魔王

平 一

文字の大きさ
1 / 1

魔王

しおりを挟む
新帝国の理事種族アスモデウスは、新皇帝についてかく語りき。

「現皇帝サタンは猫とコウモリの混血の如く、愛らしき小動物から進化せる種族なり。旧帝国を率いる〝先帝〟種族によりて天文学的災厄から救われし同種族は、その心優しきがゆえに発展途上種族への文明支援において貢献し、かつての恩義に報いたり。彼女は量子頭脳への人格転移マインドアップローディングを裁可され、高度演算・共有人格形成能力を得て、文明開発長官に就任せり」

「〝先帝〟種族が側近団たる中枢種族間の内戦により滅亡し、旧帝国が崩壊したる時、彼女は〝先帝〟亡命者達の協力を得て新帝国を設立し、平和の回復と国家再建を実現せり。中枢種族は当時、彼女が〝先帝〟を模する善神と、自ら演じる魔王が登場する神話によりて途上種族の初期文明を支援せるがゆえに、彼女こそ逆臣なりとの政治宣伝を展開せり。しかし彼女は、かかる凶暴で過激な悪役とは縁遠き種族なり」

「第一に、サタンは温順にして、平和的な種族なり。彼女の〝角〟は、実は希薄な大気中での音響感知と、薄き頭蓋骨の保護に役立つ耳殻なり。彼女の〝牙〟は、かつて母星の貧しき生態系下で他の生命を奪うことなく共生を可能とし、また児童の良好な発育を示す指標として、健康美の基準ともなりし重要な摂食器官なり。彼女の〝翼〟は、宇宙船内などの重力制御環境下における移動補助手段として、遺伝子操作により、最も身体への負担が少なく、効率的な方式で形成されしものなり」

「彼女が内戦に際して新国家を設立せる動機もまた、権勢欲や闘争心には非ず。彼女は、母星の地磁気減衰や近隣恒星の新星化によりて滅亡の危機に瀕せし時、種族一体となりて懸命に努力せる経験から、自然の脅威に対する社会的協力を重視せり。ゆえに彼女は、銀河系における自然的限界と社会統合に到達せる星間社会が、過去の環境に適応して増加せる軍事種族の暴走を御し得ずして自らの〝内なる自然〟に敗れ、彼女が愛し育みたる途上種族をも巻き込みて滅びることを、何よりも恐れたらん」

「第二に、サタンは堅実にして、現実的な種族なり。彼女は科学・技術や制度・政策、経済・社会活動や軍事・民生のいずれかに偏ることなく、総合的な均衡バランスある〝文明〟の発展こそが、全種族の共通にして最大の課題たることを見出せり」

「文明とは高度な〝知性〟により、農耕や国家制度の如く高度な自然・社会科学的技術、言い換えれば高度な技術と政策を得たる、生命活動の様式なり。高度な知性とは、いわば限りなき想像力と欲求にして、両者が生み出す技術と政策は、全ての人々が営む経済・社会活動を豊かにし、健全に保つ、文明の二本柱なり」

 

「想像力とは、合理的推論から完全な虚構まで含む、抽象的思考の能力なり。推論は科学的仮説を導くのみならず、虚構もまた法律概念や貨幣価値の基礎となりて、自然・社会科学的な技術による、文明社会の建設を可能とせり」

「また想像力は技術を通じ、欲求の無制限化ないし可変化を招来せり。技術によりて複雑化せる文明社会は、固定的な本能のみにては営み得ざるがゆえなり。かかる欲求の無制限性は、人々の様々な利害を調整して社会の健全性を保ち、さらなる生活向上のために新たな技術を開発すべく、政策の形成を求め、助けたり」

「彼女はその直向ひたむきな、発展途上種族に対する文明支援の経験から、朝・昼・夜の交代がいとし子達の日々を進めゆくが如き、文明発展の過程を発見せり。それは、科学・技術の進歩が経済・社会活動の拡大と複雑化・加速化をもたらし、かかる社会を健全に保つ必要性が、制度・政策の高度化及び巨大化・分権化の同時進行、さらには次世代技術の開発政策を導くという、螺旋的な向上の循環スパイラル・アップ・サイクルなり。彼女は、先進種族においてもこの理論が妥当することを確信し、各種政策の立案に応用して、国家の復興と発展に成功せり」

 

「第三に、サタンは情緒豊かにして、愛情深き種族なり。彼女は文明が、文学や音楽、映像芸術や知的遊戯ゲーム身体運動スポーツなど、生命維持に必須ならざるも有意義かつ必然的な、〝文化〟を含むことを認識せり。彼女は文化活動と他活動の相乗効果や、文明発展に伴う必須活動の省力化にも注目し、文明が発展するほど、創造性の向上や経済・社会の活性化、人々自身の欲求や課題の再確認に資する、文化の重要性が増しゆくことを理解せり 」

「彼女が途上種族の先進技術による自滅や自信喪失、過剰依存を防ぐべく、秘密観察・支援方式を採る一方で、その初期文明への援助にあたっては、神話という文化的手段を用いたることも、かかる知見に基づくものなり。各種族の文化を活かす支援手法は他星域においても大成功を収め、社会を富ましめ、健全に保つ文明の恩恵は国内の全種族に共有されて、互いを結ぶ絆をせり」

「このたびサタンによる最大の支援成功例にして、旧途上星域を先導しつつある人類が、戦前は魔王と呼ばれし彼女とその友好種族達の名誉を回復せしことは、彼女にとりて大いなる喜びとなりたらん。彼女の映像体アバターは、地球人の言葉を借りて以下の如く表明し、微笑みたり。すなわち、〝悪魔はかつて、災害や疫病、戦争、犯罪の象徴なりき。しかし我等が神魔の如き技術の力を得たる現在、それらの責任は全て我等自身にあり。もしも我等が新しき神話を語るとせば、我等自らが〝責任のある神〟となり、心の内なる天使の独善を戒め、悪魔をも改心させる政策を以て、我等の全てを活かす物語とならん〟と」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

処理中です...