠品として木材は一つ、槍と剣は全て引き取りたいそうですが。討伐なさったのはレイン様なので…あぁもちろんお金は追加でお支払いしますよ。」
「う~ん…」
正直レインとしては国の印のついた槍も片手剣も手にいれたい。しかし今回は証拠品として提出して欲しいとのことだ。欲しいが何かモヤモヤとした気持ちで所持するのも嫌な小心者のレイン。
「よし!わかりました。木材は欲しいので一つだけ提供でお願いします。あとはお金はいらないので引き取ってください。」
お金には特に執着がないレインにとって今からお金の計算をされるのも鬱陶しい。
さっさと宿を決めてしまいたいのだ。
「よろしいので?」
「えぇ。それより宿を取らないといけません。誕生祭ってぐらいですから取りづらいんですよね?」
「あぁなるほど。そうですね、すぐ木材をレイン様の車に積みます。その間に計算できますからちゃんと受け取ってくださいね。」
「そうですか。じゃあお願いします。」
それから5分ほどでエルルに木材が積み込まれ宿を探すべくエルルを走らせる。が、木材はすでにレインのイベントリの中。ダメ元でイベントリに入れると入ってしまったのだ兵士に聞いてみると所有者が死んだか足止め目的で放置されたなら一定期間経つと所有者が空欄となることもあるようだ。積み込み作業をした兵士の努力は無駄の一言である。
まずは報奨金を銀行に取りに行ってついでに空いてそうな宿を聞く。銀行から出るとエルルが見世物になっていたのでイベントリに収納を試みるが入らない。無念!見世物感はそのままに宿に向けてエルルを走らせる。
今からだと治安の良くない貧民街か高級宿のある内壁の向こう側、城の近くが空いてるはずだと聞きせっかくなので高級宿へと向かう。
内壁をくぐるとプルシアーナが慌てたように声をあげる。
「レインさん!そんな高級な宿払えません!」
「いいからいいから。」
「私たちは安宿で十分です。」
「女の子が治安の悪いとこ行くのは許せません。」
「ですが今日中に作れるお金は多分そんなに多くは「それもダメ~」」
「え?」
「自分の体は大事にしないとダメだよ?」
「な!」
プリシアーナは自分がしようとしていたことを勘付かれて戸惑い口を結ぶ。
エルルを止められる駐車スペースを貸してくれる高級宿『月下風雲』という和風の宿に入る。
実はこの宿は日本人プレイヤーが立ち上げた有名な宿で温泉がある旅館だ。いくつかの部屋には内風呂があり絶妙な角度で城が見えるそうだ。アトーリアは仮想敵国であるヴァルガード帝国が近いために城があるのだが、実用性より見栄えを重視されているのか微妙に色が異なる赤いレンガが使われた城は月明かりに照らされるとなんとも綺麗な洋風の城とプレイヤーに噂されている。実際はかなりの強度を誇るモンスターの素材をふんだんに使った鉄壁の城だ。レインもこの城の築城には関わっているのでどれだけ堅牢であるかは知っている。
「いらっしゃいませ。」
玄関をくぐると浴衣姿の仲居さんが出迎えてくれる。一瞬プルシアーナとロアナの服装に眉をしかめるがすぐに営業スマイル。
ここから先は土足厳禁になるために二人に靴を脱ぐように言って中に入る。
「ご予約様でしょうか?」
「いえ、予約はしていないんですが銀行じゃなくって、為替ギルドでおそらく空いてるだろうと紹介されました。三人なんですが2部屋空いてますか?」
「左様でございますか。少々お待ちください。」
仲居さんが番台の後ろに消えていくと数分して戻ってくる。
「お調べ致しましたところ残念ながら一部屋のみ空室となります。その一部屋も内風呂付きの4人部屋となっておりまして、一泊朝夜のお食事付きでお一人様4万ルルとなっております。」
