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第1話 男性妊娠薬

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「これが完成品だ」

テーブルのうえに並べたのは、何の飾りもない茶色の小瓶だ。
向かいに座ったオーギュは、長い指で瓶を小突いてから、そっと手に取った。

ここは我が国、ロランス王国の王城にある、オーギュスタン王子の私室だ。
私はシャルル・バトン。王子の幼馴染であり、優秀な専属魔術師として王子からさまざまな依頼を受けてきた。

この国では女性が少なく、男性の半数程度の人数しかいない。
その為、男性同士のカップルが多かった。
しかし、子を成すためには女性が妊娠しないといけない。
人口を保つ為の女性への負担は、社会問題になっていた。
そんな女性の負担を減らすため、また、愛し合う男性同士のため、男性でも子が孕めるようになる薬を作って欲しいと依頼されたのが半年前。
今日はその試作品を持ってきたのだった。


「この薬を飲めば、体内で子宮が構築される。効果は1ヶ月。妊娠すれば産むまで効果が延長される。私は男性同士の性交について知識がなかったから、経験者の話を参考に色々仕様を決めたんだ。膣を作る案もあったけど、無い方がいいって意見の方が多くてね。だから変化するのは内臓のみ。外観の変化はないから効果がある間は下腹部に紋様が出るようになってて、妊娠したら色が変わるようになってる。性交方法は通常の男性同士のやり方と変わらないから、特別難しいことはないだろう。妊娠期間は通常と変わらない。魔力を使う事で短縮できる可能性はあるが……それは今後の研究次第だな」

ここまで一息で説明して、オーギュの反応を待つ。
オーギュは興味深そうに私の話を聞いており、的を射た質問を投げかけてきた。
オーギュとは学生の頃から度々学問について語り合っているが、博識でどんな分野でも造詣が深いから何を話しても楽しい。
あの頃から私の話について来てくれるのはオーギュだけだった。
さすが首席を争った相手なだけはある。
いくつかの質問に答え、お茶で喉を潤す。

「ただ、実際に使ってはいないからな。最終テストとして、一度使ってみようと思うんだ。私が。」

ぎょっとした顔のオーギュを尻目に、紅茶のおかわりを運んできた侍従長に声をかけた。

「ねえ君、私の子を孕んでくれないか?」
「ちょっと待て」

ピシリと固まった侍従長を追いやると、オーギュは不満そうに口を尖らせた。

「相手はしっかり選んだ方が良いよ。それとも、シャルは侍従長の事が好きだったの?」
「そうではないが。あくまで実験だし、相手は誰でも良いじゃないか。私は自分の子であれば誰との子であっても愛せるぞ」

オーギュはため息を吐くと、呆れたような顔で言った。

「というか、シャルが産むんじゃ無いの?自分の身体でどんな変化があるとか体感した方が良くない?」

その意見に、目から鱗が落ちた。
データを取る側の意識として自分が被験者になるというアイデアは全く無かったが、オーギュの言う通り被験者でしか体験し得ない事も多いだろう。それに自分の身体なら24時間いつでもその変化を体感できる。

「た、確かに。身体が変化する感触は気になるな……よし、わかった!ではさっそく子種を貰いに」
「だから落ち着いて」

勢いよく席から立ち上がったが、手を引かれて再び席についた。
そのまま手の甲を撫でられる。
オーギュは机に身を乗り出し、顔を寄せてきた。
美しい顔につい目が釘付けになる。

「俺が孕ませてあげようか?」
「いや王族の血をばら撒くのはまずいだろ」
「……こういう時だけ正論言うよね」

ガクリと肩を落としてボソリと何か言ったようだが、聞き取れなかった。

この国はかつて王位をめぐり王族同士が争った歴史がある。
オーギュはその歴史を繰り返したくないと、側妃を持つことすら否定的だ。
婚外子とはいえ、争いの火種になりそうな子供をつくればオーギュに迷惑がかかってしまう。
私はオーギュの妨げになるような事はしたくないのだ。

