思慕

平 一

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思慕

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 理事種族ヴォラクは、〝大戦〟終結後に明らかとなりし重大事実につきて、新国家の全星域に対し、次の如く報告せり。

『〝啓示の王〟及び〝剣の王〟、〝炎の王〟、〝慈愛の王〟の四大種族は、旧帝国において〝先帝〟種族の側近団を構成せる〝中枢種族〟の中でも、絶大なる権力を有せり。帝国の権威を示すべく、彼女達もまた〝先帝〟種族と同様に、その真名まなを呼ばれることなく、別名を以て呼称せられたり』

『四大種族は、各々が牛、獅子、鷲、猿に類似せる生物から、量子頭脳に人格群を移転マインドアップロードし、共有人格を形成し得るまでに発展せる、最先進種族なり。現皇帝種族が先帝の命により、人類などの発展途上種族を文明化すべく普及せる啓発的な伝承説話にも、彼女達は登場せり。将来の帝国との関係を良好ならしむべく、現皇帝の分離個体が自ら悪役を演じる一方で、彼女達の分離個体の姿は、〝先帝〟をする善神の守護者として紹介せられたり』

『彼女達の中でも〝啓示の王〟は、国政管理を司る官房系の軍事種族として情報省の長官を務め、他種族に対しても見えざる形にて影響力を行使せり。特に、量子頭脳の判断に干渉し得る不正演算指示ウイルスプログラムの開発は、重要な局面において、彼女に他の中枢種族への優位を提供せり』

『彼女は現在、〝大戦〟を生き残りし最高位の戦犯種族として、特別法廷による審理を受けつつあり。旧帝国を滅ぼしたるこの内戦は、中枢種族による〝先帝〟種族の傀儡かいらい化と、相互の武力抗争から生じたるものなるがゆえに、彼女が黒幕として最大の責任を負うべき種族と推認せられたり』

『然しながら、最近における捜査の進展に伴いて、〝啓示の王〟にも酌量《しゃくりょう》すべき事情のあることが判明せり。其《そ》は、彼女が帝国存続に対する使命感、さらには〝先帝〟種族に対する深き情愛の故《ゆえ》にこそ、避け得ざる内戦の勃発《ぼっぱつ》を敢《あ》えて早めたらん、とする仮説なり』

『〝啓示の王〟の記憶組織及び高位の人格群に対する取調べによれば、当時の帝国における軍事種族の腐敗や権力闘争の激化は、彼女の種族内においても極めて憂慮ゆうりょすべき事象として認識せられたり。また後に、その暴走は〝先帝〟の権威や彼女自身の影響力をもってしてもとどめ得ざらん、という悲観的予測が大勢たいせいを占めるに至れり』

『加えて彼女は、旧帝国の草創期から〝先帝〟種族と共に国家建設を行い来たる、最も古き同盟種族のひとつとして、〝先帝〟に対し深き情愛を抱きたり。そのため彼女は、当時〝先帝〟種族内において同様に帝国の変質をうれうる、良識的な人格群と協力し、平和的に状況改善を図るべく、接触を試みたり。しかし、この時既に同人格群は秘密裡ひみつりに、心優しき官僚種族サタンへの亡命と、その文明開発事業を通じたる改革を決定し、実施しつつありしが故に、この計画は失敗せり』

『その結果として、彼女は戦略の転換を余儀よぎなくされ、中枢種族とその系列種族の暴発をむしろ意図的に誘導することによりて、粗暴、短絡的あるいは利己的な軍事種族の〝共食い〟による選択的自滅を図りたらん、という推測が急速に有力となりつつあり』

『これを受けて今般こんぱん、新帝国の特別調査班が〝大戦〟時における彼女の行動の影響を検証せしところ、恐るべき事実が判明せり。即ち、彼女による攻撃的軍事種族の〝淘汰〟なかりせば、現実の歴史の如く新帝国側の被害少なき平和回復は、客観的に見て極めて困難、あるいは不可能という判定結果なり』

『また、彼女の主観的な意図・心情に関する推測もまた真実なりとせば、〝先帝〟の弑逆しいぎゃくや罪なき種族の莫大ばくだいな犠牲、ラグエル達の如き優良な軍事種族の離反など、予期し得ざりし〝大戦〟の惨禍を最も嘆き悲しみたる者もまた、あるいは彼女自身なりたらん』

『さらに彼女は〝大戦〟中において、現皇帝たる〝光輝帝《ルシファー》〟サタンと〝先帝〟との関係を推察し、えて決定的な攻撃を控えたと思われる事例も複数発見されつつあり』

勿論もちろん、かかる事情は彼女の責任を全て消滅せしむるものには非ず。然し、これにより特別法廷及び新帝国政府は、彼女の処遇及び新国家の人的資源政策につきて、大幅なる見直しを求められつつあり。今や、かかる悲劇的選択を迫られし種族への報復よりも、我等が将来二度と同様の悲劇を繰り返さざるための、現実的かつ人道的な技術と政策を考案することこそが、最重要の課題とならん』と。
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