ルルというのはエルトゥールルの貨幣の単位だ。
どこの国にも独自の貨幣がある。統一した貨幣もないわけではないが若干レートが違うので計算が面倒だ。
金貨や銀貨もあるが紙幣も存在する。ルル硬貨はこのガイアースの中では一番信用されている貨幣なのでどの国で使っても嫌な顔をされることはない。統一硬貨が泣いてるようだがまぁ仕方ない。
先ほどの報奨金が合計50万ルルだったのでその報酬だけでも十分泊まれる。
「あぁ~プルシアーナとロアナは俺と一緒の部屋でもいい??」
「え!あの「うん!いいよ!」」
「じゃあその部屋でお願いします。連泊はできますか?」
「ちょ!」
「ありがとうございます。連泊は3日であれば可能です。そのあとは他の部屋がもし空室となればそちらに移っていただくかと存じますがよろしいでしょうか??」
「ええ、大丈夫です。」
「ありがとうございます。では3名様3泊で36万ルルでございます。先払いとなっておりますがよろしいでしょうか?」
「あ、はい。」
「それではこちらにお名前をお書きいただいてこちらの石版に手を触れて魔力を流してください。代金はこちらにお願いいたします。」
「えーっと…はい、これ。」
言われた通りに名前を書き石版に魔力を流す。
イベントリにしまっている巾着袋に入った金貨を取り出すと大金貨が3枚と小金貨6枚を指定された場所に置く。
「確認させていただきます。旧硬貨!?よろしいのですか?旧硬貨は今の硬貨より若干価値が高いですよ?」
「え?あぁいいですよ。」
ゲーム時代のルル貨幣を出したために一瞬使えないのかと思ったがどうも価値が違うようだ。『世界融合』以降金属の供給量が減ったためにどこの国の硬貨も混ぜ物の比率が上がりどこの国の旧硬貨も価値が上がっているのだ。
もちろん今の硬貨もさっきもらってきたけどゲーム時代とデザインが違ったので払いたくないレインは多少価値が違ってもこれを今手放したくなかった。たとえこれから手に入るとしても一時的に手元から無くなるのを恐れたのだ。
「36万ルル確かに…。ありがとうございます。こちらが部屋の鍵でございます。係りの者が案内いたしますので向かって右側の通路にお願いいてします。」
「行こうか。」
「ちょっと待ってください!」
あっという間にお金を払い終わり3日間の宿泊が決まる中プルシアーナが声をあげる。
「プルシアーナ?どうしたの?他のお客さんの迷惑になるからまず部屋に行こうね?」
「あ!ごめんなさい。」
「おねぇちゃん怒られてる!」
シュンとしたプルシアーナと姉が怒られるのが珍しいのか目を丸くしてるロアナ。二人の手を引いて案内役の仲居さんについていく。
「こちらが『月光の間』でございます。当宿では最高級のお部屋でここから見えるアトーリア城は格別!ぜひお風呂に浸かりながらお楽しみ下さい。」
「おぉ!それはそれは!」
なんか高級宿っぽい説明を聞いてテンションのあがるレインは木製の扉に鍵を差し込む。
カチン!
回してもいないのに甲高い音とともに木の扉が自動で開くと純日本風の畳敷きの部屋だ。
結界魔法を使った仕掛けであろうことはレインにもわかる。自分にもこれはできそうではあるが初めて見る仕掛けにちょっと興奮する。
(何!ゲーム時代からこんな魔法を開発した人がいるのか!!んな~~~くそ!何でゲーム時代に泊まってなかったんだ!そうしたら知っていたのに!!)
こんな魔法知らなかったと蒐集していない魔法に悔しさが湧き上がる。
(もしかして他の宿とか使ったことのない施設の中にも?)