「兎も角、この薬は私が使うよ。アドバイスありがとう」

帰ったら早速飲もう。そう思い、薬を手に取った。

「シャルがこの薬を使うなら、私も身体が変化する様子を見ても良いかな?」

席を立ったところで、声をかけられる。
どうせすぐ飲む予定だ。折角なら他人の目でも変化を見てもらうのも良いだろう。

「ああ、構わない。今から飲んで良いか?」
「情報が漏れてはいけないし、隣の部屋に行こう」

エスコートするように手を引かれながら、寝室へ移動した。

「紋様が浮かぶ瞬間も確認したいな」

独り言ちて手早くローブとトラウザーズを脱ぐと、オーギュが笑顔でこちらを見ているのに気づいた。
シャツの上からも分かる貧相な身体が少し恥ずかしい。

「笑うな。筋肉がつきにくい体質なんだよ」

悪態をつきながら下履を脱ぎ下腹が見えるようシャツを捲ると、小瓶を手に取り素早く飲み干した。

「ーーっ…!」

瞬間、下腹に熱を感じた。
内臓が撫で回されるような感覚は、痛くは無いが少し不安になり、シャツを掴む手に力が入った。

「苦しくないか?」

心配そうなオーギュに頷き下腹を見ると、じわりと紋様が浮かび上がってきた。

「……終わったよ」

紋様がはっきりと姿を表すと、内臓の感覚は消えた。
上から見下ろす分には紋様以外の違いはない。

「って、後ろがどうなってるか自分では見れないじゃないか!」

ワタワタしていた私に苦笑しながら壁にかけられた大きな姿見を指さした。

「これを使うと良いよ」
「そうか!ありがとう」

姿見の前に腰を下ろし、足を開く。
何とも間抜けな姿だが、仕方がない。
鏡越しの自らの陰部にじっと目を凝らした。

「へー、見た目は全然変わらないな」

陰茎と陰嚢を持ち上げ、穴の様子を確認したが、特に変わった様子は見られなかった。

オーギュも肩越しに覗き込んでくる。

「ちょっと暗くて見づらいね。俺が直接確かめてみても良いかな」
「頼むよ、オーギュ」

照明との角度的に、どうしても影に入ってしまう為、他人の目でおかしなところはないか見てもらえるのはありがたい。
陰部を観察されるのは少し恥ずかしいが、オーギュにならまあいいか、と考えた。

手招きされるままベッドの上に腰掛け、足を開いた。
オーギュの端正な顔が陰部に近づく。
私は見やすいように陰茎と陰嚢を左手で押さえた。

「うーん、特に変わったところは無いようにみえるよ」

形の良い唇から溢れる吐息がかかったような気がして、少し身悶えた。

「見た目は普通だけど……」

くるくると、肛門の周りを撫でられた。

「…っ!何で触って……」
「触診だよ。見た目じゃ分からなくても感触が違う可能性もあるでしょ?」

なるほど、確かにその可能性もある。
ふにふにと窄まりの周りを揉まれる。
妙な感覚が湧き上がるが、これはあくまで触診だ。
変な気が起こらないよう、深く息を吐いて意識を散らした。

「男性同士の性交ではここに陰茎を挿入するんだけど、知ってた?」
「そうらしいな。資料に書いてあった」

実践はしていないが、薬を作る上で一通り学んだ。
薬の効果で肛門の奥、結腸あたりに男性子宮が出来ている。
肛門から挿入し、射精する事で妊娠可能な筈だ。

「このままじゃ挿入らないから、性交前に解すんだけど、やり方わかる?」
「本でなら読んだが……」

いざ実践となると、些か自信がない。
先ほど見た自分の肛門は、確かに固く閉ざされていた。
自分の陰茎をチラリと見る。
その大きさのものですら入るか自信がない。
勃起したものなら尚更だ。

「俺が解してあげようか?閨教育で一通り習ったから」

性的な知識に乏しいのを知っているからか、そう申し出てくれた。
本で読んだだけの知識を使うより、王宮の教師から直接学んだオーギュに任せた方が安全だろう。

「じゃあ、お願いしようかな」
「任せて。しっかり解すから」

満足そうに応えたオーギュはちょっと待っててと言い残し、奥の棚から何かを持ってきた。

「まずはこれを使って綺麗にするね」

大きめの瓶から出てきたのは、ピンク色のスライムだった。
これは私が開発した合成モンスターだ。
野営の際の衛生管理の為、体の洗浄に使えるものが欲しいと言われ編み出した自信作だ。
持ち運びが容易で繰り返し使用でき、汚れを食べるため餌を与える必要は無く、瓶に入れておけば休眠状態に入るため管理も楽という優れものだ。
今では一般に売り出され、広く普及していると聞く。
そういえばこれもオーギュに頼まれたものだったな。毎回ちゃんと期待に応えている。さすが私!
オーギュの為に役立っていることに自画自賛していると、下腹へおろされたスライムはずるりと陰茎をひと撫でしてから肛門へと向かった。

