○✕売ります!?

一ノ瀬凛

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価値ってなんですか?

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 亜子ちゃんに、変なサイトを教えて貰ってから、1週間が過ぎた。

「えっ?」

 いつも私のパンツを買ってくれる人から、急に···

「あそこの毛を1本売って欲しい!」

 とダイレクトメッセージが届き、散々悩んだ末···

「はい···」

 と返し、その人からの連絡を待つ事もなく、「ここにこの名前で送って下さい」と名前、住所、電話番号が乗っていた。

「遠いから、いっか。たかが毛の1本や2本···」

 と思い、いざ抜いてみると、これがまたなんか痛くて、30分もお風呂で格闘し、ママに「なかなか出てこないから、心配するじゃないの···」と心配をかけてしまった。

「あ、ママ。切手ある?お手紙出さなきゃいけなくて···」
「そこにあるから···」

 ママは、家計簿を見ながら箪笥の引き出しを指さした。

 カタンッ···

 ママの大切な懸賞ポーチから、82円切手を1枚だけ取り、引き出しを閉める。

「ママ?今月のお小遣いなんだけど···」
「あ、もう?忘れてたわ」

 ママが、お財布を手にした時、

「今月のバイト代、まだ残ってるからお小遣いいらないから。その分、貯金して···」

 そう言うとママは、ちょっと安心したような困ったような顔をして笑った。

「ほんとに?大丈夫?足らなかったら、ちゃんと言うのよ」
「うん。今月はね···」

 うちには、みんなみたいにパパがいない。ママは、お仕事をしながら私を育ててくれてる。だから、私も少しだけお手伝いしようとバイトを始めたのに、ママったらそのバイト代を受け取ってくれない。

「じゃぁ、おやすみ···」

 目を擦りつつ、自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込む。

「明日、学校行く前に送らないと···」

 亜子ちゃん達は、まだパンツを売ってるみたいだけど、私はあの後2回だけ売ってやめていた。だから、前に買ってくれたお客さんとだけダイレクトメッセージで、たまにお互いの近況を話したりしている。

 そんな時に、

「あそこの毛を1本売って欲しい!もちろん、無理だったらそれはそれで構わない···なんとなく、美咲ちゃんがいつも側にいる感じを味わいたいから」

 たったそれだけの言葉に、私はお風呂場で30分も格闘した。

「あれだけっていうのもなぁ···」

 封筒に入れてもなんか薄っぺらで不安になったから、遠いから来ることもないだろうと最近友達と撮った写真を同封して送りつけたら、翌日には約束した1000円が知らない会社の名前で送金されていた。

 金額が低いのは、私が事情を話したから相手の池田さんが考えてくれての事だった。


「美咲、まだあれやってる?」
「ううん。してない」
「私は、まだやってる···」

 最近の由利ちゃん、持ってる物が変わってきた。

「あんたバレたら終わりだよ?」

 亜子ちゃんは、お休みの日のメイクは派手だけど、最近は教室でメイクしなくなった。

「亜子ちゃん、最近可愛くなったね」

 私としては、褒めたつもりなのに、逆に頭を叩かれた。

「美咲は···太った?」
「······。」

 お弁当を食べながら交わす会話も女の子ならではで、

「周平くんと?」
「うん···」

 どうやら亜子ちゃんは、彼氏の周平くんと別れたらしい。

「仲良かったのにね···」
「で、なんで?」
「それがさ···」

 女三人顔を近づけて、小声で···

「あいつ、浮気してたの。二年一組に相澤香菜って覚えてる?」
「うん」
「チャラい女···」

 私は、相澤さんと少しだけ部活一緒だったけど、あの頃はおとなしい印象しかなかったのに、夏休み終わってから会った時、変わりすぎててわからなかった。

「あの子と周平くん、ね···」

 なんとなく、頬杖を付き廊下を眺めてると、噂の本人が···

「やっ!」

 登場して、亜子ちゃん力いっぱいペットボトルを投げつけた。

「おー、怖い怖い。怖いねぇ、女は···」
「なに?なんかよう?」
「あんさ、金貸してくんね?」
「「「······。」」」

 私も由利ちゃんも亜子ちゃんも、自分の耳を疑った。

「お金?」
「うん」
「誰に?」
「俺に」
「誰が?」
「お前が!」

 えーっと、この人は何をいきなり言ってるのだろうか?