これ以外にも案外知らない物がいっぱいありそうだと思いグツグツと腹のなかが煮えたぎる。
日常生活の中にも知らない、コレクションしてないものはあるんだろうと思うと楽しくなってくる。
レインはにやける顔を必死に抑えつつ二人と一緒に部屋の中へと入っていく。
なんだか殺風景で机と椅子しかない。
「ではそちらにお座りください。」
皮鎧の青年が椅子に座るとその正面にレインを座るように指示する。
「あぁ、どうも。あれ?みんな別々に聞くんですね。」
「えぇ。いっぺんに聞くと話に収拾つかない時があるんですよ。それはこうだった、あれはこうだったと人によっては表現が違うし特徴も微妙に変わってくるんですよ。他にも人の話に合わせてしまって本当のことがわからないとかね。」
「へぇ~。ってそんなこと言っていいんですか?」
「あぁこれくらいなら大丈夫です。」
「おいモーディア無駄話もほどほどにしろ。パトラ様達を待たせることになるんだぞ。」
「ごめんなさい。」
ドアの側に立ってる衛兵に注意される皮鎧の青年はモーディアというらしい。
「あ、そうそう自己紹介まだでしたね。僕はモーディアです。一応調査官ってことになります。まぁちょっとした聴取しかしたことないんですけどね。」
「そうなんだ。皮鎧きてるぐらいだからもっと犯罪者っぽいのとか担当だと思った。」
「え!イヤイヤ違いますよ!これは街の門が近いので念のためつけてるってだけなんですよ。『世界融合』以来アトーリアの近くに森ができましたからね。あそこのモンスターが時折襲ってくるので入場審査待ちの人たちを避難誘導しないといけない時が「モーディア!」」
「ごめんなさい!いま聴取とります!!」
「あ、ごめんなさい俺が変なこと聞くから。」
「い、いえいえ。僕もおしゃべりが好きなんですよ。」
そこから当たり障りのない質問から盗賊の話、森にいた理由。念のために身分証の提示といっても手の甲の刻印を見せてよくわからない石版に触れるだけだ。
犯罪歴がなく、闇職がないことだけの確認だそうだ。
ゲーム時代にもあったアイテムではあるが入手不可能なアイテムであった。現実となった今なら手に入れることができるんじゃないかと思い駄目元で聞いて見るとオリジナルはその人物の取得職業・スキルを含め、ほぼ全ての情報を表示するアイテムで、迷宮の宝箱から出た代物らしくここにあるのはその複製品だそうだ。オリジナル品は世界に1つ大国『レイメルト聖王国』が保有し、類似品がダンジョンから1つ。こちらは他大陸の何処かの国に保有者がいるそうだ。類似品といったのは同様の効果があったアイテムは水晶の形をしているんだそうだ。形違いの同じ効果ということになる。
だがレインにとってはどちらも集めたい。とはいえ世界に1つしかない上にどこぞの国が囲ってしまっているものを買い取ることはできなさそう。盗むのは論外だ。レインのルールは『コレクションするものは正規の手段で!』これが原則で多少例外もある。
コレクターの中には盗んでコレクションするものもいるがレインは何かコレクションとは言えないように思えて盗みはしていない。レインは自分1人で楽しむより時折みんなと一緒に鑑賞するのが好きなのだ。
ちなみに水晶型の方は複製できなかったそうだ。
そしてモーディア曰く『世界融合』以降『レイメルト聖王国』である程度功績をあげれば購入可能となるそうだ。
よって一部の商人はこの石版を持っているらしい。なぜそのようなことになったかというと『世界融合』によって新たに現れた世界に存在する未知のジョブを闇職かどうか判断することができるかららしい。
正式名称は『審判の石碑・レプリカ』
欲しい!!けど見ただけでわかるその素材と魔法陣からすると自作できそうである。隠遁の付与魔法で正確な魔法陣を見えないように工夫されているが見る人が見れば簡単に複製できるのだ。だが自作するのも面白くないので頑張って手に入れようと心に誓う。まぁ勝手に作ればレイメルとあたりに怒られるというのも理由の一つだ。
こういった変化はコレクターとしていろんなアイテムが増えそうなのでドンとこいだ。