「…っ!」

性器への直接的な刺激に、少し腰が揺れてしまった。

スライムは暫く肛門の周りを撫で回し、体を細めて小さな隙間から入ってきた。
腸内を逆流する未知の感覚。
しばらく腹の中で蠢いていたが、一瞬動きが止まるとずるっと一気に出て行った。

「んあぁっ♡」

排泄のような快感に甘い声が出てしまい、慌てて手の甲で口を塞いだ。

「ここにいるのは俺たちだけだから、声は我慢しなくていいよ」
「ちょっとびっくりしただけだ!」

友人の前であんな声を出してしまい、気恥ずかしさからつい声を荒げた。

「身体の力を抜いて、リラックスして」

オーギュは私を宥めるようにベッドへ押し倒すと、私の陰茎をゆるゆると扱きだした。

「ちょっと待て、そこへの刺激は必要ないだろう?」
「いや、身体の力を緩めるためにも、前も使って気持ち良くなった方が良いと習ったんだ。だから心置きなく気持ち良くなってね」

そうか。
王宮の閨教育でそう教わったのなら、確かにそうなのだろう。
スライムの分泌液でぬるぬると滑る手の平が気持ち良い。

「ん…あっ♡……っはぁっ……」

オーギュの大きな手が竿を扱く。
軟弱な私の手と違い、骨張った男らしい手からもたらされる刺激によって、私の陰茎はあっという間に勃ち上がってしまった。

「リラックス出来たみたいだね。じゃあまずは指1本で慣らしていくね」

つぷり、とオーギュの指が後孔に飲み込まれて行く。
異物感はあるが、痛みは感じなかった。

「痛くない?」
「ああ。あえて言うならくすぐったいような感じだな」
「それなら1本は余裕だね。増やしていこうか」

陰茎を扱きながらゆっくりと指を出し入れされると、後ろのくすぐったさと前の快感がまざり、よく分からなくなってきた。

「気持ち良さに集中して」

そう言うとオーギュはぱくりと陰茎を咥えた。

「あっ♡…だめっ、そんなとこ……っ♡」

亀頭を唇ではさみ、鈴口を吸われる。
ぬるぬるとした舌先の刺激に腰が引けるが、オーギュはそれを許さないようにがっしりと私の腰を掴み、さらに陰茎を飲み込んだ。

「っはん♡♡あっ♡」

陰茎全体が暖かい粘膜に包まれた。
手では与えられない快楽に、呼吸が荒くなる。
しかしそこからもたらされる刺激以上に、オーギュがじゅぼじゅぼと音を立てながら頭を上下させている姿が途轍もない官能を呼んだ。

「あっ♡ふぅっ……♡や……♡」

しばらく弄ばれた後ずろりと口腔全体でひと撫でされ、ちゅぽんと口が離れた。

「1回イッとこうか」

そういうと再び亀頭を口に含み、射精を誘うように舌で鈴口を攻めてきた。
右手では竿を扱き、たまに睾丸をやわやわと揉まれる。
さらに左手では2本の指がねっとりと肉壁を撫で回していた。
今まで感じたことのない快感に、強い射精感が湧き上がってくる。