「お昼、食べてないなら貸そうか?」

 お財布を手にしようと鞄に入れたら、

「妊娠···したんだ」

「「「はいっ?」」」

 周平くん?あなた、男の子だよね?妊娠?えっ?もしかして···

「美咲?あんた、絶対勘違いしてるから言うけど···」
「ほへっ?」

 とバカな言葉が出て、場が和む。

「たぶん···」
「うん」
「マジ?」
「らしい。気をつけてた筈なのに···」

 私だって、何をどうすれば妊娠するかは知ってる。けど···

「貸さない。結婚でもすれば?もう来年卒業するんだし」
「結婚···」
「するの?誰と?」
「「「······。」」」

 どうやらまたおかしな発言をしたらしい。

「あとで、ライン送るから!じゃっ」

 チャイムが鳴って、周平くんは慌てて教室を出ていき、私達もそれぞれの席に戻った。

『結婚か。私は、将来どんな人と結婚するのかなー?』

 そんな事を考えつつ、地理の授業を受け、午後は···

「ひとり···」

 由利ちゃんは、彼氏さんが迎えにくるとかだし、亜子ちゃんは、こいつがうるさいからとサッサと帰ってしまった。

「まっ、いっか···」


 駅に着いて、鞄を背負い直していたら、

「あの···すいません!」

 後ろから急に声をかけられた。

「はい」

 見たことのない顔。当たり前だけど。それでも、どことなく知っているような?いないような?

「ここ、行きたい···あっ!」
「えっ?」

 駅の入り口で立ち止まる私と見知らぬ男性。

「なにか?道に迷ったんなら、あそこに···」
「きみ、畑中美咲···ちゃん?」
「······。」

  なんで、この人が私の名前···

 目の前の男性が、私が何も答えないから、

「これ、ありがとう」

 私に見せてきたのが、

「あっ···写真」
「わかった?俺が···その···」

 男性もなんと言っていいのか迷ったのだろう···。

 クスッ···

「変態さん···」
「変態···。そ、そうだよね。あはっ!あはっ!」

 見た感じは、おとなしそうなサラリーマンっぽい人だったし、会ったとしても誘拐されるとかイメージがなく···

「初めまして。畑中美咲です」

 と頭を下げた。

「あっ!ども。池田です。池田純平ですっ!」

 と今度は、美咲よりも深々と頭を下げる。

 なんとなく、お互いの裏を知ってると妙に照れる訳で、

「お腹空きませんか?」

 と私の方から誘った。


「えっ?ほんとに?」
「あぁ···。若そうに見えるけど、俺35歳···」

 池田さん、見た感じ20代前半に見えるけど···。

「いやぁ、ほんとに写真の子だ···」
「······。」

 ほんと、とは?