聴取を終えるとパトラとナターシャは領主の城へと向かったことを聞かされた。貴族は貴族で忙しいようだ。
一度外の空気が吸いたくなったので兵舎の外に出る。外に出ると聴取の終わったプルシアーナとロアナがぼーっとしていた。
話を聞いて見ると二人はバウチャック商会の奉公人ではあるのだが、商会の人間がほぼ全員殺され引き取り手がいないそうだ。
奉公先のバウチャック商会の人が全員死んでいるとは思っていなかった二人は聴取の後どうしていいのかわからなくなっていたそうだ。盗賊に襲われてすぐにプルシアーナとロアナは気を失っていたから商隊のみんながどうなっているのか知らなかったということだ。
このバウチャック商会と言うのはこのアトーリアから1日半ほどの距離にあるアーチという名前の町にある商会で、この町には水田があり米が取れる。その米が大層美味しいサラダになるようで貴族からもよく知られる一品だそうだ。米をサラダにするという発想はレインにはなかったがどこかの国でそういう料理があることを知っていたので特に驚きはなかった。
『世界融合』で困窮したエルトゥールルの食糧事情を改善するのにも役だったようでバウチャック商会は小さいながらも有名な理由がこの米ということだ。
ただ今回の誕生祭のために商会総出で新たな米を使った料理を露店で売ろうということになり移動中に全滅となったのだ。
身寄りもないプルシアーナとロアナはどうしたものかと途方に暮れているようだが、先ほどパトラが一緒に来るよう声をかけてきたが自身の汚れた服装を気にしてついていかなかったのだという。
「で、これからどうするつもりだったの?」
レインの質問にプルシアーナは少しの沈黙の後何か決意を決めたように口を開く。
「アトーリアで働き場所を探すつもりです。ただ…今は手持ちのお金もないので……少しの間ロアナを預かってもらえませんか?今夜だけでいいんです。そしたら必ず少しお金を作ります。そしたらお仕事も探せると思うんです。」
「え?まぁ預かるのはいいけど…」
レインはそんな急にお金なんてできないだろうと思いつつ「何かあるのかなぁ」と楽観的に考えロアナを預かるのを了承したがすぐさまプルシアーナが何をしようと考えてるのか理解する。
「レインさんとちょっとの間一緒にいてくれる?おねぇちゃんお仕事「待って!」」
プルシアーナの言葉を遮るとプルシアーナの手を握る。
「まずは宿を取ろう。誕生祭ってぐらいだし宿も取りにくいだろ?」
「え?ですからお金が」
「大丈夫!盗賊が残してった盗品を見てもらってるから。持ち主がわかるようならお礼金が出るんだよ。まぁ今回はほとんどパトラのだとわかってるんだけどね。」
「それはレインさんのお金です。」
「でも元はパトラやバウチャック商会のだから」
「そう、ですが…」
「はい決まり!ちょっと待っててすぐにお金もらって…やっぱ一緒に行こうか。ねぇロアナ。」
「うん!」
なんとなく手を離すと何処かに行ってしまう気がしてそのまま兵舎へと戻る。こういう時にどうしていいのかよくわからないレインはとりあえず一緒に宿に入ってから話をしようと考える。
盗品を受け渡す際に教えられた窓口に向かう。
「すいませーん。レインと申しますが先ほどの盗品はどうなりましたか?」
「はーい」
野太い声と共にモーディア同様皮鎧を着たメガネのおじさんが小走りでやってくる。
「はい。査定も終わっていますよ。ほとんどはパトラ様の私物のようです。すでにナターシャ様が受け取られていますよ。報奨金はこちらとなっています。」
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「この紙を持って為替ギルドへと向かってください。あ、為替ギルドってわかりますか?国によっては銀行って呼ばれてるんですが。」
「えっと看板とかありますか?」
「ええ、金塊の絵が書いてあるのでわかりやすいかと思います。」
「わかりました。ありがとうございます。」
お礼を言い紙切れを受け取る。