「だめ、出ちゃう……っ♡はやく離して……♡♡」

手で頭を退かそうとするが、びくともしない。
それどころか、さらに激しさを増した動きに力が抜けてしまう。

「あっ♡出るっ♡出ちゃうぅぅ♡♡♡」

巧みな攻めにあっけなく達し、オーギュの口内へ射精してしまった。
ジュルっと音を立てながら最後の1滴まで吸い取られる。

「ごめんオーギュ、早く出して……」

オーギュは私の顔を見て目を細めると、ごくりと喉を上下させた。

「いっぱい出たね。シャルの魔力の味がして美味しかったよ。ごちそうさま」

オーギュはそう言いながら唇にわずかに垂れた白濁をペロリと舐めとった。

「さあ、続けよう。次は3本入れるね」

私が何か言う前に3本目の指が肉壁を広げて押し入ってくる。

「ふっ…んぁっ♡」

後孔が押し広げられる痛みは、もはや快感をもたらすものでしかなかった。

「はぁっ…んっ♡……あぁぁぁぁぁぁっっ♡♡♡♡」

オーギュの指が手前の方の腸壁を撫でた時、ビリビリとした快感が走った。

「なに…?いま……あぁっ♡♡♡♡」
「ここがシャルの前立腺だね」
「いやっ、やめ……っ♡♡♡♡♡」

前立腺……男性にある性感帯の一つである、と本に書いてあった。
そこから得られる快感は陰茎から得られるものとは異なるのだと。
初めて体験したそれは、気持ち良いを通り越して苦しいほどだった。
身体が痺れ、ガクガクと腰が揺れる。
ぼんやり向けた視線の先で、射精したばかりの陰茎が触ってもいないのにゆるゆると勃ち上がっていた。

「あんっ♡だめぇ……っ♡♡」

オーギュは緩急をつけながら執拗にそこばかりを狙って指を動かしてくる。
指を出し入れする度にぐちゅぐちゅと響くいやらしい音に耳までどうにかなりそうだった。

「すごいね、どんどん蜜が溢れてくるよ。これも薬の効果?」

これは経験者からのリクエストで付けた、前立腺を刺激することで粘液を分泌し、性交を助ける機能だ。

「あっ…ん♡……せ、性交が…♡……らくになるように…♡っ♡♡ね、粘液のっ…♡分泌機能をぉっ♡♡♡」

そこまで口にした時、ごりゅ、と手前を抉られ、言葉が遮られてしまう。

「シャルは優秀だね。さすが俺の専属……」
「あん♡あっ♡あっ♡♡ああああああっ♡♡♡♡」

オーギュの声が遠くに聞こえる。
強い快楽にもはや喘ぐことしか出来ない。
ぐり、と一層強くそこを抉られた時、体を痙攣させ指を締め付けながらどぷりと白濁を吐き出してしまった。

「前を触らずにイけたね。初めてで出来るなんて流石シャルだね」

よしよしと頭を撫でられながら褒められると、誇らしい気持ちになる。
呼吸を整えながら、余韻に浸っていると、奥の方からじわじわと快楽の波が襲ってきた。
もじもじと膝を擦り合わせ、波を逃がそうとする。

「シャル、どうしたの?」
「お、奥が、むずむずする……奥も触ってくれないか?」

奥もさっきみたいに触ってほしい。
恥ずかしかったが正直に告げると、オーギュは小さく息を呑みうっそりと笑った。

「指じゃ奥まで届かないんだ。でもね、」

オーギュがトラウザーズの前を寛げる。

「コレなら奥まで突いてあげられるよ」

天を向いたそれは、私のものと違い逞しく脈打っている。
思わずごくりと喉を鳴らした。

「オーギュも辛そうだな」
「シャルを見てたらこうなっちやった」

小さく笑いながらオーギュの指が私の肛門を撫でる。

「これをここに挿れれば奥を突いてあげられるし俺も気持ちよくなれる。一石二鳥じゃない?」
「オーギュも楽になれる?」
「ああ。一緒に気持ちよくなりたいな」
「でも、あかちゃんできちゃう……」
「中に出さなければ大丈夫だよ。熱を抱えたままだと辛いだろ?一度スッキリさせたほうが良い。マッサージみたいなものだと思って。ね。」