「でも、教えて貰った住所···熊本県···」
「うん。俺、出身熊本県。今は、ここ···」
「静岡県···」

 遠いから···こないだろうと思ったから写真送ったのに、まさか、まさか···

「たまたま、実家に帰る予定があったからね」

 ニコニコと目尻を垂れて笑う顔が、年を感じさせなくって···

 クスッ···

 釣られて笑ってしまい···

 食事こっちが誘ったのに、「俺が出すから」と言って割り勘にもしないし、帰りも送って貰った。

「ナビに入れたから、次は普通にくるから!」

 とだけ言って、車を走らせていった。

「おっかしな人···。可愛いけど」

 その日は、夕飯を食べていてもなんか思い出しては、

「あら、なーに?なんかいいことあったの?」

 としつこく聞かれたりするし、寝ようとしても池田さんの顔や声が頭を離れなくて、ベッドの中でモヤモヤしてたら、いきなりスマホが鳴って驚いた。

 のもその筈、私をモヤモヤさせている池田さんからで、

《今日は、会えて良かったよ。楽しかった。ありがとう!おやすみ!》
《こちらこそ。ありがとうございました。おやすみなさい。

 普通ならそれで終わる筈なのに、日付が変わるまでずっとメールしてて···

 珍しくママに起こされた。


 そんな事があって、3日目。

「はっ?」
「えっ?仲直りしたの?」
「美咲···。それは、復縁だって」
「うん。それがさ、酷い話でね!!聞いてよぉ!!」

 土曜日にいきなり亜子ちゃんに呼び出された私と由利ちゃんは、周平くんと相澤さんに何があったのか?どうして、復縁したのか?を延々と聞かされ、

「じゃ、これからデートだから···」
「うん」
「······。」

 結局、亜子ちゃんは話すだけ話すとサッサと周平くんとのデート場所に向かっていった。

「由利ちゃん?」
「ん?なに?」
「教えて欲しい事があるの···」
「ん。だから、なに?」

 由利ちゃんも亜子ちゃんも、ふたりとも可愛い。

「私って、可愛い?」
「······。」

 暫く間があって、

「うん。可愛い。背、ちっちゃいし、あんた笑うとほっぺたにエクボ出来るし、八重歯だし···」

 そうなの?八重歯は、知ってるけど···

「でも、どうしたの?珍しいね」
「うん。あとね···」
「なに?」

 なんとなく聞くのが恥ずかしくて、周りに人が居ないのを確かめた私は、こう聞いた。

「初めてって、痛いの?」
「うん。痛···えっ?!」

 由利ちゃん、ただでさえ大きな目を更に大きくして、口なんてポカンと···。

 ❨そんな変なこと言ったかしら?❩

「好きな人出来たの?」
「んー、わかんない。けど、その人の事が頭から離れなくて。いつも、何してるのかな?って気になって···」

 ポンポンッ···

「恋だよ、恋。良かったじゃん。美咲は、1番に幸せになれるよ!!あんたみたいな天然、なかなかいないもん!!」
「······。」

 褒められてるのか、バカにされてるのかわからない···。けど、

「いい恋、できるといいね!がんばっ!!」

 妙に応援されて、その場を別れた。

「恋、かっ!!池田さん···」

 池田さんは、静岡市に住んでいるのは知ってるけど、仕事柄アチコチ行ってるとかで、アパートにもなかなか帰ってないと聞いた。

「次、いつ会えるかな?」

 意外にもその日はすぐに訪れた。


《明日、仕事でそっちに行くから、昼間会えない?飯、奢るよ》
《はい。お仕事頑張って下さい。
《ありがとう!!その言葉、凄く嬉しい!じゃ、詳しい時間は後で送るから!!》
《はい···

 たった数回のメールでも、私にとってはかなりドキドキして、ちゃんと届いてるかどうかも不安で、結局私が眠るまでメールが続いてた。

 翌日は、ママが休日出勤で夜まで居なかったから、のんびり起きだした。

 !!

「······。」

 目の錯覚でしょうか?どうして、池田さんが私の家に?しかも、気持ち良さそうに寝てる?!

 ポンポンッ···

「もしもーし!起きてくださーい」
「んっ···もう少し···眠···」

 突っ伏した横顔、少しだけ開いた目···

「はっ!つい、申し訳ない!」
「目、覚めました?」
「······。」
「池田さん?どうか···」

 池田さんの視線の先···

「あっ!!だめっ!!」

 思わず、パチンッと···

 パジャマの下、履くの忘れてて下着1枚だけ···


「いやぁ、いいの見れたわぁ」
「······。」

 ランチには少し早かったけど、近くのファミレスに食べに行った。

「えっち···」
「可愛かったなぁ···」
「変態···」
「だよぉ。俺、変態だもん···」

 まだ会う回数よりもメールでしか知らないけど、池田さんちょっと変態。けど、池田さんのお願いに応じる私も変態?