「残りは木材とヴァルガード帝国の印が入った槍と片手剣がありましたがどういたしますか?一応証拠品として木材は一つ、槍と剣は全て引き取りたいそうですが。討伐なさったのはレイン様なので…あぁもちろんお金は追加でお支払いしますよ。」
「う~ん…」
正直レインとしては国の印のついた槍も片手剣も手にいれたい。しかし今回は証拠品として提出して欲しいとのことだ。欲しいが何かモヤモヤとした気持ちで所持するのも嫌な小心者のレイン。
「よし!わかりました。木材は欲しいので一つだけ提供でお願いします。あとはお金はいらないので引き取ってください。」
お金には特に執着がないレインにとって今からお金の計算をされるのも鬱陶しい。
さっさと宿を決めてしまいたいのだ。
「よろしいので?」
「えぇ。それより宿を取らないといけません。誕生祭ってぐらいですから取りづらいんですよね?」
「あぁなるほど。そうですね、すぐ木材をレイン様の車に積みます。その間に計算できますからちゃんと受け取ってくださいね。」
「そうですか。じゃあお願いします。」
それから5分ほどでエルルに木材が積み込まれ宿を探すべくエルルを走らせる。が、木材はすでにレインのイベントリの中。ダメ元でイベントリに入れると入ってしまったのだ兵士に聞いてみると所有者が死んだか足止め目的で放置されたなら一定期間経つと所有者が空欄となることもあるようだ。積み込み作業をした兵士の努力は無駄の一言である。
まずは報奨金を銀行に取りに行ってついでに空いてそうな宿を聞く。銀行から出るとエルルが見世物になっていたのでイベントリに収納を試みるが入らない。無念!見世物感はそのままに宿に向けてエルルを走らせる。
今からだと治安の良くない貧民街か高級宿のある内壁の向こう側、城の近くが空いてるはずだと聞きせっかくなので高級宿へと向かう。
内壁をくぐるとプルシアーナが慌てたように声をあげる。
「レインさん!そんな高級な宿払えません!」
「いいからいいから。」
「私たちは安宿で十分です。」
「女の子が治安の悪いとこ行くのは許せません。」
「ですが今日中に作れるお金は多分そんなに多くは「それもダメ~」」
「え?」
「自分の体は大事にしないとダメだよ?」
「な!」
プリシアーナは自分がしようとしていたことを勘付かれて戸惑い口を結ぶ。
エルルを止められる駐車スペースを貸してくれる高級宿『月下風雲』という和風の宿に入る。
実はこの宿は日本人プレイヤーが立ち上げた有名な宿で温泉がある旅館だ。いくつかの部屋には内風呂があり絶妙な角度で城が見えるそうだ。アトーリアは仮想敵国であるヴァルガード帝国が近いために城があるのだが、実用性より見栄えを重視されているのか微妙に色が異なる赤いレンガが使われた城は月明かりに照らされるとなんとも綺麗な洋風の城とプレイヤーに噂されている。実際はかなりの強度を誇るモンスターの素材をふんだんに使った鉄壁の城だ。レインもこの城の築城には関わっているのでどれだけ堅牢であるかは知っている。
「いらっしゃいませ。」
玄関をくぐると浴衣姿の仲居さんが出迎えてくれる。一瞬プルシアーナとロアナの服装に眉をしかめるがすぐに営業スマイル。
ここから先は土足厳禁になるために二人に靴を脱ぐように言って中に入る。
「ご予約様でしょうか?」
「いえ、予約はしていないんですが銀行じゃなくって、為替ギルドでおそらく空いてるだろうと紹介されました。三人なんですが2部屋空いてますか?」
「左様でございますか。少々お待ちください。」
仲居さんが番台の後ろに消えていくと数分して戻ってくる。
「お調べ致しましたところ残念ながら一部屋のみ空室となります。その一部屋も内風呂付きの4人部屋となっておりまして、一泊朝夜のお食事付きでお一人様4万ルルとなっております。」
ルルというのはエルトゥールルの貨幣の単位だ。
どこの国にも独自の貨幣がある。統一した貨幣もないわけではないが若干レートが違うので計算が面倒だ。
金貨や銀貨もあるが紙幣も存在する。ルル硬貨はこのガイアースの中では一番信用されている貨幣なのでどの国で使っても嫌な顔をされることはない。統一硬貨が泣いてるようだがまぁ仕方ない。