優しく下腹を撫でられると余計に快感を意識してしまう。
この熱が発散できるのなら。早くそれを挿れて欲しくて、掻き回して欲しくて堪らなかった。

「……あかちゃんできないなら……いい」

そう。これはマッサージだから大丈夫。
自分に言い聞かせながらオーギュを見上げると、妖艶な笑みに背筋があわ立った。

「いっぱい気持ちよくなろう」

ぴとりと後孔に熱いものが押しつけられる。

「挿れるよ、力抜いて」

深く息を吐くと、ぐぷりと熱い肉塊が入ってきた。
指とは比べものにならない圧迫感に生理的な涙が出てくる。

「シャル、痛い?」
「痛くないから、早く来て……」

心配そうなオーギュに大丈夫だと言うように手を伸ばすと、その手に優しく口付けて壊れ物を扱うように慎重に押し入ってきた。

「はんっ♡…っ♡♡」

飲み込んだ先端がさっきの気持ちが良いところを擦りあげ、堪らず締め付けてしまう。

「っ!シャル、力抜いて」

頭を撫でられると少し落ち着く。
呼吸を整えてくたりと力を抜くと、オーギュは少しずつ腰を進めた。

「全部入ったよ」

時折強く締め付けてしまうのを宥めてもらいながら、ゆっくりと時間をかけて私の孔はオーギュでいっぱいになった。
オーギュはそのまま正面からぎゅっと抱きしめてくれた。
胸から伝わる心音と、中で感じる脈が同じリズムを刻んでいる。
私もその背にしがみつき、オーギュを全身で感じていた。
オーギュの先端は私の最奥に当たっており、時折ぶるりと震えていた。
抱き合っているだけでも気持ちが良い。
押し入られた時の痛みはすでに無く、快楽だけを拾っていた。
でももっと強い快感が欲しい。

「オーギュ、もう動いてぇ……♡」
「良いんだね。動くよ」

もつれた舌でなんとか伝えると、オーギュは身体を起こしゆっくりと抽送を始めた。

「あっ♡あん♡♡すごい♡♡♡きもちいい♡」

肉壁全体を熱いもので擦りあげられる感覚は、指とは比べ物にならない。
ずろりと引き抜かれるのもごちゅりと奥を突かれるのも気持ちが良い。

「シャル、指とどっちが気持ち良い?」
「こっち♡♡♡こっちのほうがいい♡♡♡オーギュのきもちいいよぉ♡♡」
「…っ!」

ばちゅんと強く腰を打ち付けられ、私の先端からとろりと先走りが垂れた。

「あんっ♡♡オーギュ♡オーギュもきもちいい?」
「ああ、とっても気持ち良いよ」

徐々に動きが早まっていく。
触れ合う肌が、擦れる肉壁が、穿たれる最奥が、どこもかしこも気持ち良い。
いつからか快楽を追いかけるように、カクカクと腰を振っていた。

「シャル、出そうだ」
「あっ、ダメ……♡♡」

オーギュが何か言ったようだが、意味が入ってこない。
ただ、ずるりと抜けていく感覚が寂しくて脚を絡めて引き留めた。

「ちょっ、シャル……っ!」
「~~っっ♡♡♡♡♡」

トロトロ吐精しながら達し後ろをきつく喰い締めると同時に、温かいものが腸壁にかけられた。
内側からじわりと染み込むオーギュの魔力は、甘やかな熱となって全身を震えさせた。

「はぁ、はぁ…、……っ!赤ちゃんっ!」

大きな波が過ぎると、頭が少し冷静になった。
あわてて紋様を確認したが、色は変わっていなかった。

「出来てない……よかった」
「一度出したくらいなら大丈夫みたいだね」

安堵すると、途端に快楽がじわじわと還ってくる。
ぼんやりとした意識の中で、ただただ最奥がきゅんと切なかった。

「……おくがよかったな……」
「……え?」

オーギュは戸惑ったような声をあげたが、その陰茎は私の言葉に応えるように、硬さを取り戻していった。

「オーギュ……♡もういっかい、だして……?いちばんおくで………♡♡」

熱に浮かされたように考えがまとまらない。
ただただ快楽を求めて懇願した。

「……はぁ…流石にチョロすぎて心配だよ……」

オーギュは手を目に当てて、ブツブツ何かを言っていたが、意を決したようにこちらを見た。

「シャル………わかった」

オーギュは身を屈め、襟ぐりから覗く鎖骨に顔を寄せると、強く吸い付いた。
ちくりとした痛みが走る。
何が起こったのか分からず見上げると、オーギュは満足そうに笑っていた。

「シャル、綺麗だよ」

愛おしそうに鎖骨から頬へ撫で上げる。
もっと撫でて欲しくてその手に擦り寄ると、オーギュの方へ向かされた。
熱を帯びた瞳にじっと見惚れているとそのまま顔が近づいてきて、気がついたら唇に柔らかいものが触れた。

「ん……ちゅっ…」

やわやわとした甘噛みに誘われて薄く開いた唇の隙間から舌が侵入してくる。
くちゅくちゅと音を立てながら舌を絡め取られ、歯列を擦られる。
伝わる唾液からもオーギュの魔力を感じた。
キスは初めてだったが、その甘美な味に夢中になってたどたどしく舌を動かした。

