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1 『銀英伝』が描く文明

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 2018年、『銀河英雄伝説』が再アニメ化されました。同年初めに完全アニメ化された『デビルマン』や、2021年に再映画化された『砂の惑星』と同様、この作品もまた文明の全ての要素を描く、スケールの大きな作品です。

 この作品には、文明の全ての要素が描かれています。

① 科学・技術
……執筆年代などからAIや遺伝子工学こそ出てこないものの、数万隻規模(!)の宇宙艦隊や巨大な宇宙要塞、惑星防衛システムなどの宇宙工学技術。そこでは艦艇設計思想の違いなども描かれています。

② 経済・社会活動(実利・文化活動の双方を含む)
……単一文化国家と多文化国家。戦争と民生や、政治と民心の関係。商業自治領フェザーンと、その政治・宗教的背景。カルト犯罪や、過激な国家・人種主義の台頭のように、その後の未来を予見したかのような設定もあります。

③ 制度・政策
……専制国家と民主制国家の対比、政略と戦略の関わりなど。

④ 物的資源
……戦争の都市基盤インフラへの影響。焦土戦術、補給戦、武装解除とその潜脱など。

⑤ 人的資源
……〝英雄〟達など優秀な人材やその適材適所、専制国家の腐敗堕落や民主国家の衆愚化。

⑥ 自然・社会環境
……二つの国家を結ぶ二本の宇宙回廊や、戦術に影響する恒星・ブラックホールといった宇宙的〝地理〟。人種差別的な封建制国家と、その難民が建てた多文化的民主国家の成立に至る、未来史的背景。

  こうした視野の広い、スケールの大きな作品との出会いが、文明について考える契機を与えてくれたのではないかと思います。
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