籠ノ中ノ蝶

綾織 茅

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第三章―愛するが故に―

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※十夜 side※


 目的地に着いて、まだぐっすり眠っている小羽を横抱きして車を出た。

 玄関の前の階段には見知った姿が腰を下ろしている。


「Hello~! やっぱりここに来たネ。待ちくたびれたヨ」
「……」


 もはや彼がどこに現れようと気にならない。

 神出鬼没なのだから。


「お邪魔するヨ~」


 両扉の片側を開け、僕の許可も得ずに入っていった。

 小羽が起きたらなんと言い訳するつもり何だろうか。

 ……でも、楽しみでもある。

 彼の本性を知った時の小羽の反応が。

 小羽を部屋の一室に運び、天蓋付きのベッドにゆっくりと寝かせた。


「あぁ、いたいた。ねぇ、これ、食べてイイ?」
「駄目だよ、それは。食事して来なかったの?」
「うーん。好みのがいなかったんだヨ。僕って美食家だからサ」


 嘘ばっかり。

 彼ほど悪食は見たことがない。

 現にこの間の男の……って、これは人のこと言えないか。


「ねぇ、小羽チャン、まだ起きないなら食事しに行こうヨ」
「嫌だよ。一人で行ったら?」
「僕一人で行くより、君と二人の方が美味しい食事ができるんだヨ」


 また訳の分からない根拠を持ち出して。

 それにまだ昼間なのに。


「昼食も大事デショ? 朝昼夜、しっかり食べなきゃ駄目ダヨ☆」
「……小羽が目が覚めるまでに食事終わらせてね」
「OK、OK! それじゃLet's go!!」


 彼に背を押され、仕方なく二人で食事に出ることにした。

 僕、お腹空いてないのに。


「……小羽、いい子で待っててね?」


 ドアを閉める寸前、小羽の眠るベッドの方に向かって呟いた。

 小羽、小羽。

 僕だけの小羽。

 君は僕が怖いみたいだけど、逆に僕は君が怖い。

 どこか遠くに君が行ってしまうんじゃないかって。

 僕じゃない誰かと幸せになるんじゃないかって。

 僕のことを忘れているだけでも悲しいのに。

 ……許せないのに。

 さらに君は僕を奈落の底に突き落とせる。

 このまま誰の目にも映させず、誰の手にも触らせず、誰の口にも君の名を呼ばせたくない。

 いっそこのまま、そうしてしまいたい。

 僕は君がいれば何もいらないのに。

 ねぇ、小羽?

 君は言ったよね?

 約束、必ず守ってもらうよ?


※十夜 side end※


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