互いに舌を擦り付けながらの抽送が始まった。

「ふっ♡くちゅ♡…っあ……」

オーギュが顔を起こすと、2人の間に銀色の橋がかかった。
離れていく唇を追いかけるように手を伸ばす。
その手は簡単に絡めとられた。

「シャル、もう容赦しないから」
「あっ♡あっ♡♡」

ベッドへ押さえつけられながらガツガツと最奥を穿たれる。
荒々しい抽送に、ただ気持ち良さを感じて喘ぐ事しか出来なかった。
オーギュの陰茎が前立腺を抉る度に身体が歓喜に跳ね上がる。

「あっ♡あぁんっ♡なかきもちいいっ!!♡♡♡」
「シャル、分かる?シャルの雄子宮が俺の先端とキスしてるよ」

熱い塊が奥の窄まりに当たる。
おそらくそこが結腸なのだろう。
肛門性交では一般にここが行き止まりだ。
陰茎の先で思いっきりノックされると、前立腺とはまた違った快感があった。
最初は硬かったそこは、何度も突かれてぷちゅぷちゅと弾力を持つようになってくる。
幾分柔らかくなったそこに、ぐぽっと亀頭が差し込まれた。

「あっ♡♡だめっ♡♡♡だめなとこ♡はいってる♡♡♡♡」

奥を圧迫される苦しさと、それを遥かに上回る快感に目の前がチカチカした。

「くっ……シャルの奥、凄い締め付けだよ」
「ひゃん♡ああぁっ♡♡すごい♡おくきもちいぃよぉ♡♡♡」

パンパンと肉がぶつかる音が部屋に響く。
最奥をぐぽぐぽ抉られるたび、快感に身体が飛び跳ねオーギュを締め付けた。

「あんっ♡イクっ♡イっちゃうぅぅぅ♡♡♡」
「シャル、シャル、愛してるよ」

最奥を突かれたとき、弾けるような快楽の波に呑まれ、全身を大きく震わせながら達してしまった。
それに応えるようにズブリと一際奥にねじ込まれた杭が膨らむと、弾けたように熱い液体が注がれた。

「お、おーぎゅ…♡」

腹の中に広がる濁流は甘やかな痺れとして全身に染み渡って心までをも満たしていった。
大きな波が去った後も射精した時のような快感がずっと続いていて、無意識にビクビクと身体が震えた。

「シャル……」

甘い声で名を呼ばれる。
いつもと違うギラギラとした獣のような視線を向けられ、目が離せなかった。

「あ、また……」

挿入ったままの肉茎が硬さを取り戻していく。
その変化を体内で感じながら余韻に浸っていると、身体を抱き起こされオーギュの対面に座る形になった。

「あっ♡だめ♡♡イったばかりだから…っ♡♡♡」

自分の体重でより深くに挿さる怒張は、快楽の抜けない身体に強い刺激を与えてくる。

「シャル」

名を呼ばれ、唇を塞がれる。
オーギュの舌が絡んできて、口の中まで犯されているようだった。

「っは…♡おーぎゅ♡」
「っ…シャル

キスの合間に名を呼び合う。
唇も胸も下も全てが触れ合い、溶けてしまうような感覚だった。
気づけば私も強請るように腰を擦り付けていた。

「シャル、今俺たちはセックスしてるんだよ」
「せっ…くす?……っ♡」
「そう。好きな人同士でやる本気のセックスだよ。シャルは俺のこと好き?」
「すきっ…♡おーぎゅのことだいすきぃ♡♡」
「俺もシャルの事が好きだよ。愛してる」
「おーぎゅ♡すき♡すき♡」

好きと口にする度に胸がきゅんきゅんして肉壁がうねる。
それに応えるように、オーギュの肉茎もズシリと体積を増した。
互いの絶頂の予感に突き上げられるリズムが速くなる。
快楽の渦の中で、目の前の雄の精子を本能が求めていた。

「好き同士なら良いよね。種付け本気セックスで俺の子を孕んで!」
「あああああああああ~~~っ♡♡♡」

最奥で熱が爆ぜると、その刺激に耐えきれず背筋をピンと伸ばして派手に達した。
深いところに注がれる熱い液体の一滴すら逃したくなくて、後孔をギッチリと締めつけた。
時間にして僅か数秒間の出来事なのだろうが永遠にも感じられるような濁流を浴びた後、火照りをを治めるように優しいキスをされると、くたりと力が抜けてしまう。
自分で身体を支える事もできず、オーギュにもたれかかる。
ぎゅっと抱きしめられた後優しくベッドに横たえられると、そのまま意識を手放した。