「じゃぁさ、いっそしてみる?」
「ん?何を?ゲーム?」
「ん?」

 顔を近づけて、池田さんの息が耳に当たる。

「エス、イー、エックス。してみよっか?頭で想像すると、わかるよ?」

 って言うから、頭でアルファベットにしてみたら、

「それは、また···ねぇ」

 かなりドキドキしてきたのに、更に···

「ねぇ、もしかして濡れた?」

 もぉ、恥ずかしくて手で顔を隠す私。

「じゃ、ちょっとゲームしよっか?はい、しか決定権がないの」
「うん」

❨ん?思いっきり、不利じゃ?❩

「俺のこと、好き?俺は、美咲が好き」
「はい」
「メール届いてるか気になった?俺も、かなり」
「はい」
「会いたかった?」
「はい」

 池田さんの珈琲カップを触る手が止まって···

「俺としたい?」

❨ほら、やっぱりぃ!!とーしよ?どーしよ?えっと、えっと···❩

 凄く凄く悩んだ結果···

「はい。けど、私その···」
「ん?なに?もしかして、アノ日?」
「ううん。それは、終わったから···あのね···」

 今度は、自分から池田さんの耳元に顔を近づけて、こう言った。

「私、その経験ないから···」

 暫く間があって、池田さん生唾を飲む音が聞こえた。

「大丈夫だよ。俺もだから···」

❨嘘だぁーーーーっ!!❩

「じゃ、いこっか!」


 と言われるがままに、初めての···

「ん?なに?言ったでしょ?仕事でくるって」

 私は、てっきり亜子ちゃんや由利ちゃんが話してたラブホテルってのを想像してたのに、高そうなシティホテル···

「気にしない、気にしない!いつも二人分リザーブしてるから」

 池田さんは、笑いながらそう言うと、ドンドン先に進む。私、小走りで追いかける。


 ガチャッ···

「はい、どうぞ···」
「お、お邪魔します···」

 通された部屋は、自分達が旅行で使う部屋とは運転の差!かなり、広くてきれいな部屋。

「凄い···」
「そう?普通じゃね?」

 ベッドだって、手足を広げてもかなり余裕があるし、カーテンなんてオートだし、お風呂はプールみたいに広い。

「なんか、飲む?ジュースかお茶位しかないけど···」

 池田さん、気を使って両方持ってきて差し出す。

「じゃ、お茶···」

 受け取ろうとしたら、お茶が高く上がって、

「俺は、お前が食べたい」

 いきなり抱きしめられた上に、キスされた。

❨私の初めてのキス···。パパとは違うよ!❩

「ど?落ち着いた?」
「うん。だから、もう一回···」

 自分からしたくても、身長差30cm?

「お望みとあらば···」

 ふいに身体が上がって、

「この経験は?」

 お姫様だっこ!経験?

「パパ以外ない」

 ニコッと笑って、首に抱きつく私。

 暫くお姫様だっこで、部屋の中を歩いて、ベッドに···

「緊張してる?」

 チュッ···

「うん」
「だよね?俺も···」

 チュッ···

「初めてだから?」
「······Do not ask me···」

 彼の手が、私のボタンにかかり、

「大好きだから···」

 そういいながら、プチンップチンッとボタンが外され、

「可愛い···」

 手が背中に周り、プツンとした瞬間、胸が楽になり、彼の唇が私の首筋にあたる。

「クスッ···なんかつけてる?いい匂い」

 くすぐるような彼の声に、私の胸はますます···

「緊張してるね。胸の動きが速い。やめようか?」

 の声に、

「やだ···」

 思わず出てきた私の本音とも言える言葉。

「いい形。俺の好み」

 彼の手が、優しく乳房を包み込み、触れそうで触れない程度に唇を感じる。

 あっ···

「可愛い···。ますます、啼かしたくなる···」

 ジィーッとスカートのファスナーが降ろされ、彼の手が胸から下に向けて、なぞるように滑り、

 ピクッ!!

「いい反応···」

 下着の盛り上がりをゆっくりと擦っていく。

 んっ···

「ゆっくりしてくらからね。怖がらないで」

 下着の上にあった手が、中に入り脱がされていく。

「わっ!」

 フサフサとした柔らかな茂みを掻き分け、小さな蕾を起こし始め、声が漏れる。

「池田···さん」

 この時、初めて気付いた!

❨いつ···服脱いだの?❩

 うぁっ···んっ···んんっ···

❨こ、声が···❩

「大丈夫?身体の力抜いて···。出ないと俺の指抜けない···」

 池田さん、困ったような?嬉しいような?顔をして私を見る。

❨いつの間に?わかんなかった···❩

 どうやら、私の中に池田さんの指が入ってて···

 数回深呼吸して、抜けたら、

「ちょっと、待っててね」

 池田さん、背中を私に向けてゴソゴソし始めて、

「はい、肩の力抜いてー、深呼吸ー」

 ???

 言われるがままに、深呼吸して···

「どっ?初めてのえっちは···」
「ん?あれ?入ってるの?」
「······。」

 亜子ちゃん達は、痛いって言ってたよ?痛くない?

「挿ってるよ···ほら」

 ???

「あ、ほんとだ。なんか動いてるのわかる」
「だろ?始めよっか」

 唇を塞がれ、私の両手は極自然と池田さん···純平の背中へと周り、抱きつく。

 その後は、もう無我夢中で···

「イクよ?イクよ?イクッ!!」

 呼吸が落ち着いた頃には、純平さんの鼓動がまだ激しく伝わっていた。


 初めてのえっち。思いもよらない人だったけど···


「高校卒業したら、必ず奪いにきますから!」

 純平さんは、ママにそう言って、また会社へと戻って行った。

「彼氏?」
「まぁね!」
「お母さんも、頑張るか!」

 うちのママ、まだ40歳だけど、見た目30半ば!


「でも、どっかで聞いた声なんだよねぇ。池田さんの声って···」

 この時の私もママも、この池田純平さんが、二人にとって大きく人生を変える人とは、思いもよらなかった。


 池田さん曰く、

「初めてで、出血するのは、相手が下手なんだよ」

 らしい。そして、

「ん?俺?俺は、中が···じゃ、会議戻るから···」

 慌てて電話を切った。

「池田さんの初めては、中が···く?」

❨早い···❩
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