異世界って色々面倒だよね

綾織 茅

文字の大きさ
16 / 65
勘違いしちゃったお姫様

12

しおりを挟む



□■□■



 今まで色んな性格の奴に会ってきた。
 十人十色なんて言うけど実際二重人格やら腹黒なんかで一人二色も三色も持つ強者もいる。十人十色なんて最初に言えた奴の周りにはまともな奴ばかりだったんだろう。私はそう、運が悪かっただけで。

 でもな? こういう性格の奴はやめようか。マジ無理。ホント無理。

 いや、おかしいでしょ。

 まだ『魔王様を倒すという勇者を子供のうちから始末しに来た!』とか言ってくれたら罵れますよ、思う存分罵倒した挙げ句に返り討ちにしてやりますとも。えぇ、間違いなく。


「ねぇ、まだぁ?」


 春先じゃなくて良かった。玄関のドアは姿を消し、中から外が丸見え……違うな、外から中が丸見え状態になっている。
 まずはここの修繕をしよう。

 ジョシュアはシンがついているから大丈夫だろう。神殿へ直通で運んだからリヒャルトもいるし、ユアンもいる。たまには私の面倒事の手伝いして欲しいし、構わない……はず。


「ねぇってばぁ。聞こえてる?」


 あ、混乱するといけないから念のため。さっきから背後で無邪気な声を響かせているのはジョシュアじゃない。


「…………僕、そんなに気が長くないんだよね」
「黙らっしゃい! 人を訪ねてくるときは時間を気にしろ! 今何時だと思ってんだ!?」
「何時って……三時だけど?」
「そう! 三時! 夜中の!! 良い子と疲れた人はみんなぐっすりお休み中の時間!! これについて何か言うことは!?」
「だって僕、悪魔だよ? そんなことより早く何か作って。お腹空いたんだよ、僕は」


 ザ・ワガママ!
 ご飯要求する前にお前が壊した玄関のドア直せや!!
 違う! 反省だ!! こんな夜中にいきなり奇襲かけてきたことについての!


 …………本気でジョシュア目当ての奇襲かと思って焦ったのに。蓋を開けてみればなんのことはない。異世界の料理が食べてみたいから作ってだぁ?
 一昨日来いっての!!


「………その目、その言動。お前、『緋の異端児』だろう?」
「うわぁ。その名で呼ばれたの随分久しぶりかも。最近はずっと別の名前で呼ばれてたからなぁ」


 ……無邪気な言動の一方、仲間すらも躊躇なく手にかけられるという残忍さ。好きなことは殺戮・拷問。かつては神のお膝元で仕えていた天使ながら、自分の興味が薄れると迷うことなく堕天の道を選んだ悪魔の中の悪魔。魔王の右腕とも呼ばれる魔界の公爵。よく天使なんてものに生まれることができたもんだとユアンから話を聞いたとき思ったよ。

 そのこいつの、今の呼称は……


「……死の番人」
「そう、それ。でもちょくちょく死神から苦情が来るんだよね。返り討ちにしてるけど」


 ケラケラと笑いながら言ってるけど、その返り討ちって相手死んでるよね? 死神殺しちゃってるよね?


「最初はさぁ君のことも暇潰しに殺しに行こうかなって思ってたんだよね~」


 ちょっとそこまでお使いに行こうと思ってたんだよね~的なノリと同じように言わないで。内容悲惨だから。真逆だから。


「でもね、そういえば僕、異世界のこと何も知らないなぁって思って。殺すのは勿体ないからやめたんだ。だからお腹空いたからご飯早く作って」


 ……だからの前後の台詞が絶妙に噛み合ってないと思うのは私だけだろうか。

 あいにく冷蔵庫の中身は昨日の夜冷蔵庫の中身処理ご飯をやったからほぼ皆無だ。残っているものといえば……あぁ。あれがあった。


「ちょっと椅子に座って大人しく待ってろ」
「はーい。早くしてね」


 冷蔵庫の奥の方に封印してあったモノ。決して食べるまいと固く誓ったものがそこにあった。
 ハバネロ。あの激辛な、そう、あれだ。
 保管に困り、結局冷蔵庫の隅へと追いやられたご近所付き合いの副産物。まさかこんな所で役に立つとは。ばあちゃん、ありがとう。

 そのまま出すのは見るからに料理じゃないので作ってあったオーロラソースをかけて皿に綺麗に盛り付けた。

 別に私は相手が神様だろうが人間だろうが魔族だろうが区別はしない。まぁ、さすがに神様には敬意を払うけど。あ、シンは別で。
 だから魔族にご飯を作ってと言われてそう抵抗はない。材料人間ってわけでもなければ。

 でもねぇ? さすがに夜中の三時にご飯は怒るよ? 怒ってるよ? 私。

 だからハバネロ。辛さに悶えるがいい。ざまぁ。


「はい、どーぞ」
「なぁに? これ」
「いいからいいから。食べてみなって」


 マジ辛いから。辛すぎるから。

 元天使だけあって見目麗しい容姿に違わず綺麗な所作でフォークを扱い、ハバネロを口に運ぶ悪魔。
 それが何なのか知っている私は悪魔が好奇心満々に口にするのを見て、軽く口元をピクピクと震わせた。


「……………しい」
「え?」
「おいしいよ!! こんなおいしいもの食べたの初めてだ!! 何て名前なの?」
「……ハ、春野菜の……オーロラソース和え……です」


 ガシッと両肩を掴まれ、悪魔は目をキラキラ輝かせている。これは本気で嘘偽りなく美味しいと思っている顔だ。
 私はその視線に堪えかねて顔ごと反らし、若干の嘘を交えて答えた。

 だってハバネロだって野菜だし……オーロラソース和えなのは間違ってないし。ハバネロを春野菜にしていいのかって言うと……まぁ、あれだよね。そう、あれだよ。


「ホント君のこと殺さなくて良かった。この味は独り占めしなくっちゃ。あの人にも黙っとこ」
「……あの人って、まさか」
「ん? 魔王様だよ。僕の唯一の上司」
「さいですか」


 でーすーよーねー?
 つーか独り占めとか言ってるけどもしかしてまた来る気じゃあ……


「これもうないの?」
「ないね」
「えー。じゃあまた買っておいてよ。じゃっ」
「あ、ちょい待ちっ!!」


 ………………玄関のドア破壊して帰んなよ。
 残されたのはハバネロが入っていたお皿、と可哀想な玄関のドア。


「…………魔族なんて嫌いだコノヤロー!!」


 防音にしといて良かったのか悪かったのか。
 夜明けと共に王宮にすぐ来るようにとリヒャルトが迎えに来た時、私は不気味な笑み(リヒャルト談)を浮かべながら掃除をしていた。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...