ふわふわの枕に滑らかなシーツの感触。
いつもと異なる寝心地に違和感を覚えて目を開ける。
周りのの様子からそこはオーギュの部屋の寝室だと気付いたが、なぜここで眠っているのだろうか。
ぼんやりとした頭で、眠る前の記憶を呼び起こす。
今日はオーギュからの依頼品を届けに来て。
その依頼品はーー

ハッと起き上がり、夜着をはだけて下腹部を見る。
視線の先に、色が変わった紋様が見えた。

「あ……」

途端に身体が冷える。
その時、扉が開いてオーギュが入ってきた。

「シャル、目が覚めたんだ。身体は大丈夫?」

いつものように優しく話しかけるオーギュに、私は返す言葉が無かった。
ポロポロと涙が溢れてくる。

「ごめ……オーギュ………わ、私……」

オーギュは慌てて駆け寄ると、辛そうに顔を顰めた。

「シャル……俺との子供、嫌だった?」

ふるふると首を振る。

「嫌じゃ無くて駄目なんだ……オーギュの……邪魔になるから……駄目だってわかってたのに……」

王子の子という意味を理解していたつもりだったのに。
これは快楽に流され、強請ってしまった自分の責任だ。
それでも、宿ったばかりのこの命が愛おしくてたまらない。
王都から離れ、父親の事を秘匿して子と二人で生きていこうーー

「シャル」

そんな私の思考は、オーギュに柔らかく抱きしめられ、よしよしと頭を撫でられた事で中断してしまった。
ちゅ、と目尻に口付けられ涙を吸われる。
頬に添えられた手に促されるまま顔を上げると、真剣な表情のオーギュが見えた。
ドキリと心臓が跳ねる。

「順番が逆になっちゃってごめん。俺はシャルの事を愛してる。結婚してくれないか?」

それは予想だにしていない言葉だった。
鋭く熱を帯びた視線に射抜かれ、顔に熱が集まる。
オーギュに聞こえてしまうのではないかと思うくらい、胸が高鳴った。

「シャルが恋愛に興味が無いのは知ってる。俺の事をそういう意味で考えたことが無いって事も。でも一度考えてみて欲しい。一生大切にするから」

私の手を取り、指先にそっと口付けた。

王子として子を成す必要があるオーギュに、男の私が恋をして良いだなんて、思ってもみなかった。
無意識に心に蓋をしていたのだろう。
恋愛自体を遠ざけ、考えなくてもいいように。
それをこじ開けられてしまうと、我慢していた感情が溢れて止まらなくなる。

「わ、私も、オーギュの事を……愛している……だから」

気恥ずかしさから視線を外し、俯く。
最後は尻すぼみになってしまったが、紛れもない本心だった。
見る度にその美しい姿に目を奪われるのも、話す度に胸を高鳴らせるのも、近くにいるだけで心が満たされるのも。
全部、オーギュにだけだ。
他の人には抱かないこの感情。
この気持ちは、恋だ。

「け、結婚……したい」

意を決して見上げると、オーギュは瞳をキラキラと輝かせていた。

「ーーシャル!嬉しいよ!」

オーギュは花開くように微笑んだ。



一年後

息子のアーサーを胸に抱きながらオーギュにエスコートされてバルコニーへ出る。
私たちが姿を見せると、歓声とともに迎えられた。

今日は私たちの結婚式と、生まれた息子アーサーのお披露目の日だ。

「シャル、見て。こんなにも多くの人々が俺たちを祝福してくれているよ」
「ああ。彼らに恥ずかしく無いよう努力しなくては」

決意を新たにする私に、シャルらしいね、と小さく笑った。

「それも大事だけど、まずは幸せにならなくちゃね。もちろん、シャルもアーサーも幸せにすると誓うよ」
「私だって!オーギュもアーサーも幸せにするぞ!」

シャル、と呼ばれてとろりとした視線を送られる。

「一緒に幸せになろうね」

どちらともなく顔が近づき、そっと目を閉じる。
唇が触れ合う瞬間、一層の大歓声が湧き上がった。
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