人外統率機関元老院ー仕事は増えても減ることなしー

綾織 茅

文字の大きさ
10 / 27
予算会議は大荒れ模様

4

しおりを挟む






「で? その定められた額っていうのは?」
「こちらです」
「ほぅ」


 シャルルが先程から手に持っていた巻物を皆に見えるように広げる。

 達筆な字で書かれたその数字は、今までの全ての課の予算を合計したよりも僅かに少ない額。本来であればこれを六分して、と考えるのだけれど、今回はこれを制限なしの分捕り制。そう考えると、申し分ない額だ。

 各課の課長達は一部を除き皆、自分のところに多く予算をと当然考えている。
 副官も他の課に若干の後ろめたさを感じつつも、またしかり。


「カミーユ様。前回の聖堂のステンドガラスの修繕費の件ですが、あれの請求書がこちらです」
「……よし。あれの半分もあれば十分だろう」
「余所の妨害は必須でしょうが、私費でまかなうのにも限界があります。ここは他の課には諦めていただいて」


 緊急会議とあって、どこの課の副官も必要な費用を計上するための書類を持参していた。もし、本当に全ての項目を却下された場合に泣き落とし……ではなくて、担当に理解を求めるためだ。

 こと予算に関しては、いくら課長クラスといえども会計担当の方が権限が強い。

 早速、第三課のカミーユ様とコリンが声量を押さえて相談し始めた。


 それにしても、諦めていただいて?

 それは聞き捨てならないセリフだ。


「ちょっと待て(待った)」


 どこの課も同じことを思ったらしい。
 破天荒な上司とは違い、いつもは冷静沈着なコリンにしては珍しく失言だったと言えよう。


「そもそも、あれは自業自得だろう。自分がやらかしておいて、何故全体の予算から出そうとするのか。その神経の図太さにいっそ感心してやろうか」
「お前のところこそ、予算は必要ないんじゃないかい? ほとんど机に向かって書類仕事をしていればいいんだから」
「ちょっとちょっと。君達の喧嘩はどうでもいいけど、それで予算を持っていかれるつもりはないよ。聖堂の修繕費はもちろんもらうけど」


 もともと犬猿の仲といえるカミーユ様とセレイル様の言い争い。それにレオン様まで加わる。

 
「「「だから貴様のところの予算をとっとと寄越せ」」」


 口にこそ出さないけれど、第六課うちも同じ気持ちだし、第二課もそうだろう。
 毎年あまり出費のない第一課を除き、ある意味この場にいる皆の気持ちが一つになった瞬間だった。


 今にも実力行使を始めそうな元老院三大魔王の名を冠する三つの課を余所に、フェルナンド様が潮様と昴様の元へ膝立ちで近寄っていった。

 その背を追いかけると、その三つの課でいつの間にか小さな円陣ができた。


「昴様、潮様。僕達は穏便にいきませんか?」
「そうだね。抜け駆け禁止でいこう」
「……昴。それ、本気で言ってる?」
「ん?」
「あー、ううん。なんでもない」


 昴様、それ、今一番言っちゃいけないセリフだと思います。

 そう言う者に限って最後の最後で裏切ることが多い。

 
 今までの、うちはいらないんですオーラが、今の発言で一気に信用できなくなってしまう。

 潮様の当然の疑問に、いつもの人好きの笑みを浮かべる昴様。

 さすがは元老院の一つの課を預かる長、といったところか。
 一筋縄でいくはずもなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...