先ほどの報奨金が合計50万ルルだったのでその報酬だけでも十分泊まれる。
「あぁ~プルシアーナとロアナは俺と一緒の部屋でもいい??」
「え!あの「うん!いいよ!」」
「じゃあその部屋でお願いします。連泊はできますか?」
「ちょ!」
「ありがとうございます。連泊は3日であれば可能です。そのあとは他の部屋がもし空室となればそちらに移っていただくかと存じますがよろしいでしょうか??」
「ええ、大丈夫です。」
「ありがとうございます。では3名様3泊で36万ルルでございます。先払いとなっておりますがよろしいでしょうか?」
「あ、はい。」
「それではこちらにお名前をお書きいただいてこちらの石版に手を触れて魔力を流してください。代金はこちらにお願いいたします。」
「えーっと…はい、これ。」
言われた通りに名前を書き石版に魔力を流す。
イベントリにしまっている巾着袋に入った金貨を取り出すと大金貨が3枚と小金貨6枚を指定された場所に置く。
「確認させていただきます。旧硬貨!?よろしいのですか?旧硬貨は今の硬貨より若干価値が高いですよ?」
「え?あぁいいですよ。」
ゲーム時代のルル貨幣を出したために一瞬使えないのかと思ったがどうも価値が違うようだ。『世界融合』以降金属の供給量が減ったためにどこの国の硬貨も混ぜ物の比率が上がりどこの国の旧硬貨も価値が上がっているのだ。
もちろん今の硬貨もさっきもらってきたけどゲーム時代とデザインが違ったので払いたくないレインは多少価値が違ってもこれを今手放したくなかった。たとえこれから手に入るとしても一時的に手元から無くなるのを恐れたのだ。
「36万ルル確かに…。ありがとうございます。こちらが部屋の鍵でございます。係りの者が案内いたしますので向かって右側の通路にお願いいてします。」
「行こうか。」
「ちょっと待ってください!」
あっという間にお金を払い終わり3日間の宿泊が決まる中プルシアーナが声をあげる。
「プルシアーナ?どうしたの?他のお客さんの迷惑になるからまず部屋に行こうね?」
「あ!ごめんなさい。」
「おねぇちゃん怒られてる!」
シュンとしたプルシアーナと姉が怒られるのが珍しいのか目を丸くしてるロアナ。二人の手を引いて案内役の仲居さんについていく。
「こちらが『月光の間』でございます。当宿では最高級のお部屋でここから見えるアトーリア城は格別!ぜひお風呂に浸かりながらお楽しみ下さい。」
「おぉ!それはそれは!」
なんか高級宿っぽい説明を聞いてテンションのあがるレインは木製の扉に鍵を差し込む。
カチン!
回してもいないのに甲高い音とともに木の扉が自動で開くと純日本風の畳敷きの部屋だ。
結界魔法を使った仕掛けであろうことはレインにもわかる。自分にもこれはできそうではあるが初めて見る仕掛けにちょっと興奮する。
(何!ゲーム時代からこんな魔法を開発した人がいるのか!!んな~~~くそ!何でゲーム時代に泊まってなかったんだ!そうしたら知っていたのに!!)
こんな魔法知らなかったと蒐集していない魔法に悔しさが湧き上がる。
(もしかして他の宿とか使ったことのない施設の中にも?)
これ以外にも案外知らない物がいっぱいありそうだと思いグツグツと腹のなかが煮えたぎる。
日常生活の中にも知らない、コレクションしてないものはあるんだろうと思うと楽しくなってくる。
レインはにやける顔を必死に抑えつつ二人と一緒に部屋の中へと入っていく。
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リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
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